人の価値
4月23日の磁曜日、スグルの世界で言う、木曜日、放課後自主講座、『星に愛されし民』の第4回目の活動が行われた、
目的は、魔導格闘技大会の団体戦に優勝する為、その為に、彼等は星の力の訓練所である、『星の遺跡・草原』を訪れる、
その日の、『星の遺跡・草原』は嵐、
嵐の中を、チーム、『星に愛されし民』は、襲い掛かる、数百匹の魔虫を、見違えるような動きで討伐しながら、彼等は、ゴールである、ストーンサークルに向かって爆進して行った、
そして、30分後、彼等はストーンサークルに到着するのだが、到着と同時に、ハルは意識を失った。
その事を重視した、メルティスト先生は、その日の活動を中止とし、リーダである、ダンは、先生の意見に従い、
俺も、メルティスト先生の意見には、賛同し、全員には休息を指示した後、次回、彼等が相手をする筈であろう、ストーンサークルの中央に鎮座する、石像だけを確認した。
石像は、四本の腕のうち、上の左右の手に大剣を持ち、頭は齧歯類、歯の大きなネズミのような顔だ、
もし、最初の『星の遺跡・廃墟』と同じ仕組みなら、あの石像は、『星の力』に反応する筈、となると俺か、ハルが、あのストーンサークルの中に入ったら、石像動き出すのか?
そして、あれを倒したら、次の星の力の訓練所への道、『星の門』が開くのか?
まぁ、まだまだ、分からない事は有るけど、
たぶん、明後日には、此処を攻略できるだろうし、
焦る事は無い、
攻略の方法は、先に、アンリ、とダンがストーンサークルの中に入って、石像と闘う準備をした後、
ハルがストーンの中に入る、そして、ハルの後ろには俺が立ち、状況がヤバかったら、直ぐに俺が対処すれば良い、
そう、考えながら俺は宿舎に通じる『星の門』を開き、俺達は、『星の遺跡・草原』を後にし、俺の宿舎に戻って来た。
ハルの方は、俺が作った魔の恵みの果木のフルーツサンドイッチを一個、食べただけで、完全に回復した、
本当に、俺が一日で育てた魔の恵みの果木は、半端無い果木に育った。
旨さも、半端無い旨さだし、皆も、また、食べたいと言ってる、だけど旨いと言っても、中毒性が有る分けじゃない、
瞬間的な旨さだから、直ぐに味は引く、舌にも残らないから、後に食べた物の味も、しっかりと分かる、
本当に、理想的な果木だ。
『星に祝福されし果木』
正しく、
『星に祝福』
この、果木で作ったソースは、一体、どんな効果を発揮するのか、
本当に楽しみだ。
次回の第5回放課後自主講座は25日の雷曜日に開催する、
その日は、ストーンサークルの攻略だけだから、全員が、昼食を取った後、3時半に俺の宿舎の前に集合して、ストーンサークルに直接行こう、
と、俺は、ダンに提案した、
「訓練を、やらないのですか?スグルさん!」
ダンの、疑問は尤もだ、
「ダン、もう、君達は、あの『星の遺跡・草原』での訓練は、必要無い、君達は、あの遺跡が必要とする、『星具』の初歩の使い方を、マスターしたし、」
ダンは、愕然として、
「あれで、初歩!・・・じゃ、この後、私達は、どう言う訓練をするんですか?」
俺は、頭を掻きながら、
「んーーん、まぁ、其は、雷曜日の楽しみって事で、」
まぁ、俺も知らないし、
ダンは、それ以上は、俺には何も言わなかった。
開催時刻に関しては、メルティスト先生も賛成し、結局、3時半に集合で決まった。
其と、ハルが気絶した事に対して、明日、学校医に診察を受ける事、其も、メルティスト先生からの条件だった。
こうして、その日の、放課後自主講座は終了した。
4月24日の錬曜日、俺が此の世界に来て、33日、
今日は、俺の給料日、
本来、此の国は、週給が普通なんだが、学校の仕事は、国の仕事だから、国の予算の関係で月給だと、仕事紹介場の人から説明を受けていた。
あの日から、一月が経った、その日の朝、俺は、エルさんに呼ばれ、学長室に行った、
何でも、初給料なんで、学長が直々に俺に渡したいと言ったんだとか、
俺とエルさんとで、学長室に行き、学長は、デスクの前のソファに座りながら、俺を待っていてくれた、
そして、俺が一人、学長とエルさんが座ったソファの、対面のソファに座ると、
ジェルダ学長は、一言、
「スグル君、此の、一月、本当に有難う、」
と、初めて、学長は俺に、頭を下げた。
俺は、少し、感動した、
学長は、話しを続ける、
「君が来てくれて、はっきり言って、此の学校は、大きく変わった、一月前の此の学校は、絶望しか無かった、だが、君は、一月前、此の学校に希望を運んで来てくれた。」
えっ、ちょっと大袈裟、過ぎませんか、学長!
俺、希望を運ぶコウノトリって事?
