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第6話

「万が一の対馬での事態に備えて自衛隊が対処できるようにしてほしい」


この事に防衛大臣の橋爪昭信は頭を抱えていた。


通常、他国の軍隊というものは、国を守るため、緊急事態に対応できるようにと自衛権行使の権限が平時から与えられている。戦争状態にあるかどうかは関係なく、領域(領土・領海・領空)や主権、国民を守るためにいつでも自衛権を行使する。それが平時の軍隊の務めである。

国家間の戦争となるかどうかは別に、緊急事態に関しては現場の軍隊は自衛権を行使して、侵略や急迫不正の侵害に対処する。国防軍は緊急事態に際して、平時交戦規定(SROE)に従って自衛の緊急処置をする。その体勢が侵略の未然防止、つまり抑止力になり結果として戦争を防ぐことにもなる。


ところが、日本の場合はそうではない。

日本の自衛隊は、例え他国の軍隊が日本に武力侵略をしてきても交戦することができない。自衛隊が「国防軍」として機能するのは自衛隊の最高指揮官である内閣総理大臣から出される「防衛出動」の時だけだ。しかし防衛出動というのは、侵略を受けたら自動的に発令されるというものではなく、複雑な手続きを必要とするものだと言われている。

日本国憲法第九条に記された「戦争放棄」と「軍隊と交戦権の不保持」の条文がそうさせているのだ。

さらに防衛出動というのは、事実上の「宣戦布告」であり、最悪の場合は韓国との全面戦争をも覚悟しなければならない。外交上の問題も絡み、容易に防衛出動を発することができないのだ。


どうしたらいいものかと悩む橋爪に岸部が入れ知恵した。

「大臣、自衛隊には訓練の命令を出しましょう」

「訓練だと?」

「そうです。訓練ならばある程度の制約がかかりますが、自由に動くことができます」

「まあ確かに訓練だったら総理からの命令が無くても自発的に動くことができるが、肝心の総理の方は大丈夫か?」

「大丈夫です。私から話します」

橋爪にそう告げると、岸部は内閣官房副長官の蘭堂に電話した。

「なるほど。『訓練』ですか」

「ええ。事後報告でも後々面倒なことになると思い、一応報告だけでもと思いまして」

「分かりました。総理には私から話します。後のことはお任せください」

「よろしくお願いします」


「訓練」の命令は九州・沖縄方面の陸上自衛隊西部方面隊の、北九州の防衛警備を担当する第4師団に下された。

冷戦終結後、旧ソ連の脅威が減退する中で陸上自衛隊の北方防衛戦略の相対化が起こる一方、朝鮮半島有事の可能性とそれに対する対処重要度が相対的に高まっていることから、朝鮮半島に最も近い師団として注目されていて、その隷下には対馬市に駐屯する対馬警備隊があった。

対馬警備隊は1個普通科中隊を基幹とする小規模な部隊であるが、第4師団長直轄の独立部隊であり、指揮官は連隊長クラスの1等陸佐が充てられているなど連隊格の扱いとされている。また、レンジャー資格者の割合を高めており、同部隊の殆どの隊員がレンジャー教育、対ゲリラ戦闘等の特殊技能訓練を受けている。これは敵のゲリラコマンドが対馬に潜入してきた場合には、森林地帯において掃討する必要があるためである。また、敵が対馬警備隊の対処能力を上回る着上陸侵攻を行なう場合には、森林地帯に転進して抵抗を続けるためでもある。隊員は対馬島民から「やまねこ軍団」の愛称で呼ばれ、各種訓練や地域行事の支援を行っている。

その対馬警備隊との「対抗訓練」の名目で、小倉駐屯地に駐屯する第40普通科連隊が、第4偵察戦闘大隊と西部方面戦車隊の10式戦車1個小隊と共に対馬へ送られた。


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