初めての闘い
その日、バルセリア魔導高等学校では、開校以来、初めての魔導格闘技大会が開催された。
そして、僕こと、ハルチカ・コーデルは実戦に、初めて『星の力』を使った。
相手は、A組の、
ドナプ・レスタード
本当に普通の魔導科の生徒だ。
勿論、A組だから、僕よりは魔導術は上手い。
前の組の試合が終わり、5分間を挟んで、審判の魔導工学科の生徒が僕とドナプの名前を呼んだ。
僕は自分の試合の番が来る迄、『星の力』を直ぐに使えるように準備をしていた、
天より、降り注ぐ、『星の力』は僕の体の中央に集まり、その力を、僕は5当分にして、一つは瞳に、二つは両手に配置し、残りの二つは両足に配置した。
その状態で、僕は格闘範囲に入った。
彼は、既に格闘範囲に入っていて、その瞳は、僕がC組だから、魔導術が不得意で、この魔導格闘技も弱い、そう言う奴だろうと決めている、瞳だった。
そうだ、君は正しい、たぶん、魔導術では僕は君に敵わない筈だ、
僕が、防御の『力』を発動しても、君はその防御を打ち砕く『力』で攻撃して来る、
防御は役に立たない、そして、僕の攻撃も彼の防御に阻まれて、僕は君を攻撃する事も出来ない、
ドナプは、そう考えている筈だ。
彼は、僕の考えを呼んだかのように、笑っていた。
僕は、目を閉じて、呼吸を落ち着かせた、大丈夫、僕は、大丈夫、と
その時、審判が、言った。
「始め!!!」
その瞬間、僕は、目を開き、
瞳に、『星の力』を、発動させた!
世界は変わる、音は消え、見えない世界が見える、
ドナプの、力がハッキリと見える、
彼は、右手に真っ赤な巨大な50センチの棍棒を持ち、左手に真っ赤な体を覆う程の盾を持っていた!!
凄い!
此が、A組の実力!
僕は、オレンジの木の枝のような棒と薄い50センチ位の盾を持っているだけ、
魔導術が視覚化された世界、
そして、初めて知る、実力の差!
僕は、何もする事が出来ないまま、
彼が、巨大な棍棒を振り回しながら、迫って来るのを見ていた。
『闘ェ!!』
誰かが、僕を応援してくれている、そんな気がした。
そうだ、戦わなくちゃ、
僕は、ドナプの攻撃を防ぐ為に、
左手の盾で、彼が降り下ろしてきた、力の棍棒を受け止めた!!
バリイィイイイイインン!!!
音が聞こえた、
僕の、力の盾が割れる音!!
更に、棍棒は、僕の左腕を打ち砕くように、降り下ろされ、
グゥワアアアアアアア!!!
激痛が左腕に走り、僕は悲鳴を上げながら、吹き飛ばされた!
吹き飛ばされた僕を、格闘範囲の魔導線が受け止め、その頃には、僕の腕の痛みは消えていた。
防護服の魔導術が稼働して無いのか?
違う、痛みは直ぐに消えた、
じゃ、何故、激痛が起きた?
・・・『星の力』?
僕の感覚が、倍になってるから、普通じゃ意識しない、痛みも感じるとか?
防護服の魔導術が、激痛が起きる前に発動出来ないとか?
審判の工学科の学生が、心配して僕の処へ来た。
「大丈夫? 棄権する?」
僕は、立ち上がりながら、答えた、
「あぁ、大丈夫、ちょっと、ビックリしただけ、」
審判は、安心して、
「そうなのか、驚かさ無いでくれよ。」
そう言って、僕の処から離れ、彼は、ドナプを指して、
「1ポイント!」、と宣言した。
ドナプの目は、笑っていた。
所詮、C組、次で終わりだ、そう語っている瞳だった。
ふぅ、僕は息を整えた、
『星の力』には、欠点も有った、感覚が上がる事は、利点と欠点も存在する、
例えば、喧嘩をしてお互いが、殴り合う場合は、多少、鈍感な方が、恐怖心無く、相手を殴る事が出来る、
しかし、痛覚が敏感な場合は、恐怖心が先に立ち、相手を攻撃する事が出来ない、
今の僕は、そんな気持ちだ。
あの、一撃が怖い、またあの一撃を受けたら、
審判が、手を上に上げて、素早く下ろした。
「始め!」
再び、僕は瞳の『星の力』を発動し、迫り来る、ドナプを見た。
その瞬間、ドナプの動きは、ゆっくりとなり、彼の右手の力の棍棒がハッキリと見える、
彼は、僕の事を完全に見くびっていた。
その動作を隠す事無く、彼は僕に近付き、その巨大な棍棒を再び、僕に降り下ろそうとした、
僕は、更に瞳の『星の力』を強めた、
ドナプの動きが止まり、僕も同じく、手も足も動かす事は出来ない、
彼の攻撃を防ぐ事は出来ない、でも避ける事は出来る、
僕は、右足の『星の力』を使い、30センチ右に移動して、
『星の力』を、切った瞬間、
右手を思い切り振った!
