心の皇帝
ゲルト様こそが、世界を救う、御方、私は、何時もそう思っていた、あの死ぬ瞬間も、死んで混沌の世界を亡者として徘徊していた時も、
そして、再び、世界に引き摺り戻された時も、私の、ゲルト様に対する、その忠誠心、そして、その愛は変わらなかった。
『神の皇帝』
ゲルト・サークル様
嗚呼、私は、今も思い出す、あの方との邂逅を、ゲルト様程に、高貴にして、美しく、神々しい方を、私は、かって生きていたあの時まで、出会った事は無かった。
私は、生まれついて、魔導の才に恵まれ、成人したあと、魔導省の上級魔導士になった、
仕事は、違法魔導士の処分、魔導省の上級魔導士は、司法資格が与えられ、自らの判断で、違法魔導士を処分出来る、
その権限は、決して大袈裟な物では無く、相手は、違法魔導士、此方等も命が懸かっている、油断したり、弱かったら、自分が奴らに殺されてしまう、
だからこそ、魔導省の上級魔導士であり、普通の魔導士の実力では生きてはいけない世界、その世界の中で私は生き残ってきた、三十五才の、あの方に出会う迄、多くの、違法魔導士をゴミ、虫けらと思って、殺しながら、魔導省の犬として。
私の名前は、
バルド・レェーゲン
世間は、私の事を、
『暗殺者バルド』と呼んだ、
ゲルト様との、あの出合いは、死しても、なお、私の胸に、永遠に残る記憶、
始まりは、公国の北方、最も、貧しい街ドルベンラーズだった、
北方の大都市ストレリヤの更に北に有る、本当に小さな街だ、北方共和国連合との貿易で、成り立つ街だが、貧富の差が激しく、住民の殆どが、北方共和国連合に出稼ぎに行く、下層労働者だった。
そんな街だから、子供達の8割は、教育を受けれず、働いていた、
その、貧民を救う為に、ゲルト様は私塾を無償で開き、その御気持ちに、感謝した、多くの金持ちが、ゲルト様を支援していた、
最初の切っ掛けは、その金持ちからの、魔導省への通報であり、彼等は、ゲルト様の事を、おかしな魔導術を使う、集り屋がいる、そう通報してきて、だが、彼等は、数日すると、皆、ゲルト様の偉大さに気付き、自分が間違っていた、そう言ってきて、魔導省への通報を取り下げる、そう言う事態が数度か、起きた事だった。
流石に、魔導省も、事態が変である事に気付き、私に調査命令が下った、
本来、調査は文官の仕事だ、だから、文官として、ナルセリアの三等書記官、
フレデリック・サィファ
が担当する事になり、
其が、フレデリック、私と奴の、運命の出合いでもあった。
何故、東の小さな村の文官が、北方の街の調査に任命されたのか、此れは、奴等、文官の権力争いと、縄張り争い、そして派閥と、更に下らない多くの理由、そして誰も、辺境の、出世にも繋がらない、嫌な仕事を引き受け無かったからだ、
そして、その事が、ゲルト様に、大きな悲劇となり、
その悲劇を防げ無かった、私の責任は、重く、死して、尚、私を苦しめていた。
奴とは、ナルセリアで、合流し、二人で、魔導汽車で北方のドルベンラーズ街に向かい、
その道中、話し相手が私しかいないので、退屈しのぎに奴は、自分の恋人とその恋人ととの未来を、私に語った、確か奴の恋人は、ナルセリアの家具職人で、名前を、
ファーレゼ・コーデル
と言った筈だ、
奴は、この仕事で、魔導省から、特別手当が出る、そのお金が必要だから、この仕事を承けたと、
そして、そのお金で、彼女と自分は結婚するんだと、
私に告げた。
結婚、死と何時も向かい合わせの私には、無縁の世界であり、その時の私は奴の事は、所詮は、文官、その程度の見方しか、しなかった。
そんな下らない話をしながら、私と、奴は、出会った時から、三日後、ドルベンラーズ街に到着し、そしてその街で、私達はゲルト様に出会った。
その時の、ゲルト様は、多くの民の前で、演説中で、
その御姿を見た瞬間、その御声を聞いた瞬間、私は、ゲルト様の神々しさに、心を打たれ、その場で、地面に跪き、心の中で、ゲルト様に忠誠を誓っていた、
更に私は、その時、ドルベンラーズ街の全ての民が、ゲルト様に、私と同じ気持ちを抱いている事を知り、私は、確信した、
この方は、『神』だと、
だから、誰もが、ゲルト様を知れば、あの御方を愛し、あの方の崇高さ、偉大さに、平伏す、私は、そう思った。
だが、奴は、違った!
