料理作業員
5月4日の闇曜日、休み明けで、昨日は、結局、『星の遺跡・密林』の攻略ポイント、『神殿』には、行く事は出来なかった。
その日も、朝の5時には、ダンは、『ロープの森』に来て、自主練習をしていた、
7時に、ダンが練習を上がった頃合いに、俺は、冷たい御茶を持って、ダンに、差し出した。
「済みません、スグルさん、」
ダンは、汗をタオルで拭きながら、俺から、御茶を受け取り、彼は、一気に御茶を飲み干した、
「なぁ、無理してるんじゃ、無いのか、ダン、昨日も、お前、バイトして、休んで無いんだろ、」
ダンは、何だ?ってな顔して、
「バイト?ですか?」
あっ、いけねぇ、スグルの世界の言葉、だった、
「俺の故郷の言葉で、学生が、働く事を、バイトするって言うんだけど、まぁ、俺の故郷じゃ、学生が、ちょこっと働くのは、珍しく無いんだが、此方じゃ、国が、学生の面倒、みっから、働くのは珍しいんだろ、」
ダンは、困ったなぁ、ってな表情で、
「スグルさん、ジェミから、聞いたんですか、」
まぁ、ジェミから聞いたんだけどね、
ダンは、コップを、俺に返しながら、
「一応、学校には許可を取ってます、私と、オルは、訳が、あって・・・家からの援助が、一切、無いので、だから働く必要が有るんです、スグルさん、大会の旅費とかも、必要だし、」
ダンは、苦しそうに、俺に説明した、
苦学生、
スグルの世界じゃ、とっくに、流行らなくなった言葉だ、
ダン、オル、お前達は、
「まぁ、色々と事情が、有るのは、分かる、だが、体を、休ませるのも、重要、無理はすんなよ、ダン、」
ダンは、真面目な顔で、
「大会迄です、大会が、終われば、・・・」
ダンは、それ以上は、語らなかった、
俺は、寄宿舎に帰るダンの背中を見ながら、
大会、
魔導格闘技大会、
此の国は、軍事国家だから、スグルの世界の自衛隊に、当たる、防魔省や、警察庁に当たる、魔導省に行く事が、エリートの条件だと、前に、エルさんから聞いた、
その採用の条件は、両省とも、魔導高等学校のA組かB組に在籍しているか、していた事、
C組では、無理だ。
例外は、魔導格闘技大会の優勝者か、上位入賞者、
だから、C組のダンは、大会に拘っていると、此は、ジェミから聞いた。
特に、家を継がない、名門の家系の次男坊以下は、防魔省、魔導省に行く事が、家にとっても名誉な事だとも、俺に教えてくれた。
ダンは、名門の家系の長男らしい、しかし、彼は、家を継がないのか、
ふぅ、
俺が、彼等に、君達は、『星に愛されし民』、
星から運命を託された人々なんだ、
と、言っても、
理解は、して、貰えない、
運命の為に、人生を掛けなくちゃ、なんないだ、と、幾ら言っても、
まぁ、今は、あまり、ってか、全然、言ってないけど、
俺は、あんな、彼等に、どう、伝えれば、良いんだ、
過酷な、運命を、
教えてくれ、
星界の、
『星々』よ、
その日、午前中、日課の掃除を終え、昼、ボーゲンさんの昼飯を食べた後、相変わらず、足りないので、宿舎に戻って、サンドイッチでも食うか、
と、考えて、宿舎に戻ると、宿舎の前の畑や、パンの木の果樹棚を、見ている一人の男がいた、
歳は、見た目、俺と同じ位、髪は栗色、後ろを縛って、ポニーテールにして、顎髭は、短く綺麗にカットしている、白い清潔なシャツに黒いズボン、
誰だ?
「あのぉ、済みません、どちら様?」
「わぁ!!!」
男は、急に声を掛けたので、驚いて、盛大に尻餅を突いた、
「俺は、此の、学校の学校事務員の、スグル・オオエ、で、貴方は、」
俺の、パンの木実を盗みに来た人、じゃぁ、無いよね、
彼は、立ち上がり、土や汚れを、払いながら、
「俺は、料理長から言われて、今日から、リアお嬢様の食事を作る為に、此処に、来た、ブライアン・ゲートルだ、ブライって呼んでくれ、」
?
料理を作る?
