ルナリィア・ウェルド
その日、執政官であり、私の姉であり、公王の長女のマシリィア・ウェルド、マリー姉さんから緊急連絡が入り、直ぐに東の地へ向かえと言われた。
私の名前は、ルナリィア・ウェルド、皆は私の事をルーナと呼ぶ、一応、公王の次女だ。
私は小さい頃から、姉や妹と違い、男の子のように活発で行動派だった、だから、進学も防魔大学防衛学部に進学し、
其処を首席で卒業すると、公王の関係者が防魔省に関わっては、近隣諸国が気にすると言う、参謀官達の進言で、卒業後の進路が国内治安維持の魔導省勤務となった。
父は私の性格を知っている為、私を魔導省飛翔騎士団の問題児部隊、『星翔部隊』の隊長にした。
其処には、新任隊長と喧嘩しては隊長を病院送りにする問題児、ジュピーリーナ・グラシウスがいた。
彼女の愛称はリナ、と呼ばれていて、身長は百八十前後、赤茶の長い髪を後ろで結んでポニーテールにした、瞳の色は緑、そしてグラマーでスタイル抜群の彼女は戦斧を武器としている。
私が着任すると、彼女は直ぐに私に絡み、私に勝負を挑んで来たが、私は愛用の二挺の魔導銃で彼女の戦斧を吹き飛ばし、
喧嘩は私の勝ちとなった。
私は吹き飛ばした彼女の戦斧の代わりに、最新の魔導戦斧『雷帝の雷土』を彼女に与えたら、大将、大将と言って慕ってきた、
うん、チョロイ。
そして、もう一人の問題児が、引きこもりのウサギ事、ウェルセア・ギルスタン嬢、愛称はウサギ
公国、五大華族の一つギルスタン家のお嬢様で、身長は百六十前後で、ピンクのショートカットの髪にピンクの瞳には丸い銀の眼鏡、美人と言うより、幼顔の可愛い系の娘
彼女は大人しく、人見知りで研究肌の学者さんだ、親のコネで魔導省に入ったが一回も魔導省に来ないので、仕方なく、『星翔部隊』に転属となった。
私は、彼女を情報摩導将官に任命し、最新鋭の魔導計算機を設置した彼女専用の部屋を作った。
そしてギルスタン家に乗り込んで彼女を拉致して、その部屋で好きな事をするように命じた。
但し、私が命じた研究や情報の分析は優先してする事を条件に付け、彼女も了解して、その部屋に安心して引き隠った。
私達の旗艦が、最新鋭の魔導巡洋艦『プリンシブァ』、長さは100メータ、巾は15メータの魔導艦、最新鋭と言っているのは魔導省の広報課が発している誇大広告だ。
幾ら軍事国家でも、そんなにポンポンと魔導軍艦を造る事は出来ない。
基本、魔導省の軍艦は防魔省の御下がりだ、その旧式の軍艦に最新の内装設備を入れ換えて、高級ホテルのようにして役人の接待に使う。
だから、見た目も設備も最新鋭になる。
広報課は嘘は言っていない、後ろに小さく内装設備がと付くだけだ。
私は、『プリンシブァ』の内装設備の改修予算を全て、改造費用に振り替えた。
船腹の両側を開けて、着艦ハッチを設け、飛竜四羽、小型魔導船二台の離着陸が出来るようにした。
勿論、穴を開ける事は強度を弱くする、ウサギに構造計算をさせて外骨格は補強した。
私自身、こんな老朽艦で艦隊戦のドンパチをする気は無い、必要なのは機動性だ、目的地での素早い制圧、
だから、船を早くするには軽くする必要がある、老朽した二基の魔導機関のうち、魔導砲用の魔導機関を外した。
『プリンシブァ』は元は軍艦だから、前方に四門、後方に四門、合計八門の魔導砲が有り、軍艦はだいたい、此の八門で三百六十度の攻撃防御をカバーしている。
魔導省に払い下げになった軍艦は普通の改修では予算と維持費の関係で、飾り用に前二門、後ろ一門ぐらいを残して後の魔導砲は撤去するのだが、
しかし私は、全ての砲搭を残した。
魔導砲の出力を最低にして移動用の魔導機関一基で、八門が一斉放射が可能になるようにし、その代わりに、ウサギに頼んで、精度を桁外れに上げる改造を施した。
銃使いの私の信念は威力より、精度を重んじる。
どんなに威力のある大砲でも当たらなくては無駄玉になる。
逆に威力が小さくても、相手側の急所に当たれば、相手は死ぬ。
そんな考え方が、大艦大砲主義の防魔省の参謀官共と対立する原因の分けだが、
魔導省には私の邪魔をする人材はいない、だから私は好きなようにした。
『プリンシブァ』にも最新鋭の魔導計算機を積込、弾道計算を素早く出来るようにし、結果、大砲なのに、糸を針の穴に通すレベルの精度を上げる事に成功した、
