留学生
「皆も知っている通り、今年から4ヶ国で交換留学生制度が始まる、残念ながら本校の生徒は留学生に選ばれなかったが、本校は留学生の受け入れ校として、選ばれた。」
その話しを、担任のノーラス・グゥーエデン先生がすると、クラス中からどよめきが上がった。
「ハル、留学生だって! 其って、うちのクラスに来るって事よね。」
エミリアが僕に聞いてくる、僕はクラス一の情報屋のジェミオの方に向いて、無言で、どうなんだと聞いてみた。
彼も、無言で知らんと返してきて、ジェミが知らない?
僕は、ちょっと不思議に思った。
「えーと、諸君、其でだ、急遽、此のC組にポワジューレ共和国の留学生を二名、受け入れる事になった、皆、仲良くしてくれ、」
スゥーッ
そう、先生が言った時、魔導術で教室の引き戸が引かれ、
二人の女子生徒が教室に入ってきた。
えっ、二人?
「ハル、二人!二人よ、其に綺麗な人!」
クラス中の男子が唖然としている。
金髪を巻き毛にし、瞳は透明なスカイブルー、上品な口元、
先生が、彼女を紹介する、
「えぇ、あぁ、彼女等は、ポワジューレ共和国で、秀才が集まる学校で有名な、『ポルドワレン魔導高等学校』の二年生で、」
金髪の美人さんを指しながら、
「コーネリア・ロンディーヌ嬢だ、ちなみに彼女は、本来はA組なんだが、急遽、C組に決まった。」
えっ、Aの人が、Cって、何で?
全員が、騒然とし、エミも興奮して、
「ねぇ、ねぇ、ハル、たぶんA組が留学生の受け入れを拒否したのよ!」
「拒否って、だったら、普通はB組だろ、何故、うちのクラスなんだい。」
エミは、僕にちっちっと人指し指を振りながら、
「分かってないなあ、ハル、こんな落ちこぼれの学校だよ、BもCも大差なけりゃ、人数の少ない、C組に留学生を押し付けるのが、此の学校の先生達!」
落ちこぼれって、自分の高校に対して、エミははっきり言い過ぎる、廻りが睨んでるって、
当たってるけど。
「でもハル、たぶん彼女達がうちの学校に留学して来た理由って、うちに魔導皇が入るからよ、うちってさぁ外面だけは良いのよね、彼女等も魔導皇が目当てなのかしら?」
確かに、エミの意見は当たってる、両親も、此の学校の学長が魔導皇だって、喜んでいるし、
でも、世間の皆は知らない、
僕達は、まだ学長から何も教わっていない事を、
コーネリアと呼ばれた、彼女は上品な笑顔を、僕達に向けながら、
「コーネリア・ロンディーヌです、皆様方、私の事は、リアとお呼び下さい。」
そう、言って、頭を下げた。
もう、一人の娘は、青紫の髪を後ろに結い上げて、メガネをしている、普通のちょっと真面目そうな娘だ、
「えーと、彼女はアンリー・スウィート、彼女も『ポルドワレン』に通っている、コーネリア嬢の学友だ。」
学友?
友達って事?
「アンリー・スウィートと言います、アンリと呼んで下さい、御嬢様共々、宜しくお願いします。」
そう言って、彼女は頭を下げた。
先生は、頭を掻きながら二人に向かって、
「一応、言っておくけど、此の学校は、『ポルドワレン』と違って、生徒が教室を移動する事になってる、理由は、・・まぁ、そんなに教室が無いからなんだけど、・・・教室を増やす金も、此の学校には無いし、」
先生は、二人に授業の予定表を渡しながら、
「だから、決まった席が無いから、好きな場所に座って、ちなみに、此のクラスは、此処で、魔導歴史論の授業をする事になっている、その後は、一階の魔導実験室で、シャーリン・コースティン先生の魔導基礎学になる、此の授業にはルーナ殿下も見学する。」
クラス中が、一斉に、大騒ぎになった。
ジェミオが得意そうに、此方を見てる。
彼の情報は、正しかった。
僕は、こっそり、彼に親指を立たせて、『流石だね、ジェミオ』ってな合図を送った。
「ハル、ハル、来た、来た」
「エミ、来たって?」
「此処にしましょ、アンリ。」
えっ!
クラス中の視線が、此方に来てる!
えっ?
僕の横!!
