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愛する星に、願いを込めて  作者: Hs氏
バルセリア編
16/136

エルデシィア・ガーランド

 

挿絵(By みてみん)


 私の名前はエルデシィア・ガーランド、バルセリア魔導高等学校アウル・バ・ハウゼ学校事務員ハウゼ・オルパをしている。



 私は、旧市街で生まれた、黒い髪に青い瞳が特徴の生粋のバルセリア人、



 バルセリアの街はウェルドの民が住む西の新市街 とバルセリアの民が住む東の旧市街に別れている。



 バルセリアは三百年前、バルセリア王国と呼ばれた、独立国家だった。


 ロートスが、大型魔導機の開発に成功した時、隣のウェルド公国は大型魔導機による、軍艦を世界に先駆けて開発し、その魔導軍艦の力で周辺諸国を吸収合併して出来たのが、現在のウェルド公国。


 かってのバルセリア王国は、三国に囲まれ、貿易と流通の拠点として、そして広大な牧草地帯だから放牧が盛んな、とても豊かな国だった。

 

 だから、ウェルド公国は此の地を喉から手が出る程欲しがったのだが、中央山脈アルマバマスターに仕切られた立地が邪魔をしていたのが三百年前。



 しかし、魔導軍艦の登場で、世界は大きく変わり、地の利が無くなった事により、ウェルド公国は危険な周辺諸国、豊かな周辺諸国を次次に吸収し、ウェルド公国は西の大国になった。


 ウェルド公国に対抗する為に、北の共和国は連合して、北方共和国連合が出来た。


 南の都市群は、同盟を結び、自由都市同盟を宣言した。


 東のポワジューレ共和国も、ウェルド公国に対抗して、魔導軍艦を開発し、ウェルド公国の侵略を牽制した。



 其が、二百年前、



 世界が均衡し、平和と秩序が生まれると、軍艦は要らなくなる。


 でも、ウェルド公国は軍艦を作り続けなくてはならないから、国費の60パーセントが国防費といびつな国家になってしまった。


 更に、お金が掛かる教育も国有化した為、国の予算は火の車と成った。



 国の財政がそんな状況だから、巨大な軍艦の開発に異を唱えたのが、ルーナ殿下だ、殿下は防魔大学時の論文で巨艦巨砲主義を否定し、防魔省と真っ向から対立した。



 この対立に頭を痛めた公王は、殿下を、もう一つの時代遅れの魔導省に配属して、鞘を納めようとしたのだが、


 殿下は、魔導省で、最新鋭の高速戦艦を、防魔省の軍艦の十分の一のコストで開発して、大きな戦果を上げてしまった。


 だから、国民のルーナ殿下の人気は物凄く、その人気に防魔省以外の省庁が乗って、次期の、防魔省の予算を少しでも削り取ろうと必死になった。



 そして、教魔省は休暇中のルーナ殿下に、バルセリアの学校を視察して貰い、教育の大切さ、重要性を全公民に訴えて貰う事にした。


 と、殆ど、不眠不休で教魔省に提出する書類を作成していて、頭がはっきりしていない私に、教魔省の知り合いから、魔導通信で連絡がきた、



 ・・・



 えっ?



 ルーナ殿下が視察?


 忙しいルーナ殿下が何故、こんな東の片田舎に来るの!!


『何、言ってるのよ、エル、ルーナ殿下そっちにいるじゃない。』



 えっ! 


 殿下が北じゃなく、此方にいるって


 嘘!!



『エル、あんた、魔導新聞アウル・ジェーゼ呼んでないの、殿下の高速戦艦が連戦による魔導機関の故障で、そっちに不時着したの知らないの?』



 ・・・知らない!



『修理する間、ルーナ殿下が一月の休暇取るから、各省庁、殿下の奪い合い、うちもやっとの事で押さえたんだから。』



 押さえたって、



『で、視察する高校バ・ハウゼ、あんたの所に決まったから、視察する日は入学式、出席するのは、私と、私の上司と殿下。』

 



 ・・・




 ええええええええええええ!!!



「キャリー!駄目!!駄目!!うちは絶対駄目!!!視察するなら、隣の農牧高等学校ラウダ・バ・ハウゼにして!!!」



『何言ってんのよ、エル、牛と一緒の殿下を見ても、公民に受けないし、あんたんとこは、魔導皇まどうおう、嵐のジェルダ・ルーバッハがいるじゃない。』



 ・・・学長!!!


 とっても、駄目駄目な学長!!



