世界の真実
その世界は、暗く、光りは無かった、
『先生』
私は、また、深い闇に包まれ、その世界は、寒く、孤独だった、
『メルティスト、』
私は、今まで、一人、孤独だった、
神話の英雄に憧れ、現実を見ず、逃げて来た、私、
子供達と出会い、彼を知って、
私の世界は、大きく変わった、
私は、知った、
自分が、孤独を嫌いだった事を、
だから、私は、泣いた、
孤独は、嫌だ、一人は嫌だと、
私は、泣き続けた、その時、
『メルティスト先生、』
私は、漸く、私を呼ぶ声に気が付いた、
私は、前を見て、目の前の男性を見た、
彼は、優しかった、
光り輝くその姿は、背は百八十を越えて高く、体は、引き締まった、無駄の無い美しい筋肉、蒼みがかった短い黒髪は清潔感のある緩いパーマに固めていないサラサラとした艶の有る髪、そして無精髭、瞳は濃い群青色、
ああ、私の英雄、私の愛しい人、私は、私は、貴方を、幾年月、御待ちして下りました。
彼は、私の手を優しく握り、
『先生、貴女ヲ待ッテイルノハ、俺ジャ無イ、』
私は、その英雄とは、程遠い口調に、可笑しくて、笑いたくなった。
そうだ、私は、思い出した、私を必要としている、世界が有る事を、
子供達がいる事を、
彼は、笑顔を私に向けて、
『思イ出シタネ、先生、』
私は、彼に言った、
「そうね、私は、戻るべきね、彼等の元に、・・・でも、どうやって、」
彼は、その逞しい腕で、私を抱き上げ、
『大丈夫、貴女ハ、戻レル、』
そして、彼は、ゆっくりと私を、上へ、上へと、押し上げた、
私は、慣性で、ゆっくりと、上に、上へと浮かび上がって行った、
彼の姿は、ゆっくりと小さくなって行く、
私は、彼に、感謝して、彼の名前を呼んだ、
「有難う、コーリン、・・・オーウェル、」
「メル!メル!!メル!!!」
「良かった!良かった!!」
ブライが泣きながら、私にしがみついて来た、
あぁ、ブライ、ブライ、私は、貴方の元に戻って来た、私も、必死にブライにしがみつきながら、泣いた、
私は、彼の元に、皆の元に戻って来た、
戻って、来た、
パタン!
「ブライさん、皮、剥きましたって、ご、御免なシャイ、」
メイド服を着たドーリは、直ぐに宿泊用魔導四輪車の扉を閉めようとして、
「えっ!」
彼女は、ゆっくり、此方を向いて、
「しぇんしぇい!目を覚ましたけろ!」
・・・相変わらずのドーリ、
ブライは、ちょっと困った顔して、
「メル、その、彼女は、今、俺の手伝いをして、くれているんだ、」
!!!
「ブライ!今は、何日!何曜日!!」
「えっ!あぁ、今は、5月17日の光曜日、メル、君は四日間意識を、喪ってた、」
そうだ、私は、スグルを刺したあの大剣を分析した時、私のキャパを越えた魔導の負荷に耐えられ無かった、
私は、ブライを見て、言った、
「スグルは、スグルは、どうなったの、」
ブライは、首を振りながら、
「彼は、スグルは、あの、奴の剣に刺された時、消えた、」
私は、愕然とした、
「其で、上級魔導士のサーディさん、とエリンさんが、奴を殺そうとしたんだけど、奴、強くて、逆に、殺されそうになって、其で、ジェミの機転で、『星の遺跡・竹林』に逃げて来たんだ、」
ブライは、一気に、私に、経過を説明した、
「『星の遺跡・竹林』!」
ブライは、更に、困った顔で、
「その、メル、実は、今、俺達、『星の遺跡・山脈』にいるんだ、」
ブライは、メルを真っ直ぐ見て、
「あのな、君の教え子達な、その、『星の遺跡』を攻略する事を決めたんだ、其で、あの子達、昨日、竹林を攻略した、」
子供達が、『星の遺跡』の攻略を開始した、
運命が、動き出した、
「ブライ!お願い、皆を集めて!話さなければいけない事が有るの!!」
ブライは、私を優しく、抱き締めながら、
「メル、分かった、だけど、メル、君は、三日間何も食べて無いから、動けない筈、兎に角、まず、食うことが先だ、」
その時、私のお腹が鳴った、
クゥウウウウウウウウ、
・・・
取り敢えず、何か食べよう、
ブライは、本当に、料理の天才だ、彼の、柔らかく煮込んだ、パンの木実入りのスープを一口、飲むだけで、私は、動く事が出来るような気がする、
