神殿攻略
「へぇ、ジェミが、そんな事、言ったんだ、素敵じゃない、」
「素敵って、そんな感じじゃなかったなぁー、何か、思い詰めた、そんな、感じがしたんだ、エミは、ジェミとリアの事で、何か心当たり有る?」
「心当たりねぇ、リアは、ジェミの事が気になってるけど、ジェミは、実はリアが大好き、けど、はっきりと告白する勇気が無いから、ウジウジしていて、だから、悩んでいるとか、どう、ハル、」
僕は、エミに相談した事を、後悔した、
「あのねぇ、エミ、あのジェミだよ、エミが言う恋愛脳なんか、有ると思うかい、」
エミは、ホッペタ膨らまして、
「恋愛脳って酷くない、女の子が憧れる、ロマンって言ってよ!ハル!!」
「はい、はい、分かったから、エミ、」
エミに、相談しても無駄な事を知った僕は、面倒なので、此の話題を打ち切る事にした、
エミは、そんな僕の態度に剥れたが、帰ったら、ゆっくりと話そうと、あれやこれやと機嫌を取って、その場は終わった。
魔導暦2035年5月30日の雷曜日、僕達は第八の『星の遺跡・神殿』に移動した、
その遺跡を守護するのは、魔牛人、やはり、此方も人型の魔獣で、『星の遺跡・洞窟』で現れた、魔豚人との違いは、その破壊力、
彼等が持つ、ハンマーや斧に、少し掠っただけで、僕達は軽く吹き飛ばされるぐらい、彼等の力は、桁外れだった、
此の、『星の遺跡・神殿』で必要な技術は、回避力、兎に角、魔牛人の攻撃を受けてはいけない、
幾ら、僕達に、『星の保護』が有り、魔導防護服を着ていたとしても、魔牛人の一撃を受けると、その衝撃で、意識を飛ばされる、
そして、その間に、追撃を受ければ、意識の無い僕達には、『星の保護』が、何処まで保つか分からない、下手すると怪我、其れも、大怪我する可能性が有る。
だから、僕達の責任者としての立場のルーナ殿下は、凄く慎重で、今回は、相手の攻撃を如何に躱すかの訓練に徹底した、
やはり、魔導省の魔導士の訓練にも、相手の攻撃を躱すと言うのが有るそうで、力の魔導術で防ぐ方法ばかりだと、万が一、魔素が切れた時、命を落とす危険が有るから、避ける事も重要だと、サーディさんも、そう教えてくれた、
僕達は、サーディさんと、エリンさんから、避ける事を学んだ、二人の魔導術により、高速に打ち出される小石を避ける訓練、視覚外から来る攻撃を、素早く察知して避ける訓練、避ける、唯ひたすら避ける、
その訓練の合間に、『星の遺跡・神殿』の攻略に挑戦した、
此の挑戦は、飽くまでも、僕達に取っては試しであり、ルーナ殿下からも、攻撃を受けて、無理そうだったら撤退の厳命を受けての挑戦だった、
挑戦する事、3回、僕達の、『星の瞳』の力は鍛えられ、僕達は、『星の遺跡・神殿』の魔牛人の攻撃なら、確実に回避する事が、出来るようになった、
そして、2日後の6月1日の闇曜日、その日、日が傾き始めた午後4時、僕達は、その先に進む為に、『星の遺跡・神殿』の攻略を、本格的に開始した。
「ねぇ、ルーナ殿下、貴女は、まだ、彼等の事を、その、貴女が言う、世界を救うと言う、『約束された子』だと、信じてるの?」
