其々の決意
「リィデリィア、お前が、東に行ったからといって、世界が、どう、変わると言うのだ、」
「一人の人が犠牲になったからと言って、世界は救えないんだ、リィディ、お前は、巫女である前に、私の娘なんだ、」
「・・・御父様、」
魔導暦2035年6月1日の闇曜日、その日、私は、『星皇教会』の教皇、ベルドリ・マヒナーと、『星母の導き』の宗主、ハレセリア・オコナー、そして、『星導会』会主オレリヒ・スターベル、と共に、父である公王のいる、元老枢密院を訪れた。
私は、父である、公王、ダブレスト・ウェルドに、『星の巫女姫』である私が、東のバルセリア街に行き、『約束された子』と合流して、世界を救う、そう告げた。
父は、公王である立場を忘れ、私の父として、私の無茶な宣言に激怒し、父は、私を『星の巫女姫』とは見る事は出来ず、大切な末娘、リィデリィア・ウェルドとして、私に、危険な事をしないでくれ、そう哀願して来た。
私は、父の深い愛を理解している、生まれつき、体の弱い私に、父も、母もその沢山の愛を注いで来てくれた事を、私は知っている、私は、その沢山の愛で、今、『星の巫女姫』として、お父様の前に立っている事を充分、分かっている。
ああ、御父様、
私の頬に涙が伝う、
私は、生まれて初めて、父に逆らう、
こんなにも、私の事を、愛し、心配してくれている、父に、私は、初めて、父に逆らう、
私は、ゆっくりと、左手の長手袋を外した。
ザワザワザワザワザワ、
その紫色に爛れた左手を見た、元老の方々、枢密の方々は唖然とし、父は椅子より立ち上がって、
「リディア!その手は、一体!!」
その時、『星皇教会』の教皇、ベルドリ・マヒナーと、『星母の導き』の宗主、ハレセリア・オコナー、そして、『星導会』会主オレリヒ・スターベルは、前に出て、公王に跪き、代表で、『星母の導き』の宗主、ハレセリア・オコナーが口を開いた、
「敬愛なる、公主、ダブレスト・ウェルド閣下、『星の巫女姫』様は、星を、世界をその身に背負われて下りまする、世界が病めば、姫様も病み、世界が失われれば、姫様も失われます、それが、『星の巫女姫』の定、」
その言葉に、父は愕然とし、怒りに震えながら、
「ハレセリア!お前は、何、馬鹿な事を言ってる!!リディアが世界、世界だと、リディアは、高校生の子供だぞ、お前達は、自分達の都合で、病んでる子供を担ぎ上げるのか!!!」
ガヤガヤガヤガヤガヤ!!
周りの方々も口々に、不快感を口に出し、私は、彼等に、世界の真実を見せる決意して、両手を胸に当て、『星』に祈りを捧げた、
彼等に、真実を見せて上げて下さい、と、
その瞬間、彼等は、私を通して、星の真実を、
世界の真実を見た。
その世界に生きている、彼等は、直ぐに、その美しい世界が、真実である事を知り、そして、その世界が病んでる事も理解した、
「此れは、『心』、・・・違う、此れは、『星の声』、分かる、だが・・・」
父は、苦悩の表情を隠す為に、両手で顔を覆い隠し、
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、
元老の方々、枢密の方々が、私に跪き、頭を垂れた。
暫くして、父も、覚悟を決めたのか、
「オスマン防魔統合総大将、君に聞きたい、」
厳つい、身体が、がっちりとした、壮年で白髪の防魔省最高責任者、
オスマン・ハウゼン
が、立ち上がった。
「はっ、閣下、何でしょう、」
御父様は、ハウゼン様の目を見ながら、
「オスマン、君達、防魔省なら、『大魔虫』の驚異からリディアを守りながら、東のバルセリアまで、連れて行く事が出来るか、勿論、目的が終わったら、此方に連れ戻して欲しい、」
御父様の発言を期に、元老、枢密の方々が立ち上がって、其々、如何に安全に、私をバルセリアに連れて行くかの、議論が始まり、