私が、その事を彼に言うと、彼は、照れて、スグルが育てた、パンの木実と、ソースの木実のお陰だよ、と、私に言う、
スグル、
そうだ、私は、皆に、スグルの真実を、世界の真実を話さなければならない、
其が、スグルより託された、私の出来る事、
食事を終えた、私は、ブライに支えられながら、外に出た、
其処は、雄大な山脈、時刻は夕方、目の前にはゴールの高い山が有り、手前には、黄金のポール、
此処が、『星の遺跡・山脈』
「其で、終わりか!!!」
「まだ、行けます!!!」
思いっきり、サーディに斬りかかるハルに、サーディは、ハルの横っ腹にケリを入れていた、
見ると、エリンはダンに剣を教えているように見える、アンリとダンはお互い、仮想の敵と言う、感じで、模擬戦をしていた、
ジェミ、リアと話をしていたルーナ殿下が、私に気付いて、此方に来た。
「メルティスト先生、ドーリから、先生の意識が戻ったとは、聞いている、もう、歩いて大丈夫なのか?」
私は、ルーナ殿下に聞いた、
「殿下、これは、」
ルーナ殿下は、ハル、ダン、オル君達を見て、
「あぁ、此れは、彼等が強くなりたい、そう言ったので、我々の出来る事、戦いの仕方を教えている、反対か、先生、」
彼等が強くなりたいと、
私は、ルーナ殿下に答えた、
「いいえ、其と、話があります、殿下、」
殿下は、私の顔を見て、
「私だけか?其とも、皆を含めて?」
「皆も、含めて、」
殿下は、もう一度、ハル君を見ながら、
「其では、夕食に皆が集まった時は、どうだ、其なら、彼等はシャワーを浴びる事も出来る、」
私は、頷きながら、
「其で、構いません、殿下、」
そう、答えた。
ブライは、夕食に御馳走を沢山作った、材料は、ジェミ君の収納庫に全員で三ヶ月は生きて行けるくらい有るそうだ、
彼が、言うには、今日は『星の遺跡・竹林』攻略のお祝いなんだとか、本当は昨日したかったんだけど、攻略は夜、遅くまで掛かり、子供達も疲弊して、逸れどころじゃ無かったから、今日、する事にした、と、私に教えてくれた、
彼は、笑いながら、俺が、子供達に出来る事は、そんな事だけだからと、私に、言った。
サラダ、スープ、肉料理、魚料理、そしてデザートと、外に設置した、大きなアウトドアテーブルに、配膳され、子供達は、魚料理にスグルさんの事を思い出して、少し、暗くなった、
其処は、ローシィが、フォローし、彼女は、皆がそんな、悲しい顔を、スグルは喜ばないと、言って、皆を元気付け、
そして、ブライの料理も、確かに、彼等の元気付けになったような気がして、エリンさんも一緒に、皆は、明るく、元気に夕食を食べた。
エリンさんと、ドーリが、テーブルの上の食器を片付けている間に、ルーナ殿下は、私を見て、
「そろそろ、貴女が、私達に、言わなければならない、話を、教えてくれないだろうか、メルティスト先生、」
私は、話す決意を、確認する為に、一旦、目を閉じ、そして、再び、瞳を開いた時、
語り、始めた。
「まず始めに、皆に、聞きたいのは、スグルと、あのコーネルと呼ばれた男が、最後に会った時、コーネルが剣を取り出す前に、何を見たか、教えて欲しいの、」
まず、ダンが、一番始めに答えたのは、
「大きな山のような物が見えました、先生、」
次に、ハルが、
「その山に、6本の剣のような物が刺さってた、」
オルが、
「その山には、靄が懸かっているように見えた、」
リアが、
「その靄は、動いていた、」
アンリが、
「動いている、靄は虫のように見えた、」
エミが、
「巨大な物の足元には、大きな亀裂があった、」
ジェミが、
「その亀裂から、その靄が無限に涌き出ていた、」
ドーリは、
「私は、全体がぼやけて、良く分からなかった、」
ローシィは、
「剣と亀裂は、見えたような気がしたけど、」
エリンは、
「私も、良く分かりませんでした、」
ブライは、
「俺は、魔導四輪車にいたから、何にも見てないなぁ、」
サーディは、何も答えず、
スグルが助けた少女、名前を、
レイティシア・バリデュワ
彼女も、何も見てないと、言い、
ルーナが、メルティストに、この質疑について、尋ねた、
