力の真実
鬼の形相をしている僕が、ガルホール・スターゲスを何度も、殴り付けていた。
僕は、泣きながら、もう止めてくれ!
止めてくれ!
と、必死に僕の腕にしがみついて、叫びながら、僕を止めようとしていた。
だけど、僕は、僕を止められなかった。
ガルの頭は砕け、もはや、彼は動いていなかった。
僕は、
僕は、
彼を、殺してしまった!
取り返しの付かない事をしてしまった!
僕は、絶叫し、泣きながら、
目を、覚ました。
目を覚ました、僕の目の前に、一人の男の人が立っていた、
蒼みがかった短い黒髪は清潔感のある緩いパーマに固めていないサラサラとした艶の有る髪、無精髭、瞳は濃い群青色、そして、鍛え抜かれた、肉体の持ち主、
いや、違う、彼は、小太りの体を揺らしながら、僕の前に来た。
僕は、彼を知っている。
「目が覚めたようだね、ハル君」
僕は、涙を拭いながら、
「スグルさん、僕は、・・・此処は?」
「此処は、俺の宿舎だ、まぁ、取り敢えず、此を、飲みたまえ、気持ちが落ち着く筈だ。」
スグルさんは、僕に暖かそうな、緑色の液体が入ったカップを差し出した。
僕は、そのカップを受け取りながら、
「此れは?」
スグルさんは、笑顔を浮かべながら、
「其は、俺の前にいた世界で、お茶と呼ばれた飲み物だ。」
「お茶?」
僕は、一口、その飲み物を口に含み、ゆっくりと喉に流しこんだ。
味は少し苦く、でも、その苦味が、僕の体の中に、静かに溶け込み、苦味と引換に、爽やかな気持ちが波紋のように、ゆっくりと僕の体に広がって行った。
その爽やかさが、僕の、胸から込み上げてくる、絶望と後悔と苦渋の怨念を、少しずつ、和らげてくれるような気がし、
僕は、残りのお茶を一気に飲み干した。
落ち着いた僕は、回りを見渡し、その時、初めて、白いインテリアの広い、キッチンだけ有る部屋に気づいた。
此が、スグルさんの宿舎、
そして、僕は、部屋の中央の、寝具に寝ていた事を知った。
「此れは?」
スグルさんは、頷きなから、
「そりゃ、俺の寝床だ、部屋潰して広くしたから、客用の部屋とか、ベッドとか無くてね、そのうち、ベッドになるソファが来る予定なんだけど。」
ベッドになるソファって、確か、父さんが注文を承けたって、聞いてたけど、まさか、・・・スグルさん?
そんな事より、ガル!
ガルホール・スターゲス!
彼はどうなったんだ?
「スグルさん、僕は、確か、A組のガルホール・スターゲスと試合してた筈なんだけど、彼は、彼はどうなったんですか!」
スグルさんは、暫く、僕を見た後、首を振りながら、
「嘘を言っても始まらない、真実を話そう、ハル君、君は、ガルホール君の顎を砕き、彼を殺そうとした。」
・・・
僕が、
僕が、ガルの顎を砕いた!
彼を、殺そうとした!
僕が、
「だから、俺は、君が使っていた、『星の力』を止めた!」
スグルさんが、
僕の、『星の力』を止めた、
・・・
・・・
「僕は、ガルに大怪我を負わせたんですね、」
スグルさんは、真っ直ぐ、僕を見詰めながら、
「そうだ、一応、彼は、俺の力で治療はした、だが、あの時の君は、もし、俺が居なかったら、俺があの場所に行くのが遅れたら、君は、彼を殺していた。」
僕は、
僕は、
ガルを、
殺していた!
夢は、正しかった!
