星に喰われし者
2035年4月7日 火曜日
その夜、星の騒響で、俺は目を覚ました。
飛び起きた俺は、直ぐに宿舎の外に出て、星界の夜空を見上げた、
此の世界の星々は、スグルの世界の夜空の星と違う、
星々には力が有る、その星達が騒いでいる、何故だ?
俺がそう思った瞬間、星界が、
グルン!!!
えっ!
俺の視界が歪んだ、
星が歪み、高速に動く、
北の一つの星を中心に、
バカな!!!
此の世界の星は、
決して、動かない!!!
何故、動くんだ!!!
更に、北の星を中心に、
大きく輝く、七つの星が、
一際、輝いて、回転している!
星よ!!
お前達は、何を、俺に伝えようとしている!!!
星達は、答えない、
星達は、
何れくらいの時間が経った?
既に星の動きは、止まっている。
星界は大きく変化した、以前と違い、北の星と他の七つの星が、大きく輝いている。
あの星は、何を意味するんだ?
俺は、星達の事は、気になっていたが、時間は、真夜中、まだ、眠いし、ずーっと『星隠し』を発動している俺の疲労は半端無い、
仕方無いから、もう一度、宿舎に戻って、寝る事にした。
まぁ、難しい事は、明日、考えよう、
俺は、そう考えて、宿舎に戻り、
床に敷いて有る、寝具の中に入った。
早く、ソファベッド来ないかなぁ、と、俺はあくまでも、呑気に考えて、また、眠りについた。
次の日、4月8日 力曜日、俺が此の世界に来て、17日が経った。
今日は、バルセリア魔導高等学校で、始めての魔導格闘技大会が開催される。
競技に出場するのは、魔導科の生徒、審判や運営をするのが魔導工学科の生徒。
そして、沢山のロートス社の技術者や社員が、此の学校に来ている。
だから、俺は、エルさんから、学校の警備を任された、そう言うのも学校作業員の仕事なんだとか、
まぁ、俺のような、見掛けがトロそうなデブに、警備なんて似合わないけど、
どっちかって言うと、アルバート先生の方が似合ってる。
だけど、アルバート先生と学長は、何でも、急遽、此の学校に来る事になった、ロートス社の偉い人の相手で忙しいんだとか。
大変だねぇー、
ロートス社って言えば、今日、開催される、魔導格闘技大会のスポンサだ。
今、魔導科の学生が、ロートス社から提供を受けた、魔導防護服を着て、昨日、俺とマーキで作った、臨時更衣室から出て来る。
勿論、俺は、目立たない処で、何か問題がないか、彼らを監視している、
決して、スタイルの良い、コスプレの女の子達を見ている分けじゃない、
・・・ちょっとは、有るけど、
其に、俺は、普通に『星隠し』を発動しているから、生徒は、俺の存在を認識しずらい筈だ。
今のところは、大きな問題も無く、ちょっとした、いざこざを注意したり、女の子に絡んでるヤロウを、厳重注意したり、
そんな処だ。
まぁ、あのコスプレのような格好で、気分的に高揚し始めているようだけど、ローラの言ってる事は、正しかった。
俺だったら、恥ずかしくて着れないけど、この子達は普通に喜んで着ている、
まぁ、たぶん、文化の違いだな。
昔、スグルの世界でも、過去の女子の体操服のパンツを、現在の女の子達は絶対着ないってな事が、あったし、
だから、ロートス社の偉いオバチャンが、此の魔導防護服を皆に、試合の後、呉れるって言ったら、全員が大騒ぎしていた、
どうも、此の魔導防護服の価値が分からないのは、俺だけだったようだ。
其に、俺は知らなかった、此の魔導格闘技にとって、魔導防護服が凄く重要である事を、
スポーツの格闘技って言うから、俺は、スグルの世界のレスリングや柔道を想像していたんだけど、実際は違った、
その事は試合が、始まって、直ぐに分かった。
