空の旅
魔導船の下部は、客室になっていて、客室の下及び両側は透明なガラスのような材料で作られ、外が見えるようになっていた。
勿論、外からは、此方が見えない。
俺達が搭乗すると、魔導船は出航し、一気に雲海を抜けた、
すっげぇ静で、
別に、席に座れ、シートベルトしろってアナウンスも無く、足元を見ると、
俺は、その景色に愕然として、
「すっげぇ!」
と、思わず叫んだ、
メルティスト先生は、別に驚く事は無く、
「ポワジューレの、観光船は、此が普通よ、まぁ、内装が古いから、たぶん、中古でしょ。」
と言いながら、さっさと席に着いてしまい、俺は、その後をおそるおそる歩きながら、先生の後に着いて行った。
荷物は、乗る前に預けて船の倉庫に入っている、俺が持っているのは、弁当とカード型の魔導本、
船は、正しく、雲海の中を飛んでいるようで、実に気持ち良い、
足元には、美しいウェルド公国の景色が見え、小さな魔導汽車が鉄道模型のように動いている。
成る程、観光船、って言う意味が、本当によく分かった。
ただ、スグルの世界の、飛行機と違い、長い旅に映画や音楽のサービスが無いので、景色だけだと、そのうち飽きてくる。
先生は、旅行慣れしているのか、直ぐに、魔導本を読み始めた。
俺も魔導本を持っているけど、此の中には何も入っていない、
図書館で、何か借りとけば良かったと、ちょっと後悔した。
仕方ないので、俺は、魔導船の中を彷徨く事にした。
出航する前に、メルティスト先生に聞いたんだが、この手の魔導船は、上が機関室、下が客室になっていて、機関室には、此の国の中古の軍艦の魔導機関が一基、入っているんだとか、
その魔導機関が、巨大な力の魔導術を発生させて、船を持ち上げ動かしている、だから、静で、揺れも無い、
この国は、軍事国家だから、他の国よりも、巨大な魔導機関を作る技術は、優れていて、此の国の、武器を外した、中古の軍艦は、他の国から人気が有り、こうして、観光船や輸送船になって、世界中で活躍していると、
世間知らずの、俺に教えてくれた。
ただ、その教え方なんだが、なんせ、俺は、デブの大食漢だ、
彼女、俺の事が嫌いなようで、
斜め上からの視線で、あんた、バカ?バカなの!!
と、俺は、何度もバカバカ、と言われてしまった。
・・・
まぁ、仕方ねぇーし、此の国に来て、まだ、俺、20日だよ、
常識的な事、知ら無いし、魔導機関の事だって知らん!
こんなデカイ物が浮く事を不思議に思うのも、当然だって言いたい!!
・・・
しかし、そう考えると、ローシィは優しかった、結構、丁寧に教えてくれたし、
ちょっと、俺は彼女を見直した。
そんな事を考えながら、俺は客室から展望室に出た、
展望室は大きく、やはり側面と床がガラスになっていて、周囲の景色を見渡す事が可能だった。
端に、トイレが有り、反対側にお茶が飲める魔導機が置いて有る、カウンタがあった。
此処には、結構、人がいる、
側面に椅子と固定されたテーブルが有り、其処に、座って談笑したり、オヤツとお茶を飲んだり、食事したりする人がいる。
結構、賑やかだ、
成る程、メルティスト先生は、ボッチだから、此の雰囲気が嫌いな訳だ、
だから、此方、来ないで、さっさと自分の席に座ったのか。
・・・
まぁ、俺もボッチだから、此方に来てもする事は無い、
先生と同じだ。
だいたい、此の船、観光船なのに、人件費、節約なのか、スグルの世界で言う、CA、つまり、キャビン‐アテンダントな、そのCAがいない、
まぁ、希望としては、可愛い、昔で言えば、スチュワーデスって人な、
そんな、素敵な人がいりゃ、此の旅も少しは、楽しいのに、
なんせ、同行者は、女性だが、髪はぼさぼさ、丸い瓶底メガネ、服も実用的で色気無し、その上、俺の事をバカバカ言うし、
・・・
まぁ良いっか、飯でも食べよ。
出航して、4時間、時刻は4時を過ぎた、出航する前に、サンドイッチを三つ買って食った、先生は一つをやっと食べていて、本当に良く食べる俺に、驚いていた。
しかし、常時、『星の力』、まぁ、『星導術』を発動している俺は、『星に祝福されし穀物』以外は、腹に貯まらない、
此の現象は、ハルにも起こり始めていて、エミちゃんが言うには、ハルも結構、食うように成り始めたとか、
だから、ハルが、俺の処に来たら、『星に祝福されし穀物』のパンの木実を必ず、食べさせるようにしている。
俺は、夕焼けに成り始めた雲海を見ながら、最初の御弁当を食べる事にした。
夕焼けは、美しく、その寂しげな表情は、俺達、此の展望室に居る皆を虜にしていた、
その、美しく、物悲しい景色の中で、俺は、ゆっくりと、最初のランチボックスの箱を開ける。
バカッ
箱まで、俺をバカと言う、
まぁ、冗談だけどね。
此の、ランチボックスに入っている、サンドイッチはオムレツに野菜、牛肉の薄切り肉、まぁ、ハムかな、其を挟んだ物だ、
其に、揚げた鶏肉が二本、見た目は、アメリカのとある州のフライドチキン。
此れは、俺に、怒ってるマーキが、まだ俺に腹立って無い時に、彼から聞いたんだが、この国は野牛、以外、野鳥ってのを養鶏しているんだそうだ。
バルセリア周辺は土地がなだらかだから、野牛の牧場が多く、北部は、山岳地帯になるので、野鳥の養鶏が盛んなんだとか。
野鳥は、スグルの世界のニワトリとは違い、どうも、巨大なウズラのような鳥のような気がする、まだ見たこと無いので分からない。
勿論、此の国の卵系の料理の材料は、殆どが、此の野鳥の卵だと言っていた。
確かに、卵は魅力的だ、卵が在れば、料理の種類も幅も奥行も広がる、
目玉焼き、卵焼き、ゆで卵、だし巻き、煮卵、半熟、オムレツ、スクランブル、いろんな料理が出来る。
来週の休みに、また農牧高等学校に行って、野鳥の雛、買って来て、養鶏でもしてみっかな、
勿論、昔の俺は、養鶏もやっていた、産みたての卵も食べていたし、肉も裁いて食った。
『星に祝福されし穀物』を食べて育った、野鳥が産む卵、その肉、
何れだけの効果が、俺やハルに有るんだ?
