魔導図書館
星の力が、廻りに変な影響を与えている事を知った俺は、『星隠し』を常時、発動した。
逸れにより、エルさんも、先生達も、学長も、俺に興味を失い、俺は学校の中で、一人、孤独になった。
・・・ちょっと、寂しい。
だが、星の力でモテてもなぁ。
やっぱり、俺の本当の魅力ってのを理解してくれる娘に、好きになって貰いたいし、
なんて事を考えながら、その日の俺は、相変わらず、此の学校の残った場所を掃除していた。
明日は、入学式が行われて、新入生と新しく進級した生徒が来る、
此の学校の生徒は、だいたい、近くの子供達が半分、遠くて通えないから、此の学校の寄宿舎で暮らす子供が半分の構成になっているそうだ。
昔から、此の地区の子供達は、牧場主や農家の子供が殆どで、皆、お隣の農牧高等学校に行くから、
教魔省が学校を管理し始めた時、此の付近の子供達だけだと定員割れするので、遠い子供も受け入れするように寄宿舎を教魔省の予算で作ったんだそうだ。
また、先生達も基本は、教魔省の職員だから、転勤や移動があるので専用の宿舎が有る。
その、先生の宿舎と生徒の寄宿舎は、校舎と同じビクトリア調の三階建ての建物が、校舎の西側に複数棟建っている。
勿論、各部屋の管理、清掃は部屋を借りてる生徒や先生の責任だから、俺は掃除はしないが、共有のホールや廊下の掃除は俺の仕事だ。
生徒は、明日の午前中に、学校に来る、そして、午後から入学式と、授業が始まると、エルさんは言っていた。
流石に寄宿舎に宿泊する子供は、その両親からお金を貰うらしいんだが、そこで、儲けようとした学校があったから、教魔省が宿泊費を決めてしまって、今では、全然、儲からないんだそうだ。
殆ど、ボランティアだと、これも、エルさんが言ってた。
そして、此の場所には、学校には、必ず有る、図書館が建っている。
その図書館は、やはりビクトリア調のデザインの二階建てで、スッゴーく大きい、
此もエルさんから聞いたんだが、此の図書館は、旧王国時代からあって、王国時代から集めた、魔導学の蔵書数では、公国一の規模なんだとか、
あの学長も、此の図書館の魔導学の図書が目的で、此の学校の学長を引き受けたらしい、
図書館は休み中は、閉まっていて入る事は出来なかったんだが、今は、管理する先生が来ているので、入る事は出来る。
俺は、大きな木製の両開きのドアを押して中に入った、
「こんちわっす、掃除に来ました。」
図書館の受付には、白髪の美少女が、
・・・
「なんだい、婆さんがいるって顔してるね。」
まぁ、美少女なんて居るわけは無く、
受付カウンタに座っているのは、白髪の上品なお婆ちゃんだ、
名前は、エルさんから聞いて知っている。
ウェラルダ・ウォーレン女史、
皆は、ウェラおばちゃんと呼んでいる。
此の人は魔導図書学の先生で、教師をしている傍ら、一人で此の図書館を管理しているんだとか、
エルさんは、本当は此の規模の図書館だと、二~三人の司書が必要なんだけど、そうすると、本が買えなくなるから、先生が一人、頑張ってるいるんだとか。
そのウェラさんが守っている図書館を、一言で言うなら、
幾多の時を経て、多くの人が大切にしてきたからこそ、初めて生まれて来る本当の美しさが有り、
此の図書館、はその美しさを、見事に表現している、
そんな、図書館であった。
図書館の入り口にカウンタが有る形式は、前の世界の図書館と同じだが、内装は、床は毛が深いカーペットに木目調の腰壁と白い壁の、ビクトリア様式が、落ち着いた、美しい図書館を演出している、
