第3話
202X年 7月
竹島近海で韓国軍の演習が行われた。竹島周辺を含めた日本海方面を管轄する第1艦隊を中心とした陸海空軍と海兵隊だけでなく海洋警察庁も参加した大規模な演習だったが、対馬侵攻作戦のことを日本を含めた周辺国やアメリカに悟られないための偽装工作だった。
韓国の大規模演習のことは防衛省にも伝わっていた。防衛省内にある情報本部は海外の軍事情報を始めとする各種の情報を扱う日本最大の情報機関である。その中でも緊急に処理を要する情報及び外国軍隊の動向に関する情報の収集・整理並びに統合幕僚長、各自衛隊に対する直接的情報支援を行う統合情報部の部長の神保春樹1佐は韓国の演習についての情報を収集するために駆けずり回っていた。
「本部長、今回の竹島での演習は、今までのと比べても明らかに異常です」
上司である情報本部長の榎木隆一陸将に報告する。
「確かにこれまでの演習と比べてもかなり大規模なものだが、竹島が韓国の領土だという国内外に向けてのアピールなのか、あるいは別の意図があるのか」
「今のところまだ分からないので、引き続き情報を収集する必要があります」
「分かった。統合幕僚長に報告して、情報収集を徹底させるよう各部隊に伝えさせよう。あとこの事は総理にも伝えなければならないな」
「はい」
翌日、自衛隊は韓国の演習を監視、情報収集を行った。以前に海上自衛隊の哨戒機が韓国海軍の駆逐艦から火器管制レーダーを照射される事件があったため、安全な距離を保つことが厳命されていた。
だが、その最中に「事件」が起きてしまった。
日本の領海内で情報収集に当たっていた海上自衛隊の護衛艦に、韓国空軍の戦闘機F-15Kが2機、異常接近した上にミサイルが護衛艦に向けて発射された。幸いレーダー波が照射されていなかったので当たることはなく、日本本土からスクランブル発進した航空自衛隊の戦闘機F-15Jに追い返された。
この事件に対してすぐさま日本政府は抗議し、韓国政府側からは「演習に参加していた空軍機が計器類の故障で日本の領空に迷っていまい、ミサイルの発射も誤作動によるものだった」と発表されたが、同時に「我が国の領土である竹島を防衛するための演習を覗き見するようなスパイまがいなことをする日本の自衛隊に責任がある」と一方的な逆ギレをされた。
この事は日韓両国のメディアでも大々的に報じられた。韓国では「恥知らずな日本に対して懲罰をするべき」と世論が湧き、日本では「韓国に謝罪するべき」と「韓国に対して断固たる対応をするべき」と世論が二分されていた。