ローシィ・レーランド
「えっ、バルセリアに私が取材ですか。」
「あぁ、魔導省がうちのような、小さい、魔導新聞社にも、声を掛けてくれた、此れはチャンスだ、君ならルーナ殿下に食い込める、だから、現地に行って、絶対スクープを取って来い!!」
・・・
ちっ、
また、無茶な事を、此のハゲの局長は、私に言いやがる、
私の名前は、
ローシィ・レーランド、
公都 バルドリスを中心に、魔導新聞を発行している、小さな魔導新聞社、ディ・プラドゥの記者をしている。
小さいから、社内の競争も、余り無く、また、小さくても、公都中心だから、情報が集めやすく、地方を気にする事が無いから、結構、遠慮無く、書ける。
だから、私が書いた記事は人気が有り、各省庁にも、あたしのファンがいて、いろいろと情報をくれる。
私は、逸んな公都の記者生活が気に入っていた。
公都に、スクープが飛び交ったのは、三日前の昼だ、人気のルーナ殿下の魔導艦がバルセリアで落下した。
公都に衝撃が走り、各省庁が情報収拾に走法し、魔導省は報道管制を引いた。
此の事件には、謎が多い、何故、北方から帰還中のルーナ殿下が東のバルセリアに向かったのか、
そして、何故、バルセリアで落下して不時着したのか、幸いバルセリアの街をぎりぎり回避して、中央駅の鐘突塔が壊れただけで怪我人も死人も出なかったらしい、
魔導省からは、魔導機関の故障と発表された。
此の事件を、少ない情報から各魔導新聞社は、夕方には記事を書かなければならない。
大手の魔導新聞社は、魔導機関の故障を取り上げて、ローコストの軍艦の安全性を追及し防魔省を喜ばせる筈だ。
だから、大手はつまらない。
あのルーナ殿下だ、ドラマが無い分けが無い、分からない部分は作れば良い。
大衆は、それを望んでいる。
私の魔導ペンが冴え渡る、連戦で疲労する魔導省、『飛翔部隊』、無理を承知で東の特務任務に向かいその為、点検も出来ず、魔導機関も疲弊していた、
その特務任務が、終わった瞬間、疲弊した魔導機関が、機関長の僅なミスで、故障した、のかもしれない、と此処は推測、
そして、老齢の、艦長の疲労からくる、ほんの僅な判断ミスがあったのかもしれない、此処も推測、
で、此処からが、ドラマ、
軍艦は、バルセリアの街に突入しようとしていた、必死に指揮し回避しようとした、ルーナ殿下に奇跡が起こる!
ルーナ殿下の奇跡の力により、魔導機関が最後の力を発揮し、
なんせ、私、技術者じゃねぇし、魔導工学、知らねぇし、良いんだよ、適当で、ドラマ、ドラマ。
その最後の力で、軍艦は再び、浮かび上がり、鐘突塔を壊しながら、
バルセリアの広大な牧場に不時着した。
牧場に、一人、佇む、ルーナ殿下、
『飛翔部隊』も、バルセリアの民も、ルーナ殿下の奇跡の力に救われた。
めでたし、めでたし。
ってね。
魔導新聞は各家庭にある、魔導回線で繋がった、魔導本と呼ばれる板状の魔導機で読む、
その魔導機に表示する各社の記事を選んで、その魔導機にコインを入れると記事が読める。
記事には、魔導ペンで書かれた魔導回路が埋め込まれていて、その回路を触ると『心』の魔導術が発動し、
その『心』の効果で、読者はその場で、書かれた記事が、自分の目の前で、あたかも起こっているような、リアルな映像を見る事が出来る。
勿論、どれだけリアルに観られるかは、書き手の才能と文筆力にある、私は、大手の記者より、事件をリアルに書く事は不得意だが、記事を面白く書く事は得意だ。
で、結果、当日の夕刊の売上は、我が社始まって以来の記録を叩き出し、次の日の、大手の朝刊も、こぞって、ルーナ殿下、ルーナ殿下と取り上げて、
公民は、ルーナ殿下に無理を言ってる、魔導省と防魔省を非難し始め、魔導省は直ぐに、新型戦艦の点検と改修を発表して、更に、ルーナ殿下の一月の休暇、及び、艦長と機関長の移動を発表した。
まぁ、此の発表は、前日、魔導省の知人から聞いていたから、ドラマに利用させて貰った、魔導省とあたしのウィンウィンさ。
でっ、私も、局長賞、貰ったんで、1ヶ月、南の自由都市でバカンスと洒落こんでいたのに、
局長に呼び出され、バルセリアに行けって言われた!
嫌だ!!
って言ったら、指名だから、絶対行ってくれと言って、ハゲ局長、土下座しやがる、クソ!!
