コーリン・オーウェル
俺は、バルセリアの魔導高等学校の図書館に掃除する為に訪れた。
其処で、俺は、魔導本の事、魔導術『心』の恐ろしさを知り、
その後、やっと本題で有る、俺の本当の名前、コーリン・オーウェルの話題にたどり着いた。
此の名前を出すと、やはり、何故かウェラさんもビックリして、
「あんたの年で、そんなの読みたいなんて、変わってるね。」
? どう言う意味?
「確か、児童図書コーナーに一冊有ったかな?」
ウェラさんは考えながら呟く、
児童図書?
ウェラさんは、カウンタから出て、俺を児童図書コーナーに案内してくれた。
児童図書コーナーは、図書館の奥の方に有り、
やはり、棚にはタイトルが書かれた、いろんな色の箱が沢山並んであった。
ウェラさんは、腰を屈めて隅っこの方から、一つの箱を取りだし、
「これだ、此れだね。」
その箱を、俺に差し出した。
ウェラさんは、ちょっと考えながら、
「スグルちゃん、魔導本箱の使い方知ってる?」
俺は胸張って、
「嫌だなぁ、ウェラさん、俺は東の辺境の出身だよ、知るわけ無いじゃん。」
ウェラさんは呆れて、
「何、開き直ってるのさ、仕方無いねぇ、そんなんじゃ、あんたは、小学生以下だよ、本当に。」
流石に、ウェラさんは怒って、俺の頭がパーでっせと言い始めた。
「小学生!」
あっ、小学生って事ね、まぁ、仕方無いよね、知らねぇし、
ウェラさんは、赤い箱に横にあるスリットを指しながら、
「良いかい、スグルちゃん、その魔導本を此の溝に入れるんだよ、暫くすると箱が本に魔導回路を書き込む、書き込みが終わったら、本が飛び出て来るから、それで、その本が読めるよ。」
成る程、前にエルさんに見せて貰った就労記録板と同じ仕組みか、
「分かったかい、スグルちゃん」
ウェラさんが、俺に念を押すので、俺は、
「あぁ、分かった、充分わかった。」
とウェラさんに答え、俺はウェラさんから、箱を受け取った。
そして、俺は俺の物語を読み始めた。
・・・
・・・
・・・
まぁ、エリちゃんや、ハルチカが、俺の名前で驚くのも、無理無いわなぁ、
酷くねぇ、此れ、
此の話は、世界中で、結構有名らしく、子供達には大人気で、結構読まれてるらしい、此れは後からウェラさんから聞いた。
小学校には、沢山置いて有るらしいんだけど、此処は高校だから、一冊しか置いて無いんだって。
ハッキリ、言って、中身は、
怪獣大戦争だ、
心のネジ曲がった、醜い男、コーリン・オーウェルが、美しき姫に邪恋の恋をした、魔の神は、コーリンに其を諌めたのだが、コーリンは魔の神の言葉を無視して、美しき姫を我が手中に収めようと、巨大な化け物に変身した、
更に、その美しき姫を我が物にしようと、地より、魔の人が現れる!
二人の、魔人の戦いは壮烈だった。
・・・
確かに、スッゲー迫力、
前の世界の、特撮巨大ヒーロと大怪獣の決戦って感じ、
此れ、たぶん、二千年前の俺と『魔神』、の戦いの伝承が、こうなったわけだ、
二人の巨人の戦いは、大地を破壊し、多くの街を、山を破壊し、世界は混沌と化した。
そんな状況に困った、民と姫様は、魔の神に祈った、神は祈りを聞き届け、此の混乱の大地に一人の勇者を送った、
そして巨人、コーリンが魔人を六本の巨大な剣で、大地に縫い付けて、七本目の巨大な剣を魔人に突き刺そうとした時、
勇者は、その手にした剣で、コーリンの尻を刺し貫いた。
・・・
・・・
・・・
まぁ、子供は尻が好きだし、
児童図書だから、
・・・
でっ、コーリンは、その尻に突如、起きた、激痛に思わず、手にした七本目の巨大な剣を自ら取り落とした瞬間、
勇者は、もう一度、尻の穴に、
ブスり!
