ジュピーリーナ・グラシウス
魔導暦2035年3月23日
ウェルド公国魔導省の魔導旗艦『プリンシブァ』が正体不明の『魔人』の襲撃に会い、バルセリアに落下した。
事態を重要視した、魔導省の幹部は、ウェルド公王の次女、ルナリィア・ウェルドとの度重なる打ち合わせで、多くの資材と人材をバルセリアに投入する事を決定した、
此の裏には、ウェルド公王である、ダブレスト・ウェルドの意思と、公王の長女、マシリィア・ウェルドの忠告、『魔人』を西に入れてはいけない、と言う宣告があった。
此の時点で、ウェルド公国の仮想敵国は、周辺諸国から、『魔人』に変わった。
防魔省は、公王の要請で、現在建造中の、超魔導戦艦『ウェルダリア』を、対魔人決戦兵器と位置付け、その完成を急がせた。
魔導省はバルセリアを対魔人重要拠点と考え、ルナリィア・ウェルドの要請により、旗艦『プリンシブァ』をバルセリアで対魔人用戦艦に改装する事を決定し、
天才、ウェルセア・ギルスタンをバルセリアに派遣する事を決め、
また、魔導省の実動部隊、『飛翔騎士団』、団長、通称『闇のルース』事、ルーフェンス・ガイアードは、公女である、ルナリィア・ウェルドが襲撃された事を重視し、騎士団の精鋭、サーンディ・アーランド上級魔導士をルナリィアの護衛に派遣する事を決めた。
更に、ルナリィア・ウェルドの構想とする、対魔人戦艦を動かす、人材として、現艦長、現機関士長の変わりに、
艦長候補として、防魔大学の盟友にして、操舵、砲雷術の天才、バレンシア・サザナードを召喚する事を決定した。
『プリンシブァ』の落下から5日後の3月28日、魔導省は第一便として、バルセリアに向けて五十両の専用魔導汽車の運行を開始した。
その魔導汽車には、偽装の為、他の関係省庁の役人、魔導新聞社の記者も動向し、二十両は客車及び、食堂車等で構成された列車であった。
それは公王が、防魔省、魔導省、娘であるルナリィア・ウェルドに厳命した、
準備が整う迄は、此の事を絶体に公民に知られてはいけないと、
言う強い命令からであり、
偽装は、その為の措置であった。
だから、此の非常事態も、まだ、防魔省、魔導省のトップしか知らない。
また、ルナリィア・ウェルドも偽装の為に、一月の休暇を取り、国民の目を自分に集める事を決意した。
魔導汽車は、公都バルドリスを出発し、中央山脈を越えて、バルセリアの中央駅に到着したのは、公都を出発した3日後の3月31日、魔導旗艦『プリンシブァ』がバルセリアに落下した8日後であった。
魔導汽車は、バルセリアの中央駅で、客車の連結を外し、貨物車両の三十両が更に、その先の魔導旗艦『プリンシブァ』の落下地点の牧場に向かった。
魔導省は、多くの資材、人材を此の落下地点に運び、此の地点で、魔導艦の改修作業を行う為、此の牧場周辺を大規模に買収し、専用の線路を敷いた。
第一便で、多くの仮設資材、仮設小屋が搬入され、遅れる事、数時間の第二便で、魔導重機が搬入され、続く第三便で魔導クレーンが、到着し、
此処に、対魔人重要拠点の建設が始まったのであった。
第一便、で此の拠点に到着した、
ウェルセア・ギルスタン
サーンディ・アーランド
バレンシア・サザナード
と、『星翔部隊』の副将
ジュピーリーナ・グラシウス
らは公女である、
ルナリィア・ウェルド
に此の作戦の概要を、急遽、建設された、仮設の作戦本部で聞いていた。
公女の説明を聞いた、サーンディ・アーランドは、
「信じられねぇなぁ、魔素で出来た、化け物かぁ、そりゃ、皆が黙ってる分けだ、知られたら大騒ぎになる。」