「えーと、済みません、リアちゃんの、食事を作るのに、何で、貴方が、私の宿舎の前に、居るんです?」
男は、えっ、てな顔で、
「宿舎、何処に宿舎が、えっ、わっ、驚いた、急に家が!」
俺は、彼にも、俺の宿舎が見えるようにした、
「俺の宿舎の前でしょ、」
男は、俺を、ちょっと険しい顔で、
「あんた、『心』を使う、魔導士、なのか?」
『心』か、まぁ、『心』じゃ無いけど、ちょっと警戒されたか、
「『心』じゃ無い、俺の国の技術で、『星導術』って言うんだ、で、何で、リアちゃんの料理を作る人が、此処に?」
男が、やれやれってな表情で、
「おかしいなぁ、リアお嬢様、話しが着いてる、って言ってたのに、」
話し、そう言えば、一昨日、リアちゃん、料理がどうのこうの、って言ってた、
「俺はさぁ、あんたが、お嬢様と、その学友様達の、間食を作ってくれてるんだけど、下手くそだから、手伝ってくれ、って言われて、来たんだが、あんたも了解してるって聞いてたぞ、」
・・・
下手くそ、
・・・
当たってる、けど、さぁ、
そうかぁ、
あの時、聞いて無かったけど、リアちゃん、料理人、寄越すって、言ってたのか、
だから、ジェミ、心配して、
もう、良いって、言っちゃたし、
俺は、諦めて、
「あぁ、済まない、まさか、今日、来るとは、思わなかったから、」
と、俺は話しを誤魔化し、彼は、気にすんなって顔して、
「俺もさ、明日からって言われてたんだけど、今日は、下見と挨拶に、来たんだ、改めて、宜しく、」
彼は、手を差し出したので、俺も握手しながら、
「宜しく、」
此で、彼も、安心したのか、結構、饒舌になった、
「しかし、スグル、此の、パンの木畑、スグルが作ったのか、すっげえーなぁ、色と言い、艶と言い、見た目は高級品じゃねぇのか、一体、何が違うんだ・・・そうか、土か、スグル、此の土は、何処の土を持ってきたんだ、」
と、一気に喋り、俺は、星を入れてるとは、言えないから、
「俺の故郷に有る、特別な肥料って奴を土に混ぜてる、因にその肥料はもう無い、」
と、俺もハッキリと言った、
「そうか、残念だなぁ、なぁ、一個、試食しても、良いか、スグル、」
スグル、スグルって結構、気安いんだが、しかし、意地悪して、ダメって言うのも大人げねぇし、
「あぁ、良いよ、」
彼は、嬉しそうに、
「じゃ、此、」
彼は、丸く綺麗に膨らんだ、パンの木実を一つもぎ取り、口に入れた、
「うん、旨い!甘味、塩味、軟らかさ、食感、此はヤッパ、最高級品だ、本当に、すっげえ、スグル、」
何か、誉められると、嬉しくなって、俺は、調子に乗って、『星に祝福されし果木』も、ブライに見せ、彼は、腰抜かす程、驚いて、その実を食わせたら、本当に、腰抜かした。
そのリアクションが、面白いので、俺が作った、ハムやベーコンも味見をさせたら、感激して泣いてた、
そして、彼は、
「スグル、あんた、本当にダメだ、こんな、魔の神に祝福された、食材で、旨い物、作れないって、どうかしてるよ!」
と、失礼な事を言いやがった、
酷くねぇ、
まぁ、事実だけど、
其に、『魔神』じゃ無く、『星』の祝福なんだけどね、
「うーん、此処じゃ、狭いし、コンロも少ない、食器も無いし、其に、不衛生だ、変な革の椅子が有るし、部屋が仕切られて無い、」
えっ、俺の部屋って不衛生なの?
プロから、見たら、専用のキッチンじゃ無いから、当たり前だけど、
「仕方ねぇなぁ、魔導四輪車持って来るか、」
とか、勝手な事を言い始めた、
魔導四輪車って、大丈夫か、コイツ、
「ブライさん、ブライさんは、料理人ですよね、魔導四輪車
って、」
ブライは、俺に意識を戻し、
「あぁ、さんはいいから、料理人って、随分、古い呼び方すんねぇ、スグル、俺は、料理作業員、其と、魔導四輪車っても、料理専用魔導四輪車だ。」
えっ、
料理専用魔導四輪車、
リアちゃんの家、そんな物迄、持ってるのか、なんて、金持、ダンとオルとは、真逆じゃねぇ、
「此処なら、学校の門から、直接来れる、うん、そうしよう、」
と、勝手に納得して、帰って行った。
料理作業員
プロの料理作業員って、
俺は、呆気に取られて、彼が帰る後ろ姿を、ただ、見ているだけだった。
金持のやる事は、分からん!