『いい、エル、ジェルダと殿下のツーショットのシーンが必要なの、準備しといてね、魔導新聞アウル・ジェーゼの記者も沢山来るわよ、宜しくね。』

 


 ・・・


 ・・・



 此の学校は、



 ・・・



 終わった。



 私は、汚れと落書きだらけの学校を見詰めながら、呆然として座りこんでいた、


 ルーナ殿下が此の学校の惨状を見たら、教魔省の役人が、キャリーが見たら、


 ・・・



 激怒する筈だ、



 ・・・


 ・・・



 そしたら、



 ・・・・



 此の、学校は潰される。


 

 私は、此の学校の卒業生だ、此の学校で、多くの事を学び、多くの友達が出来た。



 だから、私は此の学校を愛していた。



 魔導術の才能も、魔導工学の才能も無い私は、此の学校の学校事務員ハウゼ・オルパに採用が決まった時、私は、本当に嬉しく、幸せだった。


 そして、私の上司も、先輩も優しく、立派な学校作業員ハウゼ・アルパがきっちりと学校を守ってくれていた。


 そして、其が変わったのは、二年前、世間では、魔導皇、『嵐のジェルダ・ルーバッハ』と呼ばれる人が、此の学校の学長になった時からだ、



 彼女は、此の学校を愛していなかった。



 子供達が好きでは無かった。


 そして、


「えっ、ベーゼルさんを解雇、」


「そうだ、彼は学校作業員ハウゼ・アルパとしては給料が高すぎる、エル、今の此の学校の状況では彼を雇い続けるのは無理だ。」



 私は、愕然とした、



「私は、前の学長のように奉仕では働け無い、研究にも金が掛かる、更に、先生の給料、君達の給料、だったら誰かが犠牲になって貰う。」



 学長のジェルダは、私達に冷たく言い放った。



「私も、一年間は我慢してきた、だが、もう限界だ、彼とは話し合い、了解して貰った、学校作業員ハウゼ・アルパは新しく募集する。」



 その時から、学校は変わった。



 上に立つ人の、心が、気持ちが、思いが、その組織に、その集団に反映される。


 学校は、すさみ、れだした。


 消しても消しても、書き込まれる落書き、汚れていても気にしない生徒達、


 全てに無関心で、自分の事にしか興味を持たない先生達、


 私の上司も、二人の先輩も此の学校を嫌になり、去って行った。



 私は、一人になり、其でも、此の学校を守ろうとして来た。


 新しい学校作業員ハウゼ・アルパは、一年たっても応募する人は無く、



 ・・・



 もう限界だ。



 ・・・



 私は、校庭に一人、満天の夜空で泣いた。



 助けて、



 助けてと星に願って、



 泣き続けた。



 

 泣きはらして疲れた私は、事務室の机でうたた寝をしていた、そんな私に、魔導通信で、仕事紹介場カレンドダーから連絡がきた、


 学校作業員ハウゼ・アルパの希望者が、来ると!



 ・・・



 奇跡が起きた!


 兎に角、その人、そのお爺さんに、少しでも、此の学校を綺麗にして貰おう!!



 ・・・



 扉を開けた、その時、


 私の、時間は止まった。 

 


 ・・・



「俺の顔に何か着いてますか?」



 はっ!!!


 私は、彼に見とれてた!


「すっ、すみますん!てっ、てっきり、お年寄りが、学校作業員ハウゼ・アルパに応募して来たと思って!」


 私は、慌てて、分けの分かんない事をしゃべって、彼に自分の事を紹介する事も、忘れてしまった!


 彼の名前は、


『スグル・オオエ』


 異国の人だ。



 歳は、私と同じ二十前半に見える、背は百八十を越えて高く、蒼みがかった短い黒髪は、此の国では珍しい清潔感のある緩いパーマに、固めていないサラサラとした艶の有る髪、瞳は濃い群青色、少しふっくらとしているが、とても、とても魅力的な人だった。



 私は、憧れた、此の人なら、私を助けてくれる、絶対助けてくれる!!



 彼は、私に聞いてきた、


「其って、採用って事ですか?」



 採用? 私は思わず、


「採用!採用!即採用!!、記録板バール出して下さい!」


 と叫んでしまった!



 彼は、少し考えて、


「申し出は、嬉しいんですけど、まず、仕事の説明とかしてくれませんか。」


 と冷静に私に問い掛ける。



 ・・・



 私は、恥ずかしくて、顔が赤くなる事が分かった。


 そうだ、


 私は、何を浮かれていたんだろう、確かに、彼に何も説明していない、彼は、此の学校の、学校作業員ハウゼ・アルパに興味を持っただけかも知れない。


 彼は、此の学校の惨状を見たら、此の学校の、学校作業員ハウゼ・アルパを止めるかも知れないのに。


 


 そして、私は、彼に此の学校の惨状を見せて、全てを説明した。


 そして、彼は理解してくれた、


「じゃ、私の仕事は、此の学校の掃除なんですね。」


 と彼は私に言い。


 私は、はっきりと彼に、お願いした。


「はい、其も、新学期に間に合うように、綺麗にして下さい!」



 彼は呆れた顔で、


「此のデカイ学校を俺、一人で? 其も一週間で?」



 私は、自分の声が小さくなる事が分かった、


「はぃ・・・」



 彼は、私にきびしく


「もっと人を雇うとかは?」



 断られる!


 私の声は、更に小さくなった、


「此の学校、・・・お金無いんです。」



 彼は、呆れて、此の仕事を断る!!


 私は、彼に必死に話した!


 学校を、学校を綺麗にしないと、此の学校が、私の愛した学校が失われてしまう事を、



 彼は、不思議な顔で、


「終わるって、学校が?」



 信じて下さい、本当に終わりなんです!


