魔導船
「で、俺に『何処でも扉』で、その『星の遺跡』に連れていけと、」
「其は、ダンの意見で、連れてって貰えるかどうかを、スグルさんに相談しようと、提案したのは私です、」
オルダス・ホールス君がメガネを上げながら、言う、
確かに、彼は正しい、彼等は、俺の『星の門』を知っている、だから、俺にその『星の遺跡』に行く道を開けてくれと、当然、言う筈だ。
4月10日 錬曜日
ハルのクラス、C組は、一昨日のこの学校の魔導格闘技大会で2年生の団体戦の代表に決まったらしい、
俺が、ジェミに、ローシィから貰ったカード型の魔導本に500万RG入っている事を知らされた後、
ダン君とオル君が二人で、俺の処に来た。
何でも、魔導教練棟で団体戦の練習が出来ないので、俺に『星の遺跡』に連れてって欲しいと言い出した、
何それ?
オル君が、丁寧に俺に説明してくれたんだが、魔導格闘技大会の団体戦は、只、複数の選手が広い場所で戦うのでは無く、
迷宮戦場と呼ばれる、魔導術で作った迷路の中で選手が戦うんだそうだ。
確かに、其なら、普通に戦うより、相手の位置や正体が分からないから、競技感は高くなる、
で、その迷宮戦場だが、話しを聞くと、スグルの世界で、流行ったVRの世界のような物で、
何でも、『錬』で箱のような物を作り、『心』が其を本物のように見せるんだとか、
此も、スグルの世界の3D映像の技術に似ている。
迷宮戦場を作る魔導術は、『合成魔導術』って言われているんだそうだ。
そして、其を作る魔導機が、この学校では魔導教練棟に一台あって、其は、3年生が使うので、2年生と1年生は使えない、
其処で、ダン君が、『合成魔導術』の専門の先生にお願いして、迷宮戦場を作って貰う事になったんだが、
先生は、2年の迷宮戦場の課題、『星の遺跡』を知らないらしい、
実は、ダン君もオル君も行った事無く、知らない、
更に、ハルもエミちゃんも、ジェミも、行った事無く、どんな場所か知らないらしい、
『星の遺跡』
確か、ロンゲルが買った『星のピアス』、あれは此の街の中古市場で、買ったと、彼は言っていたけど、もしかして、『星の遺跡』の盗掘品か?
興味は有る、行ってはみたい、
だが、無理だ、
「はっきり言って、今は無理だ。」
ダン君が、焦って、
「協力してくれ無いんですか!スグルさん!!」
オル君が、
「落ち着け、ダン。」
ダン君が、少し、落ち着く、
此の二人の関係って?
オル君は、まるで、我儘な若君を諌める従者って感じ、
・・・まぁ、良い、
「俺は、此の学校の学校作業員だ、出来る事なら、君達の為に喜んで協力する、だけど、『星の遺跡』に繋がる、『扉』を開ける事は、今の俺には無理だ。」
全員が落胆した顔をしている。
「其は、能力的な意味ですか?」
オル君は、俺に聞き、俺は頷きながら、
「まぁ、そうかも知れない、今、俺は扉を1つ、常時開いている、今の俺なら、たぶんもう1つ位なら、開けられる。」
ダン君が、勢い良く、
「其なら!」
俺は、ダン君を、手で制止ながら、
「話しは、最後迄、聞け、良いか、そんな訳分かんない場所に行けるんだったら、俺は何時でも好きな場所に行ってる、」
全員が黙り始めた、
「その『星の遺跡』って、此の国の人である、君達でさえ知らない場所だぞ、異国人の俺は、更に知らない、知らない場所にどうやって、『扉』を開けるんだ?」
全員が、考え始め、
オル君が、代表して、
「其は、つまり、スグルさんは、スグルさんが知ってる場所、行った事の有る場所じゃ無ければ、『扉』を開ける魔導術は使えないと」
オル君は、俺の力を魔導術と例えている、
