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愛する星に、願いを込めて  作者: Hs氏
魔導高校編
40/136

食する意味

 彼は、俺の為にカモシカのような動物を狩って、俺の前にもってきた、


 其も、彼は、魔導術で火を使う事が出来るから、そのカモシカちゃんを、良く焼いちゃったのだ、


 ・・・


 彼は、俺に、食べてって顔をしている、


 確かに、腹は減っている、しかし、スグルの時代の俺は、加工した肉しか食った事は無い、


 それ以前、遥か遅れた時代の俺なら、狩りもしたし、肉も自分でさばいていて食ったりした事は有る、



 確か、


 まずは、出来るだけ血を抜かなくちゃ駄目だった筈だ、


 血が有ると生臭く、味が落ちるし、病気になったりする。


 俺は、焼けたカモシカちゃんを逆さまにして、木に吊るした、



 そして、星剣を出すと、その首を落とした、


 スーッ、


 うん、本気出すと、切るって言うより、ちりにしちゃうから、剣の刃をすっごーく薄くした。


 何か、豆腐を切るように、切れた、


 ドサッ、頭が大地に落ちて、


 彼は、これ食べて良い?ってな顔をしたので、俺は頷いた。


 彼は、口から火を出しながら、美味しそうに、頭をかじっている。


 カモシカの切り口から、高温に沸騰した大量の血が流れ落ち、俺は、その血を星々(ほしぼし)に捧げた。



 此の世界は、既に『魔神の世界(グゥストゥワード)』、


 本来、『たましい』は、『魔神グゥス』の元へ返す事が筋だ。


 『魔神グゥス』は古い『たましい』を浄化し、新たな『たましい』を世界に創造する、



 其が、神の仕事、



 『魔神グゥス』は、幼き神では有るが、神としての仕事を、理解はしている、


 だから、此の世界は命に満ち溢れている。



 俺は、星に選ばれた、星の使徒だ、やがて俺の『たましい』は、星に捧げられ、



 あの、天に輝く、星の一つと成る。



 だから、俺は、俺の血、肉になる『たましい』は、星に捧げる。



 カモシカちゃんの血は、丸く玉状になり、天界に昇って行った。



 肉は、幾つかのブロックに分け、その肉の半分と内臓をワンちゃんにあげて、残りは俺の宿舎に運び、


 自分の肉を食い終わったワンちゃんは、俺の後から、俺の宿舎に入って、そのまんま、リビングでごろごろし始めた、




 俺はその後、食堂に行き、料理長のボーゲンから、塩と胡椒、あと何かの調味料を分けて貰った。


 彼は、ぶっきらぼうに、俺に「ほらよ!」と言って、それらをくれた。


 勿論、量は少しだ、其が、彼の精一杯の好意、俺は感謝して受け取った。



 俺の宿舎には、料理をするキッチンが有る、肉を炒める魔導機のコンロも有るし、水を作る魔導機も、廃材を処分する魔導機も有る、


 只、冷蔵庫やオーブン、レンジ等の魔導機は無い、もう少し落ち着いたら、あのマッチョの魔導機屋さんに聞いてみるか、


 此の世界にも、そう言うのが、有るのか無いのかを、


 もし、そう言う魔導機が有って、俺が手に入れる事の出来る、金額だったら、



 そうなれば俺は、案外、旨い料理、作る事が出来んじゃねぇの?


 其に、食材も保存出来るように成ったら、ちょっとは生活が豊かに成る可能性が有るかも知んないし、


 此の世界での生活にも、しょくって言う楽しみが出来る分けで、


 等、考えながら、俺は肉をキッチンに置き、星剣をナイフ状にして、肉の塊を食べれるぐらいの分量、切った。



 さてと、肉の食べ方だ、


 肉の本来の味を楽しむなら、



 ()()()()()



 ステーキはシンプルに塩と胡椒で下味を付けて焼くだけだ、


 その焼いた肉にソースを浸けて食べる、だから、ステーキにとって重要なのは、焼き具合とソースだ!