魔導術が、凄く危険な事を、
見えない力で、殴り合う、その破壊力は半端じゃ無い、瞬間に吹き飛ばされていたり、潰されたりして、物凄い事になっていた。
魔導術で、あんな事も出来るんだと、俺は感心した、
確かに、魔導防護服が無ければ、大怪我をする、
先生達が、教えたく無いのも、学長が反対したのも、充分、分かった。
学長は、嵐の話しをそっちのけで、怪我だけは、しないでくれと言っていた。
そりゃ、言うなぁ、ありゃ、普通だったら大怪我だし。
特に、魔導術が旨く成り始めている3年生の試合は凄かった。
飛んだり、跳ねたり、投げ飛ばしたり、狭い空間を思いっきり使って、殴り合ってる。
ガス抜き、
そう言う事か、
力を知り始めた、子供達は危険だ、力の恐さを知らないからだ、
だから、此の学校の先生達は、子供達に力を使わせる事に慎重になる、
しかし、子供達は違う、特に、大人と子供の、間の子供達は、自分の力に酔いやすい、
だったら、力を使わせ無ければ良いと、考えがちだが、此の世界で生涯、力を持つ者が、力を使わないで生きて行くなど、不可能だ。
其に、力を使ってみたいと言う気持ちを無理に押さえて、其が、何処かで爆発したら、
俺の宿舎を壊すレベルなら、まだ良い、其が、本当に、大怪我に繋がったら、人を、他人を大怪我させたら、した子も、された子も、子供達の将来はめちゃくちゃになってしまう。
だからこそ、膨らんだ欲望を、安全に抜く必要が有る、
其が、ガス抜き。
アルバート先生は、此の学校の子供達の問題点を理解していた、
何故、学校が荒れていたのかも、分かっていたのかも、知れない。
だから、此の大会を開催する事に反対した学長を、説得出来たのかも知れない。
そして、学長も、危険性を理解しているから、ロートス社に頭を下げて、魔導防護服を借りてきたのかも知れない。
成る程、此の学校は、少しずつ良くなってる、
俺が、そんな事を、ちらほら考えていると、
荒ぶる星の声が、
『闘ェ!!』
えっ!
今のは?
俺は、天を、星界を見上げた、
俺に、闘えと言うのか?
残念だな、今日の闘いは、子供達の闘いだ、俺は参加しない、
俺は、星に、そう答えた。
星からは、返事がしない、
俺は、星を気にしながら、会場の警備に戻った。
午前中で、全学年の一回戦が終わった、3年生の試合も、何とか、人数が半分になり、一先ず、お昼休憩になった。
お弁当を食べる生徒、食堂に行く生徒、先生達も食堂に行った。
俺は、警備の為、魔導修練棟に残る、ロートス社のスタッフも、此処に残って、何か、サンドイッチのような物を食べている、
学長とエルさん、アルバート先生は、来賓用の食堂に行った、たぶん料理長のボーゲン・ハーグナがすっげえ旨い、特別料理を作って、出すんだろうなぁ、アイツ、腕は確かだから。
お昼の警備も、前日にエルさんから言われてたから、俺は、昨夜、寝る前に、スグルの世界の、あの、ファーストフードの代名詞、ハンバーガーを二個作ってきた。
バンズは、星のエッセンスで育った、パンの木実を使っている、肉は、ケティちゃんが、毎日、狩りしてくる、カモシカちゃんの肉だ、
その肉を包丁で細かくして、ちぎったパンの木実を混ぜて、塩と調味料で味付けして、焼いたハンバーグと菜園の野菜を挟んだ、
自家製のハンバーガー。
まずは、一個、
いただきます!
肉汁がジュワー!!
バンズがサクサク、
うん、旨い!!!
バンズと肉のコラボが少し濃い味付けになってるけど、其処に、野菜が、肉の味の濃さを打ち消している、
だから見事なくらい、落ち着いた旨さが、味わえる、
そんな、一品のハンバーガーだ!!!