スパーーーーンンンンン!!
僕は、右方向に吹き飛びながら、
ドナプの、がら空きの胴に一撃を入れていた。
バーン!!
吹き飛んだ、僕を魔導線が受け止める、
「えっ?」
審判が驚き、ドナプは力が空を切った事に唖然として、僕を見ていた。
魔導線に持たれている僕に、審判が近寄り、
「自分に、力を使ったの?」
僕は、立ち上がりながら、
「まぁ、そんな処、・・・反則じゃ無いだろ、」
審判は、頷きながら、
「まぁ、反則じゃ無いけど、」
彼は、中央に戻って、僕を指しながら、
「1ポイント!」、と宣言した。
ドナプは、悔しそうに、僕を睨む。
此で、僕は三回、『星の力』を使い、
疲れが、徐々に体に蓄積して、僕は肩で息をしながら、額の汗を右手で拭った。
ドナプと僕は、一勝一敗で並んだ、
次が三回目の闘い、一回戦の最後の闘い、此の闘いで決着が着く、
勝った者が二回戦に進む。
審判が手を下ろし、「始め!」、と言った。
ドナプは、また右手を振りながら、僕に近付いて来た、
僕は再び、瞳の『星の力』を発動した。
えっ!
ドナプの右手は、巨大な盾、彼は盾を降り下ろすように見せ掛け、
左手に巨大な棍棒、更に、左腕には大きな盾
ドナプは、三つの力を同時に発動していた!
此が、A組!!
彼は、持ち手を逆に変えて、更に、フェーク迄、混ぜて来た、
もし、僕に『星の力』が無かったら、僕は絶対に、彼には勝て無い、
ドナプは、其れ程の実力者だった。
さて、どうする、僕、
『星の力』は、後、一回が限度、さっきのように、避けながら攻撃しても、右手の巨大な盾と左腕の盾に塞がれて、通じない、
隙があるのは、彼の正面だけ、
ドナプは、右手を振りかざしながら、左手を素早く動かす、
もう、迷ってる場合じゃ無い!
僕は決意した!!
左手に、『星の力』を発動し、彼の巨大な力の棍棒を受け止める!
僕の左腕が、薄く翠色に輝き、僕は高速に腕を前に出し、
バッガアアアアアアンンン!!!
僕の左腕とドナプの力の棍棒が激突し、格闘範囲に力が砕け散る音が響き渡る!
「えっ?」
「わっ?」
「うん?」
ドナプが、審判が、副審が、ビックリして、声を出し、
その時、僕は、僕の右手の力の枝で、思い切り、ドナプの頭をひっぱたいた!!
スパーーーーーンンンンンン!!!
本当に軽い音が、鳴り、
「えっ!」
審判がビックリして、僕を見た、
ドナプは、呆気に取られて、僕を見ている、
僕は、限界に近く、片膝を付きながら、審判に、
「えーと、1ポイントだよね、審判」
審判は、我に返って、
「あっ、そうだと思うけど、何があったの?」
僕は、ゆっくり立ち上がり、汗を拭きながら、
「僕も、分かんないけど、彼の魔導術の力が、上手く可動して無かったんじゃないのか?」
審判は、ドナプを見ながら、
「そうなの? ドナプさん。」
審判は、ドナプの事をさん付けで呼んだ、やっぱり、彼は有名人なのか?
