バルセリアの休日
入学式の、あの事件から三日が経った、2035年4月4日
俺は、最初の休みを、エルさんから教えて貰った時、此の世界に七曜日が、有る事を知った。
昔、『星の大国』の時代は、水、金、火、木、土、天、海が七曜日だった、近い星から、遠い星を曜日にしていた、
スグルの喪われた世界も、星が基準で、月、火、水、木、金、土、日と、月と太陽が入っていた、
此の世界は、『魔神の世界』だから、魔導が基準になっていて、摩曜日と呼ばれる。
スグルの世界の月曜日が、闇曜日、其から、火曜日、力曜日、磁曜日、錬曜日、雷曜日、最後に、休日の光曜日となるそうだ、
なんだか、光曜日が休日で、仕事が始まる日が、闇曜日って、まるで、ブラック企業の曜日みたいで面白い、
俺が、此の学校に採用されたのが、3月24日の火曜日、最初の休みの3月29日 光曜日は、まだ、学校の掃除と改装で休みが取れなかった、
その振替が、4月2日、磁曜日に、ローシィさんと農牧高等学校に苗木を買いに行った日となる。
その事で、俺が曜日を知らない事に気付いた、エルさんが、
4日の雷曜日の日に、明日、5日は光曜日、学校は休みである事を、俺に教えてくれた。
勿論、寮生がいるので、食堂は交替で振替の休みを取る事で、運営はしているが、先生達も外出するので、そんなに良い物は出ないそうだ、
だから、エルさんは、俺に、学校を綺麗にしてくれた、お礼として、明日、お昼をご馳走すると言ってきた。
俺達は立ち話をしながら、
「エルさん、そんな、気にする事無いよ、俺は仕事ととして、した事だし、」
俺、スグルの性格、あの東の小さな国の、遠慮がちな気質が残ってるから、一応、丁寧に断った。
エルさんは、俺に近付きながら、
「感謝してます!」
えっ?
「此の学校を救ってくれたのは、スグルさんです!」
救ったって、ちょっと大袈裟な、
「大袈裟なんかじゃ有りません!教摩省の方も、キャリーも、皆が誉めてくれたんです!!一週間前迄は、絶望しか無かった、此の学校を!!!」
そっ、そうなの?
「生徒達も、明るく成りました、先生達も、皆、スグルさんに感謝しています、・・・たぶん、」
うん、確かに、たぶんだよなぁ、
「兎に角、私は、個人的にスグルさんに御礼がしたいんです!」
お礼ねぇ・・・困ったなぁ、
「俺さぁ、その、異国人でしょ、つまり、何も持って無いから、休みが取れるなら、街に出て買いに行こうかなぁーって、思ってて、」
「ならば、私が、街を案内します!」
えっ!
「嫌、そりゃ、悪いよ、折角の休みなのに、」
「大丈夫です、其よりも、スグルさん、何方か、街を案内してくれる人、要るんですか?」
嫌、そんな人、いないけど、俺、今、相当、空腹状態だし、買い食いしながら、店を見て歩こうかなぁと、
「いないけど、その、」
「じゃ、明日、駅の前、9時で良いですね!」
えっ、駅にまた9時ですか?
ふと、正面の校舎の影から、ローラとマーキが此方を見てる。
?
マーキは、必死に、俺に向かって、手を下に下ろしている、
君達、あのなぁ、
エルさんの申し出をオケーしろって事?
・・・
まぁ、良いかぁ、エルさんもデブで大喰らいの俺を見たら、きっと失望するだろうし、
「分かった、エルさん、明日、駅に9時に待ち合わせ、」
エルさんは、満面の笑顔で、
「はい!」
時は、一日戻った、4月3日 錬曜日
「昨日、スグルさんが、女の人と駅にいたのよ!其も、朝の9時に、彼女、昨日の公都の記者の一人だった、一体、どう言う関係だと思う、マーキ?」
マーキと、ローラはお互い顔を見合わせて、
マーキが、思わず、
「エル姉、此で、五回目だよ、そんなに、スグルさんの事が気になるなら、直接、聞きなよ!」
直接聞く、聞いて、もし、聞きたくない答えが返ってきたら、私は、
「そっ、そんな事、出来ないわよ、だって、私、彼の事、興味無いし、彼が変に誤解したら、・・・」
この、言い分けも、一体、何回目?
バーン!!!
