草原攻略
豪速の大剣が、アンリに降り下ろされる!
アンリは、双刀をクロスし、大剣を一瞬受けながら、
ガシッンンンンンン!!!
大剣の力を、体を崩しながら、右方向に流した、
俺は、その流れるように、相手の力を左右にもって行く、受け流しの技に、
上手い!
そう、思った。
4月25日の雷曜日
『星に愛されし民』の第5回放課後自主講座が開催された。
全員が、俺の宿舎の前に、3時半に集まり、何時ものように、ジェミが、食い物と飲み物を、彼の『星の秘蔵庫』に仕舞った後、
俺は、『星の遺跡・草原』の、最終攻略ポイントで有る、ストーンサークルに、『星の門』を開いた。
最初に、ハルと、ダン、アンリが『星の門』に入り、ハルが、『星隠し』を張る、
そして、男子、女子、メルティスト先生と、『星の門』を潜り、
最後に、俺が、ストーンサークルに入って、『星の門』を閉じる、
此も、何時もと、変わらない手順だ。
『星の遺跡・草原』のストーンサークルの状態は、前回と変わらず、中央に座っている石像が有るだけだ、
しかし、回りの景色は、すっかり変わって、草原は黄金色になり、空には、うろこ雲、
秋、秋になろうとしている、
どうも、時間軸が違うのか、其とも、此の景色も、『星の力の訓練所』として、作られた物なのか、
まぁ、俺としては、どっちでも良い、兎に角、今日か、次回、此の、『星の遺跡・草原』を攻略して、次のステージに進む、其だけだ、
俺は、皆を見ながら、
「じゃ、此から、最終試練の説明をする、俺が経験した試練と同じ仕組みなら、あの石像は、俺か、ハルの『星導術』に、反応する筈だ、」
全員が、俺を注視している、
「でだ、反応して動き出すと、結構、早い速度で、あの大剣を振って来る、勿論、君達が着ている、魔導防護服なら、大剣の攻撃も防げるし、たぶん、『星の保護』が発動するから、怪我もしない筈、」
その説明で、全員が安堵し、
俺は、話しを続ける、
「只、安全だとは言え、我々は、あの石像を攻撃して、石像を破壊しないと、此の次の『星の遺跡』には、行けない、」
ダンが不思議そうに、
「次の『星の遺跡』ですか?」
俺は、首を縦に振りながら、
「そうだ、次の遺跡だ、実は、此の遺跡は、俺とメルティスト先生が訪れた、最初の『星の遺跡』じゃ無い、此処は、二番目の遺跡なんだ。」
全員が、驚き、オルが、
「メルティスト先生、本当なんですか、」
と、メルティスト先生に聞き、彼女は、
「スグルさんの言う事は、本当、コレステリラの『星の遺跡』にも、あのような石像が有って、スグルさんが破壊したら、転移の遺物が出てきて、その遺物の力で、私とスグルさんは此処に運ばれた、って訳ね、」
ハルは、俺に、
「師匠の、『何処でも扉』と同じ物なんですか?」
うん、まぁ、ありゃ、『星の門』その物だし、
「そうだ、あれは、次の『星の遺跡』を案内する、『何処でも扉』、その物、だから、皆は、もし、石像を倒した後、遺物が現れたら、その遺物には、絶対に触らないでくれ、良いな!」
俺は、彼等に警告し、彼等は、全員が頷いた。
オルが、不思議そうに、
「しかし、なんで、スグルさんは、その最初の遺跡で、訓練を始めなかったんですか?」
俺は、首を横に振りながら、
「ありゃ、ダメだ、彼処は、観光地化してて、入るのに、一人1回、1万RGは取られる。」
リアとジェミ以外が、驚いて、
「1万RG!!」
と、大声を出し、俺はジェミが驚かなかった事で、
「ジェミ、やっぱ、お前、知ってたな。」
ジェミは、困ったなぁ、って顔して、
「スグルさん、知ってた訳じゃ、無いけど、資産家で、有名な、シュタイン・バーグ氏が、彼処に投資したって噂が有って、なんか、中古の魔導船を買って、『遺跡』への航路まで引いたらしいし、やっぱ、なんか有るなぁ、と思っていたから、」
うん?
シュタイン・バーグ?
コーネルじゃねぇのか?
