敗者
魔導歴2035年4月16日の磁曜日、スグルの世界で言う、木曜日、俺が此の世界に来て25日、
俺は、ダンバード・グラスタをリーダとする、C組の7人が、参加する、放課後自主講座、『星に愛されし民』の為に、
『星の遺跡』に通じる、『星の門』を開いた、
開いた時間は、バルセリアの時刻で4時半、遺跡に来ると、太陽は真上に有る、正午ぐらいだ、たぶん、時差だろう。
先に『遺跡』に行ったハルは、必死に、『星隠し』を張っている。
「良し、ハル、『星隠し』を解除しろ、俺が代わる!」
瞬間、ハルの『星隠し』が消え、俺の、より大きな『星隠し』が周囲に展開された。
ハルは、方膝を付き、肩で息をしながら、額からは、滝のように、汗をかいていた、俺は、彼に声を掛けた、
「大丈夫か、ハル」
ハルは、エミちゃんが差し出した、ハンカチで、汗を拭いながら、
「はぁ、はぁ、はぁ、だ、だ、大丈夫です、師匠、ただ、思ったより、キツくて、」
俺は、担いでいる、樽を下ろし、蓋を開けて、柄杓でコップに、良く冷えた、『星に祝福されし穀物』のお茶を注いで、ハルに手渡した、
「そうか、まぁ、最初にしては、上出来だ、ゆっくりと休め、」
「ごくごく、冷た、はい、師匠、美味しい!」
もう、受け答えが、滅茶苦茶だ、
エミちゃんが、拗ねて、
「ずるーい!ハルだけ!私にも、下さい!!」
俺は、エミちゃんの怒りに、ビックリして、
「おっ、おう、有るぞ、エミちゃんの分も、」
俺は、エミちゃんにも、コップにお茶を注いで、渡した、
「すっ、済みません、スグルさん、私達にも、頂けませんか、」
汗だくで、ふらふらのダン君が、俺に、お茶を呉れと言ってきた、
「ほら、それでどうだ、魔虫は、」
彼等に、お茶を渡しながら、俺は、ダン君に情況を聞き、彼は、
「ごくごく、強い、って事は、無いんですけど、数が多くて、追い払うのが、大変で、旨い!ごくごく」
オル君も、頷きながら、旨そうに飲んでいる、
横で、ジェミが、まだ、ぴょんぴょんしている、忘れてた、
「あっ、ジェミ、そのぴょんぴょん、もう、良いから。」
先生が、ちょっと、怒ってる、
俺は、誤魔化すように、
「エミちゃん、悪いけど、先生と、リアちゃん、アンリちゃんとジェミにお茶を入れてくれる。」
「えっ、はい、」
俺は、エミちゃんに柄杓を渡し、彼等から距離をとりながら、
「魔虫は、ある程度の衝撃を受けた時、魔石になる、例えば、」
俺は、『星隠し』の一辺に穴を開けて、一匹の魔虫を、『星隠し』の中に入れた、
「スグルさん!!!」
皆は、騒然とし、ダン君が叫んだ、
「こんな感じ、」
魔虫が俺に飛び掛かって来る、
ぱしっ、
俺は、魔虫を指ではじき、
ボン!
