試練
5月2日の雷曜日、俺が、此の世界に来て41日、
今日は、第8回放課後自主講座が開催された、
守護星からの『星の慶事』を受けた、ハルの意見により、俺は、一回だけ、『星の遺跡・密林』の攻略に、『星に愛されし民』が挑戦する事を許し、
その日の、『星の遺跡・密林』は、暴風の密林、時刻は夕方、風が揺らす木々が、彼等が行く場所の足場を悪くし、更に、夜になれば、視界が悪くなり、攻略は遥かに、難しくなる。
普通だったら、中止する、しかし、今日の俺は、出来るだけ、我満して、彼等を信じようと決めていた、
其は、正しく、彼等、『星に愛されし民』の試練、
そして、俺と彼等のミーティングが終わり、彼等が椅子から立ち上がろうとした時、
ハルが、言った、
「聞いてくれ、皆、」
全員が、ハルを注視し、
「・・・恥ずかしい、話なんだけど、たぶん、此の中で、一番、体力が無いのは、僕だ、」
エミが、ハルを庇って、
「ハル、そんな事、無いよ、皆、ハルとおんなじだよ、」
ハルは、首を振りながら、
「嫌、違う、僕は、はっきり言って、『星導術』を同時に、三ヶ所使った場合、スグルさんが言う、その攻略ポイントには行けないと思う、」
ダンが、ハルの前に出て、
「ハル、君が、力、尽きた時は、私達が、君を背負ってでも、攻略ポイントに連れて行く、だから、」
ハルは、ダンの言葉を遮り、
「違うんだ、ダン、僕には、君達とは違う力が必要なんだ、其が、有れば、僕は、君達と一緒に行く事が出来る、」
ジェミは、ハルが、何を言いたいか、気付き、
「ハル、もしかして、魔石の事、」
ハルは、頷いて、
「そう、魔石は、僕の力の元になる、だから、」
オルも、気付いて、
「つまり、フォーメーションを、アンリ、ダン、そして、リア、私、エミ、ジェミ、ハルに、するって事かな、ジェミが、魔石を集めて、ハルに渡す、」
ハル、全員に、
「そう、其が、凄く、今回の挑戦では、重要なんだ、」
皆は、ハルの我儘を、我儘とは考えず、其が、重要なら、そうするべきだ、と言うような、感じで、
ダンが、全員を代表して、
「ハル、其で、行こう、今回の、挑戦のルールは、一人も落伍者を出さない事だ、其で、『王』で有る、ハルが、我等、を導けるなら、私は、賛成だ、」
オルも、
「私も、賛成だ」
ジェミが、
「僕も、良いよ、」
女子は、全員が、頷いていた、
俺も、メルティスト先生も、此の会話を黙って、聞いていた、
皆が、一見、何の力も無い、ハルを重要だと、言う、
一体、何故だ?
彼等は、チームにハルが必要だと言う、
必要、
何の為に、
チームワークか、
ハルの力とは、チームワークと関係が有るのか?
もし、そうなら、
ハルの守護星は、チームワークに関係する星、
しかし、天界にそんな、星が、有るのか?