軍艦『プリンシブァ』が、バルセリアに落下した、五日後、交換要員と、作業員、船の修理資材をバルセリアに運ぶ為に、魔導省は専用の魔導列車を出す事になり、
魔導省から、専属記者として指名された私も、バルセリアには、その専用列車で行く事になった。
列車は、中央山脈を抜けて、三日後にバルセリアの街に着く予定だ。
専用魔導列車は、五十両編成で、二十両の客車と三十両の貨物列車になっている。
で、流石、魔導省、客車は豪華だ、全て個室で、専用のシャワーも有り、
更に、此の列車には、他の各省庁のルーナ殿下派が沢山乗っていた。
外魔省からは、ルーキンス・ホーゲン、
農魔省からは、カーウス・ラーゲン、彼奴は、私に殿下が牛と一緒のシーンを書いてくれ、と言いやがる。
牛と殿下? 誰が見たがるんだ、農魔連向けか? うち、地方紙じゃねーんだよ。
教魔省からは、キャリー・ベネディア、今、教魔省で頭角を現している若手だ、彼女にはいろいろと情報貰って世話になってる。
彼女は、私に、今、バルセリアの高校で学長している魔導皇、嵐のジェルダ・ルーバッハと殿下のツーショットを書いてくれと頼まれた。
魔導皇、嵐のジェルダ・ルーバッハって、確か歳は四十代、二十歳の頃、天候の魔導術を研究して、たまたま十年前、嵐を起こしちまったから、嵐のと呼ばれて、魔導皇に成ったんだが、
嵐の魔導術じゃ、何の役にも立たないから、いろいろ魔導士協会や公王と揉めてた、って聞いてたけど、
今は、バルセリアの高校で学長してたんだ。
枯れたババアと殿下で、絵になるのか? まぁ、キャリーにゃ、世話になってんし、適当に書くか。
色んな人と、商売上、挨拶した後、私は、食堂車に向かった、魔導省は金有るから、食堂車も豪華だ。
旨いメシでも食って、早く寝ようと思っていた私に、凄い絵面が飛び込んで来た。
あのテーブルにいる、三人、確か、
進行方向の窓際の席にいるのは、ピンクのショートカットの髪にピンクの瞳に、丸い銀の眼鏡、
ギルスタン家の引き籠り姫、
ウェルセア嬢
何故、彼女が?
噂じゃ、相当な天才で、天才故に、誰も理解されず、だから引き籠っていた、その彼女を、ルーナ殿下は引っ張り出して、あの戦艦を作らせた、と言われている。
ルーナ殿下の凄い所は、人の使い方だ、彼女は魔導省の問題児、ジュピーリーナ嬢も使いこなした。
だから、あれだけの戦果をあの短期間で上げる事が出来た。
その引き籠り姫が、わざわざ、バルセリアの現場に向かう!
何か、有る匂い。
そして、その前で窓からつまらなそうに、景色を見ているのが、
魔導省の怒り姫、事、
サーンディ・アーランド上級魔導士、
彼女はダークなアッシュ系ブロンドの髪をボサ質感にしていて、更に短めのレングスが大人っぽい印象に見えるんだが、性格は危険なガキだ、彼女の怒りを買って、多くの犯罪魔導士が、此の世界から消えた。
魔導省実働部隊の責任者、飛翔騎士団、団長ルーフェンス・ガイアード、通称、闇のルースの秘蔵っ子、
闇のルースが切り札を切るって、
何が、あんだよ、バルセリア!
サーンディの隣の女性、ラベンダーブラウンの髪にツヤショートヘア、
ありゃ、ルーナ殿下の盟友、
バレンシア・サザナード
確か、防魔大で、歴代トップの操舵術、砲雷術の成績だったんだが、女性である事、ルーナ殿下の友達って事で、
防魔省、不採用、其で、魔導省の観光船の上級魔導航海士をしていた筈だ。
彼女は何しにバルセリアに行くんだ?
遊びじゃねえよなぁ?
興味を持った、私は、ウェルセア嬢の横の席に立ち、営業スマイルで、
「此処、空いてますか?」
とウェルセア嬢に声を掛けたら、
彼女の前の席のサーンディが、私を睨みながら、
「あーん、何だ、おめぇ!」
サーンディ、怖えぇ!
怖いけど、表情には一切出さず、魔導証明書を見せながら、
「私、ディ・プラドゥ社の記者をしています、ローシィ・レーランドと言う者です、お見知り置きを。」
と挨拶したんだけど、
サーンディは、
「ちっ、文屋かよ。」
と言って窓の外を再び見る、私には、無関心。
ウェルセア嬢が、本当に小さな声で、
「ど、どう、・・・ぞ。」
生きてんのか?此の娘。
私は、座りながら、ターゲットをルーナ殿下の盟友、バレンシア嬢にする事にした。
私は、料理を注文した後、バレンシア嬢を見て、今、気が付いたフリして、
「あのーすみません、確か、貴方は、ルーナ殿下のお友達の、サーザナード家のバレンシア様ですよね、殿下のお見舞いですか?」
彼女は、えってな顔して、
「い、いえ、たぶん、もう発表しているから、大丈夫だと思うんですけど、私は、今日の辞令で、『プリンシブァ』に乗る事が決まって。」
聞いてねぇ!、前日迄、此の人事、魔導省から聞いてなかった、今朝決まったのか、誰の代わりだ?
