星隠し
俺は、俺の星の力が周りに影響を与えている事に気が付いて、その為、その星の力を隠す為に、『星隠し』を常時発動する事にした。
其は、逆に俺が絶えず、星の力を九割り使い続ける事を意味していて、
俺にとっては、日常的に二十キロの荷物を持ちながら、生活をしている事になる。
ようは、大変だって事だ。
そうは言っても、まずは住む場所を確保しなくちゃいけない、学校作業員は24時間勤務だから、専用の宿舎と食事が支給される、
その為、給料は此の世界の基準から比べると安いらしい。
しかし、折角の宿舎も、此の学校のガキ達によって、荒れ放題、窓のガラスは全て割れていて、やはり、白い壁には落書きだらけ、中は、家具やドア、キッチンの設備等は、ほぼ全て壊されていた、
割れた窓ガラスだが、たぶん、此の世界の事だから、ガラスも魔導機で作る筈だ、となると、此の世界の職人に頼むかだが、しかし、俺にも、此の学校にも金は無い、
あの学長の、金の気にしようじゃ、出して貰うのは、たぶん無理だ、
しゃーねぇ、作ってみっか、
確か、普通のガラスはケイ砂を融解することで出来た筈だ、
そんな、難しい技術じゃない、
ケイ砂に炭酸ナトリウムを加えると融点は 1,000 ℃近くまで下がり加工が容易になる。
しかし炭酸ナトリウムを加えるとケイ酸ナトリウムを生じ水溶性になるため、さらに炭酸カルシウムを加えることでこれを防いでいるんだが、
まぁ、他にも色々有るらしい、だが俺が知ってんのは、普通のソーダ石灰ガラスだ。
よし、
俺は、星にケイ砂を集めて貰う事にした、俺の右手が翠光に輝く、天空の星達が俺の元に集まり、俺は星に願った、
石英が含まれている砂、ケイ砂を集めてくれと、
俺は、星々を世界に解き放った、星は、世界を廻り、山々から、大地から、火山から、ケイ砂を集めてきた、
俺はそのケイ砂を、星の力で融かす、
俺の前に、千の翠光輝線が光速に回転しながら、集まり、
融解したケイ酸が丸く赤く光りながら、俺の前に浮かんでいる、
よし、此れに、森に、森林に含まれている緑のエキスを入れて、更に、星のコーティングを掛けて、ガラスが木々の緑を写す事により、外から中が見えない、更に星が守る、汚れない、割れない、そして、寒さ、暑さも防ぐ、星のガラスにしよう!
さて、ガラスが出来る事が分かったら、何だか、南側は全面ガラスの開放感の有る、LDKにしたくなった。
俺は、星剣を作り、宿舎の外の壁とて屋根を切る事にした。
昔の俺だったら、星剣をこんな事に使ったら、激怒していたかもしれない、
今の俺には、そんな拘り、全然無い、
スウーッ!
切れる、切れる、まるで、前にいた世界の食べ物、トウフを切ってるみたい、
切り口も綺麗に処理されて、小口のケバケバも無い、スッーゲェー良い感じ、
南側の外の壁は、柱を残して、全部カット、
屋根は、南側の屋根をカット、
外の壁の空いた穴に、俺の前で赤く回転している『星の硝子』を薄く流し込む、
『星の硝子』は直ぐに、固まり、薄い、『星の板硝子』になる。
厚さは十ミリぐらいかな、
中からだと少し、緑が掛かっているけど、日の光で、色の濃さが変わる、
また、外からだと、周辺の森に溶け込み、宿舎が消えて見える。
『星の硝子』に、木々のエキスを入れた、棒状の押さえを作り、その押さえを外と内側から、硝子の周辺を挟み込むようにして、固定する。
うん、良い出来!
屋根の硝子は、大空の蒼のエキスと星界の黒のエキスを入れる、其により、外から降り注ぐ焼ける太陽の力を防ぎながら、中からは、清み渡る大空を見る事の出来る天井に成る。
勿論、宿舎の天井は、落ち掛かっていたので、全部突払い、屋根を支える、柱や梁だけの状態にした。
屋根の硝子は、先に『星の硝子の枠』を作り、その上に天界と星界のエキスの入った『星の硝子』を流し込む。
勿論、その硝子には星のコーティングが掛けてある。
そして、硝子の廻りに『星の硝子の枠』を取り付けて、硝子を固定する。
前の世界の、俗に言う、トップライトが出来上がった。
残った外壁は、白い塗料に、緑のエキスと星のエキスを入れて、仕上げる、
屋根も同じだ、白い塗料に天界と星界のエキス、更に、星のエキスを入れて塗って仕上げた。
宿舎は、北西側の玄関ホールから、南側の食堂に入る間取りで、その奥に寝室が有る、食堂から脱衣室、シャワー室、が有り、脱衣室の奥がトイレになっていた。
小さな部屋が二つ有るより、1つの部屋が大きい方が良いので、仕切っている壁を取る事にした。
スウーッ!