分からない、
俺には、
『星に愛されし民』は、暴風の密林の攻略に挑戦する為に、アンリを先頭にフォーメーションを組んだ、
陣形は、密集の縦、相互間の距離はあまり取らず、先頭は、アンリ、その後ろをダン、その後ろに、左右は、『星剣』を持ったリア、とオル、その後をエミ、とジェミ、そして、最後に、『星のナイフ』を持ったハル、
ハルの、『星具』、『星のナイフ』が、一際、輝いた時、
ハルは、全員に、
『行ケ!』
その瞬間、アンリが跳躍し、ダンが、リアとオルが、そしてエミ、ジェミと続き、最後に、
風で、髪が靡き、その瞳は、透明なコールドブルーのハルが、
俺が、張った、『星隠し』の外へ、飛び出した。
勿論、俺は、『星の瞳』を使って、彼等を監視する事は出来る、しかし、今回は、沼に落ちたら、落ちた者を助ける必要が有るのと、攻略の中止を宣言する為に、
俺は、『星の遺跡・密林』の上空に飛び立ち、
そんな俺を見た、メルティスト先生は、目を丸くしていたが、何も言わず、只、心配そうに、生徒達が、進撃して行った方向を、見続けていた。
『星に愛されし民』と、魔鼠との戦いは、熾烈を極めていた、
何百と襲い掛かる、魔鼠に、アンリが、疾風のように、弾き飛ばし、飛ばされた、魔鼠を同時に、ダンが、一閃で、数十匹の魔鼠を魔石にしていった、
後ろの、リアとオルは、左右から襲い掛かる、魔鼠を撃破し、
オルは、更に、二挺拳銃のように、水弾を撃ちまくり、前方、後方へと、援護射撃で、ハルを、ダンを助け、
エミは、全員が、不利になる寸前に、数百の、魔鼠を、空中で、止め、一気に、形勢を不利から、有利に逆転し、
ジェミは、数百の魔石を受け止めては、ハルに向かって、放出し、
魔石は、数百の輝線となり、輝く、輝線は、全て、ハルの体に、吸収されていった。
ハルの髪は、靡き光り輝いていた、瞳は、更に、深みの増した、コールドブルーとなり、全身が光り輝いて見える、ハルは、
戦神のように見えた、
まるで、戦う為に、生まれた、神、
其が、
ハルチカ・コーデル
そう、思える程の、
気迫と、様相で有り、
其処に、気の優しい、
普通の少年の、ハルの姿は、
無かった。
20分が過ぎ、『星に愛されし民』の進撃が、ゴールの神殿迄、後、100メータを切った時、
彼等の疲労がピークに達した時、
魔鼠の猛攻が一瞬、止んだ瞬間、
ドバーシュ!
ズターアァシュ!
ブワーアアァッシュ!
神殿より、三体の黄金の影が、放たれた!!
えっ?
俺は、今までに無い、『星の遺跡』の反応に愕然とした。
三体のうち、アンリを狙った、黄金の影は、2メータを越える巨体に、獰猛な牙を持つ、齧歯類の頭、強靭で、靭な、長い手足に、両手に、二本の小型剣、
2刀流!
まさか!!
神殿は、対、アンリ用の、自動人形を作りやがった!
ガキ!バキッン!ガキガキ!バキバキバキ!ガッキーン!
アンリと、自動人形が、空中で交差し、双方、空中で、連撃を繰り出しながら、自動人形は、同時に回転蹴りを、アンリの腹部に撃ち込み、
バッコーォオオオンン!
吹き飛ばされた、アンリは、回転しながら、落下地点の手前の木を蹴って、沼への落下を回避しながら、自動人形と距離を取った。
対アンリ用自動人形!!
もう1つの黄金の影は、同じく、2メータを越える、頭が齧歯類で、一本の角を持ち、太く、巨大な両腕、その両手に持つ大剣を大きく、振り上げ、ダンを真っ直ぐに、狙い、
ブゥワアアアアアア!!!
豪速に振り降ろされた、大剣と、ダンの『月下の秘剣』が激突し、
ガァッキイイイインンン!
力に負けたダンは、足場の木の枝事、吹き飛ばされ、落下しながら、ぶつかる木々を抵抗とし、沼に落ちる最後の木で、ようやく、落下を食い止め、
直ぐに、ダンは、追撃を回避する為に、巨腕の自動人形から、距離を取った。
対ダン用自動人形!!
三体目の、自動人形は、2メータを越える巨体に、齧歯類の頭、頭には2本の角、その特徴は、巨大な脚、その跳躍は、一気に、『星に愛されし民』の距離を詰め、中間にいる、オルを狙って、彼に、凶器の足蹴を、食らわせようとした瞬間、
ガキン!
エミが、巨脚の自動人形を止める!
バッ!
リアが、魔導術の『力』を混ぜた、『星剣』を、自動人形に突き刺す瞬間、
バリン!
えっ!
エミの時間停止を破りやがった!
バッコーォオオオオンン!
