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逆光の影法師  作者: 冬瀬
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零00・太陽に背かれた子




「――お前に教えられることは、もう何もない」


 シンと静まり返った薄暗い道場で、それは告げられた。

 これがもし、自分以外の者に向けられていたならば、免許皆伝。おめでとう。これ以上ない賞賛の言葉だっただろう。


 しかし、白髪の少年に師範から告げられたのは、残念ながら賛美ではなく「限界」だった。


 お前には、もうここで学べることはない。

 これ以上の進歩は望めないから、面倒は見切れない、と。

 強面の顎には髭を蓄えた師範が口にしたのは、頭打ちとなった彼への最終宣告だった。

 師範とふたりきり。師の前で冷たい床に正座する少年は、その特徴的な灰色の目を大きく見開く。


「師範ッ。俺にもまだ、習得した技を極めることが――」


 ここで道を絶たれる訳には行かない。

 彼は咄嗟に口を開いたが、


「適性を見極めるということもまた、修業の内だ」


 師範に一蹴される。

 初めて示された明らかな拒絶に、彼は息を呑んだ。


「お前は十分よくやった。間違いなく、今まで見てきた弟子たちの中で一番の実力だ。体術だけなら、お前に勝てるやつはもうこの里にいないだろう」


 師範の意志が揺らぐことはないのだと、少年は察した。察してしまった。

 ここで一本、大きな線を引くつもりなのだ。

 そうと分かると、急に目の前に胡座をかいた師範が、とても遠い場所にいるような感覚に陥る。



 認められてしまったという、自分の限界への失望――。



 耳から音が消え、脳裏は真っ黒に塗りつぶされた。

 師範の言葉はすべて、少年の努力を肯定している。

 それが彼にとって、どれほど残酷なことか。

 もっと努力をしろ。もっと頑張れ――。

 そう言われていれば、どれだけ良かっただろう。


 報われない努力ほど、やるせないものはない。


 少年は腿の上に置いたふたつの拳を、無意識のうちに握り締めていた。


 何故、自分がこれから先、武の道を諦めなければならないのか。強くなって、外の世界へ行くという夢を断たなければならないのか。

 彼とて、頭の中では分かっていた。

 もうずっと、昔から。




「――俺が、【月の子】だから……ですか」




 少年の呟きに、行き場をなくした感情が自嘲となって紛れ込む。最早、悔しさの涙も出てこない。


「…………そうだ……」


 師範が辛そうに眉根を寄せた。

 正直なところ、辛いのはこちらの方だ。

 きっと今、自分は酷い顔をしているのだろう。

 自覚はあったが、どうしようもなかった。

 長年信頼を置いてきた尊敬する人に、唯一の望みを断たれた。これが現実だ。

 師範は何も悪くない。

 悪いのは、十三年前――生まれた時から背負っていたハンディキャップを覆すことができなかった無力な自分だ。





 【月の子】

 別名【太陽に背かれた子】

 




 人間誰もが例外なく 『己の影を操る力』 を所持している、この世界で。


 太陽に嫌われ、影の恩恵を受けることができないその少年は、戦う以前に相手と同じ土俵に上がることすら許されていなかった――。

















         逆光の影法師













これは、男女主人公が活躍する少年漫画が読みたかったやつが小説で自給自足に走った作品です。

温かい目で軽く読んでやってください…

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