オスマン様も、お付の参謀官の方と暫く打ち合わせした後、
「閣下、残念ですが、バルセリアは、早くて2日、遅くて、3日後には、『大魔虫』に襲われます、となると2日間でリディア殿下を連れてバルセリアを往復出来る、高速巡洋艦が必要ですが、現在、高速巡洋艦は、全て、東部撤退作戦で出払っております、」
オスマン様は、其処で、言葉を止めた、御父様は、気を利かせて、言葉を繋いだ、
「つまり、オスマン、今の防魔省では無理って事だな、では、魔導省、デレスト魔導省統轄長、君達ならどうだ、」
痩せた、背の高い、目の厳しい方が、御父様を見ながら、
「閣下、残念ながら、我々には、高速艦が有りません、また、殿下を護衛する上級魔導士も、東部撤退作戦に従事していますし、」
デレスト・バイヤーマン
魔導省の最高責任者、もっとも駆引きに長けた商売人、今の発言も駆引き、次の発言を促す為の、
父は、私を見ながら、
「『星の巫女姫』、残念だが、我々は貴方をバルセリアにお連れする手段が無い、」
父は、公職として私に敬意を払い、私を娘の名では無く、公職の役名で呼んだ、
私は、父に笑顔を返した後、星の執政官であるお姉様を見た、
お姉様は、私を見返した後、諦めたのか、
御父様の前に立ち、
「閣下、謹んで報告させて頂きます、3日前、我ら『星の巫女姫』様より相談が有り、バルセリア訪問に対しては『飛翔騎士団』、ルーフェンス団長が対応しています。」
御父様は、驚き、
「ルースがか、・・・そうか、お前達、私に話す前に、既に、」
姉は、娘の顔で、
「済みません、御父様、リィディの意思が固く、」
父は、目頭を抑えながら、
「謝る事は無い、マーシ、私も、リィディの頑固さは、今、知った、流石、母さんの娘達だ、・・・で、ルース、どうする気だ、」
白髪の髪を、オールバックにして、その冷たい赤い瞳、魔導省、実働部隊、『飛翔騎士団』、団長の、
ルーフェンス・ガイアード様、
ルーフェンス様は、お姉様の横に並び、御父様に、進言した、
「 閣下、マーシ殿下より、相談を受け、『星翔部隊』、ジュピーリーナ・グラシウスを召還しました。」
召還、と言う言葉に、父は椅子より立ち上がり、ルース様に聞き返し、
「ジュピリーナ副将をか、副将は、今、公都にいるのか?」
ルース様は、首を振りながら、
「いえ、彼女は、今朝、バルセリアを立ち、今、此方に向かっています、」
ガヤガヤガヤガヤガヤ、
場に、呆れた声が上がり、父も呆れて、
「ルース、それじゃ、幾ら何でも、無理だろ!」
その時、
バーーーーーーンンン!!!
公国最高審議室の荘厳で、重厚な入口の両開きの扉が、乱暴に開かれ、扉は勢い余って扉止めに当たって、大きな音を立てた。
「待たせたな、殿下!さぁ、バルセリアに、大将に、会いに行こうか!」
其処に立っていた方は、
身長は百八十前後、女性では背が高く、赤茶の長い髪を後ろで結んでポニーテールにした、瞳の色は緑、そしてグラマーでスタイル抜群の方、
ルーナ姉様が、何時も、私に語ってくれていた方、姉様がもっとも信頼している二人の方の一人、
魔導省の、姉様の部隊、
『星翔部隊』の副将、
ジュピーリーナ・グラシウス様
会場は、唖然とした雰囲気に包まれ、ルース様は、一言、
「早かったな、副将、」
御父様は、更に、呆れた声で、
「ルース!・・・副将は、・・・前から、公都に居たんじゃないのか?」
ジュピリーナ様、ルーナ姉様は、リナ様とお呼びしている、そのリナ様は、御父様に対して、何、言ってんだって顔で、
「閣下、失礼ですが、俺は、団長が直ぐ来いって言うから、朝の5時に、バルセリアを発って、此処に、来たんですけど、」
防魔省の、オスマン様が驚いて、
「5時、馬鹿な、今は、10時、バルセリアから公都迄、5時間で来たって事か!!」
リナ様は、頭を掻きながら、
