海岸
「・・・湖、って言うより、これって海だよね、海、」
「当たり前に海、波が有るし、たぶん、舐めたらしょっぱい筈よ、」
「じゃ、海の幸を使った料理、ですかねぇ、出すのは、」
5月6日の力曜日、俺がこの世界に来て45日、
昨日は、第9回の放課後自主講座が開催され、『星に愛されし民』が、『星の遺跡・密林』を攻略し、
六面体の『鍵』と、『月の雫の銀杯』、『月の星の大国』の金貨、七枚を手に入れる事が出来た。
で、俺とメルティスト先生の約束で、新しい遺跡に行く場合、一緒に同行して、お互いに、安全を確認し、
其を基に、その遺跡で、放課後自主講座を開催するかどうかを、メルティスト先生が判断する事になっていた。
この日、俺は、午前中は掃除、午後は、庭の手入れ、そして、4時、もし、メルティスト先生が来なかったら、俺は一人で行くつもりだったんだが、
まず、ブライが、俺の宿舎に魔導二輪車で来て、俺はブライに、
「ん、今日は、放課後自主講座は休みだぜ、どうしたんだ?」
ブライは、嬉しそうに、
「あぁ、スグル、メルがさぁ、今日、新しい遺跡に行くって言うから、俺も、料理長に言って、行く事にした、」
メル?
メルって、お前、どっかのナンパ外国人か、ちょっと気安くない、
まぁ、俺から見たら、此処は外国だし、お前は外国人だけどさぁ、
「あのなぁ、前も言ったよな、『遺跡』は、危険だから、魔導防護服着てない奴は、認めないの!」
ブライは、指を振らしながら、
「ちっ、ちっ、スグル、見てくれよ、これを、」
ブライは、上着とパンツを脱ぎ出した、
えっ、
ブライ!
ちょっと待て、って、
お前の裸体、
見たくねぇえええ、って誰が、驚くかぁ!!
コイツ、下に、魔導防護服をちゃんと着て来やがった、
「お嬢様から、借りたぜ、スグル、」
ブライは、白い、清潔に見える、魔導防護服を着ている、
お前、本当に戦うコック、やる気か?
と、自分で、自分に突っ込んでいたら、メルティスト先生がやって来て、
「あっ、ブライ、来てくれたの、有難う。」
ちょっと、満更、でもなさそうだ、
「メル、俺は、危険な処にメルを一人で行かせる分けには、いかない、」
・・・
まぁ、良いか、
「じゃ、ブライと先生は手を握って、オッケ、じゃ、『鍵』を起動します、」
ブライは、喜んで、先生の手を握り、俺は仕方なく、ブライの手を握った、そして、『鍵』を包んでいる、『星隠し』を解除した瞬間、
バシュンンン!!
俺の足下は、砂、目の前は、青い地平線、波がローリングして白い泡が沸き起こっている、
ザザザザザザザザザ~
「・・・湖、って言うより、これって海だよね、海、」
俺は、つい呟いてしまった、
メルティスト先生は、呆れながら、
「当たり前に海、波が有るし、たぶん、舐めたらしょっぱい筈よ、」
ブライは、感動して、
「じゃ、海の幸を使った料理、ですかねぇ、出すのは、」
俺は、えっ、と思った、
食えんのか?
魚の自動人形、
しかし、良く見ると、今回の『星の遺跡』は、黄金のブイが見える、更に、遠くに島が有る、
あれが、ゴール?
「スグル、もしかして、あの島に、行くって事、」
先生も、もう、三回目だから、此の、星の力の訓練所の仕組みが分かってきたようだ、
「そうですね、先生、たぶん、あれが、この『星の遺跡・海岸』の攻略ポイントです、」
先生は、俺を見ながら、
「一体、どうやって、あの島まで、行くの、まさか、泳いで、じゃあないわよねぇ、」
俺は、頷きながら、
「まさか、泳ぎは、しませんよ、普通に歩いて行けば良い、」
二人、同時に、
「えっ!歩く!!」
俺は、二人を無視して、波の上を、歩き始めた、
ブライは、唖然として、
「スグルって、中級魔導士なのか?」
メルティスト先生は、首を振って、
「違うわ、彼は、上級魔導士よ、空も、飛べるし、」
ブライは、驚き、
「上級って、何で、そんな奴が、学校作業員やってんだ?」
メルティスト先生も、釈然としない表情で、
「分からないけど、たぶん、異国人だから、」
ってな話を、俺は、小耳に聞きながら、波間を歩き始めた、一応、『星隠し』は、先生と、ブライだけで、俺は外している。
何時もなら、ビュン、ビュン、襲って来る、自動人形が、全然、襲って来ない、
?
何故だ?
そんな事を、考えながら、波の上を歩き、やがて、黄金のブイまで、来た。
「此処までは、順調、何も無し、」
俺は、浜の二人を見た、二人は、真剣に、俺を見ている、
じゃ、先に、行ってみますか、ってな気持ちで、黄金のブイを乗り越えた、その瞬間、
バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン! バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン! バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!バシュン!
水面から、数百匹の魚が、俺に向かって、飛び出し、
バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、バシ、
最後に、
ガシッ!!
俺は、捕まえた、一匹、以外は、全て、魔石にした、
成る程、取り敢えず、『星の遺跡・海岸』の仕組みが分かったので、俺は、走って、二人の所へ、戻った。
俺は、メルティスト先生に、黄金の飛び魚モドキを見せた、此の飛び魚、ちょっと口が、ピラニアのようで、食い付かれると痛そう、
先生は、魔鼠のように、可愛い見た目じゃ無いので、チラッと見たら、一言、
「魔魚、」
ブライが、身を乗り出して、
「どれどれ、スグル、見せてみ、その魚」
俺は、魚をビシッと、握り、
ボン!
