終わりの始まり
俺達は、ハルの星の導きにより、『喪なわれし地平線』の、動かぬ星の下、全ての星の中心の下に、行く事になった、
其処に存在したのは、世界を終わらせる、何万もの『魔神の玩具』じゃ無く、
二人の少女と、老人、そして、コレステリラの村長の、
コーネル・オリゴン
の四人だった。
コーネルは、『心』を使う魔導士であり、反社会的組織に所属していた人物で、魔導省の排除指定者でもあり、
また、魔導省に所属する二人の上級魔導士が行方不明になった事件と関わりの有る人物でもあった、
魔導省の上級魔導士、サーンディ・アーランドは、重要な容疑者である彼を、殺してでも拘束しようとしていた、
ルーナは、此の状況でのリスクを考慮し、彼女は、彼の無抵抗での投降を期待し、俺に彼を説得するように依頼した、それは、俺に彼を拘束しろと言う事と同じ意味でもあった。
その時の俺は、嫌な気持ちが、心の奥底から込み上げてきていた、
正直、俺は、此の『星の中心の地』に、『魔神の玩具』が存在していなくて、ほっとしていた、何故なら、
彼等の大部分は、知性が無い、化物かも知れない、しかし、ケティのように、知性が有る者もいる、彼等も生きている、
そんな奴等と、スグルの世界で生きてきた、俺は、殺し合いをする自信が無い、下手すりゃ虐殺だ、たぶん、俺の心は持たない、
そう、思っていた、
だから、何も無くて、
本当に、良かった、
そう、思っていた。
だが、今度は、コーネルを捕まえろ、そう、ルーナからお願いされた、
確かに、俺には、彼を、『星の力』で拘束する事は出来る、しかし、彼を拘束して、この国の警察、魔導省に引き渡したら、どうなる、
彼等は、彼を排除すると言ってた、つまり、殺す、と言う事だ、
この国には、魔導士に対しての裁判制度は無い、魔導省が法律だと、俺は、前に司書のジェラさんから聞いていた、其ほど、違法魔導士に対しては厳しいらしい、
奴は、違法魔導士、で排除対象、
其なのに、あの老人とデリカって言う娘は、彼を慕っている気がする、
気が滅入る、
俺は、もしかして、無実の人間を、死刑にされると分かって、その組織に引き渡そうとしているのか?
奴が、もう少し、殺人鬼のような奴だったら、納得出来るんだが、
奴は、ただ、下品な、愛想の良い、チンピラだ、とても、死刑になるような奴には見えない、
だから、悩む。
俺が、魔導四輪車から出ると、ハルが心配そうに、俺の処に来て、
「師匠、あのぅ、大丈夫ですか、」
俺が厳しい顔をしているので、心配しているのかも、知れない、
ローシィも、心配そうに俺を見てる、記者の勘か、俺は、安心させる為に、ハルに、
「あぁ、大丈夫だ、まぁ、此処に来ても、何も無かったし、兎に角、夜も遅い、直ぐに帰ろう、な、ハル、」
そうだ、まずは、帰る事が先だ、彼等には、一緒に帰る事を進めよう、此処に居ても、彼等は、自分達だけでは帰る事も出来ないし、食料も無い、
で、戻ったら、どうするかは、
また、ルーナさんと相談しよう、
そう、しよう、
俺は、コーネル達の側により、
「そのな、まぁ、いろいろと有るんだが、取り敢えず、帰る事にした、其で、」
「ちょっと、待ってくれ、スグルさん、」
えっ?
コーネルが、手で、俺の話しを中断した、
「頭の良い俺が、スグル、あんたと話したいってさ、」
えっ?
頭の良い俺?
コーネルの表情が変わった、瞬間、
『何故、此処ニ、『魔神様』ハ、存在、シナイ、』
えっ!
『イヤ、『魔神様』ハ、確カニ、存在スル、ナラバ、我々ニ、世界ニ、認識サレテ無イノカ?』
!!
お前・・・誰だ!!
