囚われ人
バルセリア魔導高等学校摩導科C一年生のハルチカ・コーデルとエミリア・ドルネッサは春期休暇に コーリン・オーウェルことスグル・オオエと出会った。
その直後、ハルチカとエミリアは、公女ルナリィア・ウェルドの乗る魔導船『プリンシブァ』の落下事故に巻き込まれ、その時、コーリン・オーウェルが呼んだ星達により二人は救われる。
そして意識を失なった二人を拘束したルナリィア・ウェルドは二人からの情報により、落下事故を防いだ魔導士の名前がスグル・オオエである事を知る。
新学期が始まり、二年生に成ったハルチカとエミリアは、自分達の荒れた学校が、新任の学校作業員により美しく綺麗になっている事に驚き、
そして、その学校作業員が、自分達の命の恩人であるスグル・オオエである事を知って更に驚くのであった。
そのスグル・オオエの正体が実は、魔導機の発明家で、彼は何者かに追われているから、普段は姿を隠している事を、友人のジェミオ・バレットスから知る。
その話からハルチカは、スグル・オオエが実は長いこと、ウェルド家に拘束されていて、何かしらの理由で公家から逃げ出し、其を追い掛けて来たのが公女ルナリィア・ウェルドだと思い込み、
そう思ったハルチカは、公女にスグル・オオエの情報を提供した事を後悔する、
魔導省から補償として贈られた魔導二輪車が高額であった事も、彼は、スグル・オオエの情報が如何に重要な事だったかを思い、
ハルチカは、自責の念から、スグル・オオエに今日、彼を捕まえる為にルナリィア・ウェルドが学校に来る事を知らせようと、
スグル・オオエの住む宿舎が有る北の森に向かった。
朝、起きたら俺の宿舎の回りを、大勢の学生達で大騒ぎしている光景を、俺は、宿舎の窓から見る事になった。
えっ!何なの!一体、どうしたって言うの?
外は大騒ぎで、
「確か、ここら辺だよなぁ。」
「あぁ、たぶん、でも、見当たらねぇよなぁ、その学校作業員って奴よ。」
「あのボロい宿舎、学校が壊したのかなぁ、見当たらないね、となると其処らへんで寝てんじゃねえの?その人」
「バァカァ、幾らなんでも野宿してる分けないじゃん、たぶん、街で宿を借りてるわよ、だから此処にいないよ、もう帰ろうよ。」
彼等は、俺を探している、何で、?
だが、彼等はどうやら、俺の宿舎を認識出来ないようだ。
元々、宿舎は一昨日、改造した時、全体に森の要素を入れた塗料で塗って森に溶け込む効果を与えているし、窓ガラスにも同様の効果を入れている。
だから、宿舎は普通に認識しずらい、
更に、俺が常時発動している、『星隠し』によって、俺や俺の付属物はより認識しずらく成っているから、
俺を知らない人達は、殆ど、俺と俺の付属物と『星隠し』が認めている此の宿舎が分からないんだと思う、
俺は、安堵した、『星隠し』を発動していた事を、
もし、発動してなかったら、数十人のガキが俺の宿舎に乱入して来て、俺の寝込みを襲いかかって来た筈だ。
俺は、彼等に乱暴出来ないから、
俺の貞操が!!!
・・・
バカな事を考えてないで、少ない朝飯でも食いに行くか。
本当に、
俺は、従業員専用の食堂で朝飯を食べた後、宿舎に戻る道すがら考えた、
しかし、本当に朝飯にしろ、夕飯にしろ、量が少なく、足りない。
どうも、空腹感、飢餓感が強い、此れは、俺が『星隠し』を常時発動しているせいか?
一体、此の飢餓感を満足させるには何れくらい食えば良いんだ?
残った金貨を金に買えて、食料を買う事も有る事は有る、しかし、貰える給料が少ないから、家計は赤字に成って、いずれ金貨も底を付く、
解決には成って無い。
・・・
まぁ、自給自足の生活をするかだなぁ、俺は前にいた世界の一つで農業もしていたし、狩りもした事は有る、勿論、魚釣りは得意だった、遥か昔の話だけどな、
星の加護が有る此の世界なら、もっと楽に自給自足が出来る筈だと、お気楽に考えて、俺の宿舎に戻ると、
男女二人の聞いた事の有る、声が。
「ねぇ、ハル、此処に、スグルさんはいないんじゃないかなぁ。」
おっ、エミちゃん!
