空の母
魔導暦2035年6月1日、 私、リィデリィア・ウェルドは、御父様である、公王、ダブレスト・ウェルドのお許しを頂き、私は、『約束された子』に会いに、東の地、バルセリアに行くことにしました。
同年の5月15日、世界に、世界を破壊する『大魔虫』が襲来し、防魔省連合艦隊は、その『大魔虫』の壊滅作戦を、5月19日に開始しました。
しかし、『大魔虫』は、その身体を破壊すると、世界に有る『魔素』を吸収する、『魔消粉』になります、
その6日後の5月25日、其れを知った御父様と、枢密院、そして、元老院は、我が国を襲う『大魔虫』の軍事力による駆除を諦め、その一時的対処として、東部地区を閉鎖し、『大魔虫』を、閉鎖した東部地区に隔離することを決定しました。
その為、魔導省の上級魔導士には、南部、北部の境界に、『大魔虫』を隔離する為の魔導城壁の作成を命令し、
また防魔省は、『大魔虫』の軍事力による駆除作戦から、東部地区の住民の避難及び誘導、東部撤退作戦へと、その作戦の方針を変更しました。
その作戦変更により、駆除されない『大魔虫』は、再び東に進行を開始し、
その進行速度から6月3日から4日には、東部の最果て街、バルセリアに到達する、そう予測されていました、
つまり私が、バルセリアで、『約束された子』が、戻って来るのを待っていられる時間は、今日から2から3日後まで、
その間に、私が、彼等と出会えなければ、
世界は、終わる、
私は、必死でした。
その為、執政官である、マーシ姉様に相談し、姉様は、ルース様とお話し合いして、ルーナ姉様の信頼出来る方、ジュピーリーナ・グラシウス様が、私の護衛と兼任で、私をバルセリアに連れて行ってくれることに、なりました。
ジュピーリーナ様は、ルーナ姉様の部隊の副将を、なさっている方で、お姉様が、リナと呼ばれている、とても、素敵な方、
私は、そのリナ様が運転する、これも、ルーナ姉様の発案で作られた、魔導格闘機と呼ばれる、とても早い乗り物で、私達は、バルセリアに向かいました。
魔導格闘機は、本当に早く、最初は、その衝撃の凄さに、私は悲鳴を上げて、その悲鳴にリナ様は、笑っていらっしゃいましたが、私も、直ぐに、その速さに慣れて、空の、景色を楽しむことが出来るようになり、
私は、今迄、公都から離れた事も無く、何時も見ている景色は、公都の街並み、勿論、夢の中では、世界を見てきました、でも其れは、あくまでも、夢の中、現実に戻ると、自分は、やはり、公都の中心にいる事に気付き、落胆します、
でも、今は違う、此の景色は現実、黒く濁った、『魔消粉』を抜け、蒼く澄み渡る空迄、上がり、雲海が高速に私達の周りを流れ、
世界は、光に満ち溢れていました。
美しい景色に見惚れ、3時間、私達は、東部と西部との境、中央山脈を越えて、東部の一の、大渓谷、ゴードバーレン大自然渓谷に差し掛かると、
私の身体の症状は、より悪化して、私は咳き込むようになり、私の事を心配した、リナ様が、
「殿下、もう少しだ、船に行けば、殿下の病気を治せる、名医がいる、」
その言葉に、私は、驚き、
えっ、?
船?
名医?
私が、驚いた事を、気にしたのか、リナ様が、
「そのな、リディア殿下、その、マーシ殿下から、殿下の身体の具合が悪い事を気にして、船にいる、オリフィア先生に診せてくれって頼まれたんだ、」
「あの、リナ様、 オリフィアって、まさか、あの、オリフィア・カーネルセンですか、」
リナ様は、頷きながら、
「あぁ、その、オリフィアさんだ、」
私は、ルーナ姉様の人脈の凄さには、何時も驚かされていましたが、姉様は、高校生の私でも知ってる、有名人を御仲間にしてる事に、本当に驚きました、
魔導医学界は、百五十年前の、あの反乱の時代、非道な人体錬成により、狂戦士、巨人、等、人を化け物にした、狂人、
ボルド・ドーベンダ
その処業に、それ以降、我が国の魔導医学界は人体錬成を禁忌とし、その研究や治療行為を、禁止しました。
其れから、百五十年、
まだ、魔導医学生だった、彼女、
オリフィア・カーネルセン
は、その古い、魔導導医学の体質を批判して、事故で脚を失った方の脚の再生を、人体錬成で成功させ、世間に大きなニュースとして、取り上げられました、処が、
そのニュースの問題点は、オリフィアが天才だった事を報じませんでした、だから、彼女の真似をした、多くの魔導医者が、彼女のように、人体錬成をして、失敗した事が、魔導医学界で大きな問題となり、
魔導医学界は、世間の批判を躱す為に、全ての責任を彼女の所為にし、彼女を魔導医学界から追放した、
私は、そう聞いておりました。
その、魔導医学界から追放された方が、
お姉様の船に、乗っていらっしゃる、
その時、リナ様が、
「殿下、あれが、俺達の新しい魔導船、『プリンシブァ2』だ。」
『プリンシブァ2』?