「先生、皆は、あの時、山のような物に、6本の剣のような物が刺さり、その足元には亀裂があって、その亀裂の中からは、虫のような物が無限に涌き出ている、その虫は、山のような物に、群がっていた、そう見えたようだが、」
メルティストは、ルーナを直視しながら、彼女に聞いた、
「殿下も、そう見えたんですか、」
ルーナは、頷きながら、メルティストに答えた、
「ああ、私も、・・・そう見えた、」
メルティストは、全ての答えを、自分なりに、解釈する為に、一旦、瞳を閉じ、そして再び瞳を開いた時、彼女は、世界の真実を話始めた、
「まず、前提は、この言葉を理解して下さい、『目に見える世界が、世界の真実では無い、』」
ローシィが、頷いて、
「其は、私達、記者なら皆、知ってる言葉よ、二百年前の、盲目の魔導士にして、『心眼』の持ち主、アラン・ケインの言葉ね、」
ルーナは、メルティストに、聞いた、
「先生は、『心眼』を持っているのか、」
彼女は、否定し、
「残念ながら、私の特技は、『鑑定』です、違いは『心眼』は、『心』、『光』、『磁』の合成魔導術、ですが、『鑑定』は『磁』と『光』の合成魔導術なので、真偽は、『心眼』より劣ります、」
「つまり、先生が見た物は、嘘の可能性も有ると、」
「そうです、しかし、皆が見た物よりは、真実です、其を理解して下さい、」
ローシィは、堪らず、
「で、先生!貴女は、あの世界で、何を見たの、早く、教えて!!」
メルティストは、彼女は、ゆっくりと、自分に言い聞かせるように話を始めた、
「あの山のような物は、私の『鑑定』では、『真理と法則』、黒い靄、虫のような物は、『混沌と無秩序』、其と山のような物には、残9000、と言う数字も表示されていて、その数字は、一時間事に1減っていた、」
サーディは、少し怒り気味に、
「先生、其が、何だと言うんだ!」
ローシィは、手を上げて、
「ちょっと待って!先生、其って、まさか、アラン・ケインの『神託論』よね、」
メルティストは、頷いた、
ルーナは、呆れて、
「済まない、ローシィ、我々は軍人で、神学には、詳しくないんだ、頼むから、分かるように解説してくれ、」
「殿下、アラン・ケインは、其の『心眼』で、唯一、神を見た男と言われていて、だから、彼の『心眼』は、別名、『神眼』と呼ばれた、」
ローシィは、此処で、言葉を止め、
「彼が見た神の事を書いた著書が、『神託論』、其の中で、彼は、神の事を、『真理と法則』と呼んだ、」
ダンが、思わず、
「じゃ、あの山のような物は、私達の『魔の神』って事ですか!」
メルティストは、頷いた後、
「そう、そして、『神託論』には、世界を『神のいない原初の世界』に戻そうとする存在が記載されていて、その表記は、『混沌と無秩序』、彼は、其を『混沌虫』と呼んだ、」
リアが驚き、
「あの靄が神を殺す物、『混沌虫』!」
ローシィは、手を震わせながら、
「アラン・ケインの説が正しいなら、今、私達の世界の『魔の神』は、『混沌虫』により殺され掛けていて、その残り時間が、先生の見た『残』の数字なら・・・残り時間は・・・1年、」
ルーナは、愕然としながら、呟いた、
「我々の世界は、・・・後、・・・1年で、・・・神が死ぬ、」
ダァンンンン、
サーディは、右手で机を叩きながら、
「じゃあ!あの剣は、神に刺さっている剣は、何なんだ!あれこそが、神を殺そうとした剣じゃないのか!」
メルティストが、答えた、
「あの剣の材料は、『星』」
サーディは、唖然として、
「あの剣が、『星』、『星』だと、」
ローシィが言う、
「アラン・ケインは、こうも書いている、『神に流れ星が落ちると、神に、喜び、静が現れる』と、もし、あの剣が、神を落ち着かせる『星』だったら、あの剣が刺さっているからこそ、『魔の神』は、『混沌虫』に攻撃されても、騒がない、そう言う事ね、メル、」
ハルが、
「先生、何故、『星』が、剣の形に?」
「たぶん、制作者のせいね、」
「制作者?」
メルティストは、皆を真っ直ぐに見詰めて、
「製作日は、魔導暦0年、制作者、スグル・オオエ、」
全員が、驚愕して、立ち上がり、
発した言葉は、
「スグル・・・さん!」