「一月前の私は、教育者としては素人だし、悩んでいた、此の学校に絶望もしていた、だが、君は、不可能な事を可能にし、そして、私達が気が付かなかった事を、教えてくれた、感謝している。」
気が付かなかった事、って、何ですか、
「学校を、愛する事だ、学校は、只の入れ物じゃ無い、其処で、多くの生徒が学び育って行く神聖な場所だ、その場所に、君は、世界の愛を持ち込んでくれた、」
・・・
世界の愛か、
成る程、星達の力は、自然界を照らす愛、夜空から世界を照らす愛、其は、人の心を動かす愛、
だから、人々は、美しき星の光りが好きだ、
「生徒も、先生達も、私も、変わった、変わったと思う、皆、此の学校を大切に思うようになった、皆、此の学校を毎日、大切にしてくれる君に感謝している、有難う。」
そう、言いながら、学長は、俺に十枚の魔導金貨を差し出した、
えっ、
十枚って、約束は7枚の筈じゃ、
此処で、エルさんが、内訳を説明してくれた、
「学長が、先生達と事務職全員に、一万RGの特別手当を、今月は支給する事を決められたんです。」
特別手当?
此は、後で聞いたんだが、今年は『学校債』が沢山売れたんだとか、だから、特別手当を出す事が出来た、
『学校債』とは、
農牧高等学校等は、生徒が作った物を売って学校の運営資金を稼ぐ事が出来るけど、
此の学校のように、売る物が無い学校は、『学校債』って物を売る、
此は、寄付を禁止している此の国で、表向きの学校の収入源になり、4月に『学校債』を販売する事によって、その販売金額で学校の年間予算が決まるんだそうだ、
まぁ、特典はたいした事は無い、学長の講演会、学校のイベントの優待券、後、学長の推薦状、まぁ、父兄向けの学長関係の特典が多数有る。
今年、沢山売れたのは、此の学校に感動した父兄が、一気に学長のファンに成ったから、らしい、其に、超金持の父兄が、沢山、購入したとか、
リアちゃんの両親?
まぁ、そんな事らしい、
で、エルさんの、説明は続く、
「えーと、一万は、『星の遺跡』の出張手当、此は、給与規則に遵守しています、残りの一万は、放課後自主講座の特別手当です、今年は、お支払が出来ますので、学長と私とで決めました。」
へぇ、
「じゃあ、メルティスト先生にも、」
エルさんは、頷きながら、
「はい、メルティスト先生、アルバート先生、フォーダン先生にも、お支払します。」
そうか、何せ、メルティスト先生も、『星の遺跡』に行った時、結構、生活、大変そうだったし、
良かった、良かった、
「で、だな、スグル君、」
ジェルダ学長が、改まって、
「私は、正式に、君を、当校の学校作業員として、採用したい、給料は、15万RG、どうだろうか、」
えっ、
俺が、驚いたので、ジェルダ学長は、慌てて、
「少ないか?」
俺は、直ぐに、
「いえ、食事も、家も支給して貰っていますから、給料は充分です、只、一月で、正式採用って事に、驚いて、俺の故郷じゃ、正式採用は結構、難しいんです、」
俺の話しを聞いた、学長とエルさんは、お互いの顔を見合わせて、安堵していた、そして、学長は、
「給料は、私とエル君で、話し合って決めた、君を正式に雇用し、永く働いて貰いたいと、要望したのは、私だ、私としては、スグル君、君は、此の学校には、必要な人材なんだ、」
必要な人材、
素晴らしい、言葉だ、
俺は、その期待に答えたい、
だが、俺にも、使命が有る、
星より、託された使命が有る、
星は、俺に言った、『星に愛されし民』を『星の遺跡』の果てに連れて行けと、
その、使命の為に、今の俺は、此の学校に居るような気がする、
その使命が達成された時、俺は再び旅立つのか?
未来は、俺にも分からない、
只、今、言える事は、
「有難う御座います、学長、その期待に答えるように、俺、頑張ります。」
と、俺は、学長に、エルさんに答えた。
ガチャン!!!
エルさんが手に持っている黒い箱が、俺の就労記録板を書き換えて、トースタの中に入っていた、パンのように、板を吐き出した、
学長も、エルさんも、ほっとしたらしく、笑顔になった、学長は、俺に手を差し出しながら、
「此からも、宜しく頼む、」
俺も、学長の手を握りながら、
「はい、学長、」
と、明るく、返事をして、
給料の、10万RGを手にし、
俺は、学長室を、後にした。
その日の夕方、俺は、給料を貰ったので、此の世界の香辛料を買う為に、市場に行った、勿論、スグルの世界で言う、ソースを作る為だ。
ソースは、此の世界にも有る、しかし、此の世界は、やはり、幼き神、『魔神の世界』だ、ソースも、やはり、木実として取れる、
ソースは数百種類の、ソースの木実と呼ばれ、俺が買った、魔の恵みの果木も、ソースの木実の一種だ。
此の世界のプロの料理人は、その幾種類かのソースの木実を組み合わせてオリジナルのソースを作るらしい、
俺は、まぁ、素人だから、俺の、魔の恵みの果木を磨り潰すか、煮て、ペースト状にするだけだが、
問題は、俺の、魔の恵みの果木が、不自然に旨すぎる、だから、ちょっと、ハーブのような葉とか、胡椒に近い物で、味を、調整しようと思い、市場に来た、
俺は、市場のおじちゃんとおばちゃん達と、楽しく会話しながら、其らしき、物と、野鳥の肉と、卵を買った。
後はソースを入れるビンと、古着の私服を買って、
俺の初給料の買い物は、終わった。