農牧高等学校
昨日、私はバルセリア魔導高等学校で記事の元を見つけた。
そいつは、只の異国の太っちょで、名前はスグル・オオエと名乗った。
その太っちょの、魔導本を通して描かれた姿は、鍛え抜かれた体格のスッゲエ、格好いい、野郎だった。
私は記者だ、私の魔導ペンは物事の真実を描く力が有る、自分が視た世界は、時に回りの情報や誤った噂等で歪む事が有る、
その歪みを修正してくれるのが、私の、魔導ペンの力。
此れが、私の特技、『真実の魔導ペン』だ、
奴と出合い、奴の事を書いた時、魔導ペンは力を発動し、奴の真実の姿を、私に教えてくれた。
奴は、何等かの力を使って自分の真実の姿を、私達に見せないようにしている、
何故だ、
奴は何者なんだ?
奴に興味を持った私は、奴が農牧高等学校に野菜の種や苗を買いに行く事を知り、私と一緒に行くように、奴を説得した。
勿論、奴が正直に自分の事を話すとは、私は考えて無い、其処で、奴の胃袋を狙う事にした。
胃袋を狙うって、
・・・何だか、彼氏を物にする設定に似てんけど、・・・気にすんなぁあああ!!
此も、仕事、仕事!
私は、屋台で沢山、食い物を買い、其れをバスケットに積めて、駅に向かった。
太っちょは、既に駅にいて、呆けた顔でキョロキョロ辺りを見回しながら、私を待っているようだった。
・・・随分、早く来てんじゃねの、勘違いすんなよ、此れは、デートじゃねぇからな、太っちょ。
私は太っちょに声を掛けた。
「どうかなさいました?」
「あっ、記者さん、早いですねぇ」
此の太っちょ!人の名前ぐらい覚えろ!!失礼だろうがああああ!!!
「ローシィです!ローシィ・レーランド、ローシィと御呼び下さい。」
私が怒ったので、太っちょは必死に謝っていた。
今度、名前、言わなかったら、許さんからな!
じゃ、行くぞ、太っちょ!
ん、何だ、何してんだよ、お前、
「あのー、此の魔導汽車にはどうやって乗るんですか?」
・・・
はぁあああああああああ!!!
お前、魔導汽車も乗った事、無いのか!!!
「俺ってさぁ、その、遥、東の魔導汽車も無い、辺鄙な島国の出身だから、本当に乗った事ないんだ。」
・・・
こいつは、馬鹿か?
逸んな、アホ設定、一体、誰が信じんだよ!
私は、奴に言ってやった!
「じゃ、此処まで、どうやって来たんですか?」
奴は焦って、
「い、いやぁ、船!、そう船に乗って!!」
また、穴だらけの設定!
馬鹿にしてんのかあ!!此のアホがぁ!!!
じゃあ聞くが、
「その船は、何処の港に着いて、その港から、此処までは、どうやって来たんですか?」
奴は、更に焦って、
「あっ、そう、歩いて!俺、歩いて、此の街まで来た!!」
ダメだ、頭が痛くなってきた、此処は、大陸の中央だぞ!
歩いてなら、もう少し、常識が分かるように成るだろうがぁああ!!
だから、私は、
「歩いてですか?空を飛んだんじゃ無くて、」
と、もう遠慮無く、彼に言う!!
お前は、その東の国から飛んで来た、違うのか!!!
彼は汗かきながら、必死に、
「イヤだなぁ、ローシィさん、こんな太っちょが、空、空を飛べる分け無いじゃん!」
確かになぁ、でも、その姿、嘘なんだろ、何か分けがあんだろ、
もう良い、後で、もう少しましな設定考えてやるから、
私は、彼の変な設定を聞くのは止めて、彼に魔乗車印を買う事を教え、
彼は、子供のように喜んで、
「何だ、此だ!って言って魔乗車印を買うんですね!」
・・・
あまりのつまらなさに、言葉が出なかった、
私は、彼に、魔導汽車の乗り方を説明しながら、思った。
彼は、私達の世界について余りにも、無知だ!
其れはまるで、彼が別の世界から突如、私達の世界に来た、そのような存在に見える。
別の世界の住人、
だから、彼は自分の姿を偽っているのだろうか?
其とも、もっと別な理由が有るのだろうか?
どちらにしても、
彼の此の世界の無知は、彼に取っても、不利に働くし、彼はその事を知ってる筈だ。
ならば、彼に私達の世界の情報を提供する事は、彼との取り引きの材料に成るんじゃないのか?
