出合い
あぁ、腹へった、くんくん、良い匂い、母さん、早く飯にしてくれ、
あの世界の母が笑ってる。
そうだ、俺は何処に行っても闘い続けて来た、
まるで、闘う事が俺の宿命だったように、
闘いは俺に果たされた呪いなのか?
そんな俺に、どの世界の母も泣いていた。
闘い傷つき、敗北していく俺を見て泣いていた。
御免な、母さん達、
でも、どの世界の母さんも、飯は旨かった、うん、弁当を此のバスケットに入れてくれたんだね、母さん。
えっ?
バスケット?
「ち、ちょっと、ハル、舌入れたでしょ。」
舌?
「少しだよ、エミ、少し」
少し?
「それって、早く無い?」
早い?
「普通、普通、皆してるって、エミ」
してる?
「そうなのって、ちょっと、あっ!ハル!キャ!」
えっ?
「すっ、すっごい濡れてる、此れなら出来るよね、エミ」
出来るって!
まさか!!
ブワッツ!!
コーリンは藁屑を巻き上げながら、藁山の中から飛び出し、
「ちょっと待て、お前ら!!!」
コーリンは右手を前に出しながら、
目の前の二人を止める!
「わあああああああああ!!!」
「きゃああああああああ!!!」
コーリンの目の前にいた二人は、突如、藁山の中から現れた浮浪者のような彼を見て腰を抜かし、驚いて悲鳴をあげた!
赤毛のそばかす娘っ娘が、髪ボウボウ、髭ボウボウ、格好はボロボロのコーリン・オーウェルを見て、大声で叫ぶ、
「きゃあああああ、痴漢!変態!!変質者!!!」
「違う!!!」
コーリンは慌てて、胸の内ポケットから金貨を出して、二人に見せながら、「違う!俺は怪しくない!!ほら、金持ってる、なっ!普通の大人だ!!!」
と、分けわかんない言い訳して、
赤毛っ娘は、
更に、
「キャアアアアア!!!変態が変なの出して、私の体、狙ってる!!!!」
「違う!!!!!!!!」
あぁ、我らが変態、コーリン・オーウェルの叫びが納屋中に響き渡る!
どうなる変態、コーリン!
「って、違うから、落ち着いてな!」
そう言いながら、一生懸命、両手を下に振りながら、二人を落ち着かせようとするコーリン、
腰を抜かした二人のうち、背は百七十前後、優しそうな顔の、髪は黒く、パッチリした黒い瞳、少年と青年の中間くらいの男の子が、怯えながら、
「はっ、はい!」
その隣の背も歳も同じくらいで赤毛をツインテールで纏めたそばかすの美人って言うよりも、少し可愛い女性って言うより、少し幼い娘っ娘が、
コク、コク、
と首を振り、
コーリンは自分を指しながら、
「良い、俺は旅人な!分かる?」
男の子は、
「はっ、はい!」
娘っ娘は、コクコク!
コーリンは更に協調しながら、
「良いか、先に、俺が此の納屋で寝てた!、俺が先!分かる?」
二人は、コクコク!
「其でな、後から来た!君達が!変な事始めたから!!俺は止めた!!!分かる!!!!」
男の子が、不思議そうに、
「変な事って、製氷菓子作りがですか?」
コーリンは頷きながら、
「そうだ、不純異性交遊はい、えっ?製氷菓子?」
男の子は金属のカップを持ち上げて、
「僕達、魔導術で、宿題の製氷菓子を作ろうと思って。」
コーリンは呆れながら、
「こっ、此処でか!」
娘っ娘が得意気に、
「そっ、そうよ、だってハウエルさんから、新鮮な卵とミルクを貰ったのよ!早く食べたいじゃない!お昼のデザート!」
コーリンは慌てて、
「じゃ舌入れたってのは?」
娘っ娘がふてくされて、
「ハルが味見って言ってカップに舌入れたから!」
コーリンは目を見開いて、
「カップに舌!、ってじゃ、早いってのも!」
娘っ娘は男の子を睨みながら、
「まだ、製氷菓子出来て無いのにハルが!」
男の子は、娘っ娘を見ながら、
「御免な、エミ、皆もあれくらいで味見してるから、」
コーリンは信じられないって表情で娘っ娘を指しながら、
「じゃ、じゃ、君がキャって言ったのは!」
娘っ娘は更に怒って、
「ハルがカップをふざけて、私の頬に着けるから!」
コーリンは、
「濡れてるってのは!」
男の子は当然って顔で、
「勿論、カップの表面ですけど?」
「もしかして、出来るって言ったのは!」
二人同時に、
「製氷菓子」
コーリン、土下座して、「御免なさい!」
「で、何、作ってるのか見せて見ろ。」
まだ、ちょっと疑っているコーリンだった。
コーリンは男の子が持っているカップを取り上げて、中を覗く、
確かに冷たいし、中はミルクと卵がグチョグチョして僅かに氷らしき物がある、
コーリンは呆れて、
「何だ、此の不味そうな物?」
男の子は、ガッカリして、
「不味そう、」
娘っ娘はふてくされて、
「し、仕方無いじゃない、魔導力の熱量変換は難しいんだし、クラスで完璧に出来るのなんて誰もいないし、だいたい、貴方が私達の邪魔したんじゃない!」
一気に捲し立てて、コーリンを責める!