そう、ディ・プラドゥのローシィ・レーランド記者が、私に言った。
『約束された子』、
世界の終わりに、世界を救う為に、現れると、言い伝えられている、子供達、
世界の終わりとは、
メルティスト先生が言うには、あのスグルが消えた場所で全員が見た幻覚、
我等の『魔の神』が、スグルが世界に開けた穴から湧き出る、『混沌虫』により、『神』が食い尽くされる事、
その、猶予期間は、後、一年、
あれは、本当に真実なのだろか、
先生は、あの、コーネル・オリゴンから、彼が、『魔の神』から授かった、『魔の剣』を奪えば、スグルも、世界も救える、
子供達に、そう言った、
果して、其れは、本当なのだろか、
私は、敢えて、反対しなかった、
こんな状況で、子供達を無事に元の世界に戻すには、子供達に目標を与え、其れに向かって挑戦させる事が大切だ、そう思った。
サーディも、エリンもそう思ってる、
・・・エリンは、正直、何、考えてるかは、分からない、彼奴はロードス家の裏の人間、思惑の一つや二つは、有るような気がする、
問題は私達がどうやって元の世界に戻るかだ、私達は、元の世界に戻らなければならない、私達は、私達を襲った『魔人』達の襲撃に対して、準備をして来た、
此れは、現実だ、
神を救う、夢物語とは、違う、
子供達が、『約束された子』と、関係無く、私達は、不死の『魔人』と戦わなければならない、
彼等に対抗出来る、スグル、抜きでだ、
帰る方法は、ジェミこと、ジェミオ・バレットス、彼には、スグルの力、『何処でも扉』と同じ力があった、
だが、彼の力には、大きさと言う問題があり、実際、彼が作る『何処でも扉』は、スグルの作る巨大な『何処でも扉』と違い、十五センチの四角形、
此の大きさでは、誰も通れない、
だが、彼が言うには、自分が成長すれば、もっと大きな『何処でも扉』を作れるようになる、だから、此の『星の遺跡』を攻略する必要がある、そう言った、
そして、その言葉は、真実だった、
彼等は、彼等が言う、『星の遺跡・竹林』、『星の遺跡・山脈』、『星の遺跡・洞窟』を攻略し、
今、此の、『星の遺跡・神殿』を攻略しようとしている、
彼等の成長は、目覚ましく、私は、彼等が、もう少し、戦う技術を身に着けたら、魔導省の上級魔導士であり、『飛翔騎士団』、団員である、サーンディ・アーランドですら、勝てないんじゃないか、そう思うようになった。
此の、十日間で、彼等は、本当に成長し、
ジェミの『何処でも扉』は、倍の三十センチの四角形になった。
我々に希望が見えてきた。
たぶん、此の『星の遺跡・神殿』を攻略したら、ジェミは、人が潜れるくらいの『何処でも扉』を開くことが出来るんじゃないか、
私達は、そう思った。
そして、今日、『星の遺跡・神殿』を攻略する為に、彼等は、スグルの考えた、フォーメーションの隊形を組み、
先頭は、アンリ、ダン、中衛をリア、ジェミ、エミ、そして、後衛をオル、ハルが並び、
ハルの髪が靡、その瞳は、透明なコールドブルーになって、彼は小太刀型の、彼の『星具』、『破星の剣』を高く翳し、
『行ケ!!!』
と、言った瞬間、彼等は、空を飛んだ!