ルナリィア・ウェルド、事、ルーナも、
「ああ、絶体そうなるし、もし公民の間に正体不明の化け物の噂が流れ、その事実が不明確な形で知れ渡ったら、只のパニックだけでは済まない、その隙に反社会的な奴等が絶体に動く、」
サーンディは、瞳を閉じて、少し考えた後、
「・・・まぁ、動くのは、間違い無いな。」
とルーナの意見に同意し、その答えを聞いたルーナは、
「父上も其を心配している、我々は、『魔人』と、公民の二つを相手に戦う事になり、戦いは更に不利になる、だからこそ、絶体に此の事実を公民に知らせてはならない!」
サーンディは、仮設小屋の固い椅子に深く腰掛けながら、
「其で、殿下は一月の休暇を取り、その間は戦艦が動かなくても、公民は誰も、その事に疑問を抱かない、って筋書な分けだ。」
ルーナは、頷きながら、
「そうだ、そして、此の事をルーフェンス団長に相談したら、団長は私の身を案じて、貴女を派遣してくれた、サーンディ上級魔導士。」
その時、その話しを黙って聞いていた、ジュピーリーナ・グラシウスこと、リナが、立ち上がって、
「団長は臆病過ぎる、殿下には俺が入るんだ、態々、公都からサディを寄越す事は無い!!」
サーンディ・アーランドこと、サディはリナを見ながら、首を振って、
「リナ、だからお前はバカって言われるんだ、副将のお前が部隊をほったらかして休暇中の殿下の側にいたら、皆、おかしいと思うだろうが。」
リナは、キョトンとして、
「えっ、だって、殿下の休暇は嘘なんだろ、だったら俺が殿下を守るのは当然だ!」
と自慢気に、話すリナに、
サディは、ダメだコイツって表情で、
「あのなぁ、だいたい、リナ、お前、要人警護した事有るのか?」
リナは胸張って、
「無い!」
そのリナの返答にサディは怒りながら、
「ぜえーってえ!ついて来るな!!邪魔だ!!!」
と彼女を怒鳴り、ルーナもリナの我儘に、困った表情をしながら、
「リナ副将、休暇と言っても、確かに公女としての仕事はする、それは、副将の嫌いな接待や愛想を振り撒く仕事だ、私と一緒だと有名な貴女も、其をしなくちゃいけないんだぞ、嫌だろ。」
リナは顔を青くして、
「確かに嫌だ。」
と降参するのであった。
サディは、変な邪魔者が引っ込んだ事に安堵し、
「で、殿下、貴女の明日の予定は?」
とルーナに聞き、ルーナは考えながら、
「確か、明日は、教魔省の依頼でバルセリアの魔導高等学校に行く事になっている。」
サディは、ちょっと顔をしかめて、
「高校か、ガキの集団の中の警護、初っぱなから難度Bかよ。」
リナは、えって顔して、
「おいサディ、ガキだぞ、ガキは安全じゃねえのかよ。」
とサディに尋ねる。
サディは、リナをバカにした顔で、
「バカリナ、だからお前は素人なんだよ、いいか、ヤバイ大人は分かりやすい、だが、ヤバイガキは分かりにくいんだよ!」
リナが、
「分かりにくい?」
サディは、頷きながら、
「あぁ、だいたい、集団の中には、必ず一人や二人はヤバイ奴がいる、ガキが問題なのは、そいつは自分がヤバイ事をしてるって自覚がまだ、無いからだ。」
ルーナも、驚いて、
「自覚の無い、狂人!」
サディはリナの方を向いて、
「だからヤバイガキもそうでないガキも、ガキはどのガキもおんなじ面してんだよ!分かったか!バカリナ!」
リナは、流石に怒って、
「バカ、バカ言うな、バカ、サディ!」
サディも、
「バカは、お前だ、リナ!」
と、二人は口喧嘩。