「なぁ、ジェミ、彼処の村長は、コーネル・オリゴンって奴なんだけど、何か、心当たり、ねぇ?」
ジェミは、暫く考えた後、
「・・・スグルさん、コーネルって人は知りませんけど、その人と、スグルさんは何か有るんですか?」
・・・
すっげえ下品で、やな奴、って事は言えないし、なんせ、メルティスト先生の夏季自主講座は、確か、彼処に行く予定だし、
仕方ねぇ、此処は、無難な言い方すっかな、
「あぁ、コーネルは、『星の遺跡』を案内してくれた、コレステリラの村長でさぁ、彼の案内は良かったんだけど、俺とメルティスト先生、最後の石像を壊した時、突然、彼の目の前から、消えちゃったから、彼、心配してないかなぁと、思って、」
その時、メルティスト先生は、嬉そうに、
「その事なら、大丈夫、私が、彼に連絡しといたから、」
・・・
えっ!!!!!
ええええええええええええ!!
「連絡したんですか!メルティスト先生!!」
メルティスト先生は、俺に当然って顔で、
「当たり前でしょ、夏には、夏季自主講座でお世話になるのよ、連絡するわよ、」
俺は、彼女に呆れながら、聞いた、
「先生、奴、俺達がどうやって、此方に戻ったのか聞きませんでしたか?」
「勿論、聞いたわ、だから、貴方の魔導術で戻ったと言ったし、専門家として、彼処には一般人を入れてはいけないと、アドバイスもしたし、当然でしょ。」
アドバイス?
あの下品な奴に、
「で、奴は、なんて、答えたんですか?」
「ん?彼の事、彼は、普通に、分かりましたって言ったし、あの石像の事が分かったから、良かったって、御礼も言ってたわよ。」
御礼?
・・・
俺の考え過ぎか?
何か、奴には、裏が有るような気がするんだが、
奴は、金儲けの好きな、只の下品な奴、・・・なのか?
「スグルさん、其で、一体、私達は、何をしたら良いんですか?」
おっと、ダンか、話しがだいぶ、逸れちまった、
「すまん、ダン、話しを戻すと、此のストーンサークルの攻略だが、まず、フォワードのアンリ、ダンが、中に入り、石像の攻撃に備えろ、オルとエミは、後方から支援が出来るように待機、準備が出来たら、ハルがストーンサークルに入る、良いな、」
全員が、頷き、俺は、
「じゃ、何時ものように、30分のストレッチをした後、作戦に入る、各人、充分に体を、作ってくれ、以上、」
と、終わろうとしたら、ジェミが手を上げて、
「あのぅ、スグルさん、僕とリアは、何をしたら良いんですか?」
・・・
二人で、デートでもしてろ、とは言えないし、
「ジェミと、リアも、一応、何かあったら、直ぐに、交代して貰うから、一応、体は作っといてくれ、」
リアちゃんが、笑顔で、
「分かりました、スグル様、」
おっ、やっぱ、リアちゃんは、素直で、良い子だし、その点、
ジェミは、やれやれって顔しやがるし、彼奴、俺が適当に言ってる事、絶対、気付いてやがる、
今度は、絶対、持ちきれない位の荷物を持たせるからな、ジェミ、覚悟しとけよ!
と、大人気ない、俺だった。
メルティスト先生は、子供達の心配をして、俺に大丈夫かを何回も聞き、俺は、此の先に彼等を連れて行きたいので、大丈夫ですよ、何か有れば、俺が直ぐに介入しますと、繰り返し説明し、説得した。
そして、30分、動きが軽くなった、彼等は、ダン、アンリの順に、ストーンサークルに入った、
やはり、彼等二人では石像は動かなかった。
俺は、ハルに、
「ハル、彼等に分かるように、声を出して入れ、」
ハルは、頷きながら、
「はい、師匠!、では、ハルチカ!入りまーす!」
と、言いながら、一歩、ストーンサークルに足を入れた瞬間、
バシューンンンンンン!!!
早い!
『星の遺物・廃墟』の石像より、この石像の動きは、早いし、力強い!
石像は、両手の大剣を、ダンとアンリに降り下ろし、
ガシッンンンンンン!!!
アンリは、双刀で、大剣を受け流し、
バッコーォオオオオオンンン!!!
ダンは、『月下の秘剣』で大剣を受けたが、
弾き飛ばされ、転がりながら体制を立て直して、直ぐに、石像に向かった、
石像も、また直ぐに、アンリに向けて、大剣を回転させながら、降り下ろし、アンリも、無理に攻撃する事はせず、受け流す事に徹底していた、
ガシッンン!!
