ジェミオ・バレットス
2035年4月10日 錬曜日
「確かに、『アルスパイナの角』と鑑定されましたので、当、オークションは、貴方様の『アルスパイナの角』の出品を認めさせて頂きます、つきましては、『J』様、以下の手続きを、」
・・・
やっぱ、あれは、『アルスパイナ』だったんだ。
スグルさんか、
あの人は、やっぱ、凄い人だ、
皆は、気付いて無いけどね。
僕の名前は、ジェミオ・バレットス、皆は僕を、ジェミと呼ぶ、
一応、ハルチカ・コーデルの親友で、同じ村、ナルセリアの出身だ、ハルの父さんは、有名な家具職人だけど、
僕の父さんは、その人達が作った家具を売る人、つまり、商人だ。
だから、僕は小さい頃から、商人の家で育った関係で、情報が凄く大事な事を知っている。
何せ、父さんの商人の情報網が、幾度となく、バレットス家の危機を救ってきた事を、僕は直接、見てきた。
その僕が中学生で、魔導術が使えるようになったんで、進路は、当然、バルセリアの魔導高等学校になった。
勿論、ナルセリアからバルセリア迄、通学するには、魔導汽車で三時間は掛かる、
交通費と寮生活の費用が同じなら、だいたい僕達は、寮生活を選ぶ、
ハルを除いて、
高校の入学祝に、僕は、父さんから魔導本を貰った。
ハルは、魔導二輪車を貰ったらしい、彼は、魔導二輪車を運転したかったから、と言っていた。
魔導二輪車でナルセリアからバルセリア迄、王国への道なら、一時間、ハルの選択は、間違ってはいない。
僕としては、自分用の魔導本が欲しかった。
今、ラーンドル・リーガイスが、魔導回線を発明してから、魔導本は劇的に変化した。
此れ一つで、家庭で普通に、国中の魔導新聞を読むことが出来る、勿論、お金は掛かる。
しかし今まで、読みたくても、簡単には読めなかった、地方の小さな魔導新聞の記事も読めるようになった。
特に、今、人気は、ディ・プラドゥのローシィ・レーランドの記事だ、僕は彼女の記事は、少ない小遣いから、何とか購読料を捻出して、買って読んでいる。
注意しなくちゃ、いけないのは、彼女の記事は真実と演出の割合が、普通の記事と違う所だ、
だから、彼女の記事は面白い、
隠された真実、
例えば、8日前の4月2日、『バルセリア農牧高等学校の野牛暴走事件』、
ローシィは、この事件を、ルーナ殿下の力で、劇的に解決したと言っている、
その日、確か、スグルさんも、バルセリア農牧高等学校に行っていた、此れは、マーキの兄さんと、司書のウォーレン先生からも聞いている、
そして、一昨日、僕達は、スグルさんの宿舎で『魔導獣』と出会った、
スグルさんが言うには、彼女は『暗黒大陸』の『魔導獣』だと言う、
彼女は、スグルさんに毎日、『アルスパイナ』を狩って、持って来てくれると言ってた、
確かに、庭に捨てられていた、『アルスパイナ』の角は十二本、
一日、一匹から二本、となると、捨てられ始めたのが、一昨日から数えて6日前、
バルセリア農牧高等学校で事件の起こった日、
・・・
僕は、スグルさんの宿舎から寮に帰る時、その角を見つけて、4本、スグルさんから貰った。
スグルさんは、肥料にするつもりだったらしい、けど、良いと言ってくれたんで、全部、貰うつもりだったけど、
ちょっと遠慮して、4本だけにしといた。
僕がこの、角を貰ったのには、二つの理由が有る、一つは、スグルさんの『アルスパイナ』が本物か、どうか、
もし、本物なら、二つ目の理由、
金儲け
そして、この、二つを可能にするのが、『闇のオークション』だ。
『闇のオークション』と言っても、悪い事をする訳けじゃない、一般に知られてない、変わった品を売買する、無名のオークションであり、闇曜日に開催されるから、こう呼ばれている。
また、無名の理由は会員制で、よほどの金持しか入札に参加出来ない、だから、出品者の出品物の審査も、凄く厳しく、騙しがきかない、
つまり、一般の人には、興味が惹かれないオークションだからだ。
僕は、『オスマン・コーゼスの暗黒大陸見聞録』で『アルスパイナ』の角が、ある種の大人の人に貴重な薬になる事を知っていた。
だから、スグルさんから貰った。
何故、僕が、そんな古書を読んだり、『闇のオークション』を知っているのか、
其が、魔導本だ。
僕は、父さんから魔導本を貰った時、今まで、貯めた将来の独立資金の一部を使って、寮の僕の部屋に魔導回線を引いた。
其により、魔導本から沢山の情報を得る事が出来るようになった。
勿論、金持の子供は、普通に魔導回線を引いている、たぶん、リアも引いていると思う、だいたい、リアは寮にすら住んでいない、何でも、リアとメアリーで一軒家を借りていると言ってた。
・・・
まぁ、彼女も分け有りって感じだけど、
魔導本には、お金を払う情報も多いけど、無料の情報も多い、また、嘘の情報も多い。
重要なのは、嘘と本物を見極める力、商人には必須の力だ。
そして、多くの情報から、自分が必要な情報、本物の情報だけを掬い取る。
僕は、将来、父さんのような商人に、なるつもり、だから、その力を磨く事だけを考えて来た。
残念だけど、此の力は魔導力とは関係無い。
魔導術を幾ら鍛えても、僕の将来にはあまり、生かされないので、僕は、やる気が少なく、成績も良くない。
此の一年してきた事は、学校の噂、情報、バルセリアの情報、公国の情報、世界の情報を集める事、つまり収集、そして、その真偽を考える事。
その他は、少ない小遣いを貯めて、魔導本で商売をして、僅かな儲けを得た事、
そう言う事も出来るのが、魔導本の、もう一つの特徴。
そして其を、可能にするのが、貨幣魔導回路と魔導回線。
財魔省の発行するお金は、魔軽金属に魔導回路が書き込まれている、
勿論、簡単に複製出来ない、複雑な魔導回路だ、此は、貨幣魔導回路と呼ばれている。
実は、魔軽金属には価値が無い、価値が有るのは、貨幣魔導回路だ、
普通の人は、その事をあまり気にしない、普段の取引はお金のやり取りだからだ、
しかし、魔導回線により、世界は大きく変わった。
魔軽金属で作られている、魔導本には貨幣魔導回路を記録する力が有る、
だから、魔導本には、お金投入口が有る、
今日、スグルさんに、その事を聞かれた、スグルさんも、最新の、カード型の魔導本を持っていた。
あれは、高い魔導本なので、僕はちょっと驚いて、
其、どうしたんですか?