そんな、仲の良い二人を見ていた、ウェルセア・ギルスタン、ことウサギは、思わず、クスと笑い、
サディがウサギを見て、
「笑うんじゃねぇ!!」
と怒り、リナも、
「笑うな!ウサギ!!」
と怒る。
ウサギは、ひぇーと心の中で叫び、
怖くて、泣きたくなるウサギであり、
そして、リナとサディの二人の漫才を見て、顔を見合わせ、お互いにやれやれと顔するのは、ルーナと、彼女の盟友、バレンシア・サザナード、ことバレンの二人であった。
こうして、五人の打ち合わせは、夜遅く迄、続くのであった。
そして、真夜中、
一人、夜空を見上げながら、
星に願うのは、
ジュピーリーナ・グラシウス、
・・・サディは、分かってねぇ、俺が、どれ程、ルーナ殿下の事を心配しているのかを、
・・・嫌、たぶん頭の良いサディだから、分かってんだ、だから、俺を、ルーナ殿下から遠ざけようとした。
・・・
辛い、
もし、殿下に何かが起きて、
俺が、殿下の側にいなかったら、
そう、考えると、辛い、
俺はグラシウス家の次女として生まれ、生まれながら力が強く、スタイリッシュな体だったらしい、
だから、両親は、星に感謝して、俺に天界の巨星の名前からジュピーリーナと付けた。
しかし、此の体つきは、俺の人生にとって、あんまり良い事は無かった、
言い寄ってくる男は、体しか興味を示さないし、女達は何時も俺に嫉妬していた。
孤独だった。
高校を卒業して、社会に出る時、俺は、俺のもう一つの特技、力自慢を生かして、防魔省と魔導省を受けた。
防魔省の、面接官は、俺の体をじっくりと見ながら、君は魅力が有り過ぎる、前線は無理だが、省官の秘書に成れと言いやがった!
勿論、殴って断った!
魔導省は、特技持ちの場合は、『飛翔騎士団』の団長、
ルーフェンス・ガイアード
が直接面接をする事になっていた、
当時の俺は、世間を知らなかった、ルースが何者かも知らなかった、只のスケベオヤジと考えて、面接に望んだ俺は、
初めて、人が怖いと思った。
オールバックの白髪に暗い真っ赤な瞳で、只、俺の事を見ている、ルースが言った一言は、
「人を殺せるか。」
只、その一言だけだった。
何なんだ、コイツは、
理由も無く、人を殺せる分けねぇだろが!
と、俺はその時、ルースを怒鳴った、
ルースは、
「そうか、」
と言ってその後は俺とは口を聞かなかった。
俺は、後で知った。
魔導省には、商売上手な役人の表の顔と、公国の為に全ての汚れ仕事を引き受ける、裏の顔が有る事を、
裏社会において、ルーフェンス・ガイアードは恐怖の名であり、
彼が、殺せと命じた者で、生き残った者はいないと言われている事を、
だから、彼は、
『闇のルース』
と呼ばれて、恐れられている。
そして、そのルースが団長として、率いているのが、
『飛翔騎士団』
表向きは、白い制服に飛竜のバッチで、誰もが憧れる存在だが、
彼等には、一つの噂が有る、
彼等が、黒い制服に着替えた時、
必ず誰かが、此の世界から消えると言う噂だ、
噂でしか無いのは、彼等の黒い制服を見て、生き残った者が誰もいないからだと、
サディとは同期だ、同時に面接を受けた時、彼女は、ハッキリと、
「殺せる!」
とルースに言った。
彼女は、俺とは覚悟が違った。
彼女は、『飛翔騎士団』に採用になった。
そして、俺は、てっきり、魔導省も不採用になると思っていたが、『飛翔騎士団』の、別導部隊、『星翔部隊』を作る事になって、
俺は、その部隊に採用になった。
その採用を聞いた時、俺はやっと、自分を生かせる仕事が見つかった、
