記者来訪
「何か、ネタ無いの、ネタ、」
「ネタなんか、有りません!」
「・・・もしかして、有るんじゃないの、ネタ、」
5月8日の錬曜日、俺がこの世界に来て47日、
その日の、放課後、珍しく、ローシィが、俺の処に来た。
ローシィ・レーランド
公都に有る、小さな魔導新聞社の記者さんで、彼女がルーナちゃんの取材でこの学校に来た時、ひょんな事から俺と知り合いになり、
俺が、俺の世界の情報を彼女に提供する事と引換に、彼女は、俺に此の世界の情報を教えてくれる、と言う契約を俺は、彼女とした。
しかし、その後、彼女は忙しく、一回、ルーナちゃんからの、俺へのプレゼントである、魔導本を持って来てくれた日、以外、彼女とは会っていない、
何でも、彼女は、ルーナちゃんと、この一月、世界中を回っていたんだとか、
所謂、随伴記者って奴だ、
彼女は、ルーナさんが、各国の首脳と会談した様子等を記事にしていたらしいんだが、俺は、魔導新聞を読まないから、そこら辺の事情は、俺には、分からない、
それは、丁度、ハル、ダン、オルが、自主練習で、俺の宿舎に来て、
ジェミは、趣味の事で、忙しいのと、女性達は、リアちゃんが、母国から、取り寄せた、水着を選ぶ為に、リアちゃんの家に行ったらしい、
じゃ、3人で、空でも飛ぶかってな、冗談を言いながら、バケツの上の水の上を片足で立つ訓練をしていた時、
「ふーん、貴方達、何か、変わった事してんじゃない、」
と、言って、彼女は、俺の宿舎に現れ、俺は、彼女を見て、
「えーと、誰ですか?」
と、言ったら、
「スグルさん、そう言う、笑えない、冗談は、止めて、やっと、此方に戻って来たのに、」
彼女は、疲れているのか、冗談に良い顔を、しなかった、
「悪りぃ、ローシィさん、」
ハルも、ローシィを思い出したのか、
「こんにちは、ローシィさん、」
と、バケツの水の上に立ちながら、ローシィに挨拶した、
ローシィは、相変わらずの営業スマイルで、
「こんにちは、ハルチカ君、で、そちらの方は、」
ハルは、同じように、バケツの水の上に立っている、ダンとオルに向かって、
「えーと、こっちが、クラスリーダの、ダンバード・グラスタ、あっちが、オルダス・ホールスです、」
ローシィは、ダンに手を差し出しながら、
「私は、公都で、記者をしている、ローシィ・レーランド、宜しくね、」
ダンは、真面目に、ローシィと握手して、
「ダンです、宜しく、」
ローシィは、次に、オルに、手を差し出し、
「ローシィよ、宜しく、」
オルは、ちょっと、考えて、
「公都の記者で、ローシィって、貴女は、もしかして、ディ・プラドゥのローシィさん?」
ローシィは、嬉しそうに、
「あら、貴方、私、知ってるの、そうよ、私は、ディ・プラドゥのローシィ・レーランド、」
と、ローシィは自分が本人である事をオルに告げ、オルは相手が本物のローシィだと知って、驚き、直ぐに両手で、ローシィの手を握りながら、
「御会いできて、光栄です、ローシィさん、私は何時も、貴方、の記事、読んでます!」
何時も冷静な、オルが、珍しく、興奮している、
そんな、オルを見た彼女は、極上の笑顔で、
「何時も、わたくしの記事を、読んで下さって、どうも、有難う、えーと、」
オルは、慌てて、
「オルです、ローシィさん、」
「オルさんね、宜しく、」
・・・
俺は、ちょっと驚いた、
ローシィって、あれで有名人なんだ、
でも、俺には関係無いけどね、
俺、彼女の地、知ってるし、
そんな、彼女が、俺の方を向いて、
「で、スグルさん、貴方は何時まで、御客様を、外で、立たせておく気、」
彼女は、手に持つ、包みを、俺に見せながら、言った。
「はいはい、じゃ、皆、休憩だ、御茶にしよう、」
彼女は、宜しい、ってな笑顔を、俺に向け、
・・・
まぁ、良いか、
と、俺は諦めて、
彼女を、俺の宿舎に招待した。
ローシィは、ベッドとキッチンだけの部屋を見て、
「相変わらず、サッパリしてる部屋ね、」
と、批評し、俺は、その批評を無視して、
「ちょっと、待って、」
と言って、ベッドの縁を触って、
スゥウウウウウンンンン
ベッドをソファにし、
「どうぞ、座って、ローシィ、後、皆も、」
ソファベッドを見た、ローシィは、慌てて、俺に、
「ちょっと待てぇ、スグル!其って何よ!!」
「うん?ソファベッドだけど、」
ローシィは、呆れて、
「ソファに、ベッドって一つの家具に二つの機能、つまりベッドが、ソファになって逆に、ソファがベッドになるって訳ね、でも一体、どう言う、発想よ、此って、あんたの世界じゃ、普通なの?」