考えるだけ、楽しみが広がる、そう考えながら、ランチボックスのサンドイッチを一口食べようとしたら、
「あんた、バカ!何、一人で食べようとしてんのよ!!」
えっ?
メルティスト先生に怒られた。
何で?
俺は、メルティスト先生に誤った、
御詫びに、自称、バルセリアフライドチキンを一本、先生に差し上げて、許して貰った。
本当にごめんなさい。
俺が、メルティスト先生に謝った理由なんだが、
先生は、実はボッチが好きな訳では無く、一人、本を読んでいたのでも無く、先生は、魔導本で仕事をしていたのだ!
俺は、魔導本に字を書いたりするのは、ローシィのように、専用のペンが必要だと思っていた、
しかし、文字のような、簡単な物は魔導本の『心』の魔導術で、直接、考えるだけで記録が出来るんだそうだ。
ローシィは、もっと高度なイメージまで、魔導本に記録するから、専用の魔導ペンを使ってたらしい、
此の世界も、五百年前までは、紙らしき物に字を書く文化だった、
しかし、五百年以降、魔導本が発明されてから、文字も魔導本に記録するようになって、紙に文字を記録する事は少なくなったんだそうだ。
勿論、紙が消えた訳では無く、紙は、目にするし、人が、紙に文字を書く事も有る。
ただ、少ないだけだ。
とメルティスト先生が、俺に、あんた、バカなの!、と言いながら、教えてくれた。
メルティスト先生が、直ぐに、席に座ったのは、先生が夏休みに企画している、
サルがどこに行くぜ、
「スグル!サァルドコーゼ!!」
えっ、俺、声だしてるの?
「何か、そんな事、考えてる気がしたのよ!」
・・・先生、感良くね!
で、まぁその、夏季自主講座って奴は、企画書を教魔省に提出しなくちゃいけなくて、
その閉め切りが、来週なんだとか、だから、先生は焦って、『星の遺跡』の下見に行く事にしたらしい。
じゃ、他の先生も忙しいのかと言うと、他の先生は、毎年、する事が同じだと、もう書類が出来てるし、
変わった事をするにしても、前の年から準備が出来るので、慌てている先生はいない、
メルティスト先生は、4月に、特別講師として、此の学校に来て、始めて、夏季自主講座の制度を知ったから、時間が無いのだ。
来年にするって考えも有るけど、派遣だから、来年、帰還の辞令が出る可能性も有るので、此の夏に夏季自主講座をする事にしたんだそうだ。
此の夏季自主講座は、此の教育が無償の此の国で、唯一、お金が取れるビジネスだから、学校も先生達も真剣になる、
そうなると、此の制度を悪用したりする人が出るので、教魔省の審査が厳しくなっていて、
4月に書類を提出して、審査に、二ヶ月、下りた段階で、生徒に、内容と金額を告知する、其が、7月、
そして、8、9月の夏季休暇に開催される。
成る程、そりゃ、大変だ。
俺は、先生に聞いた、審査に二ヶ月って、長くないですかと、
先生が言うには、此の国が嫌う、反国家的な思想教育や洗脳的な宗教教育、悪質な金儲け等を、防ぐ為に、全国から来る書類を徹底的にチェックするからなんだとか、
こう言う処は、此の国が全体主義国家である事を実感させる制度だ。
で、違反すると教員の資格停止、悪くすると、捕まるんだそうだ、
メルティスト先生が、許可無く、夏季自主講座を開いたら、先生は強制送還、学長とエルさんは、責任を取らされるらしい、
成る程、だから、エルさんも協力的で、学長も、仕方無く許可したのか、
となると、俺の責任って、案外、重大なんじゃねぇーの、
メルティスト先生に何かあったら、
確かに、ヤバイし、其で、先生が教魔省に提出する、夏季自主講座の書類を、提出出来なかったら、先生に恨まれるし、エルさんや、学長も失望するかも知れない。
その時、俺は、此の、仕事に対する、姿勢が変わった。
そんな、話しを、展望室で、先生と話していると、日は沈み、
世界は、星々が輝く、夜となった。
今日も、多くの人が、星に願いをしているのだろう、
星は、その願いに答えようと、今も美しく、輝き、瞬く、
先生は、その美しき星を見ながら、俺に言った、
星が、輝いていた、世界に憧れていると、
その世界の事を、沢山知りたいんだと、
だから、失われた星の世界、魔導と星が重なった世界、を知る為に、
魔導考古学の道を選んだと、
その、世界にいた、
俺を、
前にして、
彼女は、そう、呟いた。