ローシィは、ため息を付きながら、
「本当に、何回目よ、此の光景、だいたい、彼等の日常を見てると、彼等が、実はただの高校生だって言われても、やっぱり納得するし、此の光景を見慣れた後、彼等が『約束された子』だよと、誰かに言われても、たぶん、あっ、そうと言っちゃうわよね、私達、」
サーディは、ムッ、とした顔で、
「彼等は、ただの高校生だ、世界を救う、云々は、私達、責任有る、大人の役目だ!」
ローシィは、ちょっと、意地悪な瞳で、
「ふーん、じゃ、何故、貴女は、彼等を訓練しているの、サーンディ・アーランド上級魔導士、」
サーディは、赤い顔して、ローシィに返答した、
「私は、彼等が、此の場所を攻略したい、そう言って、頑張ってるから、手伝っただけだ、」
そんな答えに満足しないローシィは、更に、意地悪そうに、サーディを問い詰めるような口調で、
「へぇー、じゃ、貴女は、彼等に期待してないんだ、サーディ、」
「ああ!当たり前だ!!」
流石にサーディは、怒って、ローシィを怒鳴り、そんな二人を黙って見ていた私は、そろそろ、此の二人のじゃれ合いを、止めるべきかと考え初めていたのだが、その時、サーディは、
「世界を救うのは、ルース団長だ!!あの方なら、コーネル如きが幾ら騒ごうが関係ねぇ!!団長が動けば、彼奴等、一瞬で、方が付く!!!」
その返答を聞いたローシィは、鋭い記者の瞳で、ルース団長の秘密を聞きだそうと、
「へぇ、ルーフェンス・ガイアード飛翔騎士団長、噂では、上級魔導士を遥かに超えた存在、その実力は、大陸一つを破壊出来る、魔導聖帝級、と呼ばれている、謎の人物、」
「あぁ、団長は、」
サーディは、頭に血が上って、魔導省機密事項に触れようとしている、私は、慌てて、彼女を止めようとした、
「サーディ!」
私が、彼女の発言を止めようとした、その時、エリンが、気を利かせて、
「では、皆様のご活躍を映します、」
と、サーディに声を掛け、サーディは、我に帰って、
「えっ、あぁ、頼む、エリンさん、」
ローシィは、ネタが得られなかった事に、
「チッ、」
と、舌打ちし、其れを、唖然と見ているのが、我等の料理長、ブライアン・ゲートル、とその恋人で、子供達の責任者、メルティスト・ブーレンダ先生、
そして、エリンの後ろには、メイド服型の魔導防護服を着た、一人は、ハル君のクラスメイトの、ドリス・ウェルチカ、彼女は、目を丸くしている、その横には、やはりメイド服型の魔導防護服を着た、
コーネルが、無理やり『遺跡』に連れて来た、『星の遺跡』の『守り人』の娘、レイティシア・バリデュワ、
彼女は、殆ど、感情を表には出さない、だから、何を考えているかは、分からない、
もともと、『守り人』は、そう言う性格の人が多い。
エリンは、手を空中に差し出し、上空にハル君達、高校生の画像が浮かび上がった、エリンの特技、『写しの鏡』、光の魔導術らしく、遠くの相手を見る事の出来る、暗殺にはもってこいの技、
私は、高校生の彼等と、十日程、一緒に過ごし、だいぶ彼等の事が、分かって来た、
私は、話を逸してくれた、エリンさんの気配りを、心の中で感謝しながら、目は、エリンさんが見せてくれている、『写しの鏡』に向けた、
そして、私は、子供達が、地獄のような世界で戦う姿を見た。
言葉が出なかった、
全員が、喋る事も忘れて、画面に見入っていた、
それ程、熾烈で過酷な戦いが、画面の中で繰り広げられていた、
数百の魔牛人が、何も無い、空中を高速で駆け上がりながら、手に持つ大剣を、大槍を、大斧を振りかざして、高校生に襲い掛かっていた!
先頭のアンリは、凄まじい、技の連続で、魔牛人の豪速の大剣を掻い潜り、その瞳は、薄く紫光に輝き、その紫の髪は、光りながら、靡く、そして彼女の持つ、双刀、『星狼の双剣』が交叉する瞬間、
バシュ!ザシュ!ドシュ!バシュ!ザシュ!ドシュ!バシュ!ザシュ!ドシュ!バシュ!ザシュ!ドシュ!バシュ!ザシュ!ドシュ!バシュ!ザシュ!ドシュ!バシュ!ザシュ!ドシュ!
魔牛人の首が飛ぶこと、
その数、二十を超えた!!