奴、フレデリックは、事も有ろうにゲルト様の事を、肥えた気違い魔豚と言い放った!!
其だけでも、奴は、死に値する、だが、あの時の私は、寛大だった、ゲルト様への暴言を許し、奴に、金を渡し、其で、好きな女と一緒になれ、だから、ゲルト様の事は、魔導省に報告するな、そう言ったのに、
奴は、私の金を受け取らず、子供達の教育に熱心なゲルト様に対して、子供を狂戦士に育てて、国家への反逆を企てている違法魔導士だと、魔導省に報告してしまった。
その報告書により、魔導省は動いた、多くの刺客が、魔導省から送り込まれ、私は、奴等を殺した、勿論、フレデリック、私は奴を、真っ先に殺すつもりだった、
だが、奴は、奴だけは、殺せなかった、
奴は、魔導術は、使い物にならない殆ど、ダメな奴だった、
奴の秘術、『星の力』と言う、訳の分からない『力』により、私の『魔導術』は、全て通じなかった。
ゲルト様は寛大であり、私に、そんな、者は、ほっとけと、一人の力で、何が出来る、あの男が、何をしようと我々には、10万の民の指示が有るんだと、おっしゃられ、私も、納得した、
其が、間違いだった。
其から、五年、ウェルド公国で、ゲルト様を指示する民は、50万、学生兵は、10万になった、
勿論、我らを、『心』の魔導術を使う害虫と呼ぶ、魔導省との戦いは熾烈を極め、我々は、魔導省の英雄、
オーランド・グラスタ
奴を筆頭に、三百人近い魔導省の上級魔導士を殺した。
ゲルト様は、この戦いを、
『第一次魔導大戦』
と呼び、魔導省との戦いで、我らの同士、1万が殺されたが、だが、奴等との戦いに勝利した我々は、裸の王となったウェルド公王を、その座から引き下ろす為に、我ら5万の同士、学生兵と共に、公都バルドリスを包囲した。
この、ウェルド公王と、我らの戦いに、我らを指示した防魔省は動かず、諸外国との戦いばかりに国力を使い、民を無視し続けた、狂王ウェルドとその一族に、我らは、その命を持って、償いをさせるつもりだった。
その夜、ゲルト様は同士に語った、世界は、私によって、統一される、ポワジューレとの『第二次魔導大戦』、その他の国の『第三次、第四次魔導大戦』をへて、その戦いによる多くの同士の解放をへて、世界は一つになると、
ゲルト様は、世界の皇帝になると、
おっしゃられた。
バルドリスを包囲した、5万の学生兵は熱狂し、その夜空に、ゲルト様を称える叫びが、何時までも、木霊したのを、私は忘れない、
私は、感激し、ゲルト様こそが、世界を統べるのに相応しい、そう思いながら、泣いていた。
正しく、『神の皇帝』
その時、奴、フレデリックが、我らの前に、たった一人で現れた、
ゲルト様の前に、たった一人で、
誰も、奴が、現れた事に気付かなかった、この私でさえ、
奴は、言った、
『ゲルト、また、醜く、一人で歩けない程、肥ったんだな、その姿が、お前の末路って、わけだ、』
私は、奴の暴言に、怒り、直ぐに奴を殺そうとしたのだが、ゲルト様は、そんな私を止めて、奴に語り掛けた、
『フレデリック、世界で、お前だけだ、私に、従わないのは、お前は、たった一人で、ウェルド公王を守るのか、あの男に、そんな価値が有るのか、軍艦しか興味の無い男に、私より価値が有るのか、』
ゲルト様は、奴に聞いていた、
『確かに、公王も屑だ、だがなぁ、ゲルト、星がな、星達が、ダメだって言うんだ、世界を救うには、』
『星』?
『星』だと?