私は、急いで窓の外の景色を見ました、
外は、ゆっくりと日が沈もうとしています、雲海は赤く夕日により、染まり、
その、赤い雲に浮かぶ、一隻の白い魔導船、
その魔導船は、今迄の、軍艦とは、大きく違っていました、白い板のような物が船の上に取り付けられていて、広場のようになっています、
「あの形に驚いたろ、大将が考えたんだ、あの広場のような場所に、此の魔導格闘機が幾つも着艦する事が出来る、だから、大将は、彼奴を魔導格闘機の『空の母』、『魔導空母』って呼んでる、」
『魔導空母』!!!
また、ルーナ姉様が、
素晴らしい、発想で、世界を変えようとしています、
本当に、姉様方は、凄く、其れに比べて私は、身体が弱く、ほんの些細な事をするだけでも、皆にご迷惑を掛けてしまう、
私は、役立たずです、
其れは、充分、理解しています、
私が出来る事は、ただ、夢に出て来る、『聖母』様のお話しを、皆様にしているだけです、そのお話しを、喜んて聞いて頂ける方々がいらっしゃられたので、私は、
『星の巫女姫』と、ちやほやされて来たのも、充分、知っています、
私、自身は、姉様方と違い、今迄、何も考えず、何もしようとして来なかった事も自覚しています、
そんな私が、初めて、『星』から、簡単な使命を託されました、
『世界ヲ救ウ為ニ、『約束された子』ニ、会イニ行ケ』と、
こんな、簡単そうな事でも、私には、一大事です、
私に、出来るのでしょうか、
どんどん気分は、落ち込み、気持ちは暗くなります、
こんな私に、世界を救う事が出来るのでしょうか、
こんな、情けない私に、国中で、お噂になられている、『約束された子』の皆様方が、私の話を聞いて頂けるのでしょうか?
『星』が私に託す、その使命を成す為に、皆様方は、私に協力して頂けるのでしょうか、
心配は、尽きません、
更に、更に、悪い事を考えてしまいます、
自分が、嫌になる程、気が滅入った時、
ズゥウウウウウンンン!
いろんな心配を、私があれやこれやとしている最中に、此の、とても速い、魔導格闘機と呼ばれる船は、
『魔導空母』と呼ばれる船に到着し、
ウィイイイイイインンン
そのまま、ゆっくりと床が沈み、私達は、『魔導空母』の中に入りました。
リィデリィア殿下は、ゆっくりとリナ副将が操縦していた魔導格闘機から出て来て、
艦長である、バレンシア・サザナードが、出迎えて、殿下の手を取った、
私、
オリフィア・カーネルセンは、
魔導省旗艦『魔導空母プリンシブァ2』の軍医として、その後ろで、殿下を観察していた。
殿下は、ルーナ殿下のプラチナの金髪と違い、シルバーヘアーをショートボブに纏めた、本当にまだ、高校生の幼い顔をしている、
けど、その顔色は、青白く、一月前に、見た、バルセリアの高校生、確か、名前は、ハルヒカとエミルアだったような、・・・リィデリィア殿下はあの二人に比べたら、遥かに、不健康そうに見える、
なる程、彼女の主治医である、ホルスト翁が心配して、私に、彼女を診察してくれと言う分けだ、
私は、そう思いながら、私は、私の特技、
『霊視』
を、彼女に発動させた。
『霊視』は、『磁』と『雷』の合成魔導術で、人体を構成している本質を見る事ができ、
『霊視』で見る、人の本質は、骨と肉の塊に網のように構成された赤い糸と白い糸が芸術のように張り巡らされ、其れは『魔の神』の造形物の中の最高傑作と、思える程、美しく見え、
その美しい、造形に病魔が侵入すると、病魔は、人の本質を破壊し、無へと変えてしまう、その部分は、『霊視』では、色の無い、ただ、黒い塊のように見える。
我々、魔導医は、その部分を、『魔疾患』と呼んで、
魔導医は『魔疾患』の治療として、『光』で、その破壊された本質を消去し、『磁』、『雷』で、身体の本質を刺激し、新しい本質を人が創り出す事を助け、加速させるように導く、