僕の、心の内から、後悔と苦渋の念が込み上げて来て、僕は、顔を両手で覆った。
「僕は、僕は、あんな危険な力を使っちゃいけなかったんだ!!」
僕の声は、か細く、震えていた。
ハル君は、震えながら、顔を両手で覆い、
「僕は、僕は、あんな危険な力を使っちゃいけなかったんだ!!」
その声は、小さく、震えていた。
あんな危険な力、
そうだな、『星の力』は、決して、使った者が幸せに成る力とは、限らない。
力とは、所詮、そんな物だ、
力を幸せに使うかどうかは、使った者に託される、
使い方を間違えれば、多くの者を巻き込み、多くの者を不幸にする。
俺は、ハル君の前に、座った。
ハル君は、顔を上げて、俺を見た、そして、俺に、怒られる、そう言う、顔をしている、
俺は、首を振った、
「スグルさん?」
「君が、『星の力』を独学で学び、そして、その力を魔導格闘技大会に使った事に対して、非難する気は無い。」
ハル君は驚いて、
「えっ?」、顔に驚きの表情が出ている、
俺は、彼に、世界の真実を、力の真実を話す事にした、
そして、俺の話しを聞いて、
その話しを聞いて尚、ハル君が、
どう言う道を選ぶかを決めるのは、
彼、自身だ。
運命の選択は、自分自身で決めなくてはいけない。
俺は、静かに語る、
「此れから、君に話す話しを、ハル君、君が信じるか、信じないかは君の自由だ、その上で、君がどうするかは、君、自身が決めるべきだ。」
ハル君は、此の前置きに、更に驚き、俺は、其を無視して、話しを続けた、
「だから、君に此の世界の力の真実を話そう。」
「力の真実?」
俺は、頷く、
「そうだ、力の真実だ。」
俺は、二千年前を思い出す、
「二千年前、世界は今のように魔素は無く、『魔導』等、存在してはいなかった。」
「その力無き世界の、唯一の力が、星に見出だされた者だけが使える、君が使った力、星から与えられた力、『星の力』だけだった。」
ハル君は、唖然として俺を見る、
「星に見出だされた者を、俺達は、『星に愛されし子供』と呼んだ。」
「『星に愛されし子供』!」
ハル君は、その言葉を噛み締めた、
「だから、人には、力の選択権は無い、与えられた力を拒む事も出来ない、全て星が決める世界、星に世界が、人生が、運命が左右される世界、其が、此の世界の二千年前の真実」
俺は、話しを続ける、
「星達の世界、俺達はその世界を『星界』と呼び、その『星界』には、全て異なる幾万の『星』が存在し、其と同じくして、全て異なる幾万の『星の力』が存在する。」
「更に、悠久の時を、生きている星々達は、気紛れだ、だから彼等は、俺達に幾万の力の中で何時も決まった力を、人々が望んだ力を、与えてくれる分けでは決して無い、」
俺は、言葉を区切った。
「彼等は、彼等の都合で、『星に愛されし子供』にその力の一つを与える。」
「例えばある者は、知恵を、ある者は時を、ある者は、早さ等の力を授かり、俺は『剣』の力を授かった。」
此処までを、俺は一気にハル君に説明し、ハル君の表情を見た。
力の真実を知ったハル君は、愕然としている。
暫くして、彼の口から、
「幾万の力の中の一つって!じゃ、スグルさんは、僕が、僕がどんな力を授かったか知らないのですか?」
俺は頷きながら、
「はっきり言って、知らない。」
「そっ、そんな事って、」
狼狽している、ハル君に、俺は、更に話しを続ける、
「『星に愛されし子供』に、力を与えた星は、子供の『守護星』と呼ばれる。」
「『守護星』!」
ハル君は、俺の話しを信じ始めていた、自分に力をくれたのが、星界の一つの星であり、その星が『守護星』と呼ばれている事を、
ハル君は、俺を真剣に見詰めながら、
「じゃスグルさん、僕のその『守護星』は、一体、何の星なんですか?」
俺は、また首を振った、
「済まない、それも、俺には分からない、ただ、ヒントは有る、君の『守護星』は、君に話し掛けている筈だ。」
ハル君は、暫く、考え始めたので、俺は、話しを一旦、中断した。
静かに、時が過ぎる。
「星が、僕に話し掛ける、・・・あっ! ・・・もしかして、試合中の、あの、・・!『闘エ、命ヲ削ッテ闘エ!』って言った声が、!!」
ようやく、ハル君は、気が付いたようだ、
