焦り
5月1日の錬曜日、俺が此の世界に来て、40日がたった。
俺は、星の導きで、バルセリア魔導高等学校の、学校作業員になった。
そして、星に託された、使命により、俺は、此の学校の学生である、『星に愛されし民』を、星の力の訓練所である、『星の遺跡』の際奥に、連れて行く事になった。
『星の遺跡・草原』で、『星具』を手に入れた、彼等は順調に『星の遺跡・草原』を攻略したが、
次の『星の遺跡』は『密林』、其処を攻略するには、『星の力』を使いこなす事と、チームワークとは何かを知る必要があった。
その為、俺は、宿舎の前の森に、ロープを張って、仮想の『密林』を作り、彼等は、天辺にいる俺に向かって、『星の力』を駆使して、登る練習を始めた。
天辺にいる俺は、更に、『星の遺跡・密林』に存在する、魔鼠を模した、数百の『星珠』を彼等にぶつける事により、彼等がロープを登る事を邪魔した、
結果、彼等は、何度挑戦しても、ロープを登り切る事は、出来ず、
彼等は、始めて、個人の限界を知り、チームとして、どうするべきかを考えるようになった。
その、考えに気付き、『星に愛されし民』に啓蒙し、導いたのは、
魔導の才能無き、不器用な秀才、
オルダス・ホールス
彼は、今日の朝、ダンとアンリと一緒に、チームとは、チーム戦とは何かを、実証し、
そして、今、『星に愛されし民』は、チームとして、俺に挑戦し、その成長を俺に、証明しようとしていた。
陣形は、密集の縦、相互間の距離はあまり取らず、先頭は、アンリ、その後ろをダン、その後ろに、左右は、木刀を持ったジェミとリア、その後を、オル、その後をエミ、そして、最後に、やはり、木刀を持ったハル、
俺は、彼等に数百の『星珠』を投げ続けた、
アンリとダンの連携は、早朝の練習で確認していたから、スムーズだったのだが、リア、ジェミ、エミ、ハルは、最初は、慣れていなかった事により、距離が近付き過ぎてぶつかりそうになったり、
離れ過ぎると、『星珠』の猛攻に合い、落下したりしていたが、
繰り返す事、数度、連携が、お互い慣れて来ると、段々、位置取り、役割の認識、『星珠』の対処等がスムーズとなり、
彼等は、徐々に、『星珠』を裁く、量、質、共に、精度が上がり、着実に、俺の元へと、登り始めた、
時刻は、夕方の5時半、『星に愛されし民』は、俺のいる場所に、後、一歩と近付いた、段階で、俺は、今日の訓練を終わる事にした。
彼等は、本当に頑張った、やはり、此の練習は体力が、相当、消耗するようで、彼等の状態を見て、俺は、今日の練習は、これ以上は、無理だと判断し、中止する事にした、
彼等、朝と同じく、大量の汗を流し、肩で息をしながら、椅子に座り、特に、ハルの疲労は酷いようで、
俺は、ハルに『星に祝福されし穀物』の御茶と、『星に祝福されし果木』を渡しながら、
「大丈夫か、ハル、」
と、聞き、ハルは、御茶と果実を受け取って、
「ハァ、ハァ、師匠、ハァ、まだ、三ヶ所の『星の力』を使う事に、ハァ、慣れて、ハァ、無くて、」
俺は、他の皆にも、御茶と、果実を勧めながら、
「大丈夫だ、だいぶ、体が、『星の力』に慣れて来てる、昨日よりも、良い感じだし、」
「そうよ、ハル君、私が見ても、モグ、モグ、昨日より、良いと思うわ、モグ、」
「有難うございます、メルティスト先生、」
・・・
何時のまにか、現れた、メルティスト先生が、ちゃかり、御茶飲んで、果実、食ってるよ、
先生、あんた、何もしてないんだから食っちゃダメ、って、俺は言わない、
言ったら、先生、バカ、バカ、連発するし、
まぁ、先生だから、
俺は、諦めている。
皆の状況を考えると、後、4~5回は、此の、『ロープの森』で、練習して、『星の力』に耐えられる、体力を付けてから、『星の遺跡・密林』の攻略に取り掛かる、べきだと、俺は思い、
「皆、食べながら、聞いてくれ、皆は、順調に成長している、俺から見て、後は、体力を付ければ、『星の遺跡・密林』を攻略出来ると思う、その体力も、たぶん、この『ロープの森』で4~5回練習を、したら、」
その時、ハルが立ち上がり、
バーン!!!
『遅イ!!!!!!!』
テーブルを叩きながら、大声で、叫んだ、
『我ラニハ、時間ガナイ、急ゲ、『星に愛されし民』!!!』
全員が、ハルを見ていた、
俺も、メルティスト先生も、ハルを見ていた、
一瞬だけ、ハルが別人のように見えた、髪は靡き、瞳は、透明なコールドブルー、
『星の慶事』!
