メルティスト・ブーレンダ
「メル、おめでとう、正式に、君に決まった。」
一つ月前、私は上司の学年主任から、ウェルド公国への、交換派遣教師に決まった事を知らされた。
交換派遣教師制度、
元々は、国費で、未来有る学生達に、若いうちに、他の国に行ってもらい、その見識を広げようと、各国の教育界の偉い人達が決めた、
交換留学制度の先生版、
此の制度は、先生達にも人気が有り、上手く行くと、3年間の休暇のような状況になる事も有ると聞く、
私は、毎年、この交換派遣教師制度に応募しては、落選していた。
そして、私は、今年、初めて、この制度で、派遣教師として、採用された事を、知らされた、
派遣先は、
ウェルド公国の東の田舎街、
バルセリア、
バルセリア魔導高等学校
私の名前は、
メルティスト・ブーレンダ
親しい友達は、私の事をメルと呼ぶ、
私は、自由都市同盟の南西にある、小さな島、コールダーレに生まれ育った。
小さな島だから、産業も少く、両親は共に働く事で、普通に暮らしていけるような、そんな、決して豊かな家庭では無かったけど、貧乏ではない、本当に普通の家庭だった。
そんな、私を育ててくれたのが、私の祖母、アリティーストだった。
祖母、アリは、私に、多くの神話を語って聞かせてくれた。
私は、祖母が語る、その神話が大好きだった。
遇者、コーリン・オーウェル、
三人の女神と百の軍神の伝説、
星が輝く幻の都、
美しい姫と英雄のロマンス
私は、多くの、神話を聞いて育ち、海辺の夜空の星々を眺めては、その数多の神話の世界に、心を踊らされる、
そう言う幼年時代を経て、
私は、大人になった。
大人になり、私が学生になると、世界は二千年前の魔導暦が始まった時代しか記録が無い事を知った。
二千年以降は、魔導歴史学、二千年前は、魔導考古学に分類され、魔導考古学の専門家は少く、殆どの学校では、魔導歴史学の先生が魔導考古学を教えていた。
教える事は、古代国家、『星の六大国』の話し、月、火、水、木、金、土の六大国が有り、その六大国が滅んだ事、
神話では、その世界は、『星の力』により統治されていた、と言われている。
その神話が有るからこそ、今でも、この魔導の世界の人々は、『星に願い』をする、
仮令その願いが叶わなくても、
特に、有名な神話が、月の星国の姫君と英雄の物語。
私は、『星の六大国』に憧れて、魔導考古学の道を選んだ。
勿論、将来性が無いので、学部に通う学費が安いのも、理由だ。
ウェルド公国と違って、此の国は学費が有料の為、私は、遺跡発掘の仕事をしながら、学校に通った。
自由都市同盟の島国の中には、古い地層から、『星の六大国』の遺跡が、出る事が有り、その遺跡品は高値で取引される為、
遺跡が見つかると、発掘隊が組織されて、大々的に発掘を始める、勿論、高い賃金が支払われるので、大勢の作業員が来る。
私達の仕事は、その発掘品を鑑定して、オーナに渡す事、時に、作業員が盗まないように監視する事だった。
遺跡は、土の中だけに有る分けではなく、地上にも多数存在する、しかし、其は、『守り人』の民が守って調査が出来ないのが現実で、
また、魔導考古学の学界は、小規模な為、国や政治家を動かす事も出来ず、只、その遺跡を外から見る事しか出来なかった、
今までは、
大学を卒業した私は、自由都市同盟の、西の都市、アーレンバールで、魔導歴史学と魔導考古学の非常勤講師と遺跡の発掘調査の掛け持ちをしながら、3年間、国中を廻り、
やがて、思いは、外の国に迄、広がるようになった。
もっと、『星の国』の事を知りたい、『星の世界』を知りたいと、
だから、私は、交換派遣教師制度に毎年応募し、その度に、落選の通知を受け取り、
3年の歳月が過ぎた、28歳、廻りの友達は、結婚し、子供が出来ている年齢になった時、
2035年の2月末日、4月から、交換派遣教師として、バルセリアの魔導高等学校に勤務する事を、知らされた。
3月30日、バルセリア街の安宿に一泊した後、翌日の31日の火曜日に、4月1日の入学式の打ち合わせの為、バルセリア魔導高等学校を訪れ、
その校舎に入った瞬間、
故郷の、自由都市同盟の、コールダーレの波打つ海岸が目の前に、広がる!
