ルーナ来訪
5月12日の火曜