自画自賛だけどね。
でも、旨い事は、旨い。
何か、ロートス社のスタッフも此方見て、物欲しそうな顔している。
残念だが、君達に上げられる程、作って無い、其に、此れには、星のエッセンスが入っているから、君達には合わないんじゃないかな。
俺は、星のハンバーガー、一個で満足したので、残りは、後で食べる事にした。
そして、午後から二回戦が始まった、俺は、試合が半分になったから、楽になると思っていたたけど、其れは、間違いだった。
三年生の半分が、場外で応援を始めるんだけど、熱くなってるから、至る処で、場外乱闘が始まる。
なんせ、彼等は魔導防護服を着ているから、直ぐに、闘いたがる、俺と、先生達は、その乱闘が大きくなる前に止めようと、
その為、必死に、三年生の試合の間を走り回った。
その為、一年、二年生の試合は、工学科の生徒に任せっきりになってしまった。
そして、
二回戦、三回戦が終わり、
四回戦が始まった時、
その事件は、
起きた!
「スグルさん、スグルさん此方です!」
シャーリン先生が、俺を呼ぶ、
俺が、急いで、シャーリン先生の処へ行くと、
「ざぁけんなよ!てめぇらが弱いんだろうがぁ!!」
「ばっきゃろ!勝ってんのは此方だって言ってんだろうがぁ!!」
うん、実に元気で宜しい、
「ええ、君達、君達、審判の判定には従って下さいね!」
「なあにぃ!ぇ?」
はい、右手でちょん。
騒いでる生徒は、お休みなさい。
シャーリン先生が驚いて、
「えっ?ス、スグルさん?」
俺も最初は、時間を掛けて落ち着かせていたんだが、もう、あまりにも騒ぐ生徒が多くて、今じゃ、とんで、五分位は寝て貰ってる。
「なんか、寝ちゃいましたね。」
「寝ちゃったって、大丈夫なんですか!スグルさん!!」
「大丈夫ですよ、五分位したら、興奮が覚めて、落ち着いて目を覚まします。」
シャーリン先生は、ビックリして、
「其って、スグルさんの魔導術なんですか?」
「はい、『びっくらポン』て言う魔導術です。」
シャーリン先生、目を丸くして、
「びっくらポン?」
「はい」
『闘エ!!!』
「えっ?」
シャーリン先生は、俺が驚いた事に、
「どうしたんです、スグルさん」
俺は彼女を無視して、星界を見上げる、
何だ?
瞬間、憤怒の星が怒鳴る!!
『命ヲ削ッテ闘エ!』
バカな!!
命を削れだと!
お前達は、誰に言ってんだ!!
その瞬間、魔導教練棟に、暗翠黒の光が沸き起こる!
俺は、魔導教練棟を『星の瞳』で見渡し、発生源を探した!
俺は見た、
背は百七十前後、優しい顔をどす黒く濁らせ、黒い髪、黒い瞳は暗翠黒の光に包まれた二年生を、
ハルチカ!!
バゴォオオオオオオオオンン!!!
ハルチカは、相手の顎を砕き、
俺は、『星の力』を発動させた、
ハルチカの対戦相手は、ハルチカに怯え、巨大な炎の術球を発生させていた、
その前に、立つハルチカは、左手に暗翠黒の光を集め、
殺すきか!ハルチカ!!
俺は、ハルチカの前に立ち、
「もう、止すんだ、ハル君」
そう、言いながら、俺は彼を『星隠し』で包み、
命を喰らう、星々から彼を隠した。
星々は彼を見失い、命を喰らう、『星の力』を彼に送る事は出来なくなり、
ハルチカは絶叫し、血反吐を吐いて、気絶した。
そして俺は、ハルチカの対戦相手の顎を治し、気絶した彼を抱えながら、
俺の宿舎に戻った、
途中、マーキが、興奮して揉めてる3年生達に挟まれてあたふたしていた、
「えっ、スグルさん! 何処へ行くんすか!」
俺は、抱えたハルチカを指しながら、
「ゴメン、俺は彼を介抱しなくちゃなんない、後は頼む、マーキ。」
「えっ、ええええええ!!!」
教練棟に、マーキの絶望の悲鳴が響き渡った。
うん、本当にすまない。