簡単に切れる。
切った壁の跡に『星の硝子の枠』を嵌め込み、そして『星の白い塗料』を上から塗る、
天井を取ったので、屋根板が丸見えで、その屋根板の下に、木々のエキスを入れた、『星の硝子』を張り、その上から『星の白い塗料』を塗った。
土足で汚れていた石の床は、『星の硝子』に御影石のエキスを入れて、美しい表面と大地の優しさを取り込み、星のコーティングをした、五十センチの四角い板状の硝子を並べた。
此処までで、真夜中、
穴の空いたドアは、ドア板を外し、枠だけの状態に『星の硝子』を嵌め込み、ガラスの戸にした。
扉が壊された、長さ2メータのキッチン設備は、水詮の魔導機と加熱の魔導機はちょっとした歪みがあったが、動くようで、魔導機は磨いて綺麗にし、
設備の扉は、全て外してフレーム状にした設備を部屋の中央に配置し直した。
また、設備の上面も傷だらけの木板だったのを、水晶のエキスを入れた、ガラスの天板に交換して、
設備も無事、使えるようになった。
此処までで、夜が明け始めたので、
俺は、少し仮眠する事にし、
疲れてはいたが、宿舎全体に『星隠し』を掛けて、
万が一、誰かが、此の宿舎を見ても古い、荒れた宿舎に見えるようにして眠りに着いた。
お休みなさい。
ドンドン、ドンドン、
戸を叩く音、
「スグルさん、スグルさんはいますか?」
俺を呼ぶ声、
えーと、
あっ、俺は寝ていたんだ!
目を覚ませ、俺!
よし!
俺は立ち上がって、玄関ホールに向かった、
あの声は、エルさん、何のようだろ、まぁ、聞けば分かる。
そうだ、ちょうど良い、
俺は、俺自身の星の力を隠す、『星隠し』を、俺自身に掛けてみた。
わぁ、此れはきつい!
俺の力を隠す為に、その力を上回る力で隠す、何か堂々巡りみたいではあるが、
そんな、理窟。
さぁてと、準備万端、玄関のドアを開けますか、
ガシャ、
ギィー、
ドアを開けると、其処に、エルさんが立っていた、
「・・・スグルさん、学長が呼んでます、直ぐに、中庭に来てください。」
彼女は事務的に、用件を俺に伝えると、直ぐに引き換えして、事務棟に戻って行った。
・・・
全然違う、昨日のエルさんなら、俺と一緒にいたいから、たぶん、中庭迄、一緒に行った筈だ。
だが、今のエルさんは、俺に全然興味無かったようだ、たぶん、忙しいから、直ぐに事務棟に戻ったんだと思う。
此れは、興味の無い人に対する、自然な行動、
オッケー
『星隠し』は効いてる、此れで、俺は安心して学園生活をおくれる。
そんな事を考えながら、俺は学長が待っている中庭に行った。
中庭には、老若男女、五十名近い青い制服を着た人達が、あーだ、こうだと騒いでいた。
あれが、此の学校の先生達で、全員が魔導士、兎に角、なるべく、突っ込まれ無いようにしようと、決意して、学長の側に近付いた。
学長は昨日の私服と違って、青い制服に金のモールとマントを羽織っている、他の人はケープだから目立つ、
見ると、彼女は、他の先生から綺麗になった学校の事で、質問責めにあっているようで、其で、俺を呼んだのかも知れない。
「お早う御座います、ジェルダ学長。」
学長は俺の声で、振り向いた瞬間、
「あーぁ、お早う、・・・」
彼女は、言葉を止めて、俺を見てる。
不味い?
何か、あったか?
「えーと、・・・スグル君、何か・・・昨日と印象が違うんだが?」
俺は、此処で戸惑ったら、要らぬ突っ込みが来る事を警戒して、直ぐに、
「学長!気のせいです!!此が、俺です!昨日は学校が余りにも綺麗になったんで、学長の目には、全ての物が、全ての人が綺麗に見えたんです!!!」
と、分けの分からない事を捲し立てて、ゴリ押し、学長も俺の勢いに押されて、
「そ、そ、そうか、すまない、確かに昨日の私は変だった、其で、君を呼んだのは、先生達に学校を綺麗にした、君を是非、紹介してくれと言われて、」
先生達、全員が、学長と話している俺を見てるし、囁き声も聞こえる。
「おい、あの冴えないアイツか?」
「もう、どうでも良いけど、」
「学長、絶体、他にも雇ったよ、あれ一人じゃ無理だな。」
「まぁ、彼は学校作業員にはぴったりだね。」
うん、今迄とは、丸っきり違う反応、どっちかって言うと、悪い方向に感じるが、
変に気に入られるよりは、下に見られていた方が、ある意味無視されている事に近いし、そうなると何かと動きやすい筈だ、だから此れで良いと思う。
ちょっと寂しいけど、
そんな事を、思っていると、
学長が、俺を簡単に紹介し始めた、
「六日前から、学校作業員に採用した『スグル・オオエ』君だ、スグル君は、私達が休暇中に学校を綺麗にしてくれた、此れで、明日の教魔省とルーナ殿下の査察に充分、答えられる、後は、貴方達、先生方が良い授業をして下さい、私の話しは以上です、ではスグル君、先生達に、挨拶したまえ。」
学長は最後に、俺に話しを振り、先生達が俺を見ている、その瞳は、既に興味を失った瞳だ、此の反応こそが、星の力の無い、俺の本当の評価だ。
俺は、先生達に深く頭を下げて、
「スグル・オオエです、此れから宜しくお願いします。」
パチ・・・パチ、パチ・・パチ
拍手も、疎らだ。
俺の存在が期待外れだった為、先生達の学校が綺麗になった感動も、消えてしまい、
彼等は、明日の入学式と、監査を受ける授業の準備で忙しい為、其で解散となった。
その後、俺は朝飯を食べる為に、ボーゲンの処へ行くと、
やっぱり、変化は有った。
少ない食事の量が、更に少なくなり、コッペパンも2個から1個に戻った。
まじかよ、あれで、星の力が働いていたなんて!