勿論、此の成功にはウサギの協力があってこその、成功だった。
『プリンシブァ』の改修が終わると、防魔省の参謀官共の嫌がらせで、本来防魔省が担当する筈の、南方の海賊退治の仕事が『星翔部隊』に来た。
中古の魔導艦を改造して海賊行為をし、我が国の貿易を邪魔する輩達だ、勿論、後ろには敵国がバックアップしているから、こんな行為が出来る。
参謀官共は艦隊戦になる事が分かって我々に依頼してきた、嫌な奴らだ。
しかし、事態は参謀官共の期待を裏切った。
我々は高速に近付いて、補強出来ない魔導機関の排気口をピンポイントで狙撃して海賊魔導船の魔導機関を止め、
海に不時着した海賊魔導船に着艦ハッチから飛び立った、リナ率いる奇襲部隊が瞬時に船を制圧して、此の事件は終った。
此の事件の成功は、魔導省の広報課を喜ばせ、『プリンシブァ』は魔導省の最新鋭の旗艦となり、派手な宣伝活動で私も駆り出され、私の公民の人気はうなぎ登りに上がった。
面白く無いのは参謀官共で、次に来た仕事が北方蛮族の反乱に対する対処、
此れも防魔省の鎮圧部隊の仕事だが、国内は魔導省と言って出撃を拒否して、我々に押し付けて来た。
我々は高速に蛮族の立て籠る要塞に近付き、片っ端から家屋の屋根を吹き飛ばした。
吹き飛ばした屋根から、奇襲部隊が乗り込んで、反乱の首謀者を拘束して、全員に降服を勧告し、彼等は首謀者が捕まったので諦めて降服した。
此の事件もスピードと機動性の勝利で、制圧した地域への防魔省への引き渡し等を処理して、久々に西の公都・バルドリスに戻ると、
姉も妹も大騒ぎして、私に連絡してきた、姉のマシリィア・ウェルドは、
私と違い大人で、頭も良い、身長は私より低く、シルバーブロンドの髪を肩ラインボブで揃えてているので年齢より若く見える、専門が星の動きを観測して未来を予測する、『星務官』であり、その能力で父のサポートをする為に、執政官になった。
姉の力は絶大で、その一言に政治、経済が動く、此の世界はまだ旧い星の信仰を信じる者が多くいるからだ。
姉と違い、私は合理主義だから星は信仰していない、魔導科学が導き出す結果が全てだと思っているし、しゃべらない、語らない星は天空の飾りだ、そんな考えだから長い間、姉とは口を聞いていなかったが、
姉は、東の空の星達が大騒ぎをしているので、直ぐに東へ向かえと言う。
星が大騒ぎ?私には星は何時もと代わらず、只、光瞬いているだけに見えるのだが?
優秀な姉が私に命令するのは珍しい、姉は私なら、誰よりも早く東に行ける、だから一刻も早く東に行けと厳しく私に言う。
妹のリィデリィア・ウェルドは、リィディと皆が呼んでいる私の可愛い妹だ。
シルバーヘアーをショートボブに纏めた女子高生で現在十六才、小さい頃から守護星であり星母月の星姫からの神託を聞く事が出来た為に、宗教界に入り、幼き巫女姫として公民に人気が有る。
そんなリィディーが星母が東の空を見て泣いている、夢を見たと言う、そして地下神殿に有る星母の像が泣いていると言う。
像が泣く?なんだそりゃ?
妹も泣きながら、東に行ってくれと言う。
二人の姉と妹に脅され泣き付かれた私は、連戦で疲れている部下に再び、出撃の命令を下した。
目的地は東の最果ての街、バルセリア
そして、其処で、私の人生を、運命を大きく変える事件が起こった。
魔導艦は公都バルドリスを夜、出発し、次の日の朝には東の最果てのバルセリアの近郊に到着した。
道中、何も無く、夜空の星も私達の目では変わり無く、また連戦の疲れから、油断が生じていたのかも知れない。
『プリンシブァ』には夜間索敵用に私とウサギで開発した魔導機関探索機が積んであった、此は、ある程度の魔導機関は魔素の五元素変換時に変換出来なかった魔素を排出する。
その排出された魔素は空中にある魔素より汚れている為、排魔素と呼ばれていた。
その排魔素が魔素の中でどの位置に有るか分かるようにしたのが魔導機関探索機だ。
此の探索機により、先の海賊船との戦闘でもピンポイントで排気口を狙う事が出来た。
そして今回も、『プリンシブァ』がバルセリアに近付いた時、此の魔導機関探索機の警報がケタタマシく鳴り響き、
探索機の球形の表示盤に此方に高速で接近する点を表示していた!
しかし、点の表示は異常だった、完全な白い点滅する光点、
一体、此は、何を意味するんだ!