「簡単に言えば、そう言う事だ、考えてみてくれ、今の俺は、一応、学校作業員だ、君達だけの為に仕事を保ったらかして、その『星の遺跡』には行けないだろ。」
ダン君が、食い下がる、
「じゃ、スグルさんは何時なら、『星の遺跡』に行ってくれるんですか?」
俺は、仕方無く、
「『星の遺跡』は、此処から、どの位離れているんだ?」
オル君が、直ぐに答えて、
「魔導汽車で三日、其処から、魔導三輪車で更に三日、」
6日か、
俺は首を振る、
「俺は、まだ臨時雇用だ、6日も此の学校を休んだら、皆、どう思う、学長や、エルさん達、怒るんじゃないのか?」
皆は、黙っている、
「俺が、6日も休めるのは、たぶん皆が長期休暇になった時だろ、其って、早くても、君達の夏休みじゃないのか?」
ダン君が苦しそうに、
「其じゃ、遅いんだ!」
気持ちは、分かるけど、
「あのなぁ、ダン君、練習って、工夫次第じゃ、いろんな方法が有ると思うよ、イメージトレーニングとか、シミュレーションとか、何も本物の競技場が無くても、」
「其じゃ、優勝は無理だ!!」
えっ、優勝って、
君達が、
ハル、もエミちゃんも驚いてる、ジェミは、やれやれって顔、オル君は無表情、
「ダン君、気持ちは分かった、兎に角、出来るだけ、協力する、其で良いだろ。」
今まで、黙っていた、ジェミが口を出す、
「其って、スグルさん、スグルさんが『星の遺跡』に行ったら、僕達の為に、『何処でも扉』を開けてくれるって事?」
俺は5枚の金貨が気になっていて、この話しを早く切り上げたかったから、
「あぁ、開けてやる、俺が、『星の遺跡』に行けたならな。」
と、軽く返事をしたら、
ジェミが、
「じゃ、大丈夫、スグルさんは、明日、『星の遺跡』に行くよ。」
えっ!!!
俺を含めて、全員が驚いた。
ジェミ!!
お前は、何時から、インチキ預言者になったんだ!!!
俺は、呆れた。
次の日、
4月11日 雷曜日
スグルの世界での土曜日、俺が此の世界に来て20日の早朝、
エルさんと、メルティスト先生が俺の宿舎に来て、
「えっ!俺が、『星の遺跡』に!!」
ジェミの預言は、
当たった!!!
後で、彼に聞いたら、メルティスト先生が『星の遺跡』に行きたがってる事は、この学校じゃ、有名な事で、学長が、彼処は、治安が悪いから許可しなかったんだとか、
其でも、メルティスト先生が勝手に行きそうなんで、学長はボディーガードとして、俺が行くなら許可すると、前日に、言ったらしい、
此は、マーキがジェミに言った情報で、
彼奴、俺にはそんな事、言わなかった、まだ、エルさんの事で怒ってるのか、其とも、大会に置き去りにした事か?
心当たりが、有りすぎる。
其でメルティスト先生、じゃ、今日、今直ぐに、『星の遺跡』に行きますってエルさんに言ったんで、
エルさん、慌てて、メルティスト先生と一緒に、俺の宿舎に来た訳だ、
一応、エルさんも、俺の宿舎が認識出来るようにしといたんで、直ぐに俺の処へ来る事が出来た。
「しかし、エルさん、『星の遺跡』って、最短の往復で12日、掛かるんでしょ、12日も、此の学校に俺が居なくて大丈夫なんですか、掃除とかいろいろ、」
メルティスト先生が呆れて、
「何言ってんのよ!『魔導船』で行くのよ!!」
「バカがあれ?」
「バルガアーレ!『魔導船』の事よ!!」
魔導船って、確か、ルナちゃんが乗ってた軍艦?
「軍艦で行くんですか?」
メルティスト先生は怒って、
「あんた、バカ!軍艦で行くわけ無いでしょ、民間船よ!」
へぇ、民間船が有るんだ、って事は運賃が必要なんじゃないの?
出してくれるのか、此の貧乏学校?