此が、本当の量!
スープの皿の底が見える!
・・・
ちょっと、悲しくなった。
しかし、悪い事だけじゃない、
良くなった事も有る、
ボーゲンが、俺を見ても、顔を赤らめなくなった。
此れは、精神的に良いことだ。
と、俺は納得して、少ない食事を食べるのであった。
「エルー!あんたが言ってたぁ、彼氏、見たーよー、全然、魅力無いよー!」
と、お昼に、私に声を掛けて来たのは、魔導基礎学を教えている、シャーリン・コースティン先生、二十代で丸顔のおっとりした先生だけど、怒らせると怖い先生、食べる事が好きな先生だから、授業に食べ物を取り入れて生徒に人気がある。
朝、先生達が学校に来て、学校が綺麗になっている事に驚いて、大騒ぎになり、皆、事務棟に入る私の処に来て、
どうして、急に綺麗になったのか、
誰が、綺麗にしたのか、
ケチな学長が、金を出したのか?
私は、先生達の質問責めにあった。
実は先生達も、学長が学校作業員を解雇したため、学校が汚く、荒れていく事を、内心では凄く気にしていて、
けど、そんな学長のやり方を否定すると、今度は、自分達が解雇されるし、自分で掃除しろと言われるから、
誰も、学長を批判しないし、否定もしないし、汚い学校を見て見ぬふりをしていた、
そして、今日、学校が綺麗に生まれ変わっていたので、休暇中に何があったのかを、先生達は皆、私に聞きに来た。
私がまず、最初に言うことは、明日の入学式には、教魔省の高官とルーナ殿下が査察すると言う事、
先生達は、驚いて、自分達の授業も見られるのかと聞くので、私は、
勿論、と答えた、誰の授業をルーナ殿下が見られるかは、学長が決めます、とも付け加えた。
そして、私は、興奮しながら、六日前にとっても素敵な、人が、我が校の学校作業員になってくれて、
彼が、彼が、一人で、此の学校を素敵に変えたんです!
と、全ての先生に熱く語った。
先生達も、私が、熱く語り、学長も、素敵は否定しなかったので、先生全員が彼に興味を持ち、彼を紹介してくれとなった。
そして私は、先生達全員が集まって大騒ぎしている中庭に、彼を呼んで来てくれと、学長から頼まれ、私は彼を呼びに、彼が寝泊まりしている宿舎に向かった。
彼の入る、宿舎迄の私の足取りは軽く、
今日も、彼に会える、
そう考えただけで、
此の胸のトキメキが止まらない。
北の森に有る彼の宿舎は、まだ汚いままだ、中から綺麗にしているのかな、
彼は、まだ寝てるんだろうか、
私は期待に胸を弾ませながら、玄関のドアを叩いた、
ドンドン、ドンドン、
そして、大声で彼の名前を呼んだ、
「スグルさん、スグルさんはいますか?」
あぁ、彼に早く会いたい、
ガシャ、
ギィー、
ドアを開き、そして、スグルさんが現れた、
・・・
・・・
えーと、
「・・・スグルさん、学長が呼んでます、直ぐに、中庭に来てください。」
私は、その事を彼に伝えると、事務棟に戻る事にした、
明日の入学式の準備、新入生の為の書類作成、やる事は沢山有る、
一体、私は、何を浮かれていたんだろう?
「ねぇ、エルー、一体、何処が良かったの、彼の、」
シャーリン先生が、不思議そうに私に聞く、
彼の、何処が良かったのか?
・・・
本当に、私が聞きたい、
彼の、何が、
あんなに、
良かったんだろう?
分からない。
・・・
考えるに、きっと、あの時の、私は、重い責任と、学校を救いたいと言う必死な気持ちで、板挟みになり、情緒不安定だったのかも知れない、
そんな時に、彼が現れたから、凄く素敵に見えた、
只、其だけ、
たぶん、
そうに、違いない、
きっと、