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愛する星に、願いを込めて  作者: Hs氏
星の真実編
115/136

世界の終わり

 5月16日の雷曜日ラィョルヤ、ゴードバーレン大自然渓谷の東にある、アースダコタムーダ


 その日の、朝、6時、魔導省東部地区アースダコタ派出所に一人の魔導官が慌ただしく出所した、


 彼は、10年以上、この地に勤務していた、事務方の中級魔導士、



 エルベスト・リンガーデル



 彼は、55歳の定年になったら、ゴードバーレン大自然渓谷の大自然で余生を過ごす事を夢みて、10年前に、ふもとのアースダコタに勤務を志願した、


 この10年は、彼にとっては、幸せな10年だった、小さな村だから、特に問題も無く、最近では、何か、上の方で、問題があったらしいと、噂が立ったが、下っ端の彼には、何も知らされず、知らされないから、噂にも興味は無かった。


 彼は、後6ヶ月を切った、定年のその日にしか、興味が無かったし、もう、気分は、魔導省から、とっくに離れていた、5月16日の、その日迄は、


 その日、彼は魔導官としての勘が、騒ぎ、4時に目を覚ました。


 彼は、冷や汗と脂汗の混じった汗を拭いながら、寝ているベッドから飛び起き、直ぐに窓に駆け寄り、一気にカーテンを引いた、


 その窓から見える景色は、彼が、大好きだった、ゴードバーレンの大自然の景色、其が、その日の景色は異様、その異様さに、彼は愕然とした、


 大自然は、黒い綿のような物におおわれ、渓谷が、自然が、徐々に削られて行く、そのような気がし、



 彼は、魔導通信で、公都の本庁に、この異常事態を連絡し、更に、村全体に、非常事態宣言、及び避難勧告を発令した後、自ら、異常を調べる為に、魔導二輪車(モーグサルク)に乗り、ゴードバーレンに向かった、


 時刻は、10時、


 そして、彼の最後の魔導通信は、



『虫だ、巨大な虫が、大地を、山を浸食している、わぁあああああ!』



 それ以降、彼の生死は不明、彼の姿を見た者はいない。


挿絵(By みてみん)


 その日の、16時、魔導官エルベストの警告を信じた236名を除いた、アースダコタの村民、648名が、村と共に、世界から消えた。



 公都バルドリス、魔導省にアースダコタの魔導官からの一報が入ったのは、同日、7時、


 もとより、『魔人大戦』を想定していた、魔導省は、魔導官の報告に、第一級非常事態を発令し、


 直ぐに、防魔省に事態の情報収集の協力を依頼した、更に、ナルセリアに在住している上級魔導士に、アースダコタの調査を依頼する事を決定した。



 オース・マルセイヤ



 上級魔導士として、60歳迄、魔導省に勤務、60以降は引退し、非常勤魔導士として、魔導省に所属はしているが、一応、退職したので故郷のナルセリアに戻り、農場の経営者となった。


 其から、15年、今年、75歳の彼は、初めて、今日は、おかしいと言う事に気付いた、


 朝、5時に起きた彼は、まず、鳥の鳴き声がしない事に気付き、外に出て、更に、驚愕したのは、虫の鳴き声が聞こえない事だった、



 最初は、彼は、自分の錯覚、そう思っていた、自分も、もう年だ、もしかして、耳が悪くなったのかも知れない、そう思っていた、


 空を見上げても、快晴、風も普通に在る、嵐の気配も無い、しかし、自分と同じ、牛舎の野牛コルゥモウが落ち着かず、騒いでいる、


 彼の、不安は時間が進むに連れて、増し、同日、8時、魔導省より、魔導通信が入った、


「私に、アースダコタに行けと、」


『そうだ、其処に、エレベスト魔導官がいる、彼は、中級魔導士、君なら、彼の助けになる、大至急、向かってくれ、経費は幾ら掛かっても構わない、一級非常事態なんだ、』


 彼に、依頼をして来た、本省の事務官は慌てて、取り乱していて、会話が成り立たなかった、其が、余計、事態の深刻さを彼に訴えていた、


 オースは、3歳、年下の妻に、魔導汽車バーガンドーレでベルトリア大都市ガルマーダに避難するように言い、


 自分は、15年ぶりに、魔導省の白いコートを羽織り、アースダコタに向かった、


 15年前の自分なら、飛びながら、アースダコタに向かう事も出来たが、今の自分には、無理だ、彼は、マーダに一軒有る、貸魔導車屋(オ・モーグ・ル)で、1時間7千RG(リージェン)魔導四輪車(モーグコルク)を借りて、アースダコタに向かった。