私は、その光景に、唖然とした、
アンリ、彼女は、強くなっている、其れは、充分、理解していたつもりだ、しかし、これ程、成長しているとは、思ってもいなかった、
元々、彼女の武器は、短刀を両手に持って、速度の有る、連撃を繰り出す、対人戦に特化した技だと、私は思っていた、だから、体格の有る、魔牛人には、不利だと思っていたし、現に、彼女は、3回の挑戦でも、上手く魔牛人に対処出来ず、最後は、彼等の一撃を受けて、吹き飛ばされていた、
しかし、今回のアンリは、全く、今迄のアンリとは、別人のように、より高速に彼等の攻撃を交わし、確実に、彼等の弱い部位、首筋を狙った、
私は、理解した、
今迄のアンリ、彼女は、人型に近い、彼等を攻撃する事に、躊躇いがあった、だが、今の彼女には、なんの躊躇いも無い、
だから、彼女は、強くなった!!
何故、彼女は変わったんだ?
祖父である、エリンが説得したのか?
たぶん違う、エリンは身内だ、説得するなら、もっと、早く、彼女を説得する筈だ、
じゃ、誰が、
・・・
オルか!
そう、言えば、昨日、オルと、アンリは、何か、二人で真剣に話し合っていた、私は、若い二人だから、お互い、いろんな事を話したいんだろうと思って、口を出さなかった、
色恋沙汰も、有るだろうし、
だが、オル、彼奴は、此のメンバーの中では、ジェミと違った意味で頭が良い、彼は、チームの問題点を戦略的な観点から、見る事が出来る、そして、その問題点を克服する提案を立案する事も出来、其れを実現する為の行動力も有る、
彼は、軍師、まさに、天才的な軍師だ。
アンリの活躍で、魔牛人の猛攻に、切れ目が生まれた瞬間、
その後に続くダンにとっては、その切れ目の、僅かな時間に、彼の『星具』、『月下の秘細剣』を、大きく振りかざし、
彼の全身は、深い、エメラルドグリーンに輝き、秘剣の細い刃は、月光の輝きに光、輝いて、
その溜めが、頂点に達した瞬間、
数百の魔牛人が、再び、猛攻を仕掛けようとした瞬間、
ズダァアアアアアアアアアンンンンン!!!
彼は、一気に、『月下の秘細剣』を振り下ろした!!!
その数、ゆうに、五十を超えた、魔牛人の首が、胴が、二つに分かれ、空に舞う、
その光景、正に、空前絶後!!!
更に、切られた魔牛人は、輝く瘴気を発生させながら、魔石となり、その魔石を、ハル君に渡す為に、ジェミ君が、彼の持つ、『星具』、『星の秘蔵庫』に収納する、
其れが、何時もの光景、
ん、?
私は、違和感に気付いた、
今日の、ジェミは、ちょっとおかしい、
前に、出過ぎてないか?
其れも、コーネリア嬢の前に、
ダンが、打ち洩らした、魔牛人は、スグルが言う、中衛のジェミ、リア、エミで対処する、
勿論、後衛のオルが援護射撃をするのだが、パターンとしては、エミが、彼等を止めて、リアが、対処するはずなんだが、
今日は、ジェミも、積極的に前に出て、彼は、スグルから貰った、『星の小刀』を振り回している、
?
何が、あったんだ、ジェミ、
オルの指示か、
違うな、
彼は、そんな根拠の無い、指示は、出さない、
では、ジェミの単独行動なのか?
・・・
まさか、ジェミが、リアに、良い処を見せようとしている、単独行動なのか?
私は、嫌な予感がした、
此のての行動は、大人の部隊にも良くある、だから、男女の混成部隊は注意が必要で、隊員の、好きな人に格好良く見せたい、その、慢心が、時に、部隊を危機に落とし入れる、
まさか、ジェミが、そんな、下らない理由で、単独行動しているのか?
私は、たぶん相当、厳しい表情をしたのだろう、
隣にいた、ドリス嬢が急いで、エリンの後ろに逃げた、
ふぅ、
不安を懐きながら
私は、何時までも、子供達の苛烈な戦いを映す、エリンの『写しの鏡』を、
見続けていた。