今回は、機関士長と艦長が動いた、彼女が機関士長をやる分けねぇし、
・・・まさか、
「あのー、・・・もしかして、・・・新艦長とか?」
私は、バレンシアにカマを掛けた。
彼女は、澄ました顔で、
「まぁ、船が動くのは、先の事ですし、」
否定しねぇ!
魔導省には、殿下の船に乗りたい奴は巨万といる!
そんな奴等を無視して、あの殿下が、バレンシア嬢を引き抜いた、
ルーナ殿下は、彼女の操舵術、砲雷術が必要だから?
何故?
やっぱり、バルセリアには何か有るって事か。
結局、それ以上のネタも、手に入らず、美味しい夕食を食べて、その席を離れた、
ただ、つまんねぇなぁ、と思っていたバルセリアも、何かが、有る、って予感がしてきて、俄然、興味が出て来たのが、収穫だった。
「でっ、何で、俺達はバルセリアに行くんだ!引き籠り、」
記者さんが席を立ったら、サーンディさんが、私を睨んで、怖い顔で聞いて来た、こ、こ、怖い、
「サーンディ先輩、此処では、その話しは無理ですよ、ウェルセア先輩も無理って言ってますよ。」
バレンシアさんが、助けてくれた、
私は、ウェルセア・ギルスタン、星翔部隊で情報摩導将官をしている、
情報摩導将官
だから、何時も自分の部屋で魔導計算機を操作して情報を集めるている、それが私の仕事、ルーナ殿下が私の為に用意してくれた、仕事。
そんなルーナ殿下が、バルセリアで人類以外の敵に襲撃されて、殿下の船は落下した。
ルーナ殿下は、私に、その敵が何者かを調べてくれと言い、私は遠隔操作で、船の魔導機関探索機を動かした、
此の探索機は、生物により異なる魔素の吸収量から排出される廃魔素の量を計測する事が出来る。
人のように、魔素を必要としない生き物は、廃魔素の放出量は少ない。
しかし、翼竜のように、魔素が大量に必要な生き物は、廃魔素を大量に放出する。
私が、あの化け物の廃魔素の量を計測した時、その数値は信じら無い数値だった。
廃魔素はゼロ!
ゼロって、
・・・
ルーナ殿下は、此の化け物が船に近付いた時、探索機が白い点滅する光点を表示し、警報が鳴ったと言った!
白い点滅する光点、
白!!
計測不能!!
ゼロだから、
有り得ない数値だから!!
だから、警報が鳴った!!!
考えられる事は、二つ、
一つの考え方は、
此の世界で、魔素を絶対に吸収しないで生きていける生物、
そんな生物が、あんなに強くて、不死の分けが無い。
そして、もう一つの考え方が、
魔素を吸収しても廃魔素を出さない、完全な生き物!!
全てが魔素で構成されている生き物!!
『魔人』!!!
此なら、あの強さも、不死も説明がつく!
完全に魔素で構成されているから、あの化け物は強く、壊れても、大気に溢れている魔素を吸収する事により、直ぐに修復する事が出来る。
私は、その事をルーナ殿下に報告した。
その生き物は、私達の魔導機関を憎んでいた、
そして、殿下と部隊の皆と、バルセリアの民を虐殺しようとした、
その化け物が、不死だと知ったルーナ殿下は、全力でその化け物を殺せと命じた。
だけど、
その化け物を、殺す事が出来ず、破壊した部位が完全に復活した時、
奇跡が起きた。
ルーナ殿下が言うには、千本の光剣が、天より落下して、その化け物を細切れの塵状に切り刻んだと言っている。
しかし、探索機には廃魔素の反応は無かった、
どう言う事だろう?
一体、何が起こったんだろう?
何が起こったのかは、その場にいない私には分からない。
「おい!聞いてんのか?」
分かっている事は、探索機では、計測出来ない、何かが起きた。
「答えろ!!!!!!」
「ヒィイ!!!!」
何?何?サーンディさんが怒ってる!
「人の事、無視するんじゃねぇ!!」
えっ、無視?考え事してたから、
バレンシアさんが、慌てて、
「サーンディ先輩、落ち着いて、落ち着いて、ウェルセア先輩は、私達に旨く説明しようと考えてたんですよ。」
そ、そうだった、そしたら、考えに没頭して、
また、やってしまった。
「あーん、返事ぐらい、出来んだろーがぁ!!!」
サーンディさん、怖い!!
泣きたくなった。
「先輩!いい加減にして下さいね、ウェルセア先輩、泣いちゃいますよ!だいたい、特務任務ですよ!こんな列車の中で説明しろってのが、無理です!」
サーンディさんが、膨れてる、
「わかーてるよ!だがな、こっちゃ、ルースから、何の説明も無くバルセリアに行けって言われたんだ!説明の一つも聞きてぇんだよ!」
・・・
私は、思いきって、サーンディさんに言った。
「・・・ルーナ殿下が・・・説明・・・してくれる。」
「声が!ちぃっちぇ!!」
ひぃぃぃぃぃ、怖いよ!!!
泣きたくなった。
本当に、