真実の姿
「ふぅ、オッケ、此で夕刊には間に合った。」
カタン
私は、図書館の魔導回線に繋がった、魔導本の上に魔導ペンを置いた。
「ローシィさん、終りましたの、じゃ、此方で一緒にお茶にしませんか。」
バルセリア魔導高等学校の図書館の司書のウェラルダ・ウォーレン先生が私に、御茶を勧めてくれた。
「宜しいんですか?ウェラルダ先生」
「良いのよ、御茶は、大勢の方が楽しいでしょ、もうすぐスグルちゃんも来るし、一緒にお茶しましょうね。」
スグルちゃん?
子供?
私は、今、ルーナ殿下の取材でバルセリアの街に来ていて、私以外にも、
此の東の田舎街には、今、殿下が滞在しているから、大手から、中小、地方紙と沢山の魔導新聞社の記者が此のバルセリアに来ている。
此の街での最初の仕事は、ルーナ殿下がバルセリア魔導高等学校の入学式に出るので、その記事を書くこと、
只、殿下が入学式に出た記事じゃ、読者は私の記事を買ってくれない、
やっぱり、ドラマだ、ドラマが欲しい。
教魔省も、其処を分かってくれているのか、公家を代表して、ルーナ殿下と魔導皇ジェルダの歴史的な和解を記事にしてくれと頼まれた、
うーん、只、握手でちゃんちゃんちゃんも、ちょっとインパクト、弱いかなぁ、って言ったら、
じゃ、どうしたら、良いって教魔省のキャリーが聞いてきたんで、
まぁ、魔導高等学校の入学式って言えば、『継承の義』、
殿下が、魔導皇と『継承の義』に出るなら、ちょっとは絵になるかなぁ、って、適当に言ったら、
キャリーもその気になって、殿下を説得するって言い始めた。
でも、言って良かったぁ、
あの新入生は、今どきの可愛い男の子だから絵になるし、あの子、結構、読者に受けるよ、
でっ、その新入生が、あまりの殿下の美しさ、気高さに我を忘れ、『光』の魔導術で光らせる筈だった術球を光らせる事を忘れ、
更に、少年、
高校生だけど、
少年な、
その少年は、殿下を思うあまり、学長ではなく、殿下に術球を投げてしまった!!
そして、我らが、心優しき殿下は、その神々しい光で、暗い術球をより大きな光の術球にして、少年に返した!!!!
魔導皇もすっげえー、けど、
殿下も、負けてねぇーなぁ、
少年は、そのあまりな殿下の優しさに感動して気を失い、
殿下は、少年の純粋な気持ちに、感動の涙を流すのであった!!!
良いねぇ、良いねぇ、
ドラマだねぇ!!
こんな、良いネタを夕刊に載せない手はない、大手の記者は支局の奴等だから、支局に戻れば直ぐに記事が書けるが、
うちは経費がセコイから安宿に泊まってるし、記事を送る為の、魔導回線が無い、
其処で、図書館で記事を書くことにしたわけだ、
図書館には、情報の出し入れと、魔導省が魔導本を管理する為に、魔導回線が引かれている、
私はバルセリア魔導高等学校の図書館の司書をしている、ウェラルダ・ウォーレン先生に図書館で記事を書かせてくれと頼んだ。
先生は直ぐに、了解してくれて、更に、自分の図書館に有る研究室を使ってくれと仰った。
うん、神様みたいな人だ!
でっ、私が、記事を書き終えて、原稿をディ・プラドゥ魔導新聞社に魔導回線経由で送ったら、
先生が、御茶と茶菓子を用意してくれていた。
本当に、神様だ!
でっ、その時だ、
「ウェラ先生、掃除、終わりましたあー」
ん?
男の声、
「スグルちゃん、じゃ、此方来て、一緒にお茶しましょう。」
スグルちゃん?
入って来たのは、
美少年・・・じゃ無く、
・・・
只の、太っちょだ。
つまんねぇ!!!
早く御茶飲んで、ずらかろ!
そう、私が勝手に考えていたら、太っちょが済まなそうに、
「でも、御客さん、いますよ、ウェラさん。」
一応、気にしてんだ、
「あっ、私の事なら、お気になさらず、」
直ぐに帰るし、
「此方、記者のローシィさん、此処で記事をお書きになっていたのよ。」
太っちょが私の前に来た、
「そうなんですか、あっ、俺、スグル・オオエって言います、此の学校の学校作業員してます。」
えっ、手を出して来た、握手かよ!
