家族来訪
5月2日の雷曜日、この日、『星に愛されし民』の、第8回放課後自主講座が開催された。
この日は、ハルの提案で、『星の遺跡・密林』を攻略する事になり、それは、一回切りの挑戦だった。
『星の遺跡・密林』の仕組みは、二段階に分かれていて、第一段階は、数百の魔鼠が、彼等に襲い掛かり、
彼等が、その猛攻をしのいで、ゴールの神殿迄、後、百メータ付近で、第二段階の仕組みが発動し、
それは、神殿の攻略者の弱点を衝いた、自動人形を神殿が作り、攻略者にぶつける仕組みだった。
神殿は、アンリ、ダン、エミに対して、自動人形をぶつけて来た、
魔鼠の戦いで、疲労していた彼等に、自分達の技量を上回る相手の対処は、過酷で、俺は、この時点で、『星の遺跡・密林』の攻略を中止しようとしたが、
ハルは、その中止を拒絶し、
自ら、『右星の扉』を開き、アンリ、ダン、オルに、自動人形の迎撃を指示した、
その結果、覚醒した、アンリ、ダン、オルは、自動人形を撃破して、
『星に愛されし民』は、『星の遺跡・密林』の攻略ポイントである、神殿に到着した。
此処で、俺は、彼等の疲労が大きい事と、『星の遺跡・密林』は日が沈み、夜になった為、一旦、活動を中止とした。
アンリも、ダンも、オルも、何時もと変わらない、様子では有るが、疲労は大きく、三人共、地面に座り込み、大量の汗と肩で息をしていた、
ハルは、ジェミから、あの巨大な魔石を受け取って、『星の力』を体に取り込み、何とか、立っていられる状態だったので、
俺は、メルティスト先生の居る場所に、『星の門』を開き、全員をその場所に移動させた。
彼等の疲労から、考えても、とてもカツレツのサンドイッチは、食える状態じゃぁ無い、どうやら、俺は、選択ミスをやらかしたようだ、なんせ、俺は、過去の経験でも、調理師、栄養士、等のプロの料理人には、成った事が無い、
俺は、急いで、宿舎に戻り、昨日、摘んだ、『星に祝福されし果実』と、そのソースを持って来て、彼等に、出来るだけ摂取するように勧めた。
勿論、食べれるなら、とカツレツも出したんだが、ハルだけは、なんとか受け取り、口に入れて、他の皆は、果実だけを口にし、
この状況に対して、メルティスト先生は、俺に、何か言おうとしたが、首を振って、出てくる言葉を噛み殺したようだった。
彼等が、限界を越えた、疲労に襲われ、動く事も出来ない状態に成った、責任は、全て、彼等を止めなかった俺にある、
もし、彼等が、この試練で命を、落としたら、俺は、彼等の両親、兄弟、姉妹に、どうやって、謝れば、良いんだ、と、今更ながら、後悔の二文字が、俺の脳裏に浮かび上がり、
そして、今までの俺だったら、絶対に、この試練を止めてた、何故、俺は、止める事が出来なかったんだ、と、考えるようになった。
俺が試練を止めなかったのは、
ハルの力なのか?
ハルの力とは、一体、何なんだ、
俺は、初めて、本気で、ハルの力を考え始めた、
俺は、今まで、ハルは、才能が無い、ただ、単純に、そう思っていた、
「あの、スグル様、」
しかし、もっと、違った方向から、考えたら、どうだろうか、
そうだ、スグルの世界で、良く遊んだ、ゲームの設定で、考えたらどうだ、
「スグル様は、そのぅ、あまり、料理、得意じゃ、ありませんよねぇ、」
例えば、ゲームだと、支援職って言う設定も有る、
「ですから、家から料理人を派遣したいんですけど、如何でしょうか、スグル様、」
もし、ハルが支援職だったとして、今回、アンリ、ダン、オルに、強化の術、みたいな物を使ったとしたら、あの突然の覚醒は、説明が付くんじゃねぇの、
「スグルさん!リアが、聞いてますよ!!」
えっ!
何だ!!
「えっ?ジェミ?リアが聞いてる?」
ジェミは、呆れながら、
「スグルさん、リアの話し、聞いてなかったんですか、」
「聞いてるって、聞いてるよ、料理の事だろ、オッケ、オッケ、良いって、」
リアは、嬉しそうに、
「じゃ、直ぐに、準備します、」
ジェミは、疑わしそうに、
「本当に良いんですか、スグルさん」
俺は、頷きながら、
「うん、構わないって、俺も旨いもん食いたいし、」
どうせ、また、ジェミ、お前が、リアん家から、旨い物、運んでくんだろ、良いじゃん、
俺は、直ぐに、またハルの事を考えた、
じゃ、ハルの力は、チームワークとは、関係無いのか、
そうとも、思えないんだが、
支援職ってのは、チームに取って、重要、だよなぁ、でも、ゲームに取っては、いないゲームも有るし、
本当に、ただの支援だけが、ハルの力なのか?