そんな、錯覚を起こす程、
バルセリア魔導高等学校は美しい学校だった。
其に、僅かだけど、『星の遺跡』と同じような匂い、
学校事務員長の、エルデシィア・ガーランドが言うには、此の学校を、美しく、綺麗にしたのは、一週間前に採用した、素敵な学校作業員だと、言い、
その時、その学校作業員の事を、此の学校の先生達でさえ誰も知らないから、皆が紹介してくれと、大騒ぎをしていた。
そして、エルデシィアが連れてきた、学校作業員は、
全然つまらない、ただの、本当に普通の小太りした、男だった。
名前は、『スグル・オオエ』
直ぐに、私も含めて、皆、彼の事に興味を失い、自分達のするべき仕事に取り掛かり始めた。
今年は、此の国に派遣された3名の教師、全員が此のバルセリア魔導高等学校で、更に、留学生迄、全員が此の学校だとエルデシィアは、私達に話し、
その理由が、実は、留学生や派遣教師を受け入れると国からの補助金が学校に出て、その補助金を当てにしなくちゃいけない程、此の学校の経営が、厳しい事を遠回しに、私達に伝えた。
エルデシィアは、派遣教師である私達に、此の国の学校制度の一つ、夏季自主講座の説明をし、もし、企画が有るなら、来月中に企画書を、此の国の教魔省に提出してくれと言った。
他の派遣教師の北方共和国連合から来た、アルバート・ザッカーノは、夏期は魔導格闘技大会有ると言い、ポワジューレ共和国のフォーダン・ラデコスタは家庭教師が有ると言っていた。
魔導格闘技大会?
家庭教師?
二人共、既に予定が有るようだ、
じゃ、私は、
学校には、私達、教師の為にも寮が有り、私とアルバート先生は寮に入った、フォーダン先生は、一軒家を借りたそうだ、
次の日の4月1日、力曜日の朝、魔導新聞を読んでいた、私に、一つの広告が目に飛び込んで来た、
『コレステリラ 星の遺跡の観光ツーア』
えっ!!!
コレステリラと言えば、ウェルド公国では有名な北の『星の遺跡』!!!
其が、一般公開!!!
専用の魔導船、運用開始!!!
遺跡の中も公開!!!
私は、その広告に目が釘付けになった、
本当なのだろか?
本当だったら、凄い事だ!!!
その日の私は、入学式処では無かった、式が終わると直ぐに、コレステリラの村長に魔導通信で話しを聞き、
彼が、私に会いたいと言うので、私は、4月12日の光曜日に現地で会う約束をした。
4月6日、闇曜日に、私は、コレステリラの『星の遺跡』調査を夏季自主講座にする、企画書の概案を作成し、ジェルダ学長に提出した、
学長は、4月8日の力曜日に開催する、魔導格闘技大会の準備で忙しく、簡単に治安の問題で、反対である事を、私に告げた。
私が、反論しようとすると、
兎に角、大会が終わったら、話し合おうと私に言った。
4月9日の磁曜日、私と、ジェルダ学長は、『星の遺跡』の夏季自主講座に対して、話し合った、勿論、学長の許可が下りてない、夏季自主講座は開催出来ないし、教魔省にも申請出来ない。
学長が心配するのは、学生の安全、コレステリラ周辺は治安が悪く、村どうしの争いが有ったり、山賊が出たり、凄く評判が悪かった、
私は、4月12日の光曜日に現地に言って、安全を確かめると学長を説得しようとしたが、私の下見にも許可を下ろして貰えず、
結局、次の日、エルさんから、条件付きで下見の許可が下りた事を知らされた。
条件は、
学校作業員
あの、小太り?
確か、名前はスグル・オオエ、
彼が、同行すれば良いのか?