ローシィさん、かなり、地が出てるので、俺も、彼女とは、気安く話す事にして、
「普通じゃ無いけど、まぁ、狭い部屋で、二つの家具が置けない場合に、考えられた家具かな、俺の世界じゃ、そう言う、便利な物は、結構有るよ、」
ローシィは、ソファに座り、ソファを色々、動かして、座り心地を確かめていた、
俺は、そんな、ローシィに御茶を入れたカップを渡し、彼女は、カップを受け取りながら、
「有難う、スグル、で、此れ、誰が作製したの、」
床に、座って、俺から、御茶のカップを受け取った、ハルが、
「あっ、其れ、僕の父さんが作りました、」
ローシィは、御茶を飲みながら、ハルを見て、
「ハルチカ・コーデル君よね、・・・もしかして、貴方のお父さん、オルチカ・コーデル氏?」
ハルは、キョトンとして、
「はい、そうですけど、」
ローシィは、ガッカリした顔で、
「じゃ、この、ソファベッドって奴、記事には、出来ないわね、」
俺は、ダンとオルに、御茶を入れたカップを渡しながら、
「何でだ、ローシィ、」
ローシィは、俺を見て、
「スグルは知らないでしょうけど、コーデル氏は、3年先迄、仕事が有る、この国じゃ、有名な家具職人、更に職人協会の副会長も、やってる、偉いさん、」
ハルも、驚いて、
「えっ、父さんんて、そんな、偉い人だったんですか、」
俺は、自分の御茶を飲みながら、
「其れが、何で、記事がダメなんだ?ローシィ、」
ローシィが、首を振りながら、
「私、彼の記事、書いた事有るし、彼、この国の家具の将来を結構、気にしていたから、何らかの形で、協会から、このソファのベッドって奴、世間に発表する筈よ、」
協会から、発表?
そんな、大袈裟な事か?
「そうなると、単独、インタビューも同意しないし、スクープも無理ね、かってに記事にして、協会と揉めたくないし、って事、」
・・・
ハルの父ちゃん、かなり、安く作ってくれたから、やっぱり、何か、考えが有るとは、思ってたけど、
結構、大きな事か、
まぁ、俺には、関係無い、アイデア出したけど、権利が、俺に有るとは、思ぇねぇし、
ローシィは、すっかり、ソファの角度変えて、深く座って寛いでるし、
「ねぇ、スグル、何か、ネタ無いの、ネタ、」
ローシィは、子供のように、駄々をコネだした、
「ネタなんか、有りません!」
俺は、ローシィが、持って来た、お菓子を食べながら、キツく言った、
ローシィは、不貞腐れながら、
「ぶぅ、ぶぅ、ケチケチ、スグルのケーチ!!」
子供かぁ、って、俺が、心の中で、ローシィに突っ込んでいると、
ハルが、自分の父の所為で、ローシィが困ってると、勘違いし、
「あの、ローシィさん、記事になるかどうか、分からないんですけど、明日、僕達、『海』に行くんです。」
俺は、その瞬間、バカ、ハル、言うな!ってな、顔をしてしまった、
ローシィは、俺がした、表情を見て、ニヤリってな、笑顔で、
「へぇー、『海』、ねぇ・・・もしかして、有るんじゃないの、ネタ、」
俺は、誤魔化すように、
「たいした、事じゃ、無いんですよ、ローシィさん、ただ、明日は、生徒達と海に行って、泳ぎの練習するだけです。」
ローシィは、騙されなかった、
「もっと、詳しく話して、スグルさん」
俺は、足掻いた、
「ローシィさん、子供が、水遊びするだけですって、ネタなんか、なりませんって、」
ローシィは、嫌な、笑顔で、
「スグル、け・・・い・・・や・・・く」
俺は、観念した。
結局、俺は、『星からの使命』以外は、魔導格闘技大会の事、『星の遺跡』の事、放課後自主講座等、全てを、ローシィに話した。
「ね、ローシィ、全然、記事になんか、成らないだろ、」
と、最後に、纏めて、この話しを終わらせようとしたんだが、
ローシィは、チィッ、チィッ、と指を振りながら、
「分かって無いなぁ、スグル、良い、この国で、魔導格闘技って言えば、人気スポーツ、」
ローシィは、ニヤリと笑いながら、
「学生大会だって結構、注目されるし、もしもよ、弱小チームが、全国大会で優勝したら、どうなると思いますか、」
あっ、
確かに、
「・・・ニュースになる、」
ローシィは、勝ち誇った顔で、
「でしょ、特ダネ、独占取材じゃない、スグルさん、」
嫌、彼等じゃ、優勝は無理だ、
とは、俺は、口が裂けても言えない、
ローシィは、ソファで、背を反らし、両腕を伸ばしながら、
「其れにさぁぁあ、スグル!私、本当は、一月、休暇、取って、自由都市の海に行く予定だったのにぃぃい、あんただけ、ずぅうるぅうぃい、だからぁぁあ、私もぉぉおお、海でぇぇええ、遊びぃぃぃたい!!!」
そっちかい!!!