そう、思って、
俺は、嬉しくてたまらなかった。
だが、喜びは、直ぐに落胆に替わった。
仕事が無かった。
責任者のルースは、俺達に決して仕事を回さなかったし、
いろんな、部所から寄せ集まって、出来た此の『星翔部隊』には、する仕事が無かった。
だから、俺達は、毎日、防魔省の真似をして、訓練する事で過ごしてきた、
何時か、自分達が活躍する事を信じて、
そんな部隊だから、魔導省の役人達は、誰も此の部隊の隊長になりたがらなかった、たまたま、なった隊長は、必ず、俺に秘書に成れと言い、
俺は、そいつを追い出した。
俺達は、明日を信じて、毎日、訓練を続けた、
それは、心の折れそうな、毎日だった。
そして、四年目、俺達がもう限界だと思っていた時、ルーナ殿下が、俺達の前に現れた、
最初は、俺達は、殿下は御嬢様の遊びで隊長になったと思った、
だから、ちょっと脅かせば、直ぐに逃げ出すと、誰もが思っていた、
だが、殿下は違った、殿下には信念があった、
俺達を、信じてくれた、
俺を、信じてくれた、
あの、誰にも、心を開かなかった、ウサギさえ、殿下に心を開いた。
あの、素晴らしい船を作り、俺達に活躍する場を与えてくれた!
その時、俺は知った、此の部隊は、殿下の為に作られた部隊で有る事を、
四年前からルースは、知っていたんだ、防魔省と殿下では、絶体に合わない事を、
ルースは、殿下が大学を卒業した時、殿下の理想とする部隊が必要な事を知っていたんだ、
だから、俺達を集め、此の部隊を作った、だから、俺達に仕事を与えなかった、
だから、ただ訓練をするだけの部隊に、誰も何も言わなかったんだ、
たぶん、最初から、殿下の部隊だと知っていたら、皆、殿下に近付きたくて、どうでも良い人材が沢山集まる、
其では、意味が無い、
此の、四年間は、殿下の部隊として、相応しい部隊になる事が出来るかの、
ルースの試練だった。
そして、
俺達は、ルースの試練に合格したから、
殿下を、俺達の隊長にしたんだ。
ルーフェンス・ガイアードとは、そう言う男だ、
だから、
皆、殿下が、
好きなんだ、
俺達は、殿下の為なら、此の命を捧げても良いと、皆、思っている。
そして、『魔人』が、俺達を襲ってきた、
数多ある、魔導船の中で、何故、魔人は、俺達の船を襲撃したんだ?
何故、俺達の船なんだ、
俺達の船と、他の船とは何が違う、
答えは、一つだ、殿下だ!
『魔人』は、殿下を、
殿下を襲った!
殿下は特別だ、
魔導新聞も言っている、殿下が奇跡を起こしたと、
俺も、そう思った、
船が、バルセリアの街に突っ込むと、皆が思った瞬間の奇跡、
あれは、絶体、殿下が起こした!
殿下、以外に考えられ無い、
殿下が、俺達を、街を救ったんだ!
だから、奴等が再び殿下を襲ったら、
今度は、命を掛けて殿下を救う、
俺は、そう決意した!
だが、ルースは、俺では役不足だと思っている、だから、ルースは殿下にサディを寄越した、
たぶん、ルースの事だから、サディ以外にも、絶体に誰かを寄越している筈だ、
ルースは、俺の事を信じてはいない、
・・・
ルースは正しい、
俺自身、分かってる、俺では力不足の事が、
分かってるんだ、俺では殿下を守る事が出来ない事を!
だけど、
だけど、
もし、俺のいない処で、殿下に何かあったら、
俺は、一生涯、後悔する、
だから、俺は、毎日、毎晩、天界の巨星に願ってるんだ、
俺に、力をくれと、
殿下を、皆を救える力を、
毎晩、泣きながら、
願ってるんだ、
あの、星に、