星の中心の下へ
5月12日の火曜日、20時、『喪なわれし地平線』に居る俺達は、三台の魔導四輪車で、星界の中心に輝く、動かない星の下に向かった。
景色は、行けども、行けども変わらず、魔導四輪車は、土煙を出しながら、疾走し、
時間は、ゆっくりと過ぎて行った、全員が、この『喪なわれし地平線』で、出発した地点から2時間走れば、目的地に着くと思っている、
だから、2時間で、その場所は必ず現れる、
1時間経っても、景色は変わらなかった、見えるのは、果て無き荒野と、『忘却の大瀑布』だけで、
更に、15分、30分、経ち、
俺は、そろそろ、
『魔神の玩具』の奴等が見えるんじゃないか、と気がきじゃ無かった、
残り、15分、
残り10キロメータ、
何も変わらない、
残り、10分、6.7キロ、
何も変わらない、
見えるのは、やはり、荒野と『忘却の大瀑布』だけだ、
?
残り、5分、後、3.3キロ、
まだ、何も見えない、
・・・
俺の考え過ぎなのか、
結局、何も無いとか、
・・・
残り、2分、1.3キロ、
えっ?
人?
誰かがいるのが、分かった、
あれは、人だ!!!
俺は、直ぐにエリンさんに、怒鳴った、
「車を止めろ!!!」
ギギギギギギギ!!!
車輪が強制的に止まり、魔導四輪車は、盛大な軋み音を鳴らしながら止まった。
「有難う、エリンさん、」
俺は、エリンさんに礼を言って、直ぐに、魔導四輪車から降りた、
星の中心にいる人は、やはり四人、向こうも、此方に気付いてる、
その中で、俺は、二人、知っている、
一人は、白髪を軍人刈りにしていて、そして、サングラスを掛けている奴、
彼奴は、確か、遺跡の村コレステリラの村長
コーネル・オリゴン
何故、彼奴が此処に、
もう、一人は、
紫が入った長い髪をツインテールにしていて、その瞳は赤い透明、
あれは、レイちゃん、名前は、
レイティシア・バリデュワ
他の二人は知らない、
一人は、見た目、今にも死にそうな老人、もう一人は顔色の悪い、青紫の髪の少女、
「あれは、シュタイン・バーグ氏でございます、スグル様、」
エリンさんも、魔導四輪車から降りて、俺に、死にそうな老人の名前を教えてくれた、
「エリンさん、皆には、まだ、魔導四輪車から降りないように、伝えてくれるか、」
エリンさんは、俺を見て、
「スグル様は、如何、なされますか?」
俺は、コーネルを指差して、
「俺は、ちょっと、彼と話してくる、そしたら、皆で、帰ろう、」
正直、俺は奴等の事は、どうでも良かった、何故、此の、『喪なわれし地平線』に居るのか、気になるのだが、其より、レイちゃんだ、
俺が、此処から、見ても、彼女は、恐怖で、震えているように見える、
其が、気になる、
俺は、コーネルと、話し合う事にした、
瞬時に、俺は、コーネルから5メータの位置に移動し、
彼は、ニヤリと笑いながら、
「やっぱ、来ましたね、スグルさん、」
こいつは、やっぱ、変に気安い、
「何で、俺達が、此所へ来る事が分かったんだ、」
コーネルが、えっ、てな顔で、
「えっ、だって、先生、言ってましたよ、スグルさんが、生徒、引き連れて、星の遺跡の探索するって、だから、夏に、うちの、遺跡にも来るんでしょ?」
・・・
メルティスト先生!!!
あんた、喋り過ぎだぁ!!
と、心の中で喚きながら、
「どうやって、此所まで、来たんだ?」
コーネルは、何だ、ってな顔して、
「そりゃ、スグルさんと同じ、遺跡を攻略して、其で貰える次の遺跡に入れて貰える遺物を使って、12の遺跡を越えて来たんすよ、」
遺跡の攻略って、此の男がか?
其も、12の遺跡って、
嘘じゃ、ねぇのか?
「あれ、スグルさんその顔、何か、俺達を疑ってません、もしかして、俺達が、スグルさんが独占しようとしていた、高価な遺物、取ったと思ってます?」
そんな事、思っちゃいないけど、
「残念ですけど、俺達、此まで、何にも見つけて無いし、何も拾ってませんよ、なぁ、デリカ、」
顔色の悪い子が、
「コーネの言う通り、何にも無い、」
何にも無い?
