ダンバード・グラスタ
「えっ、練習が出来ないんですか!」
「出来ないとか、するなと言ってるんじゃない、魔導教練棟は、3年生の団体戦と個人戦の練習で使う、君達、2年生と1年生の団体戦は、別の場所を探して欲しい。」
「アルバート先生!」
「分かってくれ、ダン、アル、3年生は、今年で最後なんだ、何とか、地区大会を突破して、公都の全国大会に出場させたいんだ!」
「分かりました。」
「・・・分かりました。」
4月9日 磁曜日
魔導格闘技大会が終わって、次の日、アルバート先生は、地区大会の説明の為に、放課後、個人戦の出場選手、九名、と団体戦の出場クラスのクラスリーダとサブリーダを、集会室に呼んだ。
団体戦の出場クラスは、3年はA組、2年はC組、1年もA組で、2年の代表のC組のクラスリーダである、私こと、
ダンバード・グラスタ
それと、サブリーダで親友の、
オルダス・ホールスは、
放課後、説明を聞く為に集会室に向かった。
其処に、集まった面々は、フェルシェール・レェーベン先輩を筆頭に、此の学校では有名人ばかり、あのガルホールもいる。
確かに、2年でC組が代表と言うのは、ちょっと浮いている感じがするが
「珍しいな、君が、気後れか?」
オルが心配して、私に声を掛けてきた、
「違うな、オル、自分が彼等と同等になったんだ、今の私は、最高の気分なんだよ。」
オルは安心して、
「其でこそ、ダンだ。」
勿論、空元気だ、
魔導格闘技大会団体戦の、地区予選に出場する、バルセリア魔導高等学校、2年生の、代表になった時から、その責任と皆の期待の重圧が、私に重くのし掛かっている。
ふぅ、
期待、
其は、何時もの事だ、
私は、ウェールド公国、東方領の小さな地方名主グラスタ家の後継ぎとして生まれた、
勿論、グラスタ家はガルのスターゲス家に比べれば、遥かに小さいし、知っている人も少ない。
しかし、小いさくても、名主である両親は誇り高く、立派な人で、私にも、自分の土地を守る領主の後を継ぐ事を期待して、
両親は幼少の頃から、私に英才教育を施してきた。
私は、そんな両親の期待を裏切りたく無く、また、努力する姿を人に見られるのが恥ずかしく、
私は人が見ていない処で、人の倍、から三倍は努力をするようになり、
その為、回りの人は、私が何もしなくても、言われた事、しなくてはいけない事が出来る、天才と勘違いして、
両親も兄弟、姉妹も、私が優れていると思い、余計に私に期待するようになってしまった。
そして、私が、中学校の時、魔導の才能に目覚め、私は、魔導高等学校に進学する事になった。
父も、母も、姉も、魔導の才能に恵まれ、バルセリア魔導高等学校に進学し、首席で卒業した、
私も、期待され、
そして、
C組になった。
私には、魔導の才能が無かった。
私は、初めて、両親の兄弟の、姉妹の期待を裏切った。
私は、魔導に目覚めた時から、その力を磨くべく、努力した、人の五倍、いや、十倍は努力した、
しかし、魔導術だけは、努力で、どうにか、なるものでは無かった、
才能の無い、私は、入学の考査判定で、無慈悲にもC組に決まり、
私の両親は、私に絶望し、
そんな環境が、空気が嫌で、
私は、逃げるように、家から学校の寮に引越した。
バルセリア魔導高等学校の一年間は、私の今までの人生と比べると、最も、穏やかな年だった。
そして、たぶん、此のクラスの中では、一番、家の格が高い事から、担任のノーラス・グゥーエデン先生が、わたしをクラスリーダに任命した。
A組は、スターゲス家の三男、ガルホール、
B組は、軍人家系のサンドール家のトーネルがクラスリーダに選ばれた。
クラスリーダと言われても、する事はあまり無かった、まず、最初にした事は、サブリーダを任命する事だが、下手に女子を選ぶと、いろいろと面倒なので、
私は、オルダンス・ホールスを任命した。
彼は、私と違って、本当に秀才だった、彼は、一回、聞くと、忘れる事は無く、その些細な事から全てを理解する事が出来る、明晰な頭脳の持ち主であり、
一つの事を記憶する為に、人の三倍努力してきた、私にとって彼は憧れだった。
その秀才である、オルにも欠点は有った、兎に角、彼は、魔導術の術技がダメだった。
彼は、たぶん、魔導工学科に行くべき人材だと思う、
だが、此の国では、魔導術が使えるようになった子供は、必ず、魔導高等学校の魔導科に進まなければならない、
国の未来と将来の為に、子供達の魔導術の才能を伸ばす事が重要だからだ。
私達は、高校生の三年間で、魔導術の正しい使い方と、基礎と初歩を学び、
才能の有る人は、更に、大学に進み、専門的な技術と知識を学ぶ。
進学、希望、夢、
いろいろな、夢が有るべき、高校生の一年生、
しかし、その頃の私は、自分に魔導術の才能が無く、努力してもどうにもならない、世界が有る事を知り、
更に、オルを知って、自分には、他の事にも、才能が無かった事を自覚し、
父の後を継ぐのは、姉か弟だろうと思うと、何か肩の力が抜けて、私は、物事がどうでも良くなってしまっていた。