そして、次の日の5月5日、曜日は火曜日、今日は、スグルの世界では、子供の日で、祝日だった、
此の世界、って言うか、此の国は、軍事国家だから、祝日は殆ど無いと、エルさんから聞いていた。
だから、と言って、魔導術が、有るから、そんなに、過酷な労働をしているとも、聞かない、
そこそこに、働いて、そこそこに、休んでいるってな、感じだ。
だから、豊かじゃ無く、国の財政も危機的情況だけど、此の国の人は、スグルの世界の人のように、毎日、満員電車に乗って、何時間も通勤するような仕事の仕方は、して無い、
魔導術が、使えるかどうかで、職種は決まるし、それ以外の職種は、此の国では世襲性に近い、勿論、メルティスト先生が言うには、他の国は違うらしい、
先生の国は、仕事を選ぶのも自由だけど、その分、競争も凄いらしい、スグルの世界に、近い。
そして、此の国で、諦めていないダンが、今日も、朝早く、俺の宿舎の前の『ロープの森』に練習に来て、
練習を終えたダンが帰った後、
一台の魔導四輪車が、宿舎の前に止まった。
運転席から、ブライが、降りて来て、
「おはよう、スグル、」
と、相変わらず、気さくに挨拶をする、俺も、
「おはよう、ブライ、其が、料理専用魔導四輪車か、」
ブライは、嬉しそうに、
「あぁ、そうだ、見るかい、スグル、」
「えっ、良いのか、ブライ、」
ブライは、笑いながら、
「見るだけな、中には入んなよ、不衛生だから、」
まぁ、当然だよな、靴だし、俺は、ブライが持って来た、料理専用魔導四輪車の中を覗いた、確かに、中は凄かった、二列に、専用調理器や食品庫が並び、本当にプロの職場、ってな感じだ、
「なぁ、スグル、朝飯、食ったか、」
「いや、まだだ、此から、食堂に行こうかと思っていたんだけど、」
ブライは、
「じゃ、賄い飯、作るんだが、一緒にどうだ、」
えっ、良いの?
「その変わり、パンの木実をくれ、」
俺は、構わないよ、とブライに伝え、ブライは、俺の畑からパンの木実をもぎ取り、簡単に料理を始めた、
賄い飯だから、簡単なサンドイッチだが、俺が作ったのとは、全然違う、
まず、見た目が上品だ、具材は、薄く綺麗に切ったハムと、スクランブルエッグのような物、其に、野菜、そして、その上に綺麗な色のソースが上品に掛けられている、
そして、飲み物は、爽やか香りに、少し苦味の有る、御茶、
此の、サンドイッチと御茶の組み合わせが、また、絶品だ、
俺のように、ただ、作っているのとは、訳が違う、素材の見た目、組み合わせ、そして料理の相性をキチンと計算して作ってる、
流石、プロの仕事!
リアちゃん、毎日、こんな物、食ってたら、俺の食事が、いかに、下手くそか、分かっちまうって事か、
「どうだ、スグル、旨いか?」
「旨い、流石が、プロだ、ブライ、」
ブライは、照れながら、
「有難うな、スグル、しかし、スグルが育てた、食材も凄いよ、スグル、此なら、お嬢様を喜ばせられる、」
リアちゃんを、喜ばせる、
まぁ、リアちゃんの家の料理人だから、当然だよな、
「リアちゃん、以外、皆も、喜ぶと、思うよ、ブライ、」
ブライは、呆れながら、
「なぁ、スグル、お前、お嬢様にちゃんって、気安く無いか、だいたい、あの人は、あっ、あぶねぇ、あぶねぇ、此、絶対に、言うなって、料理長から、釘刺されていたんだ、」
?
リアちゃんの正体って事、
別に、どっかの国の、御姫様でも、驚かないけどね、
何せ、既に、此の国の偉い人の娘さん、ルーナちゃんと、俺は知り合いだし、
今さら、一人、増えても、同じだ、
気にすんな、ブライ、
と、俺は、心の中で、ブライに言った。
「兎に角、スグル、お前は、気安、過ぎる、」
俺は、首を振りながら、
「なぁ、ブライ、お前は使用人だから、お嬢様って言うのは分かるが、俺は、此の学校の学校作業員だよ、変に、一人だけ気を使ったら、使われた方も、嫌だと思うよ、」
ブライは、ちょっと驚いて、
「そうなのか?」
俺は、分かって無いなぁ、ってな顔で、
「ブライ、此処は、思春期の多感な少年少女が、居る、学校だよ、俺は、皆を出来るだけ、平等に、対応しなくちゃなんない、其処に、貧富、身分の差なんて無いんだ、だから、ブライ、あんたも、学校に居る、間は、皆にも、同じように接してくれ、」
ブライは、ちょっと驚いて、
「あっ、スグル、済まなかった、そんな事、考えても見なかった、ヤッパ、外に出る事は、勉強になるなぁ、料理長が、行けって言った理由も、良く分かった、此れからも、宜しくな、スグル、」
「あぁ、宜しく、ブライ、」
俺達は、ガシッと、固く、握手をした。
こうして、『星に愛されし民』に、プロの料理人が仲間に加わった、
勿論、彼は、スグルの世界の海賊王に成る、漫画の仲間の料理人のように、戦いはしない、
彼は、本当に、プロの料理作業員だ。