ジェミオと合図しあってたら、彼女達が、僕とエミが座っている教室の後方の席に来て、僕達の横に座った。
物に動じないエミリアが、僕を通り越して、
「ねぇ、ねぇ、リア、アンリ、私、エミリア・ドルネッサ、エミ、此方はハルチカ・コーデル、で、ハル、宜しくね。」
コーネリア嬢が、凄く綺麗な笑顔で、
「宜しくお願いします、エミ、ハルさん。」
うわぁ!全員が此方見てるし、勘弁してくれぇ、ジェミオは睨んでるし、
「ハル!何、ぼっとしてんの、挨拶、挨拶!」
あっ、そうだ!
「えぇと、僕は、ハルチカ、ハルって呼んでください、ロンディーヌさん。」
たぶん、僕の顔は、絶対に赤い、
「ハルさん、私の事、リアで構いませんから。」
こんな、美人に愛称って、エミリアじゃないんだから、ハードル高すぎ!
「どうか、しました、ハルさん」
スッゴい良い笑顔で、ハルさんて、
僕は、決心した。
「いえ、じゃ、リア、アンリ、宜しく。」
ちょっと、僕、かっこよくないか。
「何、気取ってんのよ、バカハル。」
エミが不貞腐れて、僕を小突く。
うん、ヤッパリ、エミは安心する。
パン、パン、パン
ノーラス先生が、大きな声で、
「はい、はい、授業を始めるからな、静かにな!」
って言いながら、手を叩く。
「あの、済みません、留学が急遽決まったので、教科書は、来週届きます、そのぅ、貸して頂けませんか。」
あっ、そう言う事か、うちの学校、貧乏だから生徒に貸す予備の教科書無いし、
また、エミが僕を小突く、
「ハル、あんたの教科書、綺麗なんだから、貸して上げなさいよ。」
綺麗?
僕は、教科書をリアに渡し、エミの教科書を二人で使う事にした。
・・・
エミの教科書は、落書きだらけ、
そう言う事、
パシ!
僕は、エミに叩かれた、
「ハル、今、失礼な事、考えたでしょ!」
・・・はっきりと言える!
考えた!
今日の最後の授業は、魔導術の演習で、課題は氷菓子の作成、シャーリン・コースティン先生の春季休暇の課題だ。
此の課題の練習をする為に、僕とエミは牧場に行き、スグルさんと出会い、そして、ルーナ殿下の乗る軍艦の落下事故に巻き込まれた。
しかし、何か、すごーく昔のような気がする。
「ハル、ボーっとして無いで、早く材料出して準備しなくちゃ、次は私達の番よ!」
いけない、いけない!
「ごめん、エミ。」
僕は急いで、鞄から卵と砂糖とミルクを取り出した。
「私も、お手伝いしましょうか。」
リアが、気を使って、僕に声を掛けてきた。
「あっ、大丈夫、そんなに材料、使わないし。」
僕は、リアに返答した。
此の実験は、二人が一組で、其々、材料を用意して、独創的な氷菓子を作る事を競いあう授業だ。
リアは、留学生で、材料を用意して無かったので、僕達の材料を半分分けて上げる事にした、
その為、また、クラスの男やジェミから睨まれたけど、エミが先に言っちゃったし、
人助け、人助け。
魔導術で氷菓子を作る。
簡単そうで、実は凄く高度な課題だ。
使う、魔導術は撹拌なら『力』、煮たり、焼いたりするなら『炎』を使い、味の微調整なら『錬』を使っても良い、
しかし、難しいのが、課題の氷菓子、つまり必ず最後は、『炎』の応用、『熱量変換』を実行し、対象を一気に氷菓子のレベルまで冷やさなければならない。
『熱量変換』の魔導回路は、結構複雑で、一定の温度を一定時間維持しながら、その対象の持つ熱を反転させる必要が有る。
此の、熱を反転させる技術を、提唱したのが、うちの学長、学長が大学生の時、発表した学説が最初で、
其れ以前は『錬』で氷を作るのが普通だった。
此は、魔導歴史論で習う。
だから、うちの学長は、魔導皇の肩書が無くても、実は有名な人だったらしい。
勿論、僕達は初心者だから、先生は二人一組で助け合いながら、作成する事を薦めている、しかし、必ず、二人で作らなくてはいけない分けで無くて、
クラスリーダのダンバード・グラスタは一人でガチガチに氷った、氷菓子を作った。
あまりにもガチガチなので、先生は見るだけで、味見をしなかった。
先生の横には、ルーナ殿下とその付き人がいて、時時、先生に話し掛けて、授業の方針を聞いて、殿下は先生を褒め称えていた。
しかし、殿下はお付きの人が煩いのか、氷菓子の味見はしていない。
一生懸命、練習してきた、チームの中には氷を『力』で削り、仕上げに糖蜜を掛けて、先生に味見をしてもらい、先生から好評価を貰っていた。
そして、いよいよ、僕とエミの番が来た、料理を作る分けじゃないから、短い時間で、氷菓子を作らなくちゃいけない、
僕とエミは、結構練習したから、自信は有る、先生とルーナ殿下が僕達の前に来て、先生が僕達に言う、
「じゃ、ハルチカ・コーデル、エミリア・ドルネッサ、始めぇてぇ。」
僕は、ルーナ殿下を見た、ルーナ殿下は優しく微笑んだ、僕は殿下の印象が変わった事に気付いた、
えっ?