・・・
児童書、児童書な、
・・・
そして、あまりの痛みに、巨人から醜い人に戻ったコーリンは、
勇者と姫様に、土下座して謝った。
・・・
児、児童書、
・・・
改心した、コーリンは、鐘が鳴り渡る、勇者と御姫様の結婚式の日に、
魔人を連れて、地下の世界に旅立ちました。
めでたし、めでたし。
・・・
・・・
酷くねぇ、俺の扱い!
・・・
本のタイトルは、
『コーリン・オーウェルその改心』
・・・
此れも、後からウェラさんに聞いたのだが、コーリン・オーウェルの名前は、子供達に取っては、
道化の代名詞なんだとか、
・・・
そりゃ、エリちゃんは怒るよなぁ、道化の名前出したら、ふざけてるって、
・・・
ふぅ、
俺はため息を付いた。
・・・
まぁ、確かに面白い、
・・・
俺の名前が、出なければ、
此の魔導本を読んだ俺は、二千年前の、あの出来事を、ハッキリと思い出した。
そうだ、あの日、世界に始めて、神が生まれた。
神が生まれた事について、世界を動かす、七人の星の使途の一人、天皇星の大賢者は、俺に悲しそうな顔をして、
「神が生まれたのは、民が、星の加護の無い多くの民が、神を望んだからだ。」
と俺に説明してくれた。
当時の俺は、彼の言ってる事の意味が分からなかった。
星々が有るのに、なんで、神が必要なんだよ、だから、星の加護の無い奴等は馬鹿なんだ!
そう、思っていた。
そうだ、当時の俺は傲慢で、民を見下していた。
あの時の俺は、一度も、星の加護の無い者とは、口を利かなかったし、
相手にもしてなかった。
・・・
心のネジ曲がった、醜い男、コーリン・オーウェルか、
星の加護の無い人々が、俺を見てそう思ったのも、無理ないかぁ、
今の俺から見ても、当時の俺は嫌な奴だった。
其に、俺達、七人の星の使途の中で、世界の事、星の加護の無い民の事を一番、良く理解していたのは、
天皇星の大賢者
彼一人だった。
彼の瞳は、遥か未来を見ていた、彼は、神が此の世界に降臨した時、
既に、此の、『星が愛する世界』である『星の六大国』が、
終焉を迎える事を、
知ってたのかもしれない。
『魔神』は生まれたばかりの赤ん坊の神様だった。
魔人を産み出し、街を、都市を、国を破壊しては再生して喜ぶ、無邪気な赤ん坊だった。
天皇星の大賢者が言うには、生まれた神は、直ぐに眠りに付き、二億年程眠った後、ある程度、大人になってから目が覚める、その時の神は、今の『魔神』のように、世界で遊ぶ事は無いそうだ。
『魔神』が目を覚ましているのは、たぶん、星々の力の影響なのかも知れないと、彼は言っていた。
此の事態に、赤ん坊の神、『魔神』をどうするかを討議する為に、『星の六大国』の指導者、賢人、重鎮等が集まり、
彼等は、俺達、
七人の星の使途を召集した。
そして、其処で、俺は『月の星国』の、
『月の星姫』
ルーナ姫と出会い、
恋に落ちた。
俺達は、会議そっちのけで、二人でデートしていた、
俺の人生で、剣皇の修行以外、何もして来なかった俺の、始めての恋だった。
だから、その時の俺は有頂天だった。
そして、ずっと側に居てくれた、
冥界の星巫女
彼女の気持ちに気付かなかった、
嫌、知ってたのかも知れない、しかし、たぶん、その時の俺は、彼女の気持ちを無視していたんだと思う。
その当時の俺は、そう言う奴だ。
そして、会議は天皇星の大賢者の提案が採択された。
彼の提案は、『魔神』を寝かし付ける、その一言だった。