ガシッンン!!
ガシッンン!!
全員が、アンリの動きに見とれていた、
凄い、・・・アンリ、あの娘は、やっぱり、素人じゃねぇ、かなりの・・・達人!!
「くそっ!!!」
ダンは、二人の中に加わる事が出来ず、『月下の秘剣』を握り締めながら、吐き捨てた、
俺は、ダンにアドバイスをした、
「ダン!焦るな!動きを良く見ろ、奴が大剣を上に上げた時、その横を狙え!!」
ガシッンン!!
ガシッンン!!
ガシッンン!!
石像の連激、受け流すアンリ、
二人の闘いは硬直したと思えた、
その時、
ガキィーンン!
アンリが、一瞬、大剣を受け流す事を止め、大剣を弾こうとして、バランスを崩したように見せ掛け、
誘い!!!
グワッ!!!
掛かった!!!
石像は、両手の大剣を、降り下ろす為に、思いっきり両手を上げた瞬間、
「今だ!ダン!!」
俺は、ダンに叫び、
『殺レ!!!』
えっ?
小さな、其でいて、世界を変えるような声が、聞こえた時、
ダンは、まるで別人のような、高速の動きと、うっすらと細く、糸のように細く、三日月に輝く、『月下の秘剣』を、
横に、水平に振り!!!
ズッバアアアアアアアンンン!!!
ダンが石像の胴を、水平に、『月下の秘剣』で切り裂いた瞬間、豪音が、ストーンサークルに響き渡り、
石像は、一瞬、白く光輝いて、
ドサ!!
10センチ位の、五面体の黄金の遺物が出現した。
「触るな!」
俺は、全員に注意しながら、サークルストーンの中に落ちている、遺物を『星隠し』で包んで、手で持ち上げながら、ハルを見た、
風も無いのに、髪は靡き、右手には、白く輝く、『星のナイフ』、瞳は、透明なコールドブルー、
えっ、
俺は、一瞬、目を疑った、
誰だ?
「師匠?」
えっ?
「あっ、ハル?すまん、ハルが今、別人に見えた、・・・大丈夫か体調?」
ハルは笑顔で、
「師匠、今日は大丈夫です、其に、校医のドリアルス先生も、問題無いと言ってましたし、」
・・・
何時ものハルだ、
本当に何時ものハルだった、
わぁあああああ!!!
全員が歓声を上げ、女子はアンリを囲んではしゃぎ回り、
オルは、ダンに駆け寄り、
「やったな!ダン!!凄かった!!!」
と、お互い、握手し、肩を叩き合い、
ジェミは、ハルの側に寄って、
「攻略したね、ハル、」
ハルは、ちょっと寂しげに、
「ああ、ジェミ、でも、僕は何もしなかったし、やったのは、アンリとダンだよ、彼等の力さ。」
ジェミは、不思議そうに、
「・・・其処何だよなぁ、ハル、ハルは本当に、何もしてないの?」
「してないよ、何故だい、ジェミ?」
ジェミは、考えながら、
「何か、僕には、ハルが、本当の『王』に見えた、」
ハルは、キョトンとし、
「ジェミ、其、どう言う事?」
ジェミは、ハルを見詰めながら、
「魔導格闘技の『王』って、その団体の象徴的存在が成るべきだよね、そうなると、本来は、リアかダンだと、僕は思っていた、」
ハルは、ビックリして、
「えっ、そうなの?」
ジェミは、更に、深くハルを凝視しながら、
「ねぇ、ハル、何故、ダンは君を『王』に推薦したのか、何故、ハル、君は『王』を引き受けたのか、僕の知ってる、君なら、断ったと思うよ。」
ハルは、暫く考えて、
「ジェミ、たぶん、あの時は、団体戦の代表に決まって、皆、興奮してたから、その勢いで、『王』を決めたからじゃないかなぁ、僕としては、師匠が、他のポジションをやれって言ったら、やるつもりだし、」
ジェミは、納得したのか、
「そうだね、ポジションはスグルさんが決める事だし、僕の考え過ぎかな、」
と、二人の会話が、俺に聞こえて来た。
『王』?
そうだ、
何故、ハルが『王』に選ばれたんだ?
俺は、そんな事、考えても無かった、
ハルは、何故、『王』に選ばれたんだ?