 西の街道(ニード・ローダ)を走る事、5時間、時刻は15時、


 彼は、アースダコタの避難民と遭遇し、事情を聞いた、そして魔導官エレベストの安否が不明であり、彼等は、自分達自身の直感とエレベストの勧告を信じて避難して来た人達だった、


 そして、まだ、ムーダには七百人近い住民がいる事を、オースは知った。


 彼は、職務に忠実だった、エレベストの生死不明が判明した段階で、任務を放棄する事も可能ではあった、だが、彼は、残りのアースダコタの住民を救う為に、


 魔導四輪車(モーグコルク)を、更に、西へと走らせた。


 そして、2時間後の17時、彼は、世界の終わりを目撃した、


 西の地平線を埋め尽くす、黒い影、彼にも、分かった、その黒い影が、この世界の物で無い事を、


 彼は、アースダコタの住民を救う事は出来なかった、彼は、目を閉じて、魔導四輪車(モーグコルク)のバンドルを握り締めた、そして思う、自分の人生は、決して英雄では無かった、


 だから、自分は、魔導省勤務で、この年迄、生き残ってきた、



 幸せな、15年間だった、



 もう、思い残す事は無い、



 彼は、妻への別れの言葉を口にし、



 更に、西へと向かった。



 世界の終わりに、立ち向かう為に、



 同日、20時、更に、五つのムーダと、4,793の人々が世界から、



 消えた。



 同日、21時、オースは、黒いもやの正体が、巨大な虫の形をしている存在で有る事を確認した、


 その形は、様々(さまざま)、百足、蜘蛛、油虫、等、


 彼は、上空に、防魔省の高速機動偵察艦が此方に向かっている事に気が付いていた、だからこそ、オースは、自分の仕事が何で有るか、自覚していた、


 あの、虫共の弱点を見つけ、後輩達に知らせる事、その情報は、きっと、あの防魔省の高速機動偵察艦が持ち帰ってくれる、そう信じて、


 彼は、右手に巨大な『えん』の塊を作り、虫共の中に飛び込んだ、



 同日、22時、世界から、一人の上級魔導士が消えた。




 5月16日の7時に、公都バルドリスの魔導省本庁に、アースダコタの魔導官、エレベストから、非常事態の報が入り、同、10時、魔導省上級事務官は、その真偽の確認の為の協力を、防魔省に依頼した、



 防魔省特務調査室が、その依頼を、精査承認したのが、12時、2時間での対応は、彼等にとっては異例の早さだった、


 既に、防魔省も、『魔人大戦』を想定した準備を進めていたから、出来た事であり、関係省庁は、臨戦体制に入った、


 しかし、地方は、末端は違った、此より先の指示は、普通に遅くなり、防魔省東部方面艦隊司令部に届いたのは、14時、


 司令部より、ベルトリア郊外に有る、東部情報偵察収集第1部隊に届いたのが、16時、その時点で動かせる偵察艦は不在の為、非番部隊の召集となった。



 この原因は、ウェルド公国、公主 ダブレスト・ウェルドが発した、情報統制にあった。


 下部組織、末端には、『魔人』の存在も知らされて無い為、彼等には危機感が無かった、



 東部情報偵察収集第1部隊、


 偵察艦ブレゲートル艦長、



 オルハ・ドルネードル少尉、



 彼も、特に危機感は無かった、


 彼は、非番で愛する妻と娘達の夕食会をキャンセルした事に、腹立ち、そしてその原因が、魔導省からの緊急調査依頼だと言う理由で、余計に腹立たしかった。


 オルハも、多くの防魔省の軍人と同じく、魔導省が嫌いだった、


 彼等は、魔導省は、唯の、商人の集団としか、思っていなかった、彼等は自分達の軍艦を、高い金で諸外国に売る、その軍艦が、海賊や反政府組織に渡り自分達が忙しくなっている、