その作業は繊細で正確さを必要とし、其れが出来るか、出来ないかで、その魔導医が、名医か、庸医かに分かれる。
『霊視』は、難しい技術では無い、ある程度、才能の有る魔導士なら、『霊視』が出来るし、魔導大学魔導医学部に進むなら、『霊視』は必須だ、
幼い頃から、『霊視』が出来た、私は、当然のように、魔導高等学校のA組から魔導大学魔導医学部に進んだ。
そして、其処で、私の『霊視』が、他の魔導士の『霊視』と違う事に気付いた、
彼等には、細い白い糸が見えていない事を知った。
此の問題に付いて、私は、師である、ホルスト翁と何時間も、話し合い、議論を重ね、
此の、白い糸は、人の意思を身体に伝える物ではないかと仮定し、私とホルスト翁は、此の白い糸を、
『神魔糸』
と呼んだ。
ホルスト翁は、私の『霊視』は、『磁』と『雷』に加えて、『心』も合わせた、合成魔導術ではないかと推測したが、
今のウェルド公国は、150年前の魔導大戦の影響で『心』の研究は禁止されている、その為、私達はその推測を証明する為の研究が出来ず、
悶々とした時期を過ごした後、私の興味は、人体錬成に変わっていった、
人体錬成も、150年前の魔導大戦の戦犯、ボルド・ドーベンダが残酷な研究をしたため、魔導医学界は、人体錬成の研究を嫌った、
しかし、私は、『神魔糸』が見える、完全な『霊視』を持っている、
私なら、神に近い、人体錬成が出来るんじゃないか、そう思うようになった、
人体錬成の研究は、ポワジューレ共和国の方が進んでいる、しかし、その成功率は、10件に、1件だと聞いている、
何故、成功しないのか、私は研究の報告書を取り寄せて、徹底的に調べた、で、結論は、やはり、『神魔糸』が見えていないから、失敗した、そう確信した、
そうこうしているうちに、私は、魔導大学を卒業し、2年間の研修医として、防魔付属病院に勤務する事になった、
此れは、私が、希望した事だ、此れは、私が望んだ事だ、防魔付属病院は防魔省直轄の病院で、其処には、戦争で四肢を失った軍人が沢山、入院、通院している、
其処なら、私が考えている、新しい、人体錬成を試せる、そう考えたからだ。
チャンスは、早く来た、若い魔導兵が、南方の国境紛争で、敵の魔導兵の炎の直撃を喰らい、右足を失った、
彼の名前は、オースティン・バワーズ、
私は、彼に取り引きを持ち掛けた、私なら、君の脚を治せる、だが、此れは、まだ、研究中の技術、失敗するかも知れない、また、成功しても、此の事は秘密にして欲しいと、
彼は、自暴自棄になって、此の条件を承諾し、私は、生まれて初めて、人体錬成を行い、そして、
成功した。
私の考えは、正しかった、真の人体錬成には、心の技術が、必要で有る事を、私は、知った、そして、此の技術が、禁忌で有る事も、
そして、オースティンは、私との約束を守らなかった、彼は、自分が脚を取り戻した事に有頂天になり、人に話、魔導新聞にその情報を売った。
私は、此の事で、一躍有名になり、魔導医学界の先達達の羨望と嫉妬を一身に受ける事になった、若輩の小娘が、殆ど不可能な完全な人体錬成を成功させた事に我慢が出来なかった、有名な魔導医が次々と人体錬成に挑戦し、
皆、失敗した。
魔導医学界の怒りは、私に向かい、私を非難した、人体錬成の技術を独占し、その秘密を明かさないと、
学界は、私の魔導医士の資格を剥奪し、学界から追放しようとした時、ホルスト翁から連絡が有り、私は、現公王の長女、
マシリィア・ウェルド
が、私に会いたがっていると知らされ、
私は、マシリィア・ウェルドに会うことになった。
マシリィアと、私は、学部は異なるが、魔導大学の同期で、彼女と親しい人達は、彼女をマーシと呼んでいた、