リアと巨脚の自動人形は、激突し、かろうじて、リアの『力』が、力勝ちし、
自動人形は、後方に距離を取りながら、第二撃の体制を取った、
対エミリ用自動人形!!
その時、初めて、俺は、『星の遺跡・密林』の難易度を、見誤った事に気付いた、
ダメだ!
此の、試練は、中止!
そうしようとした時、
ハルは、叫んだ、
『止メルナ!!!!』
俺は、空中で止まり、声を出す事が出来なかった。
『星の遺跡・密林』の攻略は、第二局面となった、
第一局面の、魔鼠の乱戦から、
個々の戦いの、第二局面、この星の力の訓練所である、『星の遺跡・密林』は、
挑戦者の実力を分析し、その挑戦者の能力を上回る、自動人形を、対挑戦者用に作り、挑戦者にぶつけて来る、機能を持っていた。
はっきり言って、
俺の判断が甘かった、
仮にも、星の力の訓練所だ、単調な攻撃の仕組み、だけである分けがない、
星の戦士を育てる為の施設、甘くは無い、
今の彼等の実力じゃ、無理だ、体力が持たない、今、彼等は、『星の力』を限界迄、使っている、
たぶん、木の枝の上に立っているのも、辛い筈だ、
その状態で、自分達の力を上回る相手との戦い、
無理だ、
誰もが、そう思う筈だ、
だが、ハルは違った、
ハルは、
諦めては、いない、
その瞳は、依然、光り輝いていた!
中止の約束は、誰かが、一人でも、沼に落ちた場合、
今は、まだ、誰も、沼には落ちてはいない、
だが、
彼等の体力は、限界、
彼等は、方膝を付き、肩で息をしながら、暴風で大きく揺れる木の枝にしがみついていていて、
ハルの瞳から、耳から、一筋の血が流れ、
ハル!!!!
命を、
命を、削る気か!!!
ダメだ!ハル!!
もう、無理だ、限界だ、俺は、そう思った、
俺は、中止だ、そう決めようとした、瞬間、
気が付いた、
ハルの右胸が、
右胸が、薄く、
薄く、
光り、輝いて、
『右星の扉』!!!!
星界より、一条の限りなく、薄い輝線が、ハルの『右星の扉』に届いた、
その瞬間、
ハルは、
ハルは、
静かに、
限りなく、静かに、
呟いた、
『殺レ、』
その声を聞いたか、聞かないか、分からないが、方膝を付いて肩で息をしていたアンリが、ダンが、木の枝から立ち上がり、
ドバーシュ!!
ズターアァシュ!!
と、同時に、自動人形達が、再び二人に襲い掛かった、
えっ、
アンリが、ダンが変わった、
アンリの瞳が、薄く輝き、
紫の髪は、光りながら、靡き、
その跳躍は、遥かに早く、高く、回転、回避しながら、対アンリ用自動人形の強靭で、靭な、長い手足の両手に持つ二本の小型剣を掻い潜り、
アンリは、自動人形の後ろを取った瞬間、
グワーッシュ!!!
手を交差した瞬間、
スッパーーーンン!!
対アンリ用自動人形の首が、空を回転し、
自動人形は、
大きな、魔石になった。
ダンの瞳が、深い、エメラルドグリーンに輝いた瞬間、
ダァーーンン!!
ダンは、木の枝から高速に跳躍しながら、『月下の秘剣』を、下から構え、
その、刃の無い秘剣は、薄く、三日月型の、光り輝く刃を見せながら、
対ダン用自動人形の太く、巨大な両腕の両手に持つ大剣を大きく、振り上げ、ダンに真っ直ぐに振り下ろすより、
ズッパアアアーーーンン!!
より、早く、一閃が光り、
対ダン用自動人形は、下半身と上半身が、二つに別れ、
この、自動人形も、大きな、魔石になった。
ドッガアアアアアアンン!!!
オルは、両手を重ね、両手の人指し指が、光り輝いた瞬間、
豪音と、共に、
彼に、飛び掛かろうとしていた、対エミリ用自動人形の腹を撃ち抜いていた。