コーリンはため息を付きながら、
「俺のせいってか、わかった。」
二人はコーリンが怒ったと思い、
「ひぃ!」、「キャ!」
と後退り、
コーリンは二人を無視して、カップに星力を集める。
うん、昨日より調子が良い、
更に、星界から星力を右手に集め、
コーリンは考えながら、右手の星力を一端、解き放つ!
確か、空気を入れながら攪拌させて生クリームを作るんだったよな、砂糖は牧草の草花の蜜を星々に集めさせて、よし!
と、何を作るのかを決めた瞬間!
コーリンが手にするカップが半透明な翠色に輝き、何百の細い輝線光がカップに回転しながら入り込む!
シュウワアアアアアア!!!
カップから生クリームが吹き上がり、
二人は驚愕して、
「えっ!」、「わぁあ!」
と奇声を上げた。
コーリンは更に考える。
そして、熱を星に捧げれば、
カップの生クリームが蒼く輝き、
よし、その調子だ。
生クリームが徐々に氷始め、
ストップ!
生クリームは白い冷気を放ちながら半固形化し、
コーリンはニヤリと笑う。
よし!完全に氷にしちゃ勿体無いし、出来た!
コーリンは、ポカーンと口を開けて驚いている、二人を見ながら、
「え、ええと、名前は?」
男の子が、
「え、あ、はい、ハルチカ・コーデル、バルセリア高校、魔導科、一年C組!」
娘っ娘が、
「エミリア・ドルネッサ、同じく、バルセリア高校、魔導科、一年C組」
コーリンは二人に、
「じゃ、ハルチカ、エミリア、食べる?」
と言いながら、手に持つ、製氷菓子を二人に差し出す。
二人は同時に、
「はっ、はい!」
ハルチカは、一口掬って口に入れたアイスクリームの美味しさに、
「すっ、凄い!」
エミリアもアイスクリームを口に入れた瞬間、
「あっ、あっ、甘い!其に、甘さが口の中で弾けてる!」
そりゃそうだ、星に集めさせた草花の蜜糖と星のエキス入りだし、
コーリンは、ニヤリと笑いながら二人に、
「おい、俺にも、少し残しておいてくれよ。」
ハルチカは嬉しそうに、
「はい・・・」
そして、困った顔で、
「ええと、あのぅ、御名前は?」
コーリンは、自己紹介してなかったっけ、と思いながら、
「あっ、すまない、俺は、俺はコーリン、コーリン・オーウェル、宜しくな。」
二人、同時に、
「えっ!」
そして顔を見合わせる。
俺、?
ハルチカは困った顔で、
「そのー、あのー、其って、」
困っているハルチカの横から、エミリアが、怒りながら、
「オジサン!フザケテんの!逸んな偽名を名乗られて、私達が貴方をコーリン様って呼ぶと思ってんの!頭がおかしいんじゃない!」
えっ!
フザケテるって?
偽名?
ハルチカは慌てて、
「エミリア、ほら、此のオジサン、旅の役者さんかも、コーリンの役をやってるから?」
エミリアはハルチカを睨んで、
「ハル、違うわ!此の人、あたしたちをからかってるのよ!」
からかってるって、
マジか、
一体、
俺の名前って、此の世界でどうなってんの?