魔虫は、魔石になった、
「ほぇ!」
「えっ!」
「わっ!」
「まぁ!」
「・・・」
「おぃ!」
「あっ!」
先生を除いて、全員が驚き、
ぱしっ、
俺は、魔石を空中でキャッチしながら、
「なっ、魔石になったろ、でだ 魔虫は、素早く、魔石にしないと、どんどん増えてきて、最後には彼等に囲まれて、ゲームエンドになる、」
ハルが、キョトンとして、
「ゲームエンド?ですか?」
「まぁ、お仕舞いって言う意味だ。」
其を聞いたダン君が、愕然として、
「お仕舞いって、私達が負けたって事ですか!」
俺は、ちょっと考えなから、
「そうだな、もし、『星の世界』の迷宮戦場が、こんな『偽りの世界』なら、魔虫が存在するだろうし、其をどう排除して、相手に近付くか、其処が重要なんだろうな、」
俺は、ダン君に、ハッキリと言った。
「たぶん、ガルホール・スターゲス、彼なら、簡単に此の草原の先に行く事が、出来んじゃないのか。」
ダン君は、悔しそうに、
「・・・そうかも、知れません、・・・だとしても、スグルさん、団体戦の代表は、私達だ!ガルホールじゃない!!だったら、私達はどうすれば良いんですか!!!」
・・・何故、ダン君は、これ程、この、魔導格闘技大会に拘るんだ?俺は、彼に聞く事にした、
「なぁ、ダン、俺は前にも言ったが、君は、少し、魔導格闘技大会の勝ち負けに拘り過ぎてないか、」
たぶん、俺以外の皆は、彼の拘りの理由を知っているのかも知れない、
ダンは、真っ直ぐ、俺を見ながら、
「スグルさんは、この国の人じゃ無いから知らないと思いますが、」
ダンは、言葉を切った、
「魔導術が全ての、この国で、魔導高等学校に進学した者が、C組に配属されると言う事は、」
ダンは、手を握り締めながら、
「才能が無いと言う、レッテルを貼られる事なんです!!!」
メルティスト先生が、気を使って、
「スグル!もう止めなさい、」
ダンが、俺に向かって叫んだ、
「だから、敗者であるC組でも、やれば出来るんだと、私は、私は証明したいんだ!!」
彼は、叫んでいた、
才能が無くても、努力すれば、何とかなると、其を、証明したいんだと、
・・・
彼の、心の叫びが、俺の胸を貫く、
敗者である、俺が、
彼に、
何を言えば、良いんだ、
かっての俺には、才能があった、だから、才能の無い人の気持ちは、分からなかった、
才能が無いのが、悪い、そう思っていた、
だが、才能の無い、多くの人生を経験した、今の俺には、分かる、
努力では、どうにも成らない、世界が有る事を、
だから、俺は、どの世界でも、敗者だった、
リアちゃん以外の皆が、下を見ている、
此じゃ、俺は、悪役だ、正に、遇者だ、
俺は、ため息を付きながら、
「一月、此処で、練習をする事で、たぶん、慣れてくるから、良い結果には、なるんじゃないか。」
俺は、彼等に、努力で何とかなるとは言えないし、約束も出来ない、だから、言葉は濁り、曖昧となる。
メルティスト先生が、その情況を変えようと、明るく、
「さぁ、皆、残り時間も、少ないし、少しでも、練習しましょ、でっ、スグル、どうするの、」
結局、俺に丸投げである、
俺は、皆を見ながら、
「勝つ為には、戦略が大事だ、その戦略に添って、練習しないと、上手くいかない。」
此れは、正しい、何故なら、集団の戦いは、個の才能には頼らないのが基本だからだ、
例えば、スグルの世界のスポーツ、ベースボールで有名な話しが、全員が、才能の有るホームランバッタだけでは、試合に勝てないと言う、
同じバッタが続くと、読みやすく、対策が立てやすい、だから、いろんな才能の有る選手が必要な事は、多くの人が知っている、
勿論、才能は、無いよりは、あった方が良い、しかし、集団競技の場合は、才能の無い、選手も使わなければならない、
だから、戦略が重要になってくる。
「最初に断っておくが、俺はアルバート先生のように、魔導格闘技の専門家じゃ無い、だから、俺の戦略は、あくまでも、俺の国の戦い方をもとにした、戦略だ、良いな。」
全員が首を縦に振る。
「まず、部隊を三つに分ける、攻撃チーム、このチームの名称を、フォワードと呼ぶ、」