 私は彼に言った、もうお仕舞いだと思っていた時に、貴方が来てくれた事を、



 彼は、少し考えて、


「エルさん、エルさんはもしかして、助けてって、星に願いませんでした?」


 と言った!!!



 なんで、なんで、彼は其の事を知っているの!!!


 私の顔は、みるみる赤くなり、私は、叫んでいた!


 なんで知っているんですか!!!と、



 ・・・



 そして、彼は優しい瞳で、その美しい瞳で、私を見詰めながら、


「分かりました、此の仕事を引き受けましょう。」



 そう言ってくれた!



 そして、彼は契約を結んでくれた。





 彼は、荒れた宿舎を見て呆れていたが、怒らなかった。


 彼は少ない食事に驚いていたが、美味しいとボーゲンさんを誉めて、ボーゲンさん迄、魅力的な彼の言葉に照れていた。


 私は、仕事をして貰う彼に、規則だからと、ベーゼルさんの制服を着て貰った、少しきつそうだった。


 新学期が始まったら、彼のサイズを聞いて、彼に似合う制服を用意しなくちゃ。


 彼が、ペンキを売ってる店を聞いてきたので、私は、魔導機屋アウル・ベーゼを紹介した、


 彼は、ペンキを何に使うのだろう。




 彼が、学校作業員ハウゼ・アルパになって、二日がたった。


「学校、変わりませんねぇ。」


 私の補助をして貰っている、ローラが呟く。


「奴、何もしてねえから。」


 もう一人の補助の、マーキが吐き捨てる。


 学校は、変わらない、そして彼は何もしない、何故!


 昼に彼と一緒に食事した時、私は、その事を聞こうと思った、でも、彼の疲れた、其でいて、自信に溢れた瞳を見ると、何も聞けなかった。



 そして次の日も、学校は変わらなかった。


「変な魔導機をかってに買って、後で、金よこせって言う、たかり屋じゃねぇの、奴!」


 マーキが怒っていた。


 彼は、また高価そうな魔導機を買って来た。


 此で、二つ目の魔導機。


 昼に、彼と会った、私は、彼に言いたかった、何をしているんですか!何故、学校を綺麗にしてくれないんですか!!



 ・・・



 言えなかった。



 ・・・



 泣きたくなった。




 彼は、其の後の三日間、不規則に食事を取り、学校にこもって私達と顔を会わせなかった。


 そして、


 其の、三日間、



 ・・・



 学校は、何も変わらなかった。



 ・・・



 明日は、先生達が学校に戻って来る。


 明後日は、子供達が学校に来る。



 ・・・



 そして、学校は終わる。



 ・・・



 私の願いは叶わなかった。


 



 その前の日、私は、教魔省に提出する、最後の書類を徹夜で作成した、


 私の全ての仕事が終わったその日の朝、私は、彼に、彼に、会うために事務棟から、彼が居る校舎に向かった。


 朝日の中、彼は、私が来る事を知っていたのか、校舎の前で、私の事を待っていた。


 私は、彼を恨まない。



 ・・・



 私は、


 頬に涙が伝わる。


 彼は、逸んな私の肩を優しく抱き締めながら、私を校舎の中に案内し、


 言った。



「エルさん、此れが、貴方の愛した学校だ。」



 その瞬間、



 奇跡が起きた!




 埃だらけの薄汚れた天井は、薄いパステル調の蒼色あおいろで、その壮大な蒼宮そうきゅうに白い雲海が流れ、雲海が動く度に爽やかな風を、私に送り届ける、天井に変わった。




 落書きで、黒く汚れていた壁は、美しく上品な白い壁を基調に薄いパステル調のみどりが、まるで無限に広がる白い空間に流れるように動く森のようで、その森が、森林が風に揺れると、新鮮で、清々(すがすが)しい空気を、私に届ける。




 泥と落書きで汚れていた腰壁は、 美しく、木目がはっきりと浮かび上がった、上品で貴賓の有る、黒い光沢の腰壁になっていた。





 泥だらけで、傷だらけの床そして汚かった机や椅子は、まるで生まれ変わったように磨き上がり、その床から、机や椅子の木々から香る、大地の香りが此の世界の力強さと、全てを護る、悠久の美しくさを、私に訴えかけていた。




 世界で、一番、きたなよごれていた学校が、




 大自然の、その美しくさの全てを取り込んだ、世界で最も、美しい学校に生まれ変わった。



 其は、本当に、奇跡の瞬間だった、


 私の瞳には、涙が溢れ続け、私は、口を手で押さえて、必死でこらえようとしたけど、


 我慢出来ず、彼の、スグルさんの胸で声を出して、泣いた。


 スグルさんは、


 スグルさんは、



 約束を守ってくれた、



 私の、私の、願いを叶えてくれた、


 私は、


 私は、



 有難う、と言いながら、


 彼の胸で泣いた。



 「エル!大変だ、ルーナ殿下が、此の学校を視察に来る!えっ!!」


 泣いてる、私の後ろから、


 ジェルダ学長の声が、


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「魔神の玩具」という語呂は結構好き 主人公の力で学校が綺麗になって本当に良かった
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