入ったエントランスは吹き抜けで、其処から、オプーン曲線階段で二階に行けるようになっていた。
壁には、びっしりと本らしき物が、並んでいる。
俺は関心して、
「流石に、綺麗っすね、まぁ、床を掃くぐらいしか、やるとこ有りませんねぇ。」
と、俺は此の図書館を誉めた。
実際、本当に掃除しなくても、良いくらい綺麗だ。
ウェラさんは嬉しそうに、
「当たり前だよ、スグルちゃん、此の図書館は、私が何時も掃除して綺麗にしてんだよ、汚れてる分け無いじゃないか。」
・・・スグルちゃん、
まぁ、いいか、
「流石ですね、ウェラさん、処で、俺も、此の学校の職員になったんで、本を借りる事、出来んの?」
ウェラさんは、またまた、嬉しそうに、
「おやおや、スグルちゃんは、本に興味が有るのかい、まぁ、禁書と管理図書、以外なら、一般職員のスグルちゃんでも見る事は出来るよ、」
その後、ウェラさんは、あってな顔して、
「だけど、スグルちゃん、スグルちゃんは魔導本を持ってるのかい?」
? アルバイト? また分かんない単語が出た、
「いや、アルバイトはして無いよ、今は、此の仕事だけ、」
ウェラさんは、?ってな顔して、
「何、バカな事、言ってんだい、アウル・バーデ!魔導本の事だよ。」
降参、わかんねぇ、
俺は、正直に、
「ウェラさん、ゴメン、俺さぁ、そのアルバイトも無い、遥か東の辺境の出身なんだ、だから、アルバイトが、何だか分からない。」
ウェラさんは、えっ、てな顔して、
「やれ、やれ、魔導本も無い国って、どれだけの辺鄙な国なんだい、」
そう言いながら、ウェラさんはカウンタの引き出しから、黒い、厚さ五ミリでA4サイズ位の板を取り出した。
「此が、魔導本だよ。」
しかし、俺は、一体、後、何回、此の展開をやんなくちゃなんないの、と思いながら、その黒い板を手に取った。
「結構、軽いんですね。」
ウェラさんは頷きながら、
「まぁ、魔軽金属の板に魔導回路が書かれているだけだからね。」
俺は、その魔導本を触りながら、
「此れ、どうやって使うの?」
とウェラさんに聞いてみた。
ウェラさんは、優しい笑顔を浮かべながら、
「その魔導本の縁を触ってご覧よ。」
俺は、ウェラさんに勧められて、魔導本の縁を触った瞬間、
えっ!
俺の目の前に、一人の美人が現れた、彼女は金髪で、手に魔導本を持って、
『さぁ、今日は、皆様に魔導本の歴史を、お話しましょう。』
此れって、
ウェラさんは、驚いている俺を見て笑顔で、
「どうだい、綺麗な御姉ちゃんが現れたただろ。」
俺は、首を立てに振りながら、
「現れた!スッゲーぇ、美人さんが俺の目の前に現れた!此の人誰?」
ウェラさんは、分からんってな顔して、
「確か、公都では有名な役者さんだったかな、それは、子供達に魔導本の歴史を教える為の本さ。」
・・・此が本?
・・・本、あのぉ、文字が書いてる本は何処?・・・無いの?
此の世界の本って、
違うんだ!
文字じゃねえーんだ!
前の世界の本じゃねえーんだ!
美人の御姉ちゃんが解説を始めた、
『魔導本の歴史は、千年前、魔導工学士のグータン・デルセンが魔軽金属を発見した事から始まります。』
魔軽金属?
『魔軽金属は、純度の高い魔素により、生成された、魔鉱石を魔生成する事により、作られます。』
魔鉱石!
もしかして、『魔神の吐息』により、作られる『魔神ウン石』って奴じゃねぇのか?
しかし、ありゃ相当固いから、加工出来たか?
となると『魔神のアカ石』か?