俺らは、金貨とコップの遺物が出た、彼等には、遺跡は何も与えなかったのか?
何故だ、
「疑うなら、レイにも、聞きますかスグルさん、レイ、スグルさんに答えな、」
レイちゃんは、コーネルを見た後、俺を見て、
「其は、本当、だから困ってる、」
困ってる、
その時、死にそうな、老人が、
「スグルさんとやら、その娘が言った事は、本当だ、我々は、食料が無くなって、困っている、金なら出す、分けて貰えんかのう、」
食料が無い?
「一体、何で、食料が無くなる?」
コーネルは、首を振りながら、
「スグルさん、先生に聞いたんだが、あんたは、何らかの方法で、もといた場所に戻れるようだが、俺達は、戻れ無いんでね、だから、今日で、丁度、持ってきた、食料が無くなったって訳だ、」
戻れ無いのに、コイツは、此の、遺跡に入って、其で、此所まで来たのか、何て奴だ、
此の、コーネルって男は!!
「分かった、何か、食い物がないか、ブライに聞いてみる、」
いろいろと、コイツからは、話を聞きたいんだが、確かに、レイちゃんは、焦燥した顔色だし、他の二人も顔色が悪い、
直ぐに、彼等に何か食わしたほうが良い気がして、俺は、此方を見ている、エリンさんの元に戻った。
「いやぁ、旨い汁だ、ズズズ、うーん、旨い、エリンさん、済まねぇけど、お代わり、貰える?」
他の三人は、音を立てないように、スプーンで掬って食べているのに、コイツだけは、皿ごと音を立てて食ってる、
本当に、コイツは下品だ、
「何か、スグルに似てる食べ方、」
エミちゃん、俺、あんな下品じゃ無いから、ただ、メンを食うときだけ、音を立てるだけだから!
と、心の中で、言い訳しながら、俺は、コーネル達を見ていた。
俺は、エリンさんと、ブライに彼等の事情を話し、ブライは、直ぐに、軽く、空腹で胃が弱っていても食べれる、パンの木実いりのスープを作って、彼等に提供した、
彼等は、ジェミが用意した、アウトドアテーブルと椅子に座り、そのスープを急いで、食べ始めた。
彼等には、少女が二人いたので、『星に愛されし民』も、少し安心して、魔導四輪車から降りて、遠目で、彼等を見ていた、
俺も、彼等が食べ終わったら、話しを聞こうと、少し離れて彼等を見ていた、
彼等の世話をしているのは、勿論、エリンさんだ、
そんな時、アンリが、
「スグルさん、呼んでる、」
と、小声で、俺に言い、ルーナさん達が居る、魔導四輪車を指差した。
俺は、頷いて、魔導四輪車に向かい、その後部の客室に入ると、ルーナさんが、
「彼奴は、誰だ、スグル!!」
俺は、ちょっと驚いて、
「えっ?あぁ、済みません、紹介しなくて、彼奴は、コレステリラの村長で、コーネル・オリゴンって言う奴ですけど、」
二人、同時に、顔を見合せながら、
「コーネル・オリゴン!!」
?
「サーディ、貴女の言う通りだ、奴は、やはり、コーネルだ、」
えっ、ルーナちゃん、サーディさん、あんた達、奴を知ってんの?
「えーと、あのー、ルーナさんは、彼の事を、御存じなんですか、」
サーディさんが、怒って、
「お前が、関わる事じゃ無い!!」
強い口調で、俺に言ってきたんだけど、ルーナちゃんはサーディさんを、手で制止して、
「サーディ、此の場所は、我々には良く分からない場所だし、スグルの協力を、仰いだ方が良い、説明は私からする、」
サーディさんは、黙りとし、ルーナは、ため息を付いた後、
「スグル、聞いてくれ、我々、魔導省の仕事は、治安維持の他に、違法魔導士の取締りが有る、」
違法魔導士、
「じゃ、あの、コーネルって奴は、違法魔導士ってことか、」
ルーナは、首を振りながら、
「いや、ハッキリとした、証拠は無いそうなんだが、サーディが言うには、彼は、『心』の魔導術を使える、反社会勢力の中心的、人物だったらしい、」
反社会勢力って、やっぱ、彼奴、スグルの世界のヤが着く人じゃねぇかぁ、
ルーナは、ちょっと、声を小さくして、
「其で、スグル、此は、言いにくい事なんだが、我々は、『心』を使う、そう言う輩は、排除するんだ、」
排除?