って聞いたら、スグルさん、照れながら、とある人から貰ったって言った。
カード型の魔導本は、安い物でも、50万RG、僕のは5万RGだから、十倍。
そんな、高価な物を呉れる人って、
一体、誰?
そのカード型にも、お金投入口が有るので、スグルさんは其がハルに何なのかを聞いて、ハルは僕に説明してくれと言った。
で、その時、僕はスグルさんが、お金について知らない事に気付いた。
スグルさんの世界のお金は、金属と紙と、電子と言う魔導術の、三種類が有るんだとか、使う仕組みは、三種類とも同じらしいけど、金属と紙ってどうなんだろ、って聞いたら、やはり、少ないけど、偽造する人がいるらしい、
電子と言う魔導術も、やはり、同じ魔導術でかってに取っちゃう人がいて、必ずしも安全じゃないって、スグルさんは言ってた。
スグルさんに僕は、僕達の世界は、貨幣魔導回路がお金で、其は、複製出来ないし、かってに作れないから、安全だと説明した、
魔導本に、お金を入れると、入れたお金の貨幣魔導回路を魔導本が記憶し、お金の魔軽金属はそのまま、魔導本に吸収される。
取り出す時は、魔導本が、記録された貨幣魔導回路の分だけ製造されると説明したら、
スグルさんは、どのくらい入るのと聞いてきたから、僕は、
無限、
って答えたら、スグルさんは、
質量保存の法則が、重さがとか、分け解らない事を叫び、
ちなみに、僕が、そのカードの、魔導本に500万RGが入ってますよと言ったら、
スグルさん、ビックリして、
スグルさんが信じないから、僕は彼に取り出し方を説明したら、カードから見事な100万RGの硬貨が5枚出て来た。
スグルさんは、真剣な顔で、その硬貨を見ていた。
昔の魔導本と違って、お金投入口の有る、最新型の魔導本は便利だ、魔導本だけで支払が出来る。
此のシステムは、まだ、バルセリアでは普及していないけど、ポワジューレでは、殆どの人が此の魔導本を利用しているんだとか。
ポワジューレに行った事ないから、真偽は分からない、噂だ。
魔導回線の発明で、世界中の魔導本と魔導本が繋がり、
世界は、貨幣魔導回路の取引が活発になった。
例えば世界中で、これから人気が出そうな商品を、たまたま魔導本で知り、直ぐに購入しようとすると、
今迄は、その製造している場所に行き、直接、お金を払わないと買えなかったけど、
今は、相手の魔導本に貨幣魔導回路を送れば、購入にした事になる、
勿論、商品を受け取る事も出来るけど、その商品を預かって貰う事も出来る。
そして、その商品の相場が高くなった時、欲しい相手に売れば、儲けが出る。
そう言う、新しい商売方法が、
魔導回線により、生まれ、
だから、今は、魔導本が有れば、何処でも商売が出来る、そう言う時代になった。
僕も、卒業した後の事を考えて、少ない小遣いを貯めて、試しに商売を始めてみた。
其は、自分の実力と、将来の自分に対してお金を使う事の意味を知る事、其が、僕の勉強だ。
扱ったのは、ほんの小さな雑貨、けれど、その雑貨は、直ぐに人気が出てきて、世間で品薄の噂が起きた時、僕は魔導本で、その雑貨を売りたいと、情報を流したら、即日に売れて、僕は少しの利益を得た。
勿論、商品を売るのには値付けは重要だ、原価、経費、利益を考えて、慎重に値段を設定する、儲け過ぎてはダメだ、信頼を失う、安す過ぎてもダメだ、人は偽物と疑う。
今回は、試しだ、僕は、ぎりぎりの利益で、売買した。
そして、その結果、
多くの顧客から、信頼を得て、
僕は、その顧客達から多くの情報を得た、
その一つが、『闇のオークション』だ。
4月8日の力曜日に、僕は『アルスパイナの角』をスグルさんから貰った。
そして、オークションの事を思いだし、『アルスパイナの角』、2本を魔導輸送便を使って、公都のオークション鑑定に送ったのが、9日の磁曜日、
次の日の10日の錬曜日に『アルスパイナの角』は本物の認定証を貰い、そのまま、オークションに出品した。
そして、
4月13日の闇曜日、の夜の12時、
僕の魔導本に3000万RGが振り込まれ、
その日、僕は、金持になった。