 

 そして、肉の本来の味より、


 肉に染み込んだ調味料の味と肉のコラボレーションを楽しむのが、



 ()()()()



 焼き肉には、色んなバリエーションが有る、


 シンプルに肉を焼いて、お好みのソース、此の場合はタレって言うんだが、そのタレを浸けて肉の味を楽しむか、


 先に肉にタレを浸けてから、焼いた肉を楽しむか、


 焼き方も、網焼き、鉄板焼、ジンギスカンと色々有るし、


 食べ方も色々有る。



 グゥウウウウウウウウウ、



 やべぇ、腹の虫が鳴った、


 ワンちゃんが、何の音と、首を傾げる。



 さぁーてと、料理を始めるか、



 って、始められる事って、



 只、肉を焼くだけだ。



 なんせ、俺、料理道具一つ持って無い、


 フライパンも鍋も、箸も持って無い、


 だいたい、此の学校作業員ハウゼ・アルパの募集にも、三食(まかな)い付きだったから、自分で自炊する事なんて、考えても見なかった。


 しかし、そのまかないに、問題があった、


 味は問題無い、たぶん、旨いと思う、



 問題は、その量だ、




 たぶん、普通に、此の学校で出る、まかないの量は少ないと思う、


 ただでさえ、足りないのに、


 更に、俺は『星隠し(ダークスター)』で、日常、膨大な量の星力を消費している、


 そして、今度は、『ゲート』を常時、開き続けているから、俺の星力の消費も更に増え、俺の空腹感は、もはや、止まる事を知らない。



 だから、給料の少ない俺が取る選択肢の一つが自給自足の自炊、



 そして今日、ワンちゃんが、俺に肉を呉れた。


 有り難く、頂く。


 俺は、塩と胡椒をこすり付けた肉の塊を手に持ち、魔導コンロの炎の上に持っていき、


 そのまま、直接、火で焼いた。


挿絵(By みてみん)


 勿論、星力で守られている、俺の手は火傷なんか、する筈が無い、


 俺は好みの感じで、ちょっと焼き焦げる程度に肉の表面を火で炙り、肉汁と油が火に滴れ落ちた。


 旨い匂いが部屋に充満し、俺は、炙った肉を上に持ち上げ、肉の下部にかじりついた、



 カブッ!!!



 ジュウワアアアアアアア!



 甘い肉汁が、俺の喉に流れ込む!!



 旨い!!!



 肉の味が、空きっ腹に染み渡る、



 最高だぜ!



 俺は、もう一口、かじった、



 ブシュ!!!



 あっ、脂身が口の中でとろける!




 うめぇええええええええ!!!



 後は、一気に残りの肉をむさぼい、


 ワンちゃんも、俺の側に来て、そんなに美味しいなら、僕にも、ってな感じで、三つの頭を、俺の足にスリスリしてきた、



 君、さっき自分の分食べたよね!



 クゥウウウンンンン



 ・・・仕方無いなぁ。



 結局、残りの肉も焼いて、彼と二人で、美味しく頂いた。



 



 肉は、旨く、まぁ、そこそこに腹は満たされて、リビングの床に、俺は彼と寝っころがってくつろいでいると、


 彼が、俺にスリスリしながら、


 『名前、無イ、』


 えっ?


 ・・・そうか、君は、名前が無いのか、



 彼の真ん中の頭が、ワンワンする、



 俺に、付けて欲しいの?


 

 彼の、右の頭がキャンキャンする、



 君の名付け親、俺で良いの?



 彼の、左の頭がクゥンクゥンする。



 ・・・そうか、そうだなぁ、


 俺は考えた、彼は、スグルの世界の伝説の魔犬、ケルベロスに似ているから、


 ・・・


 ケロちゃん!!!



 彼は、三つの頭でイヤイヤした、


 えっ?嫌なの? なんで?



 『可愛ク、無イ、』



 ・・・えっ?


 可愛いって、


 

 ・・・



 君って、



 もしかして、



 ・・・



 女の子?



 彼女は、全力でワンワンした! 

 


 結局、彼女は、俺が提案した沢山の名前から、


 『ケティ』


 

 を選んだ。




 


 次の日、俺に荷物が届いた、


 農牧高等学校ラウダ・バ・ハウゼで、俺が購入し、ローシィに預けたパンの木(デゥ)の苗や野菜の種だ、


 手紙が添えられていて、彼女は今日は、バルセリア領事長がルーナ殿下を招待して開催する園遊会の取材で、


 この園遊会は、バルセリアの特産物を全国の記者に書いて貰う為に開催するから、彼女も、出席しなくちゃいけなく、


 俺の処に来れない事を謝っていた。



 ・・・?