此れ等は、当時の俺達にとっては、何の役にも立たなかったから、『魔神の汚物』って言って、捨ててた。
此の時代の人は、『魔神の吐息』に、『魔神の汚物』迄、使いこなしているのか、
本当に、此の世界は
『魔神の世界』
になっちまった。
まぁ、ガキだとは言え、一応、『魔神』も人類にとっては神様だからな、
有難い、恩恵が有る分けだ。
俺の目の前の美人ちゃんは、俺の気持ちも御構い無しに喋り続ける。
『此の魔軽金属には一つの特徴が有りました、『心』の魔導術が発動しやすいのです、』
『心』の魔導術、
俺は、二千年前の、魔人達との闘いを思い出した、
魔神の三大玩具の魔操神人のパルデリア
確かに、奴は人の心を操った。
『魔神』は神だから、人の心を操る力も確かにあった、確か
『魔神のお告げ』
って奴だ、
知能の高い上位の魔人は、その力を借りて、人を操った。
たぶん、その力が魔導術では『心』に当たるのか?
『500年前、その性質を利用して、魔導機の発明家、オルガ・ラーマスが魔導本を発明しました、此の魔導本は魔導重金属で作られた、魔導ペンで書かれた魔導回路を、此の魔導本に写すと、その内容を読み手に表示する事が可能な、とても優れた発明でした。』
成る程、そう言う原理か、
『魔導本は、作者の力量により、その表現を変えます、文字や、絵を写すだけでは無く、文筆力、表現力のある作者の作品は、あたかも、其が、目の前に起きているかのように、読み手に『心』の魔導術を発動させます。』
すげーぇじゃん、つまり此の作者も優れた作家って事だ、
此の世界は、前にいた世界のような、漫画、小説、映画のような娯楽も、全て、此の魔導本で済んじゃうじゃん!
『また、300年前の魔導本箱の発明により、作品を大量に複製出来るようになり、魔導本は急速に普及し、多くの作品が、多くの人に読まれるように成りました。』
『こうして、今では、魔導回線で直接、各家庭に作品を届ける、魔導新聞も発明され、人の歴史の中で、魔導本程、人を幸せにした、発明は有りませんでした、此れで、序章は終了です、次に、』
俺は、此処で、魔導本の縁をもう一回触って、此の素敵な御姉ちゃんと別れた。
ウェラさんは嬉しそうに、
「どうだい、魔導本の事が良く分かったろ。」
俺も、ウェラさんに頷きながら、
「ウェラさん、確かに、魔導本、此れはスッゴーいですねぇ!」
確かに、凄い、人が此処まで『心』を、『魔神のお告げ』を使いこなしているとは、
此を、俺も使いこなせば、少なくとも、魔操神人の奴と互角に張り合えるんじゃないのか、
俺は、ウェラさんに聞いて見る事にした、
「ところでウェラさん、魔導本は、『心』の魔導術ってのを使ってるんだろ、そんな凄い魔導術の『心』って、俺にも使う事って出来んの?」
その事を言った、瞬間、ウェラさんは凄い顔して、俺を睨んだ、
? 何、何かいけない事、俺、言ったか、
ウェラさんは暫く俺を睨んだ後、ため息を付きながら、
「やれやれそんなに簡単に言って、そう言えば、あんた、遠い異国の人だったね、知らないのも無理無いわなぁ。」
ウェラさんは真剣に、俺を見詰めながら、
「良いかい、世の中で勝手に『心』を教えたり『心』を勝手に研究する事は、禁止されているし犯罪になるんだよ。スグルちゃん。」
えっ犯罪!
禁止されてんの!
そう言えば、あのマーキが俺の事、コイツは本当は醜い、違法の『心』を使う!犯罪魔導士だ!って言ってたな。
あの時は、たいして気にしてなかったけど、
どう言う意味だ?
「・・・良くわかんないなぁ、だってウェラさん、此の魔導本は『心』の技術を使ってるんだろ、なのに、何故、その技術が犯罪なんだい。」
ウェラさんは、魔導本を指しながら、
「スグルちゃん、魔導本を良く見てご覧よ、飛竜のマークが入っている筈だよ。」
えっ、飛竜のマーク?