『魔神』を世界と星界の間、神をも忘れてしまう喪しなわれし地平に寝かし付ける。
喪われし地平への道は金星の錬金士が開ける、そして、俺達、七人の星の使途が『魔神』をあやしながら、その地平に連れて行き、
俺が、その地平で七本の星剣を『魔神』に打ち込めば、『魔神』は眠りに付く、
彼は、そう俺達に、『星の六大国』の指導者に説明した。
勿論、魔人達は邪魔をするので、『星の六大国』で、魔人達を牽制する。
作戦は、金の星が最も、此の大地に近付いた日。
その日、俺は戻ったら、ルーナ姫に『星のピアス』を贈ろうとピアスを購入した、
そして、魔操神人に操られた冥界の星巫女が、星剣を『魔神』に刺し貫いている俺の邪魔をし、
俺は、星剣の操作に失敗し、
俺の操作の狂いにより、星剣は、喪しなわれし地平の大地を切り裂いた為、
俺と魔人共は、切り口から発生した、忘却の渦に巻き込まれた。
・・・
結局、俺は、ルーナ姫の処へ、皆の処へ戻って来る事は出来なかった。
其は、二千年前の、つまらない話だ。
そして、俺は幾度も、忘却の果ての星の力の無い世界で生まれ変わり、
やっと、
二千年後の、全てが失われた、此の世界に戻って来た。
其が、現在。
「スグルちゃん、スグルちゃん。」
一体、どのくらい時間が経ったんだろう。
ウェラさんが、俺に声を掛けて来て、俺の思考は二千年前の過去から現在に引き戻された。
「随分、熱心にその本、読んでたけど、何がそんなに、気に入ったん
だい? スグルちゃん。」
ウェラさんが、俺に問い掛ける。
俺は、児童図書コーナーに居る自分に気が付き、ゆっくりと回りを見回した後、ウェラさんに向かって、
「まぁ、コーリン・オーウェルの全てが気に入った、只、其だけだよ、ウェラさん。」
そう、彼女に答えた。
彼女は、暫く考えた後、やれやれって顔して、
「スグルちゃんは本当に変わってるねぇ、コーリンは小学生に大人気だから、小学校の図書館に行けば、もっと色んな本が有ると思うよ、紹介しようか?スグルちゃん」
俺は、ウェラさんに微笑んだ後、ゆっくりと首を振りながら、
「有難う、ウェラさん、でも、もう良い、コーリンについては、今日の此の一冊で充分に分かったから。」
その返答を聞いたウェラさんは、嬉しそうに、
「そうかい、そうかい、そりゃ良かった、じゃ、もう時間だから、此の図書館閉めるけど、良いね。」
えっ、もうそんな時間なんだ。
「御免、ウェラさん、何か手伝う事有る?」
ウェラさんは、手を振りながら、
「別に無いよ、掃除道具持って、早く図書館から出ておくれよ。」
俺は、ウェラさんの言葉に従って、急いで、図書館から退館した。
外は、日が沈む時間に成り、景色は、夕陽で赤く染まっていた。
天空には、星々が瞬き始め、どんどんとその数を増していた。
その輝きは、二千年前と変わらぬ輝き、
しかし、その輝きを見る俺は、二千年前の俺と、今の俺とでは、大きく変わっていた。
前の世界の童話に、木の人形が、人に成りたいと、星に願って、世界を旅する話があった。
その話は、俺の好きな話の一つだ。
かっての俺も、人の心を持っていなかった。
星々に願う事等、何も無かった。
そんな俺が、多くの世界を渡歩いた時、何時も星に願って泣いていた。
俺は、多くの人の、心の痛みを知った。
そんな俺が、
此の世界で、
本当に、人に、
成れたのだろか、
俺は、夜空に瞬く星に、
そう、聞いてみた。