魚は、魔石になった。
「えっ?何で、」
俺は、笑いながら、
「そんな、ポーケっとした顔で、驚くなよ、ブライ、先生も言ったろ、コイツは、魔魚だ、食えないし、殺せば、魔石になる、」
ブライは、納得しながら、
「魚顔?」
先生は、俺に呆れながら、
「ブライ、気にしないで、スグルは、異国人だから、発音が滅茶苦茶、たぶん、良い顔って言ったのよ、」
・・・
違うわい!!
暫く、俺は、考えた、
此の、『星の遺跡・海岸』は、体力を強化する為の星の力の訓練所だ、
もし、この星の力の訓練所が水中戦を想定していたのなら、ゴールは、水中になる、しかし、ゴールは、海の上の島に有り、攻略には海を渡る必要が有る、
泳ぐって事は非効率過ぎて、考えられ無い、しかし、『星の力』を維持して行けば、海の上を歩けるし、島迄、辿り着ける、
問題は、膨大な『星の力』を消費する事だ、
『密林』で、『星の力』の使い方を、学び、次は、『星の力』を使い続ける為に、体力をつける、
その練習スペースが、安全地帯として、黄金のブイを設置した、
本当に、理想的な、星の力の訓練所だ、
「其で、どうするの、スグル、」
メルティスト先生が、俺にどうするかを、聞いてきた、
俺は、真面目に、海を見ながら、
「取り敢えず、あの、黄金のブイ迄、海を歩く、練習ですかねぇ、」
其を、聞いた、ブライが驚いて、
「おぃ、スグル、お嬢様なら、兎も角、C組ったら、ハッキリ言って、落ちこぼれだぞ、そんな事、出来るのか?」
・・・
成る程、世間は、彼等を、そう見ているのか、確かに、ダンが、色々と拘る訳だ、
先生も、ちょっと気まずいのか、
「出来る、出来ないは別にして、出来ない場合は、泳ぐ必要が有るけど、あの子達、泳げるのかしら、この地方って、海や川無いし、」
えっ、
彼等、泳げ無いの?
確かに、ハルもダンも、沼に落ちて、溺れてた、
そう言えば、この学校、プール無い!
ブライも、頷きながら、
「はっきり言って、東部の者は、海も川も無いから泳げ無い、この国で、泳げる奴は、西部か、南部の海沿いか、北部の川沿いの奴等だけ、実際、俺も、泳げない、」
・・・
そう言う事か、
さて、どうするか、って事を、俺が考え始めた時、
「でも、浮きの魔導具、用意すりゃ、良いんじゃねぇのかなぁ、」
と、ブライが、話を付けたした、
えっ、
浮きの魔導具?
先生は、俺を見て、ため息を付いた、
「やっぱり、スグルは知らなかったのか、普通は、海とか、川に入る場合は、両手首に、浮きの魔導具を嵌めるし、本当は、密林の沼地対策として、用意したかったんだけど、」
俺は、先生に、その浮きの魔導具って奴を詳しく聞いた、
どうも、ブレスレットに、魔導回路が書き込まれていて、水に入ると、装着者を沈ませ無いように、『力』が、発動するらしい、
そう言うのが有るから、この世界には、浮き輪が無い、
先生に、浮き輪の話をしたら、先生、その空気ってのが、抜けたらどうなるの、って聞かれ、俺は、はっきりと、沈むと断言したら、
先生は、俺に、バカじゃないの、って言った、
まぁ、そりゃ、言うわな、空気抜けたら、終わりだし、
「私達の国の子達は、だいたい、持ってるけど、この学校の子は、持って無いわよねぇ、ブライ、」
「そうだね、メル、俺も、この地方の出だから、分かるけど、浮きの魔導具は高い、確か、安くても5万RGはしたから、其にあまり、使わないし、まず、持って無いと、思うよ、」
先生は、少し考えて、
「じゃ、買うとして、来るのは、来週、そうなると、放課後自主講座も、来週から開催、」
えっ、
買うの!
一人、5万、七人で、35万RG、
あっ、
あの金貨か、
換金したんだ、先生、
確かに、こうなると、
色々と、金は確かに、必要になる、
先生は、結構、正しい、
ブライが、ちょっと、寂しそうに、
「じゃ、メルとは、来週迄、会えないんだ、」
先生は、慌てて、
「放課後自主講座は、開催するわよ、ブライ、そ、そう、スグルのね、スグルのやる、練習が、来週からって事、そうよね!スグル!!」
・・・
何だかなぁ、
まぁ、良いか、
何か、やらねぇと、ダンが、また、文句、言うし、
もしかして、『星』も、騒ぐかも知んないし、
さて、どうするか、
何を、したら良いんだ、
まずは、歩く練習、
で、他に砂浜で、出来る事は、
ビーチバレー、
でも、やるか、
気晴らしに、
まぁ、彼等次第だな、
結局、俺は、メルティスト先生と話し合い、来週、浮きの魔導具が、届いたら、本格的に、『星の遺跡・海岸』の攻略を始める事にして、
明日と明明後日の、放課後自主講座は、何をするかは、生徒達と相談しよう、
と、言う事に決まり、
俺達は、宿舎の前の庭に戻った。