進軍
「凄い、あの子達、まるで、一昨日とは、別人のよう!」
メルティスト先生は、『星に愛されし民』達の動きが、一昨日より、洗練されている事に驚いていた、
此こそが、『星具』の力、持ち手の、潜在能力を引き上げる力、更に、彼等が持つ『星具』は、かなり高位の『星具』、
『星具』が、持ち手に要求する実力も、相当、レベルが高い筈、
『星具』を使えば、使う程、持ち手は、『星具』のレベルに、適合して行く、
正しく、『星より渡される道具』
より星に愛されたている、『星具』に選ばれた、『星に愛されし民』は、
もっと、もっと、強くなる。
と、俺は、そう思っている。
4月23日の磁曜日、俺が此の世界に来て32日、
本当に、此方に来て一月以上が経った、いろんな事があって、バルセリア魔導高等学校の学校作業員となり、
今は、メルティスト先生と一緒に、チーム、『星に愛されし民』が開催する、放課後自主講座のコーチもしている、
そして、今日は、第4回放課後自主講座の開催日、
全員が、4時に、俺の宿舎の前に集まり、俺は、何時ものように、『星の遺跡・草原』に通じる、『星の門』を開いた。
『星の遺跡・草原』
俺は、C組の皆が、次回か、その次で、此の、『星の遺跡』である、星の力の訓練所を攻略するんじゃないかと、考えている、
そう考えると、次の星の力の訓練所も、皆は『星の遺跡』だと思う、
此の『星の遺跡』、次の『星の遺跡』、その次の『星の遺跡』じゃ、どの『星の遺跡』か分かんなくなっちゃうから、
俺は、星の力の訓練所に名前を付ける事にした、
此の場所は、
『星の遺跡・草原』
俺は、そう呼ぶ事にした。
その日の『星の遺跡・草原』は、嵐、どしゃ降りの雨と暴風、環境としては最悪だった、
今回は、『星隠し』の他に、『星の力』で、雨風を、防ぎながら、俺は、今回の放課後自主講座をどうしようか、考えていた、
状況から見ても、今回の訓練は、中止しようと考えていたのだが、ダンは、魔導格闘技大会には、嵐の設定も有るかも知れないから、是非、訓練をさせてくれ、
と、俺に言い、俺は、メルティスト先生に相談した、
「ダンバード・グラスタ、一回だけです、其に、皆の体調が悪いと判断したら、即事中止です、良いですね!」
と、はっきり、ダンに言った、
ダンも、皆も了承し、30分のストレッチをした後、『星に愛されし民』の皆は、嵐の草原へ、ストーンサークルに向かって、進軍を開始した。
此の世界も、雨が降る、雨が降る事に法則性は無く、ランダムらしい、スグルの世界の気象観測も、天気予報も無いから、何時、雨が降るかは、分からない、
勿論、雨季も無い、雨は、幼き神である、『魔神』の気紛れに左右される、
で、突然、雨が降っても、魔導術が使える人は、魔導術の『力』で、雨や風を避ける、此は、この世界の魔導士が行う、魔導術の初歩中の初歩らしい、
じゃ、魔導術が使えない人は、どうするのかと、言えば、腕輪型や指輪型の雨避けの魔導機を、何時も持っているんだとか、
この『星の遺跡・草原』に入った時、吹き荒れる雨や風が俺達を中心に半径10メータの円の中に入って来ないので、メルティスト先生は、俺が、魔導術の『力』を使ったと思ったようで、その事を、俺に聞いて来た、
俺は、説明するのが、面倒なので、そうだと言ったが、厳密には違う、
『星の力』は、星々が、大自然を動かす力、風を、雨を動かす事が出来る力、
つまり、俺を中心に半径10メータの範囲で、雨は降らず、風も吹いていない、それが、星への願いにより、星が俺の為に、大自然を動かした証し、
其こそが、『星の力』
彼等は、魔導術の『力』を使い、暴風雨を防ぎながら、草原の進軍を開始した、
フォワードのダンとアンリの動きは、特に、ダンは前回とは別人のような、滑らかな、それでいて、早く、素早く、この悪条件の中を、まるで、嵐の中に吹き上がる、一陣の風のように、
魔虫を切断していった。
この光景に、驚いたのが、メルティスト先生で、俺は、ある程度、予想はしていたので、驚きはしなかったが、
ダンバード・グラスタ、
彼は、『月下の秘剣』が認めし、逸材、
その、成長は、彼の努力でも有るのかも知れないが、
彼は、たぶん、毎晩、毎日、物凄い数、あの剣を握り、振っている、
その努力の成果に、答えるのも、才能の有無が有るか無いかだ、
彼の努力に、彼の才能が答えようとしている!