分からない、
俺は、結局、考えに行き詰まった。
その後、全員が俺の宿舎の前に戻り、クールダウンが出来る程、体力が快復した後、彼等は、初めて、『星の遺跡・密林』を攻略した事を実感して、騒ぎ始めた、
ダンとオルが、お互い、肩を叩きながら、今日の戦いを語り、リアはアンリを、沢山、賞賛して、ハルとエミ、ジェミは、取り敢えず、攻略した事を喜んでいた、
そして、メルティスト先生は、一言、
「止めるべきです!」
そう、俺に言った。
俺も、一言、
「済みません、」
と、謝った。
その日は、其で、『星に愛されし民』は、解散となり、リアとアンリは、近くの自宅に、ハル以外は、寄宿舎に、ハルは、自宅に帰った。
そして、次の日、
5月3日の光曜日、五月に入っての初めての休日、今日は、俺と遊びたくて、ケティも、出掛けようとはしない、
ボーゲンさんの朝飯を食った後、ちょっくら、ケティと、『星の遺跡・密林』の神殿を見てみっか、と思い、じゃ、弁当でも作っか、って考えて、
野鳥の卵と、星のソースを混ぜて、マヨネーズっぽいソースに野菜とベーコンを挟んだ、サンドイッチをケティと俺の分を沢山、用意した時、
時刻は、11時半、
ドン、ドン、
「師匠、起きてますかぁ、」
起きてるって、
ケティは、ビクッ、としたが、
「大丈夫、ハル、だ、」
ハルと言う言葉に、安心したのか、ケティは、ゴロッと、床に寝そべりながら、此方を見てる、
早く出ろ、ってか、はい、はい、
俺は、玄関に行き、戸を開けると、
「いやぁ、スグルさん、息子が大変、世話になって、」
体の大きい、髭もじゃのおっさんが、俺に抱き付いてきた、
えーと、息子って、ハルの事?
「貴方、急に、抱き付くから、スグルさん、ビックリしてますよ、」
上品な、背の高い、御婦人が、この、熊のような、おっさんを叱ってる、
「兄貴が、格好いいって言ってるから、期待してたのに、うぅぅぅ、」
直弩球な事、言う、小ちゃい、小まっしゃくれた、ハル似の女の子がいるし、
「ファルン、師匠は、格好いいんだって、」
「ファちゃん、ハルは、スグルさん信者だから、何、言っても無駄よ、」
って、おい、エミちゃんまで、いるって、一体、何が、あったんだ?
「えぇーと、ハル君の、ご両親ですよね、今日は、一体、何の御用で、此方に、・・あっ、そうか、ハル、今日は、寄宿舎に引越しか、」
ハルの両親が、顔を見合わせて、
「貴方、言ってなかったの、」
熊のようなおっさんが、頭を掻きながら、
「・・・忘れてた、」
そして、改めて、手を差し出しながら、
「私は、オルチカ・コーデル、スグルさんが、私に依頼した、寝具になる椅子を、今日は届けに来ました。」
俺も、握手をしながら、思い出した、
そうだ、先月、確かに、頼んだ、
10万RGの、
ソファベッド!
ハルも、嬉しそうに、
「今日から、寮に入る予定で、出掛けようとしたら、父が、学校の関係者に届け物が有るって言うから、聞いたら、師匠だったんで、皆で、師匠の処に来ました、」
皆で、来るって、
まぁ、今日から、固い床で寝なくて済むのは、助かるんだけど、
御婦人が、俺に手を差し伸べて、
「ハルヒメ・コーデルです、息子が大変、お世話になって、感謝しています、スグルさん、」
「いぇ、此方こそ、」
ハルのお母さんと、握手した後、チッコイのが、
「私は、ファルン・コーデル、宜しくね、」
「あぁ、宜しく、」
と、チッコイのとも、握手をした、
その後、ソファベッドが、宿舎に運ばれ、寝ているケティに、ハル、エミ、以外は驚き、俺は、リナが魔導本に加えた許可書を見せて、
ケティが、安全である事を説明し、
皆は、納得して、
配達屋が、ソファベッドを、設置した。
ハルもエミちゃんも、俺が許可書を持っている事に驚いていたが、敢えて、詳しい事を俺から、聞こうとはしなかった。
ソファベッドは、豪華な、革製で、俺が、考えた、背が倒れるって言うより、縁を触ると全体がスライドして、完全なベッドになる、ってな感じで、
本当に素晴らしい出来で、俺は、ちょっと驚いた。
オルチカ氏が、ベッドの事で、俺に説明してくれたんだが、
「生地は、丁度、上級野牛の革が入手出来たんで、其を利用し、動く仕組みは、魔導技術者として、有名な、ミゲール・トレコロフ氏に依頼して、骨格を、彼に製作して貰いました、どうです、良い動きでしょ、スグルさん、」
確かに、動きは良い、
スムーズに、ソファからベッドになるし、逆も、スムーズだ、
更に、上級野牛の革、
確か、以前、ルナちゃん達と丸焼き、食ったよな、
あの時の牛?