俺の心配が分かったのかエルさんが、すまなさそうに、
「あのー、スグルさん、旅費は、そのぅ、暫く、立て替えて、貰えませんか。」
メルティスト先生が、偉そうに、
「大丈夫よ、私の『夏季自主講座』の募集が始まれば、直ぐに、貴方に払ってあげるから、安心して。」
「サルがどこに行くぜ?」
メルティスト先生、完全に怒って、
「サァルドコーゼ! 夏季自主講座よ、あんた、本当にバカ?!!」
・・・まぁ、バカかも、
「何、ぐずぐずしてんのよ!行くわよ!早く仕度しなさいよ!!」
エルさんが、済まなさそうに、俺を見てる、
しゃーねぇなぁ、
俺は、直ぐにカバンに下着とパンの木実と干し肉を入れながら、
「其で、先生、何時戻って来るんです。」
メルティスト先生は、少し考えて、
「今回は、下見だから、一応、13日の闇曜日には戻る予定よ。」
スグルの世界の月曜日、行って帰って三日か、
エルさんも、頷いている。
成る程、その『魔導船』なら、そんなに簡単に往復出来るんだ、
俺は、荷造りしながら、こっそりと、星にケティへの、伝言を託した。
今日は、俺はいない、心配しないでくれ、と、
俺とメルティスト先生は、バルセリア駅、9時発の魔導汽車で、『魔導船発着場駅』に向かった。
魔導汽車は、ローシィの時とは違い個室じゃ無く、普通車で、魔導船の発着場に向かう多くの人でごった返ししていた。
俺も、メルティスト先生も車内で立ちながら、先生が言うには、民間の魔導船は、
今まで公都に行く便と南の大都市、カーヌリア、北の大都市、ストレリヤの三便しか無かったのに、
4月から、週に2便、北西の『星の遺跡』の村、コレステリラにも、『魔導船』が運航するようになったんだとか。
其で、先生としては、今日の便に乗らないと、次の便は、来週の磁曜日、スグルの世界の木曜日になるらしく、戻って来ると、雷曜日、つまり、土曜日になってしまうので、
『星の遺跡』の発掘の『夏季自主講座』を企画している先生としては、
『星の遺跡』の下見に、今日、急いで行く事にした、
と、車内で俺に教えてくれた。
魔導汽車に乗る事、一時間、俺達は、10時には、『魔導船発着場駅』に着いた。
魔導船発着場は広く、中心に巨大な蒲鉾型の発着場のターミナルが有り、その廻りに、スグルの世界で言う飛行船型の『魔導船』が、今、着陸しようとしていた。
「スグル、あれに乗るから、急いで、手続きするのよ!」
と、言いながら、駆け出し、
呼び捨てにされた、俺も、ヘイヘイと言いながら、彼女のでかい荷物を担ぎながら、彼女の後、ターミナルに向かった。
手続きは、魔導汽車と同じで、魔導本に金を入れると手に魔乗車印が刻印されて、乗る事が出来るようになる。
料金は片道、5万RG、往復で10万RGした。
はっきり言って、高い!
俺は、ルナちゃんに貰った500万RGを魔導本に戻していたので、
支払いは、ローシィのように、俺の魔導本を黒い箱に入れて払った。
先生は、外の国の人だから、小さい魔導本を見ても驚かなかったけど、廻りの人はビックリしていた。
うん、田舎だ。
出発は、0時、到着は、明日の8時、夜は船内の座席で寝るんだとか、食事は無く、持ち込んで、各自が自由に取る為、
俺と先生は、一応、ターミナルで売ってる、弁当を買った。
メルティスト先生は、サンドイッチを一個と飲み物、俺はサンドイッチに鳥の股肉が2個入ってる、ボックスを3個に飲み物を2本買った。
「あんた、本当に、そんなに食べるの?」
俺は照れながら、言い訳、
「まぁ、大食漢なもんで、」
俺は、『星に祝福されし穀物』を持ってきているけど、あれは、今は食べない。
向こうに行って、『星の門』を開く時に食べるつもりだ、なんせ、約束したし、いざ開けようって時に、力が無くちゃ、
開けられませでした、ゴメン!
で、許してくんないよなぁ。
そんな、こんなで、
俺と、メルティスト先生は、0時、少し前に、
『星の遺跡』の有る村、コレステリラ行きの
『魔導船』に乗船した。