「まぁ、そう言う事に、なるのかな、結構、飛ばしたから、団長が急げって言うし、」
オスマン様は、眉間に青筋を立てて、リナ様に掴み掛かる勢いで、
「魔、魔導省は、一体、何を作ったんだ!超速戦艦を開発したのか!!」
リナ様を怒鳴り、リナ様は、困った顔して、
「戦艦んて、あんた、何、騒いでんだ、・・・なぁ、団長、あの事言って良いのか、」
ルース様は、この状況を無視し、慌てて、魔導省のデレスト様が、割って入って、
「ジュピリーナ副将、説明は、後で私が、閣下と皆様にする、貴女は、リィデリィア殿下を連れてバルセリアに向かってくれ、」
リナ様は、私に笑顔を向けて、
「そう言うこった、さぁ、リディア殿下、行こう、バルセリアへ、其処で、大将が絶対、待ってる筈だ!」
リナ様は、私の右手を掴んで、公国最高審議室から、出ようとした時、御父様が、リナ様に、待ってくれと言い、その後、
「ジュピリーナ副将、君は、ルーナが生きていると言う事を知っているのか、其れは、君の、星の御告なのか!」
リナ様に、ルーナ姉様の安否を聞き、リナ様は、笑いながら、
「そうだ、俺の守護星が言ってる、何せ、俺の星は、大将が大好きなんだ、」
エッ、ナント!オィ、エッ!!
リナ様の発言に、会場は、驚きと信じられないと言う声のざわつきが起こり、
特に、ルーナ姉様と仲の良くない三大宗派の長の方々の驚きは、大きく、
私も、マーシ姉様も、星を信じず、魔導科学を信じる、とても合理的なルーナ姉様が、星に好かれていると、知って、ちょっとビックリし、
けど、私は、あの、皆に好かれているルーナ姉様なら、やっぱり、星々にも好かれるんだと、勝手に納得して、
でも、リナ様の思いがけない発言に狼狽した御父様は、ルーナ姉様が星に好かれている事を、やっぱり信じる事が出来ないようで、もう一度、リナ様に、その事を聞き返しました。
「その、君の星が、ルーナの事を・・・好きと本当に言ってるのか?」
リナ様は、頷きながら、
「あぁ、そうだ、そして、更に俺の星は、大将が、絶対、七人のガキ達を連れて戻って来る、そう、言ってる、」
リナ様は、私を、真直ぐ見つめて、
「だから、『星』は、リディア殿下、貴女を大将の下へ、連れて行けと言ってる、マーシ殿下、ルース団長、貴方達も、知ってんだろ、だから、俺に急げと言ってんじゃねえのか、」
マーシ姉様が、リナ様の前に立ち、
「残念ながら、貴女程には、ハッキリとは聞こえないけど、リディアの『星』を中心に世界が動いている事は、分かリます、『大星の星の守護者』、ジュピリーナ副将、」
『大星の星の守護者』!!!
星界で、もっとも力の有る星!!!
会場は、どよめき、皆様は、口々に、
大星の星、大星の星、大星の星、と言う声が聞こえます、
リナ様は、チラッとルース様を見た後、
「団長から、聞いたのか、俺の星の事、」
マーシ姉様は、首を振りながら、
「いえ、私には、貴女程、星の声は聞こえません、けど、人が背負う『星』を、見る事は出来ます、だから、私は、星詠みの『星務官』、」
リナ様は、納得して、一言、
「そうか、」
姉様は、真剣な表情で、私の肩を抱き抱えながら、
「星界は、大きく動いています、貴女の星も同様に動いています、その全ては、『星』が定めし運命、だからこそ、貴女に頼みます、私の二人の、愛する妹達を、守って下さい、お願いします。」
そう言って、姉様はリナ様に深く頭を下げた、
姉様!!!
会場は、静まり返り、
私は、心の中で、マーシ姉様に謝っていた、
我儘、言って、ごめんなさい、と、
リナ様も、マーシ姉様を、真直ぐ見詰め、
「ああ!殿下! 俺は、俺の命に代えて、二人を守る事を誓う!!」
その瞬間、私は、はっきりと、見た、
リナ様の後ろに、
星界に、
一際、大きく輝く、
『木星』と呼ばれる、
巨星の御姿を、
私は、
見た。