彼は、暫く考えた後、諦め顔で、
「まぁ、そのようだ、ちょっと、調子が悪かったのかもしれない、」
審判は納得した表情で、
「じゃ、ドナプさん、貴方の負けで良いかな?」
ドナプは、頷きながら、
「あぁ、俺の負けだ、運も実力のうち、仕方無い。」
審判も、頷き返して、
「分かった、」
そして、僕の方を向いて、僕を指しながら、
「1ポイント、君の勝ち!」
君、審判は、僕の名前を知らない、
まぁ、当然だ、僕は此の学校じゃ、無名の存在だし、
「じゃ、お互い握手して、別れて、」
審判が、負けたドナプと握手するように、僕に促す、
此の、スタイルも、アルバート先生の提案で、北方共和国連合では、普通にする事なんだそうだ、
負けた人も、勝った人も仲良くって事なんだろか?
ドナプは、僕の手を握りながら、
「運が良かったな、ハルチカ、でも、二回戦、三回戦は運は通じないぜ、」
と、笑いながら、話し掛けてきた、
・・・やっぱり、僕は、A組には恨まれているようだ、
「まぁ、そうだね、」
僕は、軽く答えて、彼の手を離し、格闘範囲の外に出た。
「凄いな、ハル、あのドナプに勝ったのか!」
「ジェミオ、」
格闘範囲の外に出ると、ジェミオが僕の側に寄って来た。
「そんなに凄い奴なの?」
ジェミオは、呆れながら、
「ハル、君は、学校の事に興味無さすぎ、彼は、A組のナンバー2、『魔王ドナプ』って呼ばれてんだぞ!」
『魔王ドナプ』!
・・・恥ずかしく無いのか?
まぁ、僕には関係無いし、
「ハル、君はどうやって、『魔王』に勝ったんだ?」
僕は魔導修練棟の隅の壁の近くに座りながら、
「運が良かった、彼が、何か、魔導術に失敗してくれて、その隙に、彼から追加の1ポイントを取った。」
ジェミオも、僕の横に座りながら、
「へぇ、『魔王』が魔導術の失敗って、珍しく無いか?」
僕は、ジェミに首を振りながら、
「彼も人の子、僕が彼の攻撃を避けて1ポイント取った時、結構、興奮してたから、その後、魔導術が失敗して、其れで僕は、連続2ポイントを取る事が出来た。」
ジェミオは、納得して、
「成る程、格下のハルに1ポイントを取られて、気が焦った、確かに有るっちゃ、有る!」
ジェミオは、不思議そうに、
「でも、ハル、君って、魔導格闘技、得意だったっけ?」
僕は、ジェミオに向かって、笑いながら、
「まさか、此の一週間、避ける練習を沢山した成果さ、真っ直ぐに近い攻撃なら、だいたい避けられる。」
ジェミオは感心して、
「へぇ、凄いね、ハル。」
「まぁね、其より、ジェミ、君はどうだった、一回戦敗退?」
ジェミは、得意そうに、
「聞いて、驚け、ハル、僕も、一回戦は勝った!」
「・・・えっ!」
「その驚き、失礼じゃないか、ハル!」
だって、運動があまり得意じゃない、ジェミオだよ、何で、君が一回戦を勝ち抜ける事が出来るの?
「僕も、運が良かった、相手はBのコラス・トコナーって弱い奴、そして僕は何故か、そのコラスの攻撃が分かったんだ!」
・・・
えっ!
攻撃が分かるって!
『星の力』って事!!
「其れって、何か、特別な力が有るって事、ジェミ!」
彼は、笑いながら、
「まさかぁ、ハル、そんな都合の良い力なんて無いよ、何となく分かるそんな感じかなぁ、其れに、僕だけじゃ無いぜ、クラスの皆が一回戦、勝ってるんだ。」
「えっ!・・・クラスの皆が、・・・一回戦、勝ったの?」
ジェミオは嬉しそうに、
「凄いだろ、ハル、もしかして、団体戦の代表は、Aを差し置いて、我等が、Cになっちゃうんじゃないかなぁ。」
僕は唖然とし、
その時、僕の心には、
嫌な気持ちが過った。
皆が、強くなってる!
其れが、僕と関係が有るのか?
一体、どう言う事!
どんなに考えても、
その時の僕には、答えを導く事は、
出来なかった。