私は、直ぐに、彼がいる寄宿舎に行った、しかし、彼の寄宿舎は見付からなかった。
次の日、エルさんに、お願いして、学校作業員の処へ、案内して貰い、そして、私は、驚いた、昨日は何も無かった場所に、白い寄宿舎があり、
中から、あの小太りの男が、ノンビリと、出てきた、
何なんだ!こいつは!!
私は、こいつに、無性に腹がたった!!
こいつ、確か、名前はスグルだった、こいつに、『星の遺跡』に一緒に行くんだと言ったら、
こいつ、すっーごーく、驚いた後、
「しかし、エルさん、『星の遺跡』って、最短の往復で12日、掛かるんでしょ、12日も、此の学校に俺が居なくて大丈夫なんですか、掃除とかいろいろ、」
私は呆れた、そんな時間を掛けて行くわきゃねーだろがぁあ!
「何言ってんのよ!『魔導船』で行くのよ!!」
奴は!
「バカがあれ?」
バカは、お前だ!!
「バルガアーレ!『魔導船』の事よ!!」
そしたら、此の、バカ!!
「軍艦で行くんですか?」
アホーオオオオオオオオ!!
「あんた、バカ!軍艦で行くわけ無いでしょ、民間船よ!」
スグルは、少し、状況を理解したのか、今度は旅費の心配を始めた。
当然、学校作業員だから、給金も安いし、お金にはガメツイ筈だし、
私は、彼を安心させる為に、
「大丈夫よ、私の『夏季自主講座』の募集が始まれば、直ぐに、貴方に払ってあげるから、安心して。」
そしたら、コイツは!!
「サルがどこに行くぜ?」
私を、おちょくってんのか!!!
「サァルドコーゼ! 夏季自主講座よ、あんた、本当にバカ?!!」
こいつを、相手にするのは、疲れる!
私は、スグルを急かして、魔導汽車に乗り、魔導船発着場に向かった。
驚いた事に、奴は、最新のポワジューレ製の魔導本を持って、其で支払をしていた!
私が、驚いた表情を見せると、癪なので、私は必死に表情を変えないように堪えた。
来週には、学長の承認を貰える企画書を作成し、此の国の教魔省に提出しなくては、ならない。
私には、時間が無い!
私は、『魔導船』に乗ると、直ぐに仕事に取り掛かり、
気が付くと、隣には、スグルはいない?
展望室か?
スグルは、何をしているんだ?
私は、彼の事が気になって、展望室に行ってみたら、
えっ!!!!!
信じらんないーっ!!!
奴は、一人で、でっかい口を開けて、サンドイッチを喰おうとしていた!!!
私だって、女だよ!!!
普通、声、掛けるよね!!!
一緒に食べようって、言うよね!!!
私は、スグルを、思いっきり、怒鳴った!!!
「あんた、バカ!何、一人で食べようとしてんのよ!!」
スグルは、私が、ボッチで一人に、なるのが好きで、仕事をしていたなんて知らなかったと、私に謝った。
彼が、言うには、自分は遥か東の辺境の国の出身で、この国には20日前に来たばかりだから、自分は知らない事が沢山あるんだと、
・・・確かに、スグルは、本当に無知のような気がする、
私は、彼と、食事をしながら、沢山の事を、彼に教えた、
彼は、時々、つまらない冗談を言い、私は、そう言う会話に慣れていないので、つい、彼に、バカ、バカと言ってしまう、
・・・本当は、面白く無くても、笑うべきなのだろうか?
・・・分からない、
だけど、
彼は、私の話しを嬉そうに聞いてくれた、
彼は、『星の遺跡』、星の時代の話しを熱心に聞いてくれた、
外が、夜になり、天空に星が輝き始める、その美しい世界を見た私が、
星が、輝いていた、世界に憧れていると、
その世界の事を、沢山知りたいんだと、
だから、失われた星の世界、魔導と星が重なった世界、を知る為に、
魔導考古学の道を選んだと、
私が、呟いた時、
彼の、
彼の、濃い群青色の瞳は、
深い、悲しみに溢れていた。
彼は、
今にも、泣きそうな、
表情で、
私を、
見続けていた。