私は、軍事国家の此の国では珍しい、ポワジューレで流行っている長い髪に緩いウェーブを付けた、髪型にして、
今までの、自分を、どこか変えようと、心がけた。
学校は、荒れていて、無気力な先生達や、学長は、そんな学校を変えようとする事は無かった。
中学校の頃の私だったら、学校を変えよう、そう皆に呼び掛け、先頭に立って、いろんな事に取り組んだかも知れない、
しかし、自分の将来、自分の人生を考えている私には、そんな余裕も時間も無かった。
私は、オルを誘って、小さな仕事をし、僅な金が貯まると、旅に出た、
領地しか知らない私は、他の世界が知りたかった、世界の人々が何をしているのか、どんな暮らしをしているのか知りたかった。
私は、ポワジューレ共和国で、その進んだ社会、その豊かな未来に驚愕し、
南の、自由都市同盟の美しい海と自然に感動し、
北の北方共和国連合の雄大な山脈と、限りなく白い雪原に、自分がどれ程、小さな存在であるかを知った。
そんな、私に、好奇心の塊である、オルは、何時も、一緒に同行してくれた、
だから、口、煩い女子達は、私達の関係をいろいろと言ったが、
彼とは、本当に友人であり、
私にとっての、大切な一番の友人だった。
学校の問題も、私には、分かっていた、自分がどう言う行動に、でなければいけないのかも、分かっていた。
旅が終わり、世界を見てきた、私は、一年が終わり、明日から2年になる前日、自分を変えよう、学校を変えようと、決意した翌日、
学校は変わっていた。
新しく、学校作業員に成った人が6日で、学校を綺麗にしたと言う噂が立ち、たぶん、其は嘘かも知れないが、
学校は、確かに綺麗に、美しくなった。
更に、C組に、留学生が二人きた、そのうちの一人は、本物の魔導術の天才だった。
私が、どんなに努力しても、魔導術で温度のコントロールが出来ず、ガチガチの氷を作ってしまうのに、
彼女は、簡単に三つの魔導術を同時に操作してしまう。
天は、神は、あまりにも、無慈悲な現実を見せつける。
一年前の私だったら、心が折れていたかも知れない、しかし、今の私は、自分の立場が分かっている、
だから、人の、他人の才能は、成長は素直に、喜ぶ事が出来る、
「ダン、無理はするな、」
オルが心配してくれた、
もう、大丈夫だ、オル、
その他、2年になって、成長している者も、何人かいた、
その中で、際立っていたのが、
ハルチカ・コーデル
彼は、一年の時は、目立たず、本当に普通の高校生だった。
その彼が、春期休暇を経て、大きく変わった。
彼は、まだ、私達が修得していない同時に、2つの魔導術を操作出来るようになっていた、
彼は、努力したのか?
努力が、報われたのか?
私には、分からない。
だが、彼の変化が、彼の努力が、私に、クラスの皆に、良い影響を与えてくれる、
私は、そう確信した。
そして、その成果が、魔導格闘技大会にきっと現れる、
私は、そう信じた。
だから、私は、ハルチカに声を掛けた、頑張って欲しいと、クラスの為に、私達の為に、
そして、其は、現実となった。
ガルホールは、ハルチカを潰そうと裏で手を回したに違いない、彼には、学校で、名の知れた、強者達が対戦相手になり、
そんな強者を、C組の彼は、
C組でしかない彼が、
A組の、B組の、
魔導術の才に秀でた者達に、
彼は、勝った。
たぶん、彼の奮起が、私達にも、影響を及ぼしたのかも知れない、
我ら、C組は、皆が、絶好調だった、
皆が口を揃えて、言った、体が軽いと、相手の攻撃が分かると、魔導術が上手くなったと、
私でさえ、あんなに魔導術のコントロールに苦しんでいたのに、大会では、針の穴に力の剣を通せる程の実力を発揮する事が出来た。
そして、奇跡が起きた、
C組の全員が、一回戦に勝ち残り、
団体戦の、地区予選の出場権をC組が、勝ち取った。
更にハルチカは、凄かった、私はハルチカがガルホールを殺す、そう思って、思わず、止めろ!そう叫んでいた。
後で、彼と、学校作業員のスグルさんから聞いて知ったのだが、ハルチカが使った技は、『星導術』と言う、スグルさんの武術らしい、
試合中に倒れた、ハルチカを、スグルさんが介抱し、私達が試合後、スグルさんの宿舎に駆け付けると、
元気になった、ハルチカが、私達に、そう教えてくれた。
『星導術』
・・・
確かに、心に響く、名前だ、
出来る事なら、私も、その技を教えて貰いたいのだが、私達は団体戦の準備が有る、
出場選手を選ぶのは、クラスリーダの仕事だ、そして、私は、もう、誰を出場選手にするか、決めていた。
準備は、出来ている、
後は、地区大会に向けて、練習するだけだ、
私の心は踊った。
努力、私の好きな言葉、
このメンバなら、努力すれば、絶対、地区大会を勝ち抜け、本大会に出場出来る。
私の、人生に目標と希望が見えてきた。
アルバート先生の、話しを聞くまでは、
先生は、私達に言った、
魔導修練棟は、三年生と個人戦の出場選手が優先的に使う、
2年、1年生の団体戦出場選手の練習場は、自分達で探してくれと、
・・・
そんな場所が、
有るのか?