彼女は、ちょっと幼顔でシルバーブロンドの髪を肩ラインボブでまとめているので年齢より若く見えるが、ウェルド家では、珍しく、魔導の才が有り、学校一番の天才と騒がれていた人物だった。
だが、彼女が選んだ道は、宗教学に分類される『星学』だったから、多くの教授達を落胆させ、大学を卒業すると、星読みの『星務官』となり、風の噂では、執政官に抜擢されたとも聞いていた、
私は、彼女と、彼女の仕事場、公家の星務室で会うことになった、2年ぶりの彼女は、変わらず、大学で人気だった、あの人懐っこい笑顔も健在だった。
彼女は、私に、単刀直入に言った、
「ねぇ、オリフィ、貴女の人体錬成の秘密、・・・そうねぇ・・・『心』ね、其れも、人の本質を変えてしまう、違法レベルの『心』・・・よね、だから、貴女は、貴女が見つけた人体錬成の技術を他の人に話せない、んでしょ、オリフィ、」
彼女は、私の秘密に気付いていた、
私は、絶望し、
その時、私の人生が、終わった、
そう思った。
魔導省の上級魔導士が、部屋に入って来て、私は連行される、私は、消されるか、魔導術が使えないように処置される、
そう思った、
私は、マシリィアを見て、震えていた。
その時、彼女は、
「どうしたの、オリフィ、顔色が悪いわよ、そう言えば、ホルスト翁も、貴女の事、心配していたわよ、ねぇホルスト、」
そう彼女が、言った瞬間、私ははっきりとと彼女の横に、ホルスト翁が存在し、翁は、
『そうだよ、オリ、大丈夫かい、』
と、彼の声で、優しく、私に語り掛けて来た、
「其れは!!!」
マシリィアは、笑いながら、
「そうよ、『心』よ、私も出来るの、其れも貴女よりも、遥かに強力な『心』をね、」
私は、その時、いろんな事を、一瞬で考えた、
「止めてよ、オリ、此の姿も本当だし、別に、あのゲルトじゃあるまいし、貴女を操る気もない、だいたい、私は公王の娘よ、唯でさえ面倒な事が沢山有るのに、自分で仕事を増やす気は無いって、」
私は、唖然とした、
「マーシ!貴女、私の、私の考えてる事が分かるの!!」
彼女は当然と言う表情で、
「そう、其れが私の呪い、だいぶ慣れたけど、煩いくらい、聞こえるし、声を選別するのも、一苦労、だから、私は、静かな『星』達を相手に仕事をする事にした、人混みは、苦手、」
私は、何も言えなかった、
「他人に、自分の悩みを言うと、結構、気分が、スッキリとするし、オリ、貴女もそうでしょ、良いわよ、たまには、貴女の悩みを、私が聞いてあげる、」
私は、慌てて、
「私は、悩みなんて、」
彼女は、話を止めなかった、
「その代わり、私のお願い聞いて、魔導省に新しい部隊を作ったの、『飛翔騎士団』の下に『星翔部隊』って言う部隊、貴女、其処の軍医になって、」
私は、マーシを睨み、
「其れは、私を、監視すると言う事、」
マーシは、首を振りながら、
「其れもあるけど、もっと、前向きに考えて欲しいなぁ、だいたい防魔省は古い体質だから、魔導医学界から貴女を守れないけど、魔導省は私の管轄、貴女を守れる、私は、貴女の才能、昔から、高く買ってたのよね、」
「其れは強制?」
彼女は、頷いて、
「そうねぇ、そうして欲しいなら、」
私は、彼女の言いたい事を、理解した、
私に、選ぶ道は無い、
結局、私は、抵抗する事を、諦めて、彼女の条件を飲んだ、
こうして、私は、魔導省、『星翔部隊』の軍医になり、4年間、部隊員の愚痴を聞いた後、マーシの妹、ルーナ殿下と共に、前線で軍医として参加し、今、此処に、此の、『魔導空母』の格納庫にいる、
今、私の目の前に、マーシの下の妹、マーシが、愛している、妹、リィデリィア殿下がいる、
彼女は、私の『霊視』では、
澄み渡る蒼と白の光で包まれていた、
その美しい光に、黒いシミが少しずつ広がっている、
私は、その黒いシミを見た瞬間、
理解した、
リィデリィア殿下の、
病は、私では治せないことを、