ローラが机を叩いた、
「やっぱり、此のままじゃ駄目だよ!エル姉!!エル姉はやっぱり、スグルさんの事が好きなんだよ!!だから、ハッキリと打ち明けた方が良いって!!!」
私が、スグルさんの事を、
好き!
「そっ、そんな事、無いわよ、あんなデブで、どんくさい人を、私が?」
マーキも、恐る恐る、
「エル姉、俺も、ローラの意見に賛成、エル姉、今日も、あのスグルさんの手紙の相手が女性だったから、すっげぇ、不機嫌だし、」
ローラは、私を指差しながら、
「良い、エル姉、エル姉は、もう23なんだよ!恋の一つや、二つあっても可笑しく無いって、だから、スグルさんにアタックしても、誰もエル姉の事、変には言わないって!!」
えっ!
私が、スグルさんに、
アタック!
そんな、恥ずかしい事!
「でも、アタックって、何をすれば?」
ローラは首を振りながら、
「まぁ、デートなら、いろいろ有るけど、そうねぇ、まず、食事を誘うのよ、エル姉、」
えっ、私が、スグルさんに食事!!
はっ、恥ずかしい!!
私は、顔を真っ赤にしながら、
「ローラ、女の私から、食事って、可笑しくない?」
バン!!
また、ローラが机を叩いた、
「エル姉!一つ忘れてる!!エル姉は、私達やスグルさんの上司だよ!上司が頑張った部下に食事を奢るのは、普通!!」
えっ?・・・そうなの?
「じゃ、エル姉、俺にも、奢って!」
「マーキ!あんたは良いの!!」
ローラが、マーキの耳を引っ張りながら怒ってる、
「兎に角、エル姉、明後日は光の日だよ、明日、絶対、スグルさんを食事に誘う!!分かった!!!」
「・・・分かった。」
こうして、私は、ローラとマーキに説得されて、スグルさんを光曜日の休日に、食事に誘った。
そして、4月5日 光曜日
朝、9時、バルセリアの駅の前の広場で、私は、スグルさんを待つ。
気持ちが高鳴る、
向こうから、スグルさんが来る、
彼は、蒼みがかった短い黒髪は清潔感のある緩いパーマに固めていないサラサラとした艶の有る髪、無精髭、瞳は濃い群青色、そして、体格は、スリムに引き締まっているように、見えた。
えっ?
私は、直ぐに、メガネを外して、目を擦った。
ゴシゴシ、
目の前に入るのは、太った魅力の無い、スグルさん、スグルさんは大きな袋を抱えている。
「いやぁ、早いですねぇ、エルさん、あっ、エルさんもどうですか?此、俺の朝飯。」
そう言って、スグルさんは紙袋から、サンドイッチを取り出し、食べ始めた。
・・・凄い食欲、
「ええと、私は、食べて来たから、」
「そう、モグ、モグ、モグ、モグ」
凄い、サンドイッチ、3つめ、
・・・食欲に、見とれた。
「エルさん、モグ、ほら、寮って、何も無いから、モグ、モグ、まず、家具屋から、モグ、モグ、モグ、お願いします。」
「えっ、はい。」
そうだ、スグルさんの宿舎は、子供達に壊されて、確か、備え付けの家具も一緒に壊されてしまった筈、
私は、スグルさんを、バルセリアで一番、大きな家具屋、パルトン本店に案内した。
バルセリアには、沢山の家具職人がいるから、良い家具が沢山有る、外国の商人も、家具の買い付けで、このバルセリアに沢山来る。
その、バルセリアで、一番の品揃えで有名なのが、パルトン本店。
スグルさんは、宿舎を改装して、個室を無くし、その為、今は床に直接寝ているので、寝台と寝具が欲しいんだとか、
其で、椅子にも、寝台にもなる家具、スグルさんが言う、寝椅子と呼ぶ家具があったら、と言っていた。
「・・・そう言う家具は、たぶん、ポワジューレ共和国には、有るかも知れませんね、しかし、当店には、生憎、」
売り場の担当者さんが、スグルさんの要望を聞いて、無いと答えていた。
スグルさんの要望する、寝椅子は背もたれが魔導機で動かす必要が有り、金属加工が必要だと担当者は説明していた。
確かに、バルセリアの家具は木工細工が売りだから、そんな魔導機を組み込むのは苦手かも知れない、
「もし、御予算が有るなら、オーダーも伺っています、職人に聞いて見ますか?」
バルセリア職人は、オーダー家具も得意で、結構、オーダーは人気が有る、
スグルさんは、予算を10万RGと担当者に告げ、担当者は魔導通信で、何人かの職人さんに聞いていたが、誰もその予算では、無理と断られた。
私とスグルさんが、諦めて、店を出ようとした時、担当者が、
「済みません、駄目元で、コーデル氏に聞いたところ、氏が、その予算で作っても良いと、」
えっ、まさか、あのオルチカ・コーデル?