『ソウカ、奴ガ、奴ガ、隠シタ、ドウヤッテ、ソウカ、コーリン、オ前ノ『星剣』、ダカラ、『魔神様』ニ、オ前ハ、『星剣』ヲ、『魔神様』ニ、刺シタ、』
俺は、絶叫していた、
「キサマ!!!何者だ!!!」
手に『星剣』を持ち、
『私ハ、『魔神様』ヲ認識シテイル、ソシテ、認識ヲ邪魔スル、『星剣』ノ、主ガ、『魔神様』ニ、刺シタ『星剣』ヲ、認識シタラ、』
俺は、『星剣』を掲げて、コーネルを殺そうとしていた、
奴は、危険だ!!!!
そう、心で、叫びながら、
「へぇ、スグルさん、あんた、ガキの前で、殺しをするんだ、」
えっ!!!
俺は、硬直し、回りを見た、
ハルが、エミが、ダンが、皆が、驚き、俺を見ていた、
俺の叫び声に、ルーナが、サーディが魔導四輪車から飛び出し、
『見ロ、コーリン、『魔神様』ニ、刺サッタ『剣』ヲ、』
その瞬間、世界は、反転し、
巨大な、六本の剣に刺された、
『魔神』が、
顕現した。
時は、
時間は、静かに止まり、
声だけが、聞こえる、
『七本目ノ剣ハ、『魔神様』ヲ、傷付ケ、大地ヲ抉ッタ、』
ズズズズズズズズズズ!!!
地響きと共に、俺の目に『喪なわれし地平線』の抉れた大地が現れ、
『ソノ破レ目カラ、『混沌虫』ガ現レ、『魔神様』ヲ、蝕ンデイル、』
破れ目から生まれた、『混沌虫』、巨大な蜘蛛、百足、油虫共が、『魔神』に集り神は、血を流していた、
『ソノ血ハ、七本目ノ剣ニ集マリ、『魔神様』ノ血ヲススッタ、『剣』ハ、』
俺の、剣は、
『『魔剣』ト、成ッタ、』
「その剣は、俺の手に、」
コーネルは、右手に黒赤の大剣を持ち、
「そして、この『魔剣』は、」
コーネル!!!
「オメェの腹に、」
ドス!!!
えっ!
『星の保護』が、破かれた、
巨大な、黒赤の剣が俺の腹から背に、抜けていた、
ハルが、俺の方に向かおうとして、ダン、オルに止められている、
「スグルさん、あんたは良い人だ、」
お前は、誰だ、
『千ノ魔玩将、百ノ魔眼 ドルサラージ、』
千の魔玩将、
そうか、そう言う事か、
なら、後、俺の出来る事は、
俺は、側にいるレイを掴み、ルーナに向かって、放り投げた、
ルーナは、驚愕の顔で、俺を見ている、
後は、頼む、
コーネルは、怒鳴った、
「あんた、まだ、こんな状況でも他人の事、心配してんのかよ!!!」
グリグリ、
コーネルは、大剣を抉りながら、
「だから、あんたは、」
更に、『魔剣』を押し込み、
「愚者なんだよぉぉぉぉ!!!」
ドバァッシュ!!!
コーネルは、一気に、大剣を引き抜き、泣きながら、
「コーリン・オーウェル、」
と、呟いた、
その瞬間、俺は、
世界から、
消えた、
ルーナは、叫んだ、
「奴を、殺せ!!!」
その瞬間、サーディは、全力の『力』を発動し、空間が捻れる程の力場が、コーネルを包んだ、
同時に、エリンは、数千度の『炎』を、コーネルにぶつけ、更に、何万ボルトの豪雷を落とした!!!
ズドドグゥアアギャララグチャ!!!
壮絶な豪音と閃光が走り、大地は抉れ、そして、土塊は灼熱に溶解し、発する黒煙は、全ての景色を隠しながら舞い上がる、
誰しもが、その中で、生きている者がいるとは思わなかった、
しかし、
その男は、笑って、立っていた、
男の名は、
コーネル・オリゴン
自らを、超上級魔導士と呼ぶ男、
そして、その左側には、余命一月、生まれた時から、立つことも、歩く事も出来なかった、薄幸の少女、
彼女は、コーネルの眷属となって 、その命を救われる、
彼女の名は、
デリカ・グランチカ
その右側には、老衰で、余命、三日の老人が、その生への執着から、自ら、コーネルの眷属となった、巨万の富を持つ男、
その男の名は、
シュタイン・バーグ
コーネルは、笑いながら、
「其で、終いか、オメェ等、じゃ、今度は俺だ、」
コーネルは、ゆっくりと黒眼鏡を下に下ろした、
その涙で濡れた瞳は、
白!!!!!