 その反面、魔導省は巨額の利益を稼ぎ、高給で沢山の上級魔導士を雇っている現実が気に入らなかった。


 防魔省の陸戦隊の魔導士の殆どは中級魔導士だ、待遇も悪い、自分達の給料も魔導省の同階級、同年齢の奴等より、遥かに安い、


 だから、彼は、魔導省が嫌いだった。



 そんな気持ちを、隊員全員が持っていたから、出発は遅れ、


 偵察艦ブレゲートルが、魔導省東部方面艦隊ベルトリア基地から飛び立ったのは、同日の20時、


 そして彼等が、魔導省より依頼されたアースダコタムーダの現場付近に到着した時刻は、21時を過ぎていて、


 其処で、彼等は、世界の終わりを見るのであった。



 ゴードバーレン大自然渓谷からアースダコタムーダ、更に東、東へと広がって行く、黒い絨毯、


 その黒い絨毯は、山を、河を、緑を、村を、街を飲み尽くそうとしていた、


 黒い絨毯の正体は、巨大な『虫』、蜘蛛、百足、油虫、蟷螂、有りとあらゆる『虫』の集団であった。



 オルハは、直ぐに、この光景を魔導通信を使い、東部方面艦隊司令部に送るように部下に命令し、更に、この異常の謎を深く探るように、調査員に指示した、


 その時、部下の、調査員ホードネル三佐が、叫んだ、


「艦長!右365、左443に穴発見!」


「穴だと!拡大!!魔導機拡大投影!!」


 オルハは、矢継ぎ早に指示し、


 訓練された隊員達は、直ぐに行動に移した、


 彼等は、その壮絶な光景に愕然とした。


 その穴の中心に入るのは、一人の、魔導省の老齢な上級魔導士、その白いコートは血で真っ赤に染まり、片腕は無く、その姿は、満身創痍、


 彼は、『りき』を使い、一匹の『虫』を圧縮破壊し、破壊した『虫』は、黒い粉になり、空に舞い上がった、


 彼は、『えん』を使い、二匹の『虫』を延焼破壊し、その破壊された二匹の『虫』は、黒い粉になり、空に舞い上がった、


 彼は、『ライ』を使い、広範囲に、雷撃を落とし、『虫』のその動きを止め、雷撃を落とす事、数度、一匹の『虫』が破壊され、黒い粉になり、空に舞い上がった。


 彼は、此方を見た、その瞳は、訴えていた、良く見ておけと、見て伝えろと、


 ホードネルが叫ぶ、


「オルハ艦長!あれは、」


「ホードネル、記録しろ、記録して、司令部に、送れ、其が、・・・彼の、望みだ、」


 彼は、その後、『磁』、『錬』、『光』、『闇』を試し、


 同日、21時、彼は、世界から、



 消えた、



 高速機動偵察艦は、その目的により、防御と、速度に特化した特殊魔導艦、武器は積まない、だから、あの状況から、彼を救う事は出来なかった、



 彼も、其を望んではいなかった、



 オルハの心の中には、最早、魔導省、云々は無かった、彼等は、偉大な魔導士の最後に、何時までも、敬礼し続けていた。



 同日、同時刻、


 更に、6つのムーダと、1つのマーダ、そして17,693の人々が世界から消えた。



 同日、22時、


 この情報は、東部方面艦隊司令部に届き、



 23時、


 防魔省統合総司令部、魔導省統括総合本部に送られ、


 世界は、その終わりを知った。



 同日、24時、



 ウェルド公国、公主、ダブレスト・ウェルドは、全公民に向けて、第一級非常事態宣言、及び、第一級戒厳令を宣言した。


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