市場
翌日の4月17日、錬曜日、スグルの世界で言う、金曜日、俺が、此の世界に来て26日、
昨日、俺は、ハルを含む、バルセリア魔導高等学校、2年C組の7人の生徒が、『星に愛されし民』である事を知った。
世界は、皮肉だ、彼等が始めた、放課後自主講座の名前も、偶然、同じ『星に愛されし民』だった、
星は、彼等に、正確には、一人を除いて、『星より渡される道具』を渡した、
何の為に、何をやらせる為に、
俺は、その夜、星に問い、星は俺に答えた、『遺跡』の、その先に行けと、
俺は、ハルも、エミちゃんも、ジェミも、ダンも、オルも、リアちゃん、アンリちゃんも、好きになっていた、
彼等に、過酷な運命を背負わせる、
俺は、少し、悩んだ、
まぁ、ほんの少しだ、
元々、ハルの訓練で、『遺跡』のその先は、行くつもりだったし、只、他の皆が、一般人で、『星に愛されし子供』じゃ無かったから、夏休みに、ハルと二人で挑戦するか、って思っていた。
単に、其が、早まっただけだ、
其に、星達が、何と言おうと、いざとなれば、俺は、彼等を救う為に、積極的に介入する、
昔の、只、星だけを信じていた、従順な俺とは違う、
自信は、有る!!!
てな、事を考えて、ぐっすりと寝た。
そして、今日、
第二回の放課後自主講座は、明日の4月18日、雷曜日に開催される、
此の学校は、雷曜日は、スグルの世界の土曜日に当たり、授業も、2時迄で、
昨日、ダンとの打ち合わせで、時間を無駄にしないように、授業が終わったら、一応、俺の宿舎に集まって、直ぐに遺跡に行き、
そして、向こうで、ミーティングをしながら、俺の作ったサンドイッチを軽く食って練習、
練習、終わって、また、サンドイッチを食って帰還、
ってな段取りになった。
まぁ、結構な量のサンドイッチを作らなくちゃいけない、たぶん20個は、必要だな、
スグルの世界だと、そんな数だと、普通は、米で作った、おにぎりってやつを用意するんだが、此方は、米が無い、そして、小麦も無いから、小麦粉が無い、
飲み物も、御茶だけだと寂しい、とは言え、スグルの世界にあった、スポーツ飲料なんて無い、と思う、
しかし、考えたら、俺、学校作業員だから、あまり、外に出ないし、買い物も、前回、エルさんと、店を回ったきりだ、
そして、今回は、ジェミが、星の秘蔵庫を持っている、無駄使いする気は無いが、多少、買っても良いんじゃね、
買い物は、給料、入ってからと思ってたけど、今日でも、買い物に行くか、
そう考えながら、学校の日課の掃除を終らせ、夕方にバルセリアの街に出掛けた、
まずは、ミゲールの『お洒落亭』だ、彼処の店で、魔導機の樽を買おうと思う、大きさは小さくても良い冷やしたジュースなんか、女の子達に喜ばれるし、他に、水を作る魔導機が有れば良い、そう思って寄った。
此れも、後で知ったんだが、ミゲールの店は、一般人に売る魔導機を販売しているんじゃなく、店舗や安宿、学校等の専門的な人達が必要な魔導機を、売る店だったらしい、
だから、エルさんは、俺に此の店を紹介してくれた、家庭用のペンキ缶を置いといたのは、補修用に、買って行く人がいるんで置いといたんだとか、
で、水を作る魔導機だけど、三脚に柱が有り、柱の高さはある程度調整が出来て、柱に水栓が付いてる、魔導機があった。
勿論、お湯は出ない、水量も少なく、シャワーとか、風呂は無理、飲料は可能で、目的は、工事中等に使う、仮設用給水施設なんだとか、
確かに、宿舎に有るのは、もっとごっつく、大きく、お湯も出るし、水量も豊富だ。
飲食店の備品として樽も、大、中、小が有り、ミゲールは、奥の倉庫から、小さい樽を持って来てくれた、
俺は、仮設の水柱と小さい樽を三つ、7万RGで買った。
ミゲールには、他の買い物が有るんで、後で取りに来ると伝え、
『お洒落亭』を出た俺は、バルセリアの中央市場に向かった。
中央市場は、バルセリア街の一番大きな市場で、沢山の食材が揃っている、何百種類の、パンの木実、何百種類の牛肉、何百種類の鶏肉、何百種類の卵、何百種類の野菜に果実、
見ているだけで、楽しい、