私達は直ぐに、廻りを視覚で確認したが、近付いて来る艦船は無かった、一瞬、誤作動かと思った、私達に、
ズガガガアアアアアアンンン!!
巨大な破壊音と船を引っくり返すような振動が全艦に走り、
私は艦長のアマダ・ルーゲンスに、
「一体何が起きた!」
と怒鳴り。
艦内の情況報告盤を見たアマダが、
「魔導機関だ!魔導機関が暴発している!」
私は愕然とした、何者かが、此の『プリンシブァ』の魔導機関を狙って狙撃したのか!私はそう考えた!
だが、魔導機関には非常事態に対処すべく、二重、三重の安全装置が設置されている、直ぐに、私は機関長のドルゴ・サーモスに命じて、
「魔導機関を止めろ!直ぐに船を下ろせ!」
と指示を出したが、
ドルゴは、
「駄目だ!此処からじゃ操作出来ない!魔導機関室に行く!」
と言って慌てて席を立ち、魔導機関室に向かった!
私とリナも艦橋は艦長のアマダに任せて、機関長と一緒に魔導機関室に向かった!
其処で見た光景は!
魔導機関室の船腹には、大きな穴が空き、
更に穴が空いて暴発している魔導機関の前に、その魔導機関を破壊しようとしている、
身長四メータ、巨大な猿人の巨体にコウモリの顔、頭には巨大な闘牛の角、背には大きなコウモリの翼、尻にな蜥蜴の尻尾のような巨大な尻尾。
その姿は、正に『魔人』!!
其処には、絵本やお伽噺にしか存在しない伝説の、
『魔人』がいた!!!
リナは激怒して、
「何だ!此の野郎!!」
と叫びながら『雷帝の雷土』を大きく振り上げ、『魔人』と一戦始めようとしたので、
私は慌てて止めた!
「機関を破壊するつもりか、止めろ!!」
リナは振り上げた『雷帝の雷土』を降ろし、『魔人』を睨み付ける!
『魔人』は我々に気付き、
我々に指を指しながら、『オ前ダチ!『**********』!!消ジダ!!!』、と分けの分からない事を叫び。
私は魔導通信でウサギに命じた!
「ウサギ!見てるか!」
ウサギから直ぐに返事が返って来る、『ハイ!』
「奴が何者なのか!奴が何を言っているのか調べろ!!」
ウサギは直ぐに『ルーナ様!分かりました!!』と返答して魔導通信を切った。
その時、『魔人』が更に喚いて、
『オ前ダチ!死ネ!!』、と怒鳴って、魔導機関に巨大な右手を突っ込む!
バッコォオオオオンン!!!
魔導機関に手を突っ込むだと!中は豪炎、豪雹、豪雷の塊だぞ!有り得ない!
その時、艦長から緊急魔導通信が入る、『ルーナ様!大変だ!艦の操作が出来ない!』
何だと!奴か!!
私は直ぐに二挺の魔導銃を奴に向け、
ズダンズダンズダンズダン!!!
「リナ!奴を殺せ!!」
直ぐにリナも『雷帝の雷土』を振り回し、
バコン!バコン!バコン!バコン!
しかし、魔導機関から漏れる魔素が、奴の体全体を覆い、奴に傷一つ付ける事も出来ず、
再び、艦長の絶叫が、私の魔導通信に入る!
『船が!船が!バルセリアに向かってる!』
何だと!
まさか!
まさか!奴は!!
私の驚愕を見て、
奴の顔に笑いが見えた!
やはり奴は『魔人』だ!
人の悲劇を好む!
伝説の『魔人』だった!!
魔導機関室に『星翔部隊』の隊員達も合流し、全員が『魔人』に飛び掛かり、機関室は大乱戦になった。
私は、一旦、艦橋に戻り、船の操舵をウサギの力を借りて取り戻そうとした、
船から噴き出す変換途中の魔素が船の廻りに雷雲を巻き起こし、暴炎と爆雹、豪雷の嵐を作り出していた!
努力は虚しく、船の操舵を『魔人』から取り戻す事は出来ず、魔導巡洋艦『プリンシブァ』は雲海より下降し、
肉眼でもバルセリアの街が分かる距離迄、街に接近した!
その時、私は決断した!
船を棄てる事を!
命を棄てる事を!
全員に船からの退去命令を出したが、
誰一人従わず、
リナが怒鳴る!
「奴を殺りゃあ済む事だ!!!」
リナ!皆!!
済まない!!!
そして、私は目の前の緊急爆発起動装置のスイッチを入れた!
・・・
・・・
何も起こらず、船はバルセリアへと直進を続ける!
奴は!
『魔人』は!
其れほどに!
何万と言う命が欲しいのか!!!
私は迫り来る、バルセリアの街を見詰めながら、
人生で、
始めて、
星に願いを掛けた、
助けてくれ!!!
助けてくれと、