まさかなぁ、
「素晴らしいです、本当に、有難う御座います、コーデルさん」
俺は、素直に御礼を言った。
しかし、ミゲール・トレコロフって、確か、『お洒落亭』の親父だよなぁ、
彼奴、技術者として、有名なのか?
見えん、
でも、確かに、
便利な、親父には違い無い、
俺は、感心した。
ハルのお父ちゃんが、俺の部屋を見渡して、
「しかし、スグルさん、見たところ、家具が少ないようですけど、」
うん、家具職人からしたら、俺の部屋は、確かに、家具は少ないって言うより、無い、キッチンは、家具じゃねぇし、
「まぁ、此処は、学校から借りていて、俺は寝るだけなんで、何も要らないし、後、必要なのは、小さいテーブルだけかなぁ、と、思っています、ただ、生徒を、この部屋に招待すると、大きなテーブルが欲しいし、大きいと邪魔になるし、実は、迷ってます、」
オルチカ氏は、身を乗り出して、
「ふむふむ、大きさが変わるテーブルが欲しいと、ヤッパリ、スグルさんは変わっていらっしゃる、貴方が要望とする家具は、魔導工学技術が必要な家具だ、実に、興味深い、」
奥さんが、心配して、
「貴方、」
俺も、慌てて、
「嫌、大丈夫ですよ、そんな、不可能な物、依頼しませんから、」
奥さんは、ほっとした顔をした、
たぶん、あの表情だと、この、ソファベッド、10万じゃ、無理だったんじゃねぇのか、悪い事をしたな、
ハルのお父ちゃん、芸術家肌だから、気に入ったら、採算度外視で仕事するタイプと見た、
母ちゃん、あの父ちゃんだから、苦労してんじゃねぇの、
「でも、ママ、此は、チャンスなんだよ、こう言う、発想の家具を、我が国で、作る事が出来たら、ポワジューレのような機能だけの安い家具に、勝てるかも知れないんだ、」
へぇ、付加価値って訳だ、この熊のようなおっさんも、見掛けに寄らず、色々と考えている、
俺は、また、感心した。
しかし、これ以上、ハルのお父ちゃんと、家具の話しをしてると、たぶん、また、スグルの世界に有ったとんでもない、家具を頼んじゃいそうになりそうなので、
そうなると、ハルのお母さんが、大変だから、俺は話題を変える事にして、
「なぁ、ハル、寄宿舎の手続きは、済んだのか、」
「はい、マーキさんから、鍵も、貰いました。」
そうか、今日は、エルさんじゃ無く、マーキが出てんのか、
「じゃ、メシ、食ってかないか、今日は、出掛けるつもりで、サンドイッチを沢山、作ったんだ、」
ハルは、嬉しそうに、
「えっ、良いんですか、」
俺は、頷きながら、
「あぁ、皆さんも、一緒にどうですか、」
と、ハルのご両親、ファルンちゃんにも、勧めた、何せ、ワンパターンのサンドイッチだが、味には、自信が有る。
こうして、午後、俺は、ハルと、ハルのご両親、ファルンちゃん、ちゃっかりとエミ、そしてケティも含めて、
庭に有る、テーブルで、皆で、俺の作った、サンドイッチを食べた。
食事をしながらの、楽しい、一時が過ぎ、
ご両親も、ファルンちゃんも帰る時刻となり、
ハルのご両親は、帰る際に、ハルを頼みます、と深く、俺に頭を下げ、
俺は、一言、
「分かりました、」
と、だけ、答えた。
たぶん、ご両親は本能的に、息子が、何かとてつもない事に、挑戦している事を知ってんのかも、知れない、
そして、其に、俺が、関わっている事も、
大きな不安を、殺して、二人は、俺に頭を下げた、
頼むと、
俺は、
二人の信頼に、答える、
そう、心の中で、
彼等に、答えていた。