大丈夫か、脂ぎって無いか、
しゃねぇ、此も営業、営業、
はい、ニッコリ、スマイルで立ち上がって!
「私、公都の魔導新聞、ディ・プラドゥで記者をしている、ローシィ・レーランドです、宜しく、スグル・オオエさん」
何か、手が柔らかく無い、固い、しっかりした、すっーげぇ、感じの良い手だ、
何だ、何だ、小娘じゃねぇし、何で、此の太っちょにドキドキしてんだよ!!
まず、御茶飲んで落ち着け私、
ふぅ、美味しい。
ボリボリ、ボリボリ、ボリボリ
ん、彼奴、ちょっと菓子、食いすぎだろ、私の分、残しとけよ!
ウェラさんも呆れて、
「あらあら、スグルちゃん、貴方、お腹すいてたの?」
「いゃー、ウェラさん、どうも近ごろ、お腹の空き具合がひどくて、学校から支給される食事じゃ足りないみたいなんですよ。」
支給される食事じゃ足りないって、食いすぎだろ!だから、お前は肥るんだよ!
「スグルちゃんは働き過ぎなのよ、聞いて下さいよ、ローシィさん、スグルちゃんはなんと、六日で此の学校を綺麗にしたんですよ。」
いゃ、普通に掃除するだけなら、六日ありゃ、綺麗になるだろ、
「へぇ、そうなんですか、すごいんですねぇ。」
一応、営業な、
太っちょは照れながら、
「いゃー、たいした事、ないですよ。」
当たり前だ、たかが掃除だ、記事にもならん!
何か、ネタねぇのかよ!
此の太っちょが、
って文を、私が、
魔導ペンで、
魔導本に書き始めたら、
ペンは、
『その人は、精悍な体格と顔付きを持ち、歳は二十前半、背は百八十を越えて高く、蒼みがかった短い黒髪は清潔感のある緩いパーマと、固めていないサラサラとした艶の有る髪、其に似合う無精髭、瞳は濃い群青色、彼は涼やかな笑みを私に向け、私は、その笑みに、乙女のようにときめいてしまった。』
ちょっと、待てえええええ!!!
何んなんだ!!
此の文章!!!
私の目には、
ハンサムな彼氏が映り、
急いで、目の前の彼を見ると、
太っちょ!!!
『心』か?
イヤ、違う、
『心』だったら、魔導本に警告が書き込まれる、
此れは、何んなんだ?
「あのー、俺の顔に、何か付いてます?」
いけねぇ、見すぎた、警戒してやがる、
「その、私にも、お菓子を取って下さると、嬉しいかなぁ、と思って、」
此処は、乙女モードだ!!!
「えっ、お菓子ですか、」
ちっ、此の太っちょ、自分で取れよって顔してやがる、
ウェラ先生が笑いながら、
「スグルちゃんは、全部、味見したんだから、貴方が美味しいと思ったのを、ローシィさんに勧めてあげるのよ。」
おっ、ナイスフォロー!!
「あっ、そう言う事ですか、じゃ、此れと、此れで、」
私は、彼の手から、菓子を受け取り、
その時、私は、彼の手を握った。
やはり、そうだ、彼の手は太っちょの手じゃない、
固く、しっかりした、武人のような手だ!!
私は、再び、魔導ペンを握り、魔導本に書き始める、
『鍛え抜かれた、彼の手は固い、でもその星の力の暖かさが、私に伝わり、私の心は、幸せに満たされる』
間違いねぇ!!!
奴は、見えている姿と真実の姿が違うんだ!!!
何者なんだ、こいつは!!!
星の力だと!
何んなんだ、其は!
もしかして、此れって、大スクープの予感、ってやつか、
「ふぅ、」
おっ、奴、遠慮して其れ以上菓子を食うのを止めたよ。
「やっぱ、昼飯が足りないんだなぁ、まずいなぁ、・・・そうだウェラさん、此の街で、野菜や果物の種や苗を売ってる店知りません?」
ウェラ先生、ちょっと驚いてるぞ、
「スグルちゃん、種や苗で何をするの?」
そうだ、お前、一体、何をする気だ?