そんな、迷信に、この男は、
私は、奴を、はっきりと見た、
奴の体は、引き締まり、瞳は、信念を表すように、光り輝いていた、
私は、本能から、この男は危険だと思った、奴は五年前の、あの痩せた、事務方では無い、
ゲルト様は、フレデリックの事を気に入ったのか、彼を説得しようとしていた、
『なぁ、フレデリック、私なら世界を救える、見ろ、今の私を、50万の民を救った、』
フレデリックは、笑いながら、
『夢でな、だが、将来、ウェルド公家からは、本当に世界を救う方が、生まれる、あんたは、邪魔だと、『星々』が決めた、だから、ゲルト、あんたには消えて貰う、』
ゲルト様は、笑った、
『フレデリック、消えるのは、お前だ、』
そう言って、ゲルト様は、私達に殺せと命じた、
その瞬間、私と5万の学生兵が、奴に襲い掛かり、奴は、
『流れ星』
と言った。
世界は、白光に包まれ、
その瞬間、5万の学生兵と、私と、ゲルト様は、
世界から、消えた。
消える瞬間、
私は、夜空を見た、満天の夜空から、万を越す、『星』が落ちて来るのを、
その時、私は、理解した、
我らの真の敵が、『星』達で有る事を、
フレデリック、
奴が、『星の子供』で有る事を、
我らが、『星の子供』に、
負けた事を、
こうして、私は、世界から消え、世界と世界の狭間でさ迷っていた時、
私は、巨大な力で、再び、世界に呼ばれた、
私は、復活したゲルト様が、私達を世界に呼び戻した、そう思った、
しかし、私達の前に立っている男は、ゲルト様では無かった、ゲルト様よりも、貧弱な男、
私は、失望した、
この男は、何故、私達を呼んだんだ?
彼は、我らを『カチコミ』の為に呼んだと言った、
同じ疑問を持った、『魔獣王スダルガ』は、彼に、聞いた、
『カチコミ』とは、何だと、
彼は、平然と言った、魔導省と戦争する事だと、
魔導省と戦争!!!
我らは、興奮した、
かって、ゲルト様も言った、魔導省と戦争すると、
ゲルト様は、『魔導大戦』と言った、
ゲルト様の予言、
『第二次魔導大戦』が、
始まる!!!
我らは見た、
彼の、その姿の後ろに、薄く、限りなく薄い、ゲルト様の姿を、
彼は、私達を、
『死瘴騎士団』と、呼び、
名前を頂いた、我らは無敵、再び、我らは、魔導省に死を与えられる、
では、私は、誰を殺せば良いんだ、
彼は、『パラドロス』と口にした、
私は、彼に聞いた、
『其ノ、『パラドロス』ヲ、始末スレバ良イノカ?』
彼は、否定し、
彼の、邪魔をする者、
『ジェミオ・バレットス』
その者を、消す事になった、
我らの邪魔をする者、
間違い無い、
奴は、奴等は、
『星の子供』!!!
消さねば為らない、
ゲルト様が、やがて、甦る日、奴等は、また邪魔をする、
二度と、あのような、悲劇を起こさせない為に、
だが、どうやって、奴等、『星の子供』を消すんだ?
その時、私の目に、彼が持つ、『魔の神の剣』が止まった、
あの、剣!!!
あの剣なら、奴等を殺せる!!!
間違い無い!!!
欲しい、あの『魔の剣』が欲しい!
私は、彼に頼んだ、
『分カッタ、デハ、ソノ得物ヲ、貸シテクレ、』
しかし、彼は、私に、その得物を貸す事を嫌がり、その時、私は、仕方無く、魔の神に祈った、
『アノ、得物ヲ、私ニ、貸シテクレ、』
その瞬間、私の手には、
此は!
彼は、はっきりと、『魔の神の剣』を手にしながら、
「ふざけんな、こりゃ、俺んだ、てめえに、やれっかよ!」
と、言ったが、私は、可笑しくなって、彼に聞いた、
『?デハ、此ハ、誰ノ、武器ダ?』
そう言いながら、私は、彼に、右手に持つ、『魔の神の剣』を見せた、
彼等は、驚愕し、大騒ぎとなった、
魔の神は、悪ふざけが好きだ、嫌がる事を、時に、したくなるようだ、神は、『魔の神の剣』を二つに分けて、片方を私に呉れた。
此で、私は、『星の子供』共を、この世界から消す事が出来る、そう思い、
私は、満足して、10人の配下と共に、『星の子供』共が居る、公国の東の街、バルセリアに、剣の力を使い、向かった。
もう、二度と、あのような、悲劇を繰り返さない為に、
私は、そう決意した。