「次に、攻撃と守備を兼ねたチーム、位置は、攻撃と守備の中間に配置し、情況により、前後に動く、このチームの名称は、ミッドフィールダーと呼ぶ、」
俺は、此処で皆の表情を確認した、全員が真剣に聞いている、
「最後に、『王』を守る、チーム、名称を、ディフェンダーとする。」
魔導格闘技も、一種のスポーツだ、成ば、スグルの世界のスポーツの戦略を持って来ても、良いんじゃね、
俺は、戦略競技として、有名なサッカって言う、スポーツの仕組みを取り入れる事にした。
サッカは、11人でするスポーツだが、魔導格闘技の団体戦は、人数的には、5人のフットサルに近い、だがフィールドの広さはサッカに匹敵する、だから、サッカの方が良いと、俺は思った。
取り合えず、フォワードを、ダンとオル、ミッドフィルダーをジェミ、アンリ、ディフェンダーをリア、エミにして、試す事にした、上手く行かなければ、変えれば良い、
『星隠し』の中で、其々の配置を確認した後、俺は、スタートと言って、『星隠し』を、俺とメルティスト先生の回りだけにした。
まず、フォワードのダンとオルが先に進む、しかし、ある程度進むと、魔虫の攻撃が激しくなってその先に進めない、
で、結局、ミッドフィルダーにも魔虫が、集まって、同じ事になる、但し、アンリは上手く魔虫を捌いて、10回に1回は魔石にしている、
先に、進めず、段々、魔虫に押されて、ついに、『王』のハルの処にも、魔虫がきて、
ハルが、堪らず、『星の力』を使った瞬間、
数百の魔虫が、突如、出現し、ハルは魔虫の山の中に沈んだ。
俺は、その状態で、ハルに群がる魔虫を駆除し、全員に戻るように、指示を出した。
はっきり、言って、練習にもならなかった。
圧倒的に、火力不足だ、
俺は、魔導術の事は知らない、だが、魔導格闘技大会では3年生のA組の生徒は、明らかに、身体強化の魔導術を使っていた、
その差が、歴然としている、
俺は、メルティスト先生に聞いてみた、
「先生、やっぱり、その、魔導格闘技を教えてくれる人、呼んだ方がいいんじゃないんですか、」
先生は、俺を見ながら、
「誰を、呼ぶの?」
俺は、先生に、期待を込めた言い方で、
「先生の知り合いとか、」
先生は、俺に冷たい目で、
「居ないわよ、私、このバルセリアに来て、20日も経ってないのよ、居るわけないでしょ!」
ですよねぇー、ちなみに、俺も、まだ25日です、一月も経ってません。
まぁ、先生の問題は、後で、何とかするとして、
問題は、ハルだ、
もっと、効率良く、戦わなくちゃ、魔虫を処理出来ない、
うーん、仕方ねぇ、
あれ、教えっか、
ハルは、またキョトンとして、
「武器ですか?」
「そうだ武器を、『星より渡される道具』で作る、」
ハルは、驚いて、
「『星より渡される道具』!」
俺は、頷きながら、
「此が『星具』だ、」
バシュ!!!
俺は、手に星剣を作り、ハルに見せる、
「星の力を使って作られる武器で、ハルは『星の力』が少ないから、もう少し後で、教えようと、思ってたんだが、やってみるか。」
ハルは、嬉しそうに、
「はい!!」
他の皆が、此方を見ている、
俺は、彼等を気にせず、
「良いか、ハル、星が、ハルに託した力の他に、もう1つ『星具』が必ず有る、自分の心の奥底の中に、仕舞って有る筈だ、目を閉じて、思うんだ、『星具』を、」
ハルは、目を閉じた、
「全身の星の力を、手に集めながら、本能のままに、思い付く、『星具』を想像してみろ!」
ハルは、呟く、
「・・・本能のままに、」
ハルの手が、少しずつ、光り始め、
シュワアアアアア!!!!
ゆっくりと、小さな、光り輝く、ナイフが、ハルの手に置かれていた。
ハルは、右手に、『星のナイフ』を握り、左手で汗を拭い、嬉しそうに、
「師匠!出来ました!!」
俺も、笑顔で、
「やったな!ハル、」
その時、ジェミが、
「あの、スグルさん、」
なんだ、俺はジェミの方に、振り向いた、
彼は、右手を掲げながら、俺に右手を見せた、
その右手の、人指し指には、白く光り輝く指環が、
「あのうー、スグルさん、僕も出来た。」
えっ?
えええええええええええええ!!!