彼は、ちょっと照れながら、
「まぁ、金無いから、少しは自給自足の生活でもしようかなぁと思って、ほら、此処って、土地は余ってるから。」
自給自足?
「ふーん、スグルちゃんも大変ねぇ、」
ウェラ先生が考えながら、
「そうねぇ、此処は街だから、そう言うのは取り引きして無いし、ここら辺の牧場は、魔導省が買い上げたようだし、近い場所だと、農牧高等学校かしら。」
「えっ、『ラクダが走る』?」
?
何、言ってんだこいつ!
「スグルちゃん、農牧高等学校!スグルちゃん、発音を覚えましょうね!」
「クスッ、スグルさんは面白い方ですね。」
「ほら、ウェラさん、記者さんに受けてるよ。」
受けてねぇし、社交辞令だし!
「そうか、農牧高等学校かぁ、明日、休み取って行ってみっかなぁ。」
しめた!
明日は、午後から農牧高等学校で殿下の取材だ!
午前中なら、奴の観察が出来る!
「あのー、私も、明日、ちょうど農牧高等学校に行く予定だったんです、その貴方が、種とか苗を買うのをちょっと見せて頂けませんか。」
奴、えっ、ってな顔してる、
「殿下と農牧高等学校の記事に、普通の人が農牧高等学校をどう利用しているのか、そう言う記事も、一緒に載せようかと、思いまして、」
「へぇそうなんだぁ、そんな事も記事になるんですねぇ」
いや、そんなの記事にもなんねぇし、お前だよ、お前、お前が何者か、知りてぇんだよ!
「まぁ、スグルちゃん、其れって、デートよ、デート、早くローシィさんに返事して、スグルちゃん」
「ちぃ、違うって、ウェラさん、照れちゃうだろ」
てっ、照れるな!
太っちょ!!
此方まで、恥ずかしくなるだろうがぁ!!!
「あのースグルさん、明日、9時に駅の改札で待ち合わせしませんか。」
「えっ、駅ですか、」
?
何、驚いているんだ、こいつ、
「魔導汽車ですが、他の移動手段が、お有りなんですか?」
「あぁ、飛んで、じゃ無く、そうそう、魔導汽車、魔導汽車で行くつもり、じゃ、明日、9時に駅の改札ですね、じゃ、宜しく、ローシィさん」
おい、お前!!!
今、飛ぶって言ったよな!
飛ぶって!
ちっ!!
慌てて逃げやがった!!
・・・
もしかして、この、バルセリア出張って、
とっても、
ラッキーなんじゃねぇの!
本当に、
『一際、白く光輝く術球を受け取った少年は、自分の失敗を優しく受け止め、剰え、殿下に対して起きてしまった、数々の非礼に対して、緊張していた彼は!』
確かに、凄い、少年が、失敗して可愛そうなくらい、震えている姿が見える、
『緊張の糸が切れた、瞬間、その意識を手放し、殿下は、少年が、自分の力の限界を越えて、努力していた少年を見て、』
私が少年を見て、どうしたんだ、
『少年の、純粋な心は、殿下の瞳に、一滴の涙を浮かばせるのであった。』
・・・
そうなる、分けだ。
確かに、ローシィ・レーランドは凄い、
真実ではない話しを、あたかも真実のように見せながら、誰も傷付けない、着地点へと導いてる、
読んでて、悪い気はしないし、少年の失敗も、非難じゃなく、同情に置き換わった。
確かに、此れじゃ、文句は言えないし、各省庁が、彼女を頼るのも分かる。
しかし、
此れで、私は、ますます、
大変な、状況になってしまった、
「読んだぜ、大将!!」
上機嫌なリナが、私の執務室に入って来た。
彼女の私に対する思いも、また、増えてしまった。
「いやぁ、流石、大将、魔導皇と互角、やるねぇ、って、そのピアス!」
あっ、お洒落に興味ないリナまで、このピアスに気付くって、
「やるなぁ!!大将!!其れって!、あの変態野郎から分捕ったのか!!」
ちぃ、ちぃ、ちぃ、ちがああああああああああああああああああああああああああう!!!
分捕ってないから!
彼が、
彼が、私に、
私に、呉れたんだから!!!
本当なんだから!!!