「排除って、まさか、」
ルーナは、頷いて、
「そうだ、そう言う事だ、」
「ちょっと待ってくれ、ルーナ、子供達だっているし、彼奴の側には、二人の女の子もいるんだぞ!」
俺は、呆れて、ルーナに詰め寄った、サーディは、怒った口調で、
「殿下、だから、素人に話す内容じゃ無いと言ったんだ、」
ルーナは、必死に、
「スグル、聞いてくれ、彼奴は、二人の上級魔導士が消えた事件に関わっているんだ!」
「えっ?」
二人の上級魔導士が消えた?
サーディが、俺に向かって話しを始めた、
「あの、コーネルを排除する為に動いた上級魔導士、二人が消え、最期に連絡のあった、山小屋で、二人にそっくりな石像が、徹底的に破壊された状態で発見された、」
石像?
「その時、同日同時刻、『魔人』が現れ、殿下の乗る船が襲われた、」
其って、俺が救った、あれか、
「だから我々は、この、二人の上級魔導士が消えた事件も、『魔人』が関わり、その時、コーネルも『魔人』に殺された、そう、我々は考えていた、だが、奴は、生きていた、」
・・・
「我々は、奴から真相を聞き出す、邪魔する事は許さない、したら、敵対行為と見なす!」
俺は、彼女に無性に腹が立った、
「聞き出すって、まさか、」
彼女は、俺を睨みながら、
「そうだ、生死問わずだ、我々は、どちらでも構わない、我々は死体からも情報は引き出せる、奴の出方次第だ、」
その時、ルーナが口を出した、
「だから、スグル、彼を、説得してくれ、」
・・・
そう言う事か、
ガチャン
デリカは、スプーンを皿に落とした、コーネルは、そんな彼女を見て、薄ら笑いをしながら、
「駄目だよ、デリカ、オメェ、体、悪りぃんだから、ちゃんと食わなくちゃ、ガキは食うの大事なんだ、」
デリカは、二台目の魔導四輪車を睨みながら、
「アイツ等、コーネを殺す話しをしてた、」
スープを飲み干したコーネルは、デリカに、
「あーぁ、うめぇ、で、駄目だよ、デリカ、人の話しををコッソリ聞いちゃ、」
デリカは、口を膨らませて、
「狡い、コーネだって、聞いて、笑ってたじゃ無いか、」
コーネルは、更に、にやついて、
「まぁな、」
デリカは、口を尖らせて、
「彼処で、コーネの事、心配してたの、スグルって人だけだ、彼は良い人だ、」
コーネルは、ため息を付きながら、
「そうなんだよ、奴は、すっげぇー良い奴なんだよ、ほら、飯も奢ってくれたし、」
一端、言葉を止めたコーネルは、天を見上げ、小さな声で、
「・・・だから奴は、弱い、・・・だから、ダメな奴なんだ、・・・奴は、」
デリカは、何だ、そりゃ、ってな顔をし、今まで、黙ってスープを口にしていた、シュタインが、口を開いた、
「で、どうするんだ、コーネル、相手は、魔導省の上級魔導士、殺しのプロだぞ、其に、あの、エリンと言う執事、あれも、上級魔導士だ、後、子供の中にも、一人、上級がいる、」
コーネルは、老人を感心しながら、
「へぇ、シュゥじい、奴等の力量が、見るだけで分かるって、流石、年の功に観察眼、」
シュタインは、目を細めて、
「軽口を叩いている場合じゃ無いぞ、コーネル、奴等は、儂等も殺すつもりじゃ、」
其を聞いたデリカは、再び、サーディの居る、魔導四輪車を睨みつけ、
四人の中で、ただ一人、レイは何も言わず、ただ、スープを口にするだけで、
コーネルは、立ち上がりながら、自分達の所に来る、スグルを見て、
「大丈夫だって、シュゥじい、もう、俺には、二人も、三人も関係ねぇ、俺が気にしてんのは、アイツだけさ、アイツ、」
そう、言った後、彼は、
スグルが、自分の前に来るのを、
待ち続けていた。