「その声は、俺も聞いた、ハル君にも聞こえたなら、たぶん、君の『守護星』の声に間違いはない。」
俺は、星界を見上げなから、
「ただ、その声が、聞こえた時、直ぐに、『星界』を見上げたんだが、幾万の星の中のどの星が言ったのかは、俺にも分からなかった。」
「・・・そうなんですか、・・・スグルさんにも、・・・分からなかったんですね。」
ハル君は、ガッカリして、項垂れている。
さてと、此処までが、前説だ、此処からが本題、俺は立ち上がり、キッチンに向かった。
そして、キッチンに有るポッドのお茶を、俺のコップに注ぎ、
「ハル君、もう、一杯、お茶を飲むかい?」
ハル君は、首を上げて、
「えっ、はい、お願いします。」
「じゃ、その持ってるコップを此方に持って来てくれ。」
「あっ、はい、えっ?」
ハル君は、立ち上がろうとした、だが、立ち上がる事は出来なかった。
「立ち上がれない!何で?」
・・・やっぱり、まだ、彼は回復してはいない、
俺は、俺が食べようと思っていた、ハンバーガーとポッド、其と、俺のコップを持って、ハル君の前に、再び座った。
そして、ハル君のコップにお茶を注ぎながら、
「ハル君、此は、俺が作った、ハンバーガーって言う種類の、サンドイッチだ、試しに、君は此を食べてみないか。」
ハル君は、また、ビックリして、
「えっ、良いんですか?」
「たぶん、此を食べたら、君は直ぐに元気に成る筈だ。」
ハル君は、疑わしい、顔をしながら、ハンバーガーを受け取って、
「じゃ、試しに、一口、えっ!!!」
ハル君は、一気に、ハンバーガーを頬張り、飢えた子供のように、ガツガツと食い散らかしながら、肉を、パンの木実を野菜を頬張っていた。
「不思議ですねぇ、何か、本当に元気が出る気がします、スグルさん。」
「そりゃ、良かった、そのバンズも、野菜も『星に祝福されし穀物』なんだ、『星の力』の回復に効果が有る。」
ハル君は、驚いて、
「えっ、そうなんですか、凄い!」
さてと、俺は食べ終ったハル君に、俺は言わなければならない、
「『星に祝福されし穀物』の効果が有ると言う事は、君は、やはり『星に愛されし子供』だ。」
俺は、此処で、言葉を止める、そして、
「もう一つ、重要な事は、『星に愛されし子供』は、星から使命を託される、だから、『星の力』を与えられる。」
ハル君は、キョトンとして、
「星から使命? ですか?」
「勿論、君の対戦相手を殺せと言うような、単純な話しじゃない、もっと、深い、人生、全てを掛けた使命で有り、意味だ、」
ハル君は、意味が良く分からないって顔で、
「何か、漠然として、じゃ、スグルさんにも使命があったんですか?」
いよいよ、ハル君に俺の事を話す時がきた、
「あったと思った、昔、俺は星の使命を達成する為に、『星の力』を鍛え、その日の為に準備をしてきた、『星に愛されし子供』は、皆、その使命を達成する事が人生の全てになる。」
ハル君は、俺の話しを、黙って聞いている、俺は話し始めた、
かって、『剣の皇帝』と呼ばれた事を、此の世界に『魔の神』が生まれ、その神を眠らせる事が、俺の星から託された使命であった事を、
俺は、その使命を終え、その時の代償に、『力無き世界』に飛ばされた事を、
そして、再び、此の二千年後の世界に戻ってきた事を、
「じゃ!スグルさんは、二千年前の過去の人何ですね!!!」
俺は、頷く、
「そうだ。」
「信じられない、」
俺は、ゆっくりと言う
「最初に言った、信じるか、信じないかは、君が決める事だ、俺は、俺の真実だけを、話すと」
ハル君は、何も言わず、俺を見ている、
「託された使命から逃げたり、使命を達成、出来なかったりした時、何が起こるかは、誰にも分からないんだ。」
俺は、はっきりと言う、
「その代償が、世界の破滅かもしれない、最愛の人の死かもしれない、廻りの人々の命かもしれない、」
ハル君は、驚いて、
「世界の破滅ってじゃ、エミリアも、ジェミオも死ぬって事!!!」
俺は冷酷に、ハル君に告げる、
「可能性の一つだ、少ない悲劇なのか、大きな悲劇なのかは、誰にも分からない、一つ分かっている事は、」
「星は、その悲劇を食い止めようとして、君に力を与えた、」
「だから、君に力を与えた星は、君を守る為の星、」
「『守護星』と呼ばれている!!!」