その眼光、背筋が凍る、そう感じる程の狂気!
エリンが叫んだ、
「逃げろ!!!」
カチッ、
コーネルの瞳が、白から灰色に変わると同時に、ジェミオ・バレットスは、手に持つ、『鍵』のスイッチを入れた。
ズバァン!!!
その瞬間、
『喪なわれし地平線』に残されたのは、
コーネル、デリカ、シュタイン、の三人、
デリカは、コーネルの顔を見ながら、彼に聞いた、
「ねぇ、コーネ、あんた、何で、泣いてんの?」
コーネルは、ちょっと照れながら、
「俺さぁ、ガキの頃、かっぱらった、紙の本で、『コーリン・オーウェルその改心』って言うのが、大好きでさぁ、何度も、何度も読んだんだよ、ガキの本だから、難しくないし、其で字も覚えた、」
デリカは、コーネルの意外な一面を知る事が出来、少し嬉しくなって、
「へぇ、コーネも、子供時代は、コーリンが好きだったんだ、」
コーネルは、デリカに向き、
「当たり前だろ、ガキは誰でもコーリンが好きだ、デリカ、俺だって、普通の可愛いガキの時代が有るし、だから、普通にコーリンの尻に、剣を刺すのに憧れるって、」
「じゃ、良かったじゃない、夢かなって、あのコーリンに剣を刺せて、」
コーネルは、笑いながら、
「まぁな、尻じゃ無く、腹だけど、其で、奴が世界から消えたじゃん、何か、憧れた、道化のコーリンに、もう、俺は会えないんだと思うと、悲しくなって、な、」
デリカは、しょうがないなぁ、って顔で、
「其で、コーネは、彼奴等を見逃したの、」
コーネルは、暫く黙った後、
「・・・まぁな、其に、ガキを痛ぶるのは、俺の趣味じゃねぇし弱ちくて殺す価値もねぇ、ただ、あの、魔導省のビッチ女には、キッチリと仕置きしてやったけどな、」
デリカは、嬉しそうに、
「へぇ、そうなんだ、流石、コーネだね、やるじゃん、」
その時、今まで、黙っていた、シュタインが口を開き、
「其で、此れから、儂等はどうするんだ、此処から、出れねば、餓死してしまうぞ、」
コーネルは、『魔神』を見ながら、『魔剣』を肩に乗せ、
「まぁ、帰るのは、此の、剣、手に入れたから、何とかなりそうなんだが、『頭の良い俺』が、煩せえぇんだよ、」
シュタインは、眉を潜めて、
「煩い?コーネル、お前さんの、もう一人の、自分って言うと、ドルサラージ様か?」
コーネルは、『魔神』を指で指しながら、
「彼奴がな、此のままじゃ、あの神さん、死んじゃうって煩いんだよ、」
デリカが、驚いて、
「えっ、あの神様、生きてんの、あんなに剣、刺されて!」
コーネルは、首を振りながら、
「あぁ、ありゃ問題ないそうだ、あの巨大な剣は、星で、出来てるから、神さんにとっちゃ、心を静める注射みたいな物なんだとさ、だから、神さんは大人しいらしい、」
コーネルは、一旦、言葉を止めて、
「『頭の良い俺』が言うには、問題は、神さんに群がってる、虫、だって言うんだよ、」
シュタインは、驚いて、
「あの巨大な、虫共がか、一体、あれは、何なんだ?」
コーネルは、首を傾けながら、
「『頭の良い俺』は、すっげえ難しい事、言うんだけど、俺は、全然、理解出来ねぇ、何でも、神さんは、真理と法則らしいんだけど、あの虫は、混沌と無秩序で、其が、具現化した姿だって言うんだ、分かるか、シュゥじい、」
シュタインは、頷きながら、
「何となく、分かる気がする、」
コーネルは、へぇ、ってな顔で、
「流石、シュゥじい、でな、何でも、あの、『虫』達は、神さんが大好きらしい、」
シュタインは、再び、驚き、
「えっ、『魔神様』が、好き?」
混沌と無秩序が、真理と法則が好き?
