遺跡再び
俺は、ミゲール・トレコロフが店主である、魔導機屋、『お洒落亭』で、魔導オーブンコンロを買った。
そして、俺は、この魔導オーブンコンロで、『アルスパイナ』の肉を、『星に祝福されし穀物』の小枝を使って燻製にしてみようと思った。
燻製にもいろいろ有るのだが、俺が、今回するのは温燻と呼ばれる最も一般的な燻煙法で、60°Cほどの煙でいぶす。
魔導コンロの右のオーブンに、網棚を取り付け、上段に、倉庫に保存している、5日以上塩付けにした肉を置き、下に『星に祝福されし穀物』の小枝を入れる。
燻煙時間は、1日程度、
勿論、煙は庫内に充満するが外には出ない、魔導機が、有る程度の煙が充満すると処理する、
ミゲールが俺に、煙の量を0から庫内の100倍迄調整出来ると教えてくれた、
味に関係するから、取り合えず10倍に設定した。
この温燻は長時間比較的高温でいぶすために、肉の水分が減少し、ベーコン、スモーク・ジャーキー等の保存食を作る事が出来る。
そして、次の日の朝、オーブンを開けると、『星に祝福されし穀物』の良い香りと、表面が茶色く固くなった、ベーコンが出来上がっていた、
うん、旨そうな香りがする、
俺は、試しに、一切れ、切って、口に入れた。
その瞬間、俺の体に、『星の力』が満ち溢れた!
凄い、ただ、単に、普通に肉を食うよりも、数倍の力を感じる、此れが、『星に祝福されし穀物』で、加工された食品の力!
俺の狙いは、正しかった。
俺は、肉にも、『星に祝福されし穀物』の力を染み込ませたかった、
その方法は、いろいろ有ると思っていたが、
魔導オーブンコンロを購入した時、真っ先に思い付いたのが、燻製だった。
試食すると、今回は、香り的には、ちょっと薄い、もう少し、煙の濃度を上げても、良い気がする、
後は、少し、塩の味がきついから、次回は、塩抜きと、塩漬けじゃない肉も試してみたい、
うん、いろいろな事が出来そうだ、
俺に、また一つ、楽しみが広がった。
今回は、此の肉を厚めに切って、表面を軽く焼いたベーコンと、『星に祝福されし穀物』の野菜を挟んだ、サンドイッチを、9人分と他に6つ、合計15個、作った。
たぶん、此の、『星に祝福されし食物』の恩恵を受けるのは、俺とハルだけかも知れない、
其でも、良い、
俺が作ったベーコンを皆に、食べて貰いたい、
俺は、そんな、フードクリエイターみたいな、そんな気持ちになって、
ちょっと、嬉しかった。
魔導歴2035年4月16日の磁曜日
俺が此の世界に来て、25日、
その日は、日課の、掃除をして、ちょっと壊れた、学校の備品の修理、学校の庭の手入れ等で、一日が終わり、
昼に、昨日、作った、サンドイッチを一個、更に、3時に一個食べて、俺の体に、『星の力』を充満させて、
放課後の4時に、ハルを含めて、C組の皆が来るのを待っていた。
4時30分には、彼等は、俺の宿舎の前に、皆、魔導防護服を着て、集まった。
勿論、魔導格闘技大会で使った物で、ハルは、黒と赤、エミちゃんのは、白とピンク、リアちゃんは白と黄色、アンリちゃんは、白と紫、ダン君は、白と黒、オル君は白と緑、ジェミは、白と青、そして、メルティスト先生は赤紫に銀、
へぇ、先生、結構、スタイル良いんだ、俺は、ちょっと感心した。
「バカ、スグル!ちょっと、あんた、変な事、今、考えなかった!」
先生は、俺の表情で、俺の考えている事に気付き、真っ赤な顔で、文句を言ってきた、
いかん、いかん、
コホン、
俺は、誤魔化すように、
「えー、じゃあ、諸君、皆が、集まったので、此れより、『星に愛されし民』の第一回、遺跡探索、放課後自主講座を開催します。」
と、言った瞬間、
俺は、右手を水平に出し、
『星の門よ!開け!!』と、唱えた、
俺の右手の指先から、翠光が広がり、
その、翠光は俺達が通れる大きさ、横90センチ、縦2メータで止まった。
ふぅ、
よし、此れで、二層めの『遺跡』と繋がった、
やっぱ、俺の『星の力』が、ごっそりと、『門』に持っていかれた。
「わあああああああ!!!」
皆の喝采が、聞こえる、
俺は、額の汗を拭いながら、ハルを、エミちゃんを、ダン君を、皆を見る、皆、期待に満ちた顔をしている、
メルティスト先生も、手を胸に当てて、嬉そうだ。
さてと、俺は、ハルを呼んで、
「ハル、俺が先に『何処でも扉』に入ったら、皆が不安がるから、お前が、先に入るんだ、入ったら、直ぐに、『星隠し』を張れ、出来るよな、ハル」
ハルは、真面目な顔で、
「出来ます!師匠!!」
ハルは、俺の期待に応えようと、真っ直ぐに、俺を見詰めている。
ハルは、俺に内緒で、こっそりと、かなり、練習をしていた、たぶん、大丈夫だろう、
俺は、前回のメルティスト先生の事が有るので、慎重に行動している、
「で、ハル、俺の、感じじゃ、向こうは、安全だと感じるんだが、危険を察したら直ぐに戻れ、良いな、」