俺は、ため息を、つきながら、
「でも、ローシィ、放課後自主講座だぜ、幾ら取材って言ったって、責任者のメルティスト先生の許可がいるし、俺じゃ、決められないって、」
ローシィは、立ち上がって、
「大丈夫、私は、記者よ、交渉と聞き込みは、得意!」
そう言って、彼女は、俺にウィンクしながら、去っていった。
次の日の5月9日、雷曜日、
その日の朝、今日は、第11回放課後自主講座開催日、朝早く、俺の宿舎の前の庭に、3台の魔導四輪車が停まった。
1台目は、ブライが運転する、料理専用魔導四輪車である事は、分かる、
他の2台は、なんだ?
1台の、魔導四輪車の運転席から、アンリが降りてきて、俺は、ちょっと驚いて、
「アンリ、お前、免許、持ってたの、」
と、つい、聞いてみたんだけど、彼女、
「免許?ですか?」
あっ、そうか、此方の、自動車の普及率から考えても、スグルの世界の免許制度なんてもん、無いのか、
「どうしました、アンリ、」
もう、1台の魔導四輪車の運転席からは、黒いスーツに、白髪の初老の、品の有るじいさんが降りてきた、
「執事長、」
えっ、物本の、執事!、初めて見た、
「ん、此れは、スグル様で、いらっしゃいますかな、私は、ロンディーヌ家に使えている、執事の長を勤める、エリンデゥナ・ウォルデュースです、エリンとお呼び下さい、」
俺は、エリンさんと、握手しながら、
「こんにちは、エリンさん、で、今日は、なんで、此処に、」
俺は、エリンさんに、単刀直入に聞いた。
エリンさんは、ちょっと、驚いて、
「おや、御嬢様から、聞いておられないと、スグル様は、」
アンリは、頷きながら、
「御嬢様は、言ってない、」
エリンさんは、分かったって顔で、
「スグル様、今日は、海水浴をなさると聞きまして、更衣室用に、宿泊用魔導四輪車を用意しました、」
「宿泊用魔導四輪車?」
エリンさんは笑顔で、
「はい、男性用、女性用の2台、勿論、シャワーも、有ります。」
更衣室に、シャワーって、どれ程、本格的に、楽しむつもりなんだ、って、俺は、呆れた、
金持の御嬢様のやる事は、徹底してる、本当に、意味が、分からん、
と、其処に、ブライが、料理専用魔導四輪車から降りてきて、
「おっ、スグル、おはよー!、」
相変わらず、明るく、元気な、ブライに、俺も、
「あぁ、おはよう、ブライ、しかし、すげぇなぁ、ブライ、本格的に、宿泊用魔導四輪車迄、用意したのか、」
ブライは、得意そうに、
「当たり前だろ、なんせ、御嬢様は、おっと、いけねぇ、此は、料理長から、止められてたんだ、」
・・・
こいつ、絶対、喋りたくて、態とやってないか、
俺は、絶対に聞かない、
ブライは、俺の方に来て、
「なぁ、スグル、今回は、この、3台を入れてくれ、其れと、あっちで、新鮮な魚、取ってくんないか、」
新鮮な魚?
俺が?
「ブライ、なんで、俺が、魚、取るんだ?」
ブライは、笑いながら、
「だって、スグル、あんた、上級魔導士、魚取りくらい簡単だろ、そうすりゃ、皆に、旨い、魚料理、出せるし、どうだ、食いたいだろ、スグル、」
・・・
まじ、食いてぇ、
考えてみたら、
この、一月、肉とパンで、
魚、食ってねぇ、
チキショー、
俺は、食の誘惑に負けて、
「分かった、ブライ、俺、頑張る、」
と、答えて、しまった、
情けない、俺であった。