ジェミも、気がついて、大声で、上がれ!上がれ!と叫んでいた、
チームが、ゴールである、ストーンサークルに向かって、ばく進している!
チームがストーンサークルに近付けば、近付く程、魔虫の数は、膨れ上がり、
アンリは、更に、剣の舞いの速度を上げ、もっと多くの魔虫を、もっともっと多く、切り裂き、
其に、呼応するかのように、ダンも、刃の無い、『月下の秘剣』で、剣舞を舞い始めた!
其は、嵐の中の、舞い!
雷光に輝き、浮かび上がる、数多の魔石!
其に、応じるかのように、オルが、『水星の片眼鏡』の水矢を撃ちまくる、
彼も、また、成長していた。
飛距離は長く、連弾が出来るようになったオルは、ダンの援護をする事により、ダンは、アンリと同数の、魔虫を撃破し、
そんな、二人の活躍でも、ストーンサークルの廻りから沸き上がる、魔虫を完全に処理する事は出来ず、
残りの魔虫は、エミが、動きを止めた瞬間、リアが、一気に魔導術の『力』で破戒していった。
エミも、また、他の皆と同様に成長していて、一昨日は、一匹ずつしか、魔虫を止める事しか、出来なかったのに、今日は、一気に十数匹、止める事が出来るようになっていた。
その横で、ジェミは、『星の秘蔵庫』を大きく展開し、魔石を集められるだけ、集めていて、
此は、俺の指示だ、
魔石には、『星の力』が秘められている、俺やハルの、『星の力』が枯渇した時、魔石は、役に立つ優れ物だ、拾わない手は無い、
俺は、ジェミに余裕が有れば、魔石を拾ってくれと言った。
そして、最後に、嵐の中を悠然と歩いて、一歩、一歩とゴールである、ストーンサークルに向かって行くのが、
ハルチカ・コーデル!
彼の右手には、嵐の中でも、一際、輝きを発している、彼の、『星より渡される道具』ある、
『星のナイフ』!!
その光景に、
俺は、
新たなる世界を、
世界を、見た!!!
まるで、ハルが、ハルが、世界の全てを背負い、全ての運命を背負い、その全てに、彼は、勝つ為に、前に歩く!
そう、思える程の、
彼の、姿、静かなる歩き、
彼は、決して叫んではいない、
彼は、沈黙し、只、前進するだけだ、
なのに、彼から、声が聞こえる、
進め!!!!!
そして、
勝て!!!!!
と、
俺は、彼等に、ハルに見とれていた、
気が付いた時には、ダンとアンリは、ストーンサークルに到着し、その後を、リア、ジェミ、エミと続き、
気が付いた俺は、急いで、彼等を、俺の『星隠し』で囲い、
俺とメルティスト先生も、彼等がいる、ストーンサークルに向かった。
彼等は、全員が、ストーンサークルを背にし、ハルを待った、
ハルは、ゆっくりと、着実に、ストーンサークルに近付き、
全員の前に立ち、
彼は、皆に、
『ヨクヤッタ』
えっ!!!
あれは、ハルの言葉なのか?
ガクッ!!!
その瞬間、ハルは、そのまんま片膝を大地に付けて、震えて、
俺は、本能が、危険だ!
と警告し、叫んでいた!!
「ジェミ!!ハルに、ハルに!魔石を、全て!ぶちまけろ!!」
ジェミは、直ぐに俺の声に反応し、何千の魔石を、ハルの上に、振り撒いた!!
ジュワアアアアアアア!!!
何千の魔石は、全て、『星の力』となり、何千翠輝線が、ハルの体に吸収された時、
ドサ、
ハルは、気を失った!
俺は、気を失った、ハルの前に、ただ、立ち尽くしていた、
ハルに、掛ける言葉は、出ず、
ただ、ただ、
一体、何なんだ!
何が、起こった!!
分からない!!!