「でも、もし、スグルさんが、此の森にいたら、僕は、僕達はスグルさんに謝らなくちゃいけない!」
うん、ハル君?
「謝るって、どうゆう事、ハル?」
二人は、何の話をしてんだ、其に、やっぱり、二人も俺に気付かない。
「僕達は、僕は、スグルさんの事を、喋ってしまった!だから、ルーナ殿下はスグルさんが、此の学校にいる事を知ってしまったんだ!」
えぇーと、ルーナちゃんが俺の事を知って、其で此の学校に来るって分けだが、
「ハル?何、可笑しな事、言ってんのよ、確かに、ルーナ殿下はスグルさんの事を色々聞いていたけど、其がどうかしたの?」
あっ、其で、彼等は俺の事知ってたんだ、まぁ良いけどね。
俺は、もう我慢が出来ず、二人に話し掛けた。
「そうだよ、ハル君、君達が俺の事をルーナちゃんに喋ったとして、其がどうしたって言うんだい。」
二人同時に、
「えっ!!!」
俺の方を振り替える。
「スグルさん!!!」
俺は二人に笑顔を向けながら、
「やぁ、エミちゃん、ハル君、君達は此の学校の生徒だったんだね、良かった、ルーナちゃんに苛められて無くて。」
エミちゃんが驚いた顔で、
「えっ、ルーナ殿下の事をルーナちゃんって、スグルさんは殿下の事知ってるんですか!」
俺は照れながら、飲み屋の一件を二人に言うわけにいかないから、其処は隠しながら、説明する事にした、
「ちょっとね、たまたま、食事に行った場所にルーナちゃんの軍隊と鉢合わせして、楽しく騒いだ仲って間柄かな。」
ハル君は、俺の話しに納得して無いようで、俺に詰め寄りながら、
「嘘だ、だって、ルーナ殿下は僕達にしっこくスグルさんの事を聞いたんだよ!其は、スグルさんが偉大な魔導機の発明家で、その為にルーナ殿下に追われているからなんでしょ!!!」
えええ!!何、その中二設定!!!
一体、誰がそんな話をでっち上げたんだよ!
って、俺だ!俺だよ、確か、マーキって奴、説得する為に付いた嘘だ!
ヤバイ、嘘が一人歩きしてる、だから、朝から変な学生達が俺を探していたのか。
どうやら、『星隠し』は、俺が付いた嘘までは消してくれないようだ。
ハル君は真剣な顔で、
「スグルさんと出会った時、スグルさんは何十年間も外に出て来られなかった人のようだった、其はつまり、ルーナ殿下、此の国の公家にスグルさんが、」
「其は、違うよ、ハル君。」
「えっ?」
真実を話しても、たぶん伝わらない、だが、嘘を付くのは危険過ぎる、
特に、此の二人に嘘を付くのは不味い、
「ハル君、エミちゃん、確かに、俺は有る事情で、囚われ人だった、だが、其はルーナちゃんじゃ無い、其に、俺が追われているのは嘘だ、俺は誰にも追われてはいない。」
ハル君はまだ納得しない、
「でも、スグルさんは偉大な魔導機の発明家で、その魔導機で僕達の事を救ってくれたんでしょ!!!」
魔導機の発明家か、此の設定も結構、無理あんなぁ、俺、魔導の事、何も知らないし、
「ふぅ、ハル君、君は勘違いをしている、俺は偉大じゃ無いし、発明家って言うより、ちょっと便利な事を人より多く知ってる何でも屋ってところだ。」
此れは、嘘じゃ無い、俺には、多くの世界を渡り歩いた知識が有る。
ハル君は狼狽しながら、
「じゃ、僕達を救ったのは!」
此処は、少し真実を話そう、
「勿論、俺じゃ無い、ハル君、君達が助かったのは、君がエミちゃんを助けたいと、星に願い、その願いが星に届いたからだ。」
その言葉を聞いた二人は、
二人、同時に、
「願いが、願いが星に届いた!!!」
ほんの少しの真実を、君達に話そう、
「そうだ、信じるか、信じないかは、君達に任せる、だが、ルーナさんの船も、君達を救ったのも、魔導術じゃ無い、天界に瞬く、星々だ。」