 別に、無理して、俺の処に来る事、無いのに、


 彼女は、更に、その後、ルーナちゃんの取材で、一週間は、諸外国に行くから、預かった、苗や種を、この国の配達屋ローダ・アルパに託す、


 と、書かれていた。


 荷物は、事務棟に配達されて、届いてる事をエルさんから教えて貰った。

 

 ローシィさんの手紙を、エルさんが俺に渡す時、エルさんは、ちょっと睨んだような気がした、




 自意識過剰?



 俺が、エルさんの事、気にしすぎか?



 

 さてと、苗木と種が、俺の処へ届いたので、俺は早速、家庭菜園を始める事にした、


 勿論、俺は、農業しか仕事の無い世界にもいた事は有る、


 手順は、分かっているんだが、問題は直ぐに、俺の腹を満たす為に、収穫出来るように、育って貰わなくちゃ困るって事だ、


 昨日の、農牧高等学校ラウダ・バ・ハウゼ高校生パールバウゼの話しじゃ、そんな魔導術は無いそうだし、


 其も、分かる、なんせ『魔神グゥス』は魔の神で、大地と豊作の神じゃ無い、後、数億年したら、『魔神グゥス』も、豊作の意味、分かると思うけど、今は無理だ。


 だから、俺は、星に願う事にした。


 悠久の時間、天界で瞬いている古き星々(ほしぼし)には、時を動かす力が宿る、


 その力を、俺は借りる、


 勿論、土星の時魔士(クロノスター)のように、瞬時に何百年の時を動かす力は、俺には無い。


 精々(せいぜい)、出来て、一日、一年が限度だ、


 だが、其で、充分だ、パンの木(デゥ)は、三年で収穫期になるから、三日後には食べられる、


 俺は、雑貨屋に行って、鉄線ワイヤー支柱パイプを買って来た。


 この世界にも鉄鉱石は有る、鉄製品は其れを魔導術か、魔導機で加工する、


 だから、雑貨程度の鉄細工品なら、自分達で鉄鉱石から作るんだそうだ。


 パンの木(デゥ)の苗木は四本買った、全部違う品種だ、


 2メータ間隔で植えたとして、4メータの真四角の土地で、今は充分だ。



 まず、最初にする事は、苗木や種を植える予定の場所を、星の加護の有る豊かな大地にする事だ、


 俺は、一旦、右手に星を集め、彼等に願う、世界に散らばっている、実りのエキスと豊穣の奇跡を集めてくれと、


 星々(ほしぼし)は、『ウンウン』、『ヤッホー』、『ミ、ト、ホ?』、と大騒ぎしながら、世界に旅立ち、そして、戻って来た。

 


 何百と言う星々(ほしぼし)が、俺の宿舎の前の、家庭菜園に予定している土地に流れ落ち、


 ボコン!ドスン!ドカン!


 幾度となく、土地を掘り起こし、世界の大地から集めた、豊かな実りと豊穣のエキスを混ぜ、更に、星々(ほしぼし)の加護を加えて、


 天に戻って行った。


 後は、4メータ、真四角の土地を果樹棚にし、4メータ真四角の土地を菜園にする、



 果樹棚は四隅に、支柱を建て、2メータ間隔で間柱を建て、2メータの高さに五十センチ間隔でワイヤーを張った。


 果樹棚を作り、苗木を植えて、種を撒いた後、



 俺は、時を進め、


 野菜や根菜は次の日、



 パンの木(デゥタ)は、



 三日後、



 収穫する事が、出来るようになった。


 そして、その、豊かに実った一際大きなパンの木実(デゥタ)を、俺は一個、パンの木(デゥ)からもぎ取り、


 そのパンの木実(デゥタ)を、一口、口にした瞬間、


 俺を悩ませていた、飢餓感が嘘のように引き始め、


 俺の体は、星の力に道溢れた。




 その時、俺は、思い出す、



 二千年前、当たり前のように食べていた食物が、



 星の愛に道溢れていた事を、



 『星に祝福されし穀物(スタラブルフー)』であった事を、



 当時の俺は、当たり前すぎて、気付かなかった事を、



 初めて、この世界で、



 食べる事の意味を、



 理解した事を。

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