俺は、分からない事に、
茫然とし、
ただ、『星の遺跡・草原』のストーンサークルの前で、立ち尽くしていた。
「本当に済みません、師匠、たぶん、『星隠し』を使い過ぎたのと、雨風を避けるのに『力』を使ったから、余計、疲れちゃったんだと思います。」
一瞬、気を失ったハルは、直ぐに目を覚まし、直ぐに、俺に謝って、言い訳を始めた、
そんな処は、ハルは、本当に、普通の、ちょっと気の弱い、高校生に見える、
あの時の、彼は、俺の、錯覚、
そう、思えるくらい、ハルは、何時ものハルだった。
俺は、ストーンサークルの手前で、『星の力』の雨避けを広げ、全員に休息するように、指示を出し、
メルティスト先生は、ダンに、ハルが気絶した事を重視して、今回の、放課後自主講座は、此以降は、中止する事を伝えた。
ダンは、ストーンサークルの中を、見た後、メルティスト先生に、
「分かりました。」
と、素直に答え、何か、駄々を捏ねるんじゃないかと、身構えていた、メルティスト先生を、ガッカリさせていた。
俺は、ジェミに、御茶の樽を出して貰い、御茶を柄杓で掬って、コップに注ぎ、ハルに渡した、
「ハル、悪い、本当は、たぶん、暖かい御茶の方が良いのかも知れないんだが、今は、冷たいのしか無いんだ、兎に角、少しでも良いから、飲め、たぶん、楽になる、」
此の御茶は、『星に祝福されし穀物』の御茶だ、ハルには、力となる、
ハルは、
「冷たくても、大丈夫です、師匠、ちょうど、喉が乾いているし、有難う御座います。」
真っ青な顔のハルが、弱々しく、俺に返答し、ゆっくりと御茶を口に含む、俺は、急いで、ジェミに、軽食を出すように、言い、
ジェミは直ぐに、俺が作った、サンドイッチを取り出した。
今日のサンドイッチは、魔の恵みの果木の果実を使った、フルーツサンドだ、
忙しかったので、味見もしてない、皆に、一個ずつ配り、俺とハルは二個ずつのつもりだったんだが、俺は、ハルに、三個にした、
ハルは、
「師匠、此は、」
俺は、ハルに食えと、勧めながら、
「ハル、今のお前は、其だけ食べろ、其も、必要な事だ、」
ハルは、嬉しそうに、
「有難う御座います、師匠、」
全員が、ハルと俺を見ている、そしてエミちゃんが、
「ハル、私のもいる、私、お腹空いて無いし、」
ハルは、困った顔で、
「エミ、いくら僕でも、そんなに、食べれないよ、エミ、其は、エミが食べなよ、」
「でも、」
俺は、この、可愛い恋人達に、助け船を出す事にした、
「大丈夫だ、エミちゃん、其は、俺が育てた、魔の恵みの果木の特製、フルーツサンドだ、三つ食えば、ハルは、直ぐに元気になるって、」
エミは、心配そうに、
「本当、スグルさん」
・・・
スグルさんか、俺は、
「ああ、」
と、答えた、
俺は、皆を見ながら、
「さぁ、さぁ、一個しか無いけど、俺の魔の恵みの果木の果実のフルーツサンドだ、皆、食べて、是非、感想を聞かせてくれ、」
と、言いながら、俺は、手に持つ、フルーツサンドをかじった瞬間、
えっ!!!!!!!
やべぇ!!!!!!
うめぇええええええ!
旨すぎる!!!
頬っぺたが、トロけそうだ!!!
前に、農牧高等学校で、試食した、果実は、本当に、普通の果実だった、だが、俺が育てた、魔の恵みの果木の果実は全く別物に、育ってる!
魔の恵みの果木が、『星に祝福されし穀物』として育った結果、星の加護が働いて、特別な果実が成ったって事か?
凄くねぇか、
正しく『星に祝福されし果木』
此のフルーツサンドを食べた、全員が、ドングリ眼で俺を見ていた、
メルティスト先生まで、口を開けっ放しだ、
最初に口を聞いたのは、リアだった、
「スグルさま、此の味、凄すぎます、もし、此の味が、スグルさまの、魔の恵みの果木の果実の味だったら・・・」
リアが、言葉を止め、
ジェミが、その後の言葉を引き継いで、
「つまり、スグルさん、スグルさんの魔の恵みの果木って、価値が、一千万以上、下手すると、一億以上有るって事で、凄い事でしょ、スグルさん」
・・・
一億、
俺は、人差し指を口に付けて、一言、
「内緒、!」
と、皆にお願いした。