二人は唖然とした顔で俺を見る、仕方ない事だ、此の世界の人々にとって、星はお伽噺の存在でしか無い。
全ての奇跡は、魔導術によって起こる。
星じゃ無い、
俺は話を続けた、
「星は気まぐれだ、全ての人々の願いを叶える事は決して無い、だが、一度、その願いが届けば、彼等はその願いを叶えようとする、ハル君、君のエミちゃんへの愛が星に届いたからこそ、奇跡が起こった。」
エミちゃんは真っ赤な顔で、ハル君を見詰めている、
うん、相思相愛の若者は可愛い、
「僕の願いが、・・・星に、」
「そうだ、ハル君、君には心当たりが有る筈だ。」
ハル君は、下を向いて、少し考えた後、もう一度、俺に疑問を聞いて来た。
「・・・でも、・・・何で、スグルさんはそんな事を知っているんですか!」
当然の質問だ、だから、俺はこう答える。
「最初に言ったろ、俺は人よりちょっと多くの事を知ってる、何でも屋だって、俺は星達の言葉が分かる、だから、君達の事は、君達を助けた星から聞いた。」
二人はまた、唖然とした顔をした。
まぁ、突然、星の言葉が分かるって言ったら、皆そうなるよなぁ。
最初に口を聞いたのはエミちゃんだった。
「私、スグルさんの言ってる事、本当だと思う!あの光は暖かかったし、何か、ずうーっと昔から、あの感じを知ってたような気がする!」
そうだ、君達は昔から知ってた筈だ、
何故なら、君達は、
『星に愛されし子供』
だから、
だけど、
俺は、此の事は君達には伝えない、
自分達が特別だと思う事は、人生にとって、余りにも危険だからだ。
だが、
一つだけ信じて欲しい。
星が君達の事を愛している事を、
「さぁ、そろそろ入学式が始まるんじゃないのか、行った方が良い。」
俺は、二人に帰るように薦める。
エミちゃんが、あっ、てな顔して、
「そうだよ!ハル!入学式が始まっちゃう!」
「でも、スグルさん!ルーナ殿下の事は!!」
俺は笑いながら、
「ハル君、大丈夫だよ、彼女には、美味い飯と酒を奢って貰った仲だ、決して彼女とはトラブッテ無い。」
たぶん、『星のピアス』を返せば、彼女の機嫌が直る、
と、思うんだが。
まぁ、何とかなるんじゃない。
ハル君も納得して、二人は急いで入学式が行われる講堂が有る、東側の摩導教練棟に向かった。
「えっ!入学式に出ないんですか!」
うん、驚いて、ドングリ眼のエルさんも可愛い。
俺は、あの後、事務棟に行って、エルさんに、俺が入学式に出席しない事を伝えた。
ルーナちゃんが入学式に出席するんだったら、まぁ、一応、大丈夫だと思うけど、目立つ事は控えよう、そう思った。
「其で、学長に、俺の紹介は良いからと、言っておいて欲しいんだけど。」
エルさん、また驚いて、
「紹介を、断るんですか!」
「うん、ほら、俺、異人だし、臨時の学校事務員だから。」
エルさんは、じぃーっと俺の顔を見詰めている、
「俺の顔に何か付いてる。」
此の言葉は、前にも言った。
エルさんは、寂しそうに首を振って、
「分かりました、学長に伝えときます。」、とだけ俺に言って、仕事に戻った。
彼女の寂しげな表情が、俺の胸を締め付ける。
彼女には、本当に悪い事をした。
此れは、星の力の魅力が、まるで、魔導術の『心』のように、人の心に影響を与える事を知らなかった、俺の罪だ。
エルさん、君が憧れた星の力で輝いて見える俺は、此の世界にはいないんだ、君の目の前にいる冴えない小太りの男が本当の俺なんだ。
君は、此の、本当の俺を好きになる事は無い、
だから、俺は君をこれ以上苦しめたくない。
エルさん、忘れて欲しい、
君が憧れた俺を、
俺は、そう思いながら、
事務棟を後にした。