ハルは真剣に、
「分かりました、師匠!」
と、元気に返事をした。
あと、俺は、ダン君とオル君を呼んで、
「ダン君とオル君は、ハルの護衛だ、魔導術の『力』を発動させてくれ、」
オル君が、俺に、
「随分、慎重なんですね、スグルさん」
俺は、真面目に、
「ああ、一応、向こうには、魔虫がいる、たぶん、ハルなら、大丈夫だが、君達が魔導術で護衛してくれるなら、もっと安全だと思う、頼む、ダン君、オル君。」
ダン君は、頼むって言葉に、反応して、
「止して下さい!スグルさん!!スグルさんに無理言って、『星の遺跡』に連れてって、て言ってるの、私達ですよ!私が、皆の安全を、命に賭けて守ります!!」
えっ、そうなの、いや、そんな、大袈裟な事じゃ無いんだけど、
オル君が、ダン君のこの大袈裟な言い回しに、苦笑している。
さてと、ジェミだ、
「次はジェミ、お前だ、」
「えっ、スグルさん?」
ジェミオが、キョトンとしている、
俺は、ちょっとコイツに腹を立てている、
「ジェミ、お前は、彼等の後に続け、そして、ハルが安全だと確認したら、向こうで、ぴょんぴょんしながら、大きく両手で、頭の上で、輪を作れ。」
ジェミを考えながら、
「輪、ですか?」
俺は、頷きながら、
「そうだ、輪だ、駄目なら、両手でバツを作れ、お前の合図で、女子達を、『何処でも扉』に入れるかを決める、良いな、分かったな。」
ジェミは、頷きながら、
「分かった、スグルさん」
俺は、真面目に言っている、安全確認、その伝達、その情報の真偽の判断、情報が正しくなかったら、部隊は全滅する、だからこそ、情報の大切さを良く知ってる、ジェミに伝達を任せる、
但し、ぴょんぴょんは、俺の細やかな嫌がらせだ、別にしなくても良い、
「ハル、お前も、『星隠し』で、周辺を確認し、安全だと、思ったら、ジェミに知らせろ、良いな。」
ハルは、真剣に、
「はい、師匠!」
俺は、再度、頷きながら、
「良し、此れが、『偵察』フォーメーションの基本だ、ハル、ダン君、オル君、ジェミ、まずは、このフォーメーションの連携を、覚えろ!」
男子、全員が、大きな声で、
「はい!!!!」
俺は、付け加える、
「返事は、『了解』だ!」
男子、全員が、再び、
「了解!!!」
と、大きな声で、言った。
俺の横にいるメルティスト先生が、小さな声で、確認するように、
「スグル・・・あなた、軍隊にいたの?」
俺は、その問いには、答えなかった、
勿論、スグルの世界では、しがない、サラリーマンだった、
しかし、敗北者だったとは言え、光一の世界では、本当の戦争を経験した、
そんな事を、先生には、説明、出来ない、だから、俺は沈黙する事にした。
実際、俺は、『星の門』の先を、『星の瞳』で、確認している、
向こうは、前と同じ草原の遺跡で、自動人形のバッタ型魔虫が、数十匹、跳び跳ねているだけだ、
ハル達が着ている魔導防護服なら、何の問題も無い、
前回は、魔導防護服が本当に安物だった。
ただ、遺跡は、『星の力の訓練所』だ、遊び気分や、観光目的では危険過ぎる、だから、俺は、彼等に厳しくする、
其が、ハルを鍛える事になるし、彼等が臨む、魔導格闘技の訓練にも、なるはずだ。
俺は、そう思って、ハルに言う、
「良し、ハル、行け!」
「はい!!!」
『星隠し』を身に纏ったハルチカ・コーデルが、元気良く、『星の門』に飛び込んで行く、
次に、魔導術の『力』を展開した、ダンバード・グラスタと、オルダス・ホールスが続く、
そして、最後に、ジェミオ・バレットスが、『門』に入った。
残された、全員に緊張が走る、
俺は、『星の瞳』で、『門』に入った、全員の行動を監視している、
ハルは、『星隠し』を広げようと、必死になっている、その回りを、襲い掛かる、バッタ型の魔虫を、ダン君とオル君が、追い払っている、
その後ろで、情況を冷静に、観察するジェミ、
うん、良い感じだ。
そして、待つ事、5分、
ジェミオ・バレットスが、『門』の向こう側で、ぴょんぴょんしながら、大きく、両手で円を作っていた。
「わぁあああ!!!」
女の子達から、歓声が上がる。
メルティスト先生が、俺に、
「ねぇ、スグル、あのぴょんぴょんに、何か意味が有るの?」
俺は、普通に、
「別に、有りませんよ、ただ、俺が、ジェミのぴょんぴょんを見たかっただけです。」
と言ったら、先生、すっげぇ、軽蔑の目で見ていた、
此れで、ちょっとすっきりした俺は、
「じゃ、次は女子!『何処でも扉』の向こう側に行って良し!まず、エミ、リア、アンリ、先生の順だ、最後に俺が入って、扉を閉める。」
そう、俺が言ったら、エミちゃんが、『門』に飛び込み、リア、アンリ、先生と続き、
最後に、『星に祝福されし穀物』のお茶を入れた樽と、柄杓とコップ、そして俺が作った、ベーコンのサンドイッチを入れた荷物を、担いで、
俺は、『星の門』を潜り、
そして、『門』を閉じた。