まぁ、無駄使いする気は無いので、野鳥の卵と、ミルクの木の樹液、油の花の果実油、砂糖草の草の粉末、あと、果物と野菜を買った。
ちなみに、塩は、赤い草、塩火草の草から取れるらしい、
ミルクは、野牛からも、取れるんだが、ミルクの木の樹液の方が、甘くて旨いし、クリームを作るのに適していると、店のおばさんに言われた。
其に、酒も、数百種類の樹液で作られていると、此の市場に、店を出している酒屋の親父が、俺に教えてくれた。
酒かぁ、俺はルナちゃんと揉めてから、一滴も口にして無い、
俺としては、酒で失敗したくは無い、今は、ハルを育てる重要な時期だ、更に、ハル以外の子供達も増えた、当分、酒は無しだ。
俺は、結局、それらの食材に3万RG使った。
沢山の食材を持って、ミゲールの店に行ったら、ミゲールは驚いて、結局、俺を魔導三輪車で送る事になった。
ミゲールは、俺を、只の、デブと思っているので、山のような荷物と、一緒に魔導機なんか、持てる分けがない、そう思ったようで、
俺も、別に、自分の事を自慢したくはないので、彼の言葉に甘えて、送って貰う事にした、
本当に、彼は良いやつだ。
宿舎に、戻ると俺は、明日の弁当の準備に取り掛かる事にした、
メニューは、カツサンドに、クリームたっぷりのフルーツサンド、
うーん、どうも、野郎ばっかりだと、ガッツリ、肉、食わしとけっ、てな感じになるんだが、
前回、エミちゃんが、フランス料理のような、食事を作った事が、俺に良い意味で、影響を与えてくれた、
なんせ、魔導オーブンコンロ迄、買っちゃったし、
俺は市場で、油の花の果実油を見つけた、その時、光一の時代のカフェで食べたカツサンドを思いだし、カツサンドを作る事にした、
油の花は、蔓状に育ち、西瓜の大きさの実を付ける、
実の、皮は薄く半透明で、中に油が沢山詰まっていてとても綺麗だ、だがこの状態では市場に出荷出来ないので、『錬』で、皮を固くするんだとか、
市場では、丸い油実をそのまんま売っていたので、そのまんま、三つ買った。
で、カツレツなんだが、
まず『星に祝福されし穀物』のパンの木実を鍋に入れ、木の棒で、パンの木実を粉状にし、小麦粉擬きとパン粉擬きを作る、
此れは、ちょっと『星の力』で、ビューン、ゴリゴリ、ゴリゴリってな感じで、粉とパン粉を作った。
カツレツの作り方は簡単だ、『アルスパイナ』の熟成した肉を、『星に祝福されし穀物』の粉をまぶし、
野鳥の卵を付けた後、『星に祝福されし穀物』のパン粉をまぶして、
油実に穴を開けて、中の油を鍋に入れて、パン粉を付けた肉を揚げ焼きにする、
カツレツは、フランス料理のコートレット(côtelette)をローマ字読みしてカツレツとなったと言われている、
元々は、仔牛肉をスライスしたものに細かいパン粉をつけてフライパンなどで炒め焼きする料理だ、
揚げた肉から、香ばしい、良い香りが立ち上がり、俺は、一切れ切って口に入れてみた、
うん!美味しい、衣のサクサク感と蕩けるような肉のコラボが抜群に良い感じ、其に、『星に祝福されし穀物』の効果もバッチリだ!!
俺は、10枚近い、カツレツを揚げて、油を切った後、パンの木実に挟み、サンドイッチのカツサンドを作った。
次にクリーム作りだ、スグルの世界でのクリーム(cream)の定義は、脂肪とたんぱく質が濃縮された、白色や薄黄色の濃厚な液体を意味する。
原則として生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去し、乳脂肪分を18.0%以上にしたものなんだそうだ、
勿論、種類は色々ある、
そして、此の世界でもクリームに、似た物は、有るようで、其が、ミルクの木の樹液らしい、
で、此の樹液を撹拌すると確かに、クリームのような、濃厚な液体になった、此の液体は、クリームと呼ばれ、シチューにも使われているそうだ。
俺は、此のクリームを冷やす為に小さい樽に入れて、一晩、寝かせる事にした、
明日、砂糖を混ぜて、固く泡立てて、ホイップクリームにし、果物と一緒に、パンの木実に挟めば、フルーツサンドが出来る、
そんな、下ごしらえをして、今日の一日が終わった。