星が、俺達に、急げと言っている、
・・・
どうする、
メルティスト先生が、怒って、
「ハルチカ・コーデル!貴方、あのような、危険な場所に、準備不足な状態で、皆に、行けって!一体!どう言う事ですか!!!」
「えっ?僕?」
メルティスト先生の、怒りに、ハルは、何時ものハルに戻った、
メルティスト先生が、怒るのは当然だ、前回、ダンが盛大に沼に突っ込んだのを見てるし、あれを、見たら、普通、誰だって、心配はする、
しかし、『星の慶事』には、意味が有るし、
・・・
俺は、先生に、
「まぁ、まぁ、先生、彼等も、かなり、頑張ったし、此処は、どうでしょう、明日の、第8回目の放課後自主講座は、一回、皆で、『星の遺跡・密林』に挑戦してみましょう、その結果で、また、『ロープの森』で、練習するかを決めても、遅くはないですよ、先生、」
先生は、暫く、俺を見詰めた後、
「生徒が、沼に落ちたら、貴方は、」
俺は、直ぐに、
「俺が、責任を持って、落ちた生徒は、助けますし、宿舎のシャワーも使って下さい、なぁ、ダン、どうだ、チャレンジしたいだろ、」
俺は、思いっきり、ダンに振った、
「えっ、スグルさん!はい!!チャレンジしたいです、私達は、前回より、絶対、成功します!!!」
ダンは、急に、振られたから、結構、滅茶苦茶な、本音を含んだお願いを、先生にして、
お願いされた、メルティスト先生は、そんな、ダンを見て、ため息を付きながら、
「分かりました、じゃ、明日、一回だけ、但し、一人でも、沼に落ちたら、その時点で、中止します、その場合、スグルさんは、絶対に生徒の安全を優先して、全員、無事に此処に、連れ戻す事を、約束して下さい!」
メルティスト先生は、教師として、生徒の安全を優先してくれと、言った、
其が、条件だと、
・・・
本当に、彼女は、立派な教師だ、
そして、俺は、彼女に対して
「分かりました、約束します、メルティスト先生、」
こうして、彼等、『星に愛されし民』は、明日、『星の遺跡・密林』に、星より託された、運命を懸けて、その攻略に挑戦する事になった。
帰り際、ハルは、俺に、
「師匠、・・・」
俺は、夜空の星を見ながら、
「分かってる、ハル、星が、お前に、告げたんだろ、」
ハルは、真剣に、
「はい、師匠、はっきりと、僕に、『急ゲ!』と、」
急げ、
今まで、頑なに、沈黙していた、ハルの守護星が、遂に、沈黙を破って、ハルに語り掛けて来た、
守護星は、急げと、ハルに言った、
急げ、
守護星は、焦っているような、気がする、
世界に、大きな、変革が迫っているのか?
「師匠?」
俺は、ハルに意識を、戻した、
「済まん、ハル、ちょっと、考えてた、なぁ、ハル、兎に角、お前の守護星が、急げと、言ったって、無理なもんは、無理だ、着実に、力を着けなくちゃ、先には、進めない、だからなぁ、俺が言える事は、」
俺は、此処で、言葉を止めた、
ハルは、その先の言葉を期待して、俺を、見ている、
ブラック企業の、体育会系じゃ有るまいし、世界が滅ぶから、死ぬ気で、やれええええ!
って、俺は、言う気は無い、
ハルの命を懸けたら、世界が救われる、たった、一人の命で、世界が救われるなら、懸けるべきだ、とは、
俺は、思わない、
世界の運命は、世界中の人々が、等しく背負う物だ、運命を一人に押し付けるのは、間違ってる、
俺は、コウイチとして、理不尽な戦争を体験し、スグルとして、理不尽な労働の世界を経験してから、
大きく、考え方を変えたような気がする、
「なぁ、ハル、星が、焦っているからと言ったって、無理なものは無理だ、だから、絶対、無理はするな、もし、お前が、命を削って、無茶しやがったら、」
ハルは、俺を見ている、
「俺は、例え世界が滅んでも、お前を止める、」
天界の星は、此の一瞬でも、美しく、光り輝いている、
ハルは、感動して、
「師匠、」
俺は、笑いながら、
「但し、その前に、俺が、世界の危機を救っちまうけどな、」
ハルも、笑顔で、
「そうですね、師匠、師匠が、僕より、先に世界を救っちゃいますよね、」
「当たり前だ、」
そうだ、
俺が、世界を救う、
只、其だけだ、
そして、5月2日の雷曜日、天気は雨、世界は何時もと変わらず、同じく、俺の仕事も、何時もと変わら無い、
今日は、スグルの世界の土曜日、午前中は学校の掃除で、一日が終わり、そして、3時に、俺の宿舎の前に、『星に愛されし民』は、集まり、
今日は、ひさしぶりの、『星の遺跡』の攻略、
俺は、間食として、黄色と青色を混ぜた、緑のソースを掛けた、カツレツのサンドイッチと、御茶を用意し、テーブルと椅子事、ジェミの『星の秘蔵庫』に仕舞って貰った。
今日の『星の遺跡・密林』は、時刻は夕暮れ、風は強く、木々は風により、大きく揺れていて、
唯でさえ、攻略が難しい、密林なのに、木が風で、大きく揺れて、木々を渡る事の難易度が、かなり上がっていた。
俺は、『星の力』を使い、半径10メータの範囲で、風が吹かないようにし、その中心に、テーブルと椅子をセットした、
全員が椅子に座った事を確認した俺は、『星に愛されし民』に、彼等に、言った、
「攻略の挑戦は、一回、ゴールは、密林の中心に有る、神殿らしき建築物にたどり着く事、ルールは、一人でも、沼に落ちたら、その時点で、中止となる、良いか、」
全員が、頷いた、
「じゃ、各自、30分、ストレッチをした後、開始とする、其と、ジェミにリア、」
シュ!!!
俺は、2本の『星剣』を作った、
一本は、細剣、フェシングの剣のような奴をリアに渡し、
もう一本は、小型の軽い、片手剣をジェミに渡しながら、
「二人は、武器となる、『星具』が無いから、此を使え、」
リアは、嬉しそうに、
「有難うございます、スグル様、」
ジェミは、えっ、ってな顔して、一応、
「済みません、スグルさん、」
と、言って、剣を受け取った。
・・・
やるの、止めるか、
各自が、立ち上がろうとした時、
ハルが、
「皆、聞いてくれ、」
そう、言って、彼は、全員を引き止め、話を始めた、