確かに、此の魔導本の表面には、うっすらと飛竜のマークが入っている、まるで、お札の透かしのようだ。
「確かに、変な模様が入ってる。」
ウェラさんは、頷きながら、
「其はね、スグルちゃん、魔導省が魔導本を管理している魔導印なんだよ、此の魔導本で、違法レベルの『心』が発動したら、魔導省に、誰がその『心』を発動させたかを知らせる印なのさ。」
えっ、それって検閲されてるって事!
エロいの、此れで見たらヤバくねぇ!
俺は、だんだん此の国の事情が分かってきた、
「なんで、其処まですんの、たかが、娯楽じゃないか。」
ウェラさんは、俺を嗜めるように、
「スグルちゃん、『心』は恐ろしい、魔導術なんだよ、人を無意識に操る魔導術、考えてもごらんよ、もし、スグルちゃんが知らないうちに、知らない人に操られたら、あんた、どうする。」
流石、ウェラさん、教師だから、俺に教えようと疑問を投げ掛けてきた、
「まぁ、確かに嫌だなぁ、」
ウェラさんは厳しい顔して、
「嫌だけじゃすまないのさ、そいつがスグルちゃんに死ねって命令したら、スグルちゃん、あんたは喜んで死んじゃうんだよ!!」
えっ!
人が死ぬって、
そんな事が可能なのか?
おぃ、二千年前の、魔操神人のパルデリアに其処までの力、あったか?
無かった筈だ、そんな力があったら、『星の大国』は、簡単に滅んだ。
どう言う事だ?
・・・
待てよ、
確か、神が死ねっていたら、死ぬ、それって、前の世界じゃ
殉教!!!
って言わなかったか?
殉教の原因って、信仰心だったよなぁ、
つまり、その神の信仰心の深さだ!
俺達の『星の大国』は、『魔人』を信じてなかった、だから魔操神人のパルデリアも其処まで力を出せなかった。
だけど、此の世界の人々は違う、此の世界は『魔神の世界』だ、皆、知らないうちに、『魔神』を信じて、その恩恵を与かっている、
だから、『魔神のお告げ』の力は、二千年前の比じゃないって事か。
ウェラさんが、俺に話を続ける、
「魔導本、程度の話なら、自覚しているから問題無いけど、もっと高位の『心』は殆ど無自覚で人を操る事が出来るのさ、百五十年前、その技術を使って、違法魔導士共が、此のウェルド公国を崩壊させようとした、そしてその時の公国は、奴等のせいで内乱状態になってしまった。」
ウェラさんは、遠くを見るように、俺に語る。
「その危機を救ったのが魔導省の英雄達、彼等は己の命を犠牲にして、此の国を救ったんだ、それは、壮絶な戦いだったと、今でも言われているんだよ。」
違法魔導士、確かに、その言葉は良く聞く、
「その事件は、世界を震え上がらせた、世界中で、個人が、『心』を研究する事は禁止されたんじゃよ。」
・・・成る程ねぇ、うん、良く分かった。
「今、『心』を教えたり、『心』の魔導術を研究出来るのは、国の組織だけだし、其も魔導省が徹底的に監視してるんだよ。」
つまり、長くなったけど、簡単に言えば、俺は『心』を習ったり、教えて貰う事は出来ないって事だ。
「良く分かったよ、ウェラさん、確かに、『心』は危ねぇ技術だって事もね、でっ、本を読む事は出来るんだろ、其も駄目なの?」
ウェラさんは、少し安心した表情で、
「此の館内でなら、その魔導本を使って良いけど、スグルちゃんは、一体、何の本を読みたいんだい?」
俺は、一言、
「コーリン・オーウェルについて、」
ウェラさんは、えっ、てな顔して驚いた。
此れだよ、此れ、何で、皆、俺の名前で驚くの?
忘れてるかも知れないけど、俺の名前は、
コーリン・オーウェル!
此れこそが、俺の本当の名前、
そして、何故か、此の名前を言うと皆、ビックリする、
何故なんだい!
俺は、その謎を知りたくて、
此の図書館に来たんだが、
やっと、其処にたどり着いた、
分けで、
そして、俺もビックリする事実を知る事になった。