何故?
その時、僕は殿下の耳に翠光に輝く星形のピアスに気づいた。
「ハル、始めましょ。」
エミリアが緊張して僕に声を掛ける。
「あぁ、始めよう、エミ。」
僕は、気が付いた、あのピアスの光、
あれは、『星の光』
そうか、
『星の光』が、ルーナ殿下に、
スグルさんは言った、僕の願いが星に届いたから、僕達が助かったのだと、
星に願いが届く、
スグルさんが、正しいなら、
本当に正しいなら、
僕も、スグルさんのような事が、
出来るのだろうか。
「やるよ、エミ。」
僕は決心した、
やってみよう!
僕達はスグルさんの魔導術を見て、スグルさんが作ったような氷菓子、
アイスクリームを作ろうと、
ずーっと練習してきた、
カップには卵とミルクとシロップが入ってる、此を、『力』でかき混ぜる。
スグルさんのアイスクリームは、かき混ぜながら冷していた、
まず、『力』の魔導回路を僕が生成する、その回路にエミが魔素を流す、魔導回路に赤い輝線が走り、カップの中の材料が泡をたてながら、膨らむ。
僕は、その回路に更に新しい回路を繋げた。
先生の表情が厳しくなった。
当然だ、僕達がやろうとしている事は、魔導回路の自動処理、一年ではまだ、習う事のない技術だ。
スグルさんのアイスクリームを見て、あの魔導術を見て、僕は、あの魔導術を、自分もやってみよう、そう思い、両親に相談し、実現可能な技術を聞いた。
自動処理は、一回、魔導術を起動すると魔素が自動で回路に流れ続けるようにする技術。
作成した回路を改変して、巡回回路にする必要があり、難しいのは改変途中で回路が壊れてしまうのと、旨く、魔素が巡回してくれない事。
だから、僕とエミは、出来るまで何百回と練習した、特に僕が、
そして、出来るようになった。
よし、第一段階が成功だ、魔導術がカップの中の材料を自動でかき混ぜてる、
エミが、『炎』の魔導術で、『熱量変換』の回路を作成する、
回路を作成するのは簡単なので、此をエミにやってもらい、僕は、その回路に魔素を流す、
此の『熱量変換』は、流す魔素の量により、温度をコントロールする、只、氷を作るなら簡単なんだ、大量の魔素を回路に流せば良い。
しかし、其れでは、アイスクリームは出来ない。
僕は、慎重に、繊細に、回路に魔素を流し、温度をゆっくりと下げた。
カップの中の材料は、氷にならず、柔らかく、其れでも固形状の状態になり始め、
クラスから、どよめきが上がった。
アンリがリアに、
「御嬢様、此は!」
リアが、
「えぇ、氷ケーキね。」
えっ、氷ケーキ
此の氷菓子、ポワジューレ共和国には有るの?
そうなんだ、
ならば、次は、どうだろ、
普通なら、此で、終わりだ、
「ハル?」
僕は、スグルさんのように右手に意識を集中して、
星に願った、
星よ、星よ、
我が手に、
・・・
僕の手は、
僕の手は、
皆には見えないくらい、
ほんの、ほんの少し、
ほんの少し、
翠色に光、
あたたかな感触に、
包まれた!
僕は、
ゆっくりと右手を、カップの上に置き、
小さな、本当に小さな星を、
カップの中に、
入れた。
その瞬間、
僕の瞳だけに、
アイスクリームが、
一瞬、光輝くのが、
分かった。
スグルさんは、正しかった。
僕の願いは、
星に届いた。