私が、欲しいのは、彼の世界の真実。
私達は、魔導汽車の個室車両の一室に入った、
其処で、私は、用意したバスケットを開けながら、彼に座るように促し、彼に、『錬』で作る、不味いお茶を勧めて、
「・・・スグルさんに、ちょっと、お願いが有りまして、出来るなら食事をしながら、穏やかにお話をしたいなぁ、と思いまして、」
私の、最高の営業スマイルを彼に向けながら、私は、彼に話し掛ける。
彼は、警戒心を出すが、食欲に勝てないのか、私が用意したサンドイッチを勢い良く食べて、
「その願いってのは?」
と、私の話を聞こうとしてきた、
狙い通り、彼は食い物に弱い!!
あっ、また、サンドイッチを食べた、マジに、太っちょの大喰らいは、迫力が有る!
おっと、彼の食欲に見とれている場合じゃない、私は、直接的に彼に訴える事にした、
「記者は、記事になる元に飢えています、そして、私が見たところ、貴方は、私に良い元を提供してくれる気がします、」
もう、一息、
「勿論、只とは言いません、御礼に貴方が此の世界で不足している知識を、私は貴方に提供します、」
此で、どうだ!
条件は、悪く無い筈だ!!
彼は、思ったより慎重だ、私が信じないとか、自分が嘘をついたらどうなんだ、と聞いてきた、
だから、私は、彼に言った、貴方の話を信じるか、信じないかは、嘘か真かは、私が決めると、
太っちょ、お前、兎に角話しを聞かせろ!
彼は、暫く考えた後、条件付きで私の提案に乗ってきた。
その条件とは、記事を発表する前に、自分に読ませろ、読んでその内容が気に入らなかったら、発表するな、と言ってきやがった。
・・・こいつ、やはり、只の太っちょじゃねぇ、頭が良いし、交渉慣れしてやがる、
更に、あの体格が本当なら、荒事にも慣れてるかも知れない、
さて、どうする、私、奴の話が面白かったら、記事にしたく成る、其が発表出来なくちゃ、記者じゃねぇ、
記事の差し止めは認める分けにはいかねぇが、
・・・
まぁ、そん時は話合いかな、
「良いでしょう、私も揉め事は避けたいですし、その条件で構いません。」
そして、私は、契約書を作成して、彼に渡した、
契約書を手にし、彼が読み上げた、
『結婚に関する同意書』
!!!!!!!!!!!!!!!!
ばっ、ばっ、、バカ野郎!!!
ちぃ、ちぃ、違うだろうがぁああ!
「ちぃ、ちぃ、ちがあああああああああううううう!!!結婚じゃねぇ!情報だ!!」
私は、太っちょを怒鳴った!
やべぇ、顔が赤くなる、
ちぃ、こいつ、態と間違えたな!
もう、こいつに気を使うのは、止めだ!!
本当に、疲れる。
私達は、一時間程して、広大な牧場の中に有る、農牧高等学校の駅に着いた。
車中での、彼の話しは、私の想像を遥かに越えていた。
彼は、電子と空気と呼ばれる魔素が充満している世界から来たと、私に教えてくれた。
イメージとしては、ポワジューレ共和国に似ているが、ポワジューレよりも、ずうっと進化しているような気がする。
そして、私は、彼が12日前に私達の世界に来た事を知った。
彼は、何故、此の世界に来たか知らないと言う、気が付いたら、湖で溺れそうになり、必死に泳いで岸に上がり、その日は牧場の小屋で野宿してから、バルセリアの街迄、歩いて行ったんだそうだ。
・・・
12日前の牧場と言えば、殿下の船が落下した前の日、
こいつと殿下の船の落下は、何か関係が有るのか?
私は、その事を彼に聞いてみたが、
太っちょ、態とらしく驚いて、えっ、逸んな事があったんですか?
知らなかったなぁ、と言いやがる。
こいつ、絶対、知ってる、何か隠してる、私は、そう確信した時、
魔導汽車が駅に着いた。
バルセリア農牧高等学校は、広大な牧場や畑等を持つ、豊かな高校として、有名だ。
各種施設も充実している、スグルは野菜の種や苗を買う為に此の高校に来たので、私達はまず、農園に向かった。
普通、街の中の移動は、魔導三輪車を使うのだが、此処は街と違って、魔素が少ないから、野牛車を使うと、スグルに話したら、
奴は、歩いて行きたいと言い、
私は、えっ!