「あのぉ、コーデル氏って、あのオルチカ・コーデル氏ですか?」
担当者は、嬉そうに、
「はい、あのコーデル氏です、今、魔導通信で、氏と繋がってますので、要望を伝えて下さい。」
「あぁ、分かった。」
コーデル氏は、バルセリアの家具職人の中では、芸術的な作風で人気が高く、小さな家具でも50万RGはする人だ、
何故、彼が?
確か、息子さんが、うちの高校に通ってる筈、
スグルさんは一生懸命、スプリング?とか、ギアとか、理解出来ない言葉と絵を氏に送って説明していた。
私は、そんな、不思議な事を沢山知っているスグルさんを見続けた。
スグルさんは、不思議だ、
彼を見ていると、時時、
すっごーく素敵に見える、
その瞬間、私は、乙女のように胸が高鳴る、
こんな、幻覚を見る、私は、
私は、一体、彼の事が・・・
結局、パルトン本店での家具のオーダーは、お昼迄かかり、私とスグルさんは、私のお気に入りの、小さな飲食店でお昼を食べた、
スグルさんは、異国人で、バルセリア料理の事を知らないから、私におすすめを頼んで欲しいと、言い、
私は、この店で一番人気の上級野牛の骨から味を取り出した牛肉のシチューを頼んだ。
スグルさんは、異国人だから、私がオーナーにシチュー、二つと頼んだら、慌てて、野牛の肝臓がドーンと出てくるの!
と、大騒ぎして、
私は、思わず笑ってしまった。
そして、出された、シチューを見て、笑顔になった、スグルさんは、
その笑顔はとても、素敵だった。
食事中、私は、沢山、スグルさんと話した、スグルさんの、故郷、
魔素の無い、不思議な異国の話しを沢山聞いた、
本当に、楽しい、一時だった。
その後、スグルさんは自炊をする為の道具が必要なんだ、と私に告げ、
私達はバルセリアの雑貨屋を南から北に巡って、彼が使う食器や調理器具、更に、食料品店では、砂糖、塩、調味料等を買い、
夕暮れには、バルセリアの北側の丘の高台迄、来ていた。
私は、決めていた、
今日、スグルさんに、
私の気持ちを、
伝える事を、
そして、私は、理解した、
今が、その瞬間である事を、
私は、スグルさんに告白した、
スグルさんは、優しかった。
スグルさんは、私に教えてくれた、
昔、スグルさんには、結婚を約束した、好きな人がいた事を、
スグルさんの、たった一度の過ちで、その人と二度と会う事無く、
その人は、亡くなった事を、
その過ちの為、スグルさんは永い旅に出て、そして此のバルセリアの街にたどり着いた事を、
そして此の街で、その人と瓜二つの人と出会い、
その人は、性格はかっての婚約者とは違うけど、
でも、その人は、失われた自分の償いを、思いださせてくれる、だから
スグルさんはその人を、ずっと守って生きて行きたい。
そう、私に話してくれた。
その人を、ずっと守って行く、
たとへ、その思いが報われ無くても、
スグルさんは、そう、私に、言った。
スグルさんの、瞳には、私は、映っては、いなかった。
此って、
此って、
私、
フラれたって事だよね、
私の瞳から、涙が止まらなかった。
私は、その後、スグルさんと、別れた、スグルさんは、私を送ると言ってくれた、でも、私は、断った。
スグルさんの優しさが、私にとって、耐えられない程、辛かった。
やがて、日は沈み、夜空に雨雲が沸き起こり、バルセリアの街に雨が降り始め、
雨が、私の涙を隠してくれた、
「素敵な、貴女に、私は、雨避けをプレゼント、させて貰いたい、エルデシィア・ガーランド嬢。」
えっ?
その時、後ろから私を包むように、魔導術の『力』で作られる、大きな雨避けが、
私は、後ろを振り向き、
「・・・アルバート先生、」
彼は、優しい笑顔で、
「明るい貴女に、雨は似合わない、」
彼は、私に、そう言ってくれた。