・・・
混沌と無秩序が、真理と法則を喰らい尽くすぐらい、好き?
混沌と無秩序、真理と法則、其が相反するのでは無く、一方が一方を駆逐する関係だと、言うのか?
駆逐する関係、
駆逐される関係?
まさか、
神が駆逐されたら、此の世界は、どうなるんだ、
世界は、混沌と無秩序、になる、
其は、神のいない、原初の世界、
そう言う事か、
「あっ、シュゥじい、その顔だと、何か分かったって顔だな、ずりぃなぁー、」
コーネルは、首を振りながら、
「まぁ、良いや、其でな、あの『虫』は、『混沌虫』って言うらしいんだけど、『頭の良い俺』が、神さんを助ける為に、あれを何とかしろって煩せえぇんだよ、本当に、俺の頭が痛くなるくらい、」
その話を聞いた、シュタインは、愕然とし、
「・・・あの、『魔神』に群がる『虫』を、儂等で何とかするつもりなのか?」
コーネルは、首を振りながら、
「流石にそりゃ、無理だ、此の『魔剣』を使って、あの『虫』共を下手に攻撃したら、コーリンのように、神さんに怪我させちまうから、絶対すんなと、『頭の良い俺』も、言ってる、」
シュタインは、コーネルに問う、
「では、どうする気なんじゃ、御主、」
コーネルは、当然って顔で、『魔剣』を下に構え、
「『頭の良い俺』がな、あの『虫』共を、もっと、旨い餌が有る場所にやれって言うんだよ、」
シュタインは、何の事だと言う顔を一瞬した後、
「旨い餌の場所って、まさか、コーネル、お前さんは!」
コーネルは、気を溜めながら、『魔剣』を、更に、深く構え、剣は、赤く更に、赤黒く輝いた瞬間、
ドッパアアアアアアンンンン!!!
コーネルは、『魔剣』を下から上に、一気に切り上げ、
ミシミシミシミシミシミシミシ、
豪音と共に、『喪なわれし地平線』の天界に亀裂が走り、
バキバキバキバキバキバキバキ
世界全体に響き渡る、破裂音が生じると同時に、天界に、巨大な亀裂が空いた、
シュタインは、呆然と、天の亀裂を見ながら、
「あれは、まさか、・・・我ら・・・世界の・・・空なのか、」
その亀裂から、何か、『虫』達にとって、旨い臭いが漂ったのか、その臭いに釣られて、『虫』達は、その鎌首を、一瞬持ち上げた後、
『混沌虫』は、一斉に、『魔神』から離れ、我先に、我先にと天界の亀裂に群がり、
ボキバキボキバキボキバキバキ、
亀裂は、『虫』達が回りを壊す事により、更に巨大な亀裂へ、巨大な穴へと広がっていった。
シュタインは、全身に冷や汗を感じ、やっと、絞り出した言葉は、
「コーネル、・・・あんな物を、・・・世界に、・・・解き放ったら、・・・世界は、・・・終るぞ、」
コーネルは、軽かった、
「ん、仕方ねぇんじゃ、ねぇの、このままじゃ、神さん、死んじゃうんだよ、死んだら、終わっちゃうんだよ、だったら、あいつらを、何とかすんのが、防魔省や魔導省の奴等の仕事じゃねぇの、なぁ、シュゥじい、」
シュタインは、呆れた、
この男は、
はっきり言って、
思考が、ガキ、そのものだ、
デリカは、嬉しそうに、
「さぁーすが、コーネ、あの役立たず共に、仕事を作ってあげたんだね、」
コーネルは、また、照れながら、
「まぁな、あっ、其とな、じいさん、『頭の良い俺』が言うには、終わりってのはな、ずうーーっと前から、始まってたんだとさ、」
シュタインは、
愕然としながら、
コーネルの言った、
言葉を、
繰り返した、
「終わりの・・・始まり、」
其は、遥か、過去から、
始まって、いた、