私が、躊躇っていると、奴は私からバスケットを取り上げ、私の左手を握り、引っ張り出した!
ちょっと待て!!
手を、簡単に握るなあぁあぁ!!
てっ、てっ、照れるだろうがぁ!
と、私は心の中で叫んでいた。
歩きながら、スグルは子供のように、私に色々な事を聞いてきた、
此の農牧高等学校の事、
野牛の事、
此のウェルド公国の事、
彼は、本当に嬉そうに、私の話を聞いていた、
そして、スグルは牧場で高校生達が野牛の世話を一生懸命している姿に感動していた、
私は、この太っちょの笑顔が、ちょっと良いかなって思ったので、
急いで、全力で、否定した!!
逸んな、他愛ない会話をしながら、三十分位、牧場の道を歩くと、高校が経営している農園に、私達は着いた。
そして、其処で、私は、スグルが本当に異世界人である事を知った。
彼は、パンの木を知らなかった。
「パンが木になってるよ!!」
スグル、其れは、パンって名前じゃない、パンの木実だ、子供でも知ってるぞ、
「成る程、作りは果樹棚と同じって分けだ。」
果樹棚?
スグル、お前がパンの木に感動してっから、販売実習の高校生が、変な人が来た、って目で見ているぞ、自重しろ!!
此方迄、恥ずかしくなるだろうがぁあ!!
此処は、高校生の為の実習農園だから、百種類近いパンの木が植えられている。
スグルは、いろんなパンの木実を試食しては、高校生にこれ、粉にしないのか、発酵は、焼いたらと分け分かんない事を言い、
高校生がびっくりしてドン引きしていると、あの、東の田舎の出身を連発していた、
スグル、その言い分け、無駄だ、高校生は、お前を只の変な人だとしか思ってないから。
此れは、スグルから後で聞いたのだが、スグルの世界でもパンの木実が有り、其れは、『パン』と呼ぶらしく、
『パン』は、『麦』と言う草の実を砕いて粉にした物に、水と塩を混ぜて、『イースト菌』と言う魔素が『発酵』と呼ばれる魔導術で作るんだそうだ、そして、我々のパンの木実と違い、焼かないと食べれない、大変、面倒な食べ物だと、スグルは教えてくれた。
其処は、我々の方が優れていると、彼は言っていた。
確かに、パンの木実は収穫すれば、直ぐに食べれるし、いろんな食材を挟めば、いろんな味が楽しめる。
だから、サンドイッチは、我が国の代表的な料理だ。
スグルはこんな小さな農園を見て驚き、感動している、もし、彼に、我が国の地平線まで続くパンの木畑を見せたら、
夕陽の美しいパンの木畑を、彼に見せたら、
彼と二人で、そのパンの木畑の細い道を歩けたら、
私は、
えっ!
何、考えてんだ!
私!!!!!!!!!
こんな、魅力無い、異世界の太っちょに!!!!
そして、
彼が、草花の種と幾種類のパンの木の苗を買った時、
其れは、起きた、
ドガッ、ドガッ、ドガガガガ!!!
野馬に乗った、血だらけの学校作業員が農園に飛び込んで来て、
「野牛が暴走を始めた!!!全員、退避!!!」
彼は叫んだ!!!
野牛が暴走!!!
私は、直ぐに牧場の方を見、
私が目にした光景は、
牧場の地平線に、沸き上がる黒い波!!!
遅れて、来る津波のような轟音!!!
高校生の悲鳴と絶叫!!!
私は、恐怖で体を動かす事が、
出来なかった!
「大丈夫だ、」
えっ?
優しい、暖かな手が、私の肩に置かれ、
「此を、頼む、」
私の手に苗と種の入った袋が!
「スグル!」
彼は消えた!
私の目の前から、
私は、直ぐに、胸ポケットから、魔導ペンを取り出し、魔導本に、今、見ている事を書いた!
魔導ペンは、書く、真実を!
『彼は草原を疾走する、蒼みがかった黒髪が靡くその姿は軍神の如く、鍛え抜かれたその体は、幾千の闘いを勝ち抜いた闘神の如し、手には幾万の星の輝きを集め、彼は、今、向かう、黒き魔獣の元へ、』
何なんだ、此れは一体!!
彼は、
彼は、何と、闘ぉうとしてぃるんだ!!
彼は、