まぁ、取り合えず、此の場は、
「御免な、確かに、冗談だ、俺はスグル・オオエだ、スグルさんと呼んでくれ。」
ハルチカはほっとして、
「すみません、冗談が分かんなくて、でっ、改めて、此の氷菓子、有難う御座います、スグルさん。」
と律儀にお礼を言い。
コーリンも、
「アイスクリームって名前な。」
と菓子の名前をきちんと訂正させる律儀なコーリンだった。
エミリアもコーリンの本名を知って安心したのか嬉しそうに、
「本当に此のアイスクリームは美味しいです、スグルさん。」
コーリンの口にパンとハムとサラダのミックスした甘く、ちょっと酸っぱく、其でいてハーブの爽やかな味が広がる。
あぁ、俺は一体、どのくらいの間、食べ物を口にしていなかったんだ。
「モグ、モグ、悪いなぁ、昼メシ、貰っちゃて、」
エミリアはパンをかじりながら、
「ハルって結構、大食いだから、沢山作ったんだけど、ハル、足りるの?」
ハルチカもパンを頬張りながら、
「うん?あぁ、大丈夫、スグルさんからアイス貰っちゃたし。」
コーリンは、頭掻きながら、
「本当に悪い、何せバスケットの中からする良い臭いで目が覚めたくらいだから、腹ペコでな、兎に角、此のサンドイッチは旨い!」
エミリアは、変な名前で言うコーリンに、
「スグルさん、此れはバンデゥタって言うの!」
コーリンは、
「うん?パンだろ?」
エミリアも、其処は拘り、
「言い、バン!ね、そして、デゥタ!」
コーリンは食いながら、
「だから、パンでした、でしょ?」
エミリアは、
「違う!」
変な事に拘り始めた二人に困ったハルチカは、話題を変えようと、
「処で、スグルさんて、職業は魔導師だったんですか?」
とコーリンに話しを振り、
「ん?、そのさっきから良く口にする、魔導って何なんだ?」
と不思議そうにハルチカに逆に聞き返し、
「えっ、スグルさん、魔導術を知らないんですか!」
とハルチカもエミリアもビックリ。
コーリンは困ったなぁ、って顔して、
「ほら、俺って遠い東の国から来た旅人だろ、此の国の固有の言葉は分からないんだ、悪いな、教えてくれると助かる。」
エミリアとハルチカがお互い顔を見合せどうするって顔をお互いにして、
エミリアがハルチカにあんた説明しなさいよって顔したので、ハルチカは諦めて、
「スグルさん、魔導って此の国だけじゃなく、世界中で普通に使われているから、僕達には当たり前の事で、其を、いざ説明するとなると、凄く難しくて、・・・」
コーリンは、ちょっと心配になって、
「世界で当たり前って、ちょっと大袈裟じゃ無いのか?」
とハルチカに聞き、
ハルチカは首を振りながら、
「本当だよ、スグルさん、だから、スグルさんの出身地って、スグルさんが魔導を知らないなんて、その場所は文明と切り離された凄い辺境なんだね。」
コーリンは頷きながら、
「あぁ、自慢じゃ無いが、すっごーい、辺境だ、でっ、魔導って何なんだ?」
ハルチカは、
「すっごーく簡単に言うと、空気中にある魔素を使う技術。」
コーリンは驚いて、
「魔素だと!」
ハルチカは頷きながら、
「そっ、魔素、魔素は普通に何処にでも有るからね、魔素を人類が二千年前に発見したその時から、僕達、人類の文明は飛躍的に進化したと言われているんだ。」
えっ!
「ちょっと待て!二千年前って、そう言えば、今は星暦何年何月何日なんだ!」
コーリンは慌てて、ハルチカに今日の日を確認し、
ハルチカは、えっ、て顔して、
「星暦?、スグルさん、星暦って、今は、魔導暦2035年3月23日だよ。」
コーリンは唖然として、
「魔導暦2035年って、一体、其は何時なんだ?」
其処でエミリアが堪り兼ねて、口をだす、
「その星暦って、古代史で習った事が有るけど、確か、二千年前に滅んだ、六星国で使われた暦だったような。」
ハルチカは驚いて、
「えっ、そうなの、僕、選択に古代史取らなかったから。」
コーリンは愕然とする。
滅んだ!
二千年前に!
俺達の星国が!
何故だ?
俺は、
俺は救えなかったのか、
皆を、
「スグルさん、スグルさん、顔色悪いけど大丈夫ですか?」
ハルチカが心配してコーリンに声を掛ける。
コーリンは直ぐに首を振って、
「ああ、大丈夫だ、続けてくれ、ハルチカ。」
ハルチカの説明は続く、
魔導、其は世界に満ち溢れている魔素を力、磁、雷、炎、光、錬、心の7元素に変換する技術。
機械により魔素を7元素に変換する技術が魔導工学。
心力により、魔素を7元素に変換する技術を魔導術と呼ぶ。
魔導学の初歩は中等科から始まり、高校で工と術の専科に分かれる。
魔導術の基本は心力により魔素をコントロールする回路を作成する事で、作成された回路に心力で操作した魔素を流す事により魔素の7元素変換が始まる。
ハルチカとエミリアは、その魔導回路を作成する魔導術の初歩を勉強中の高校生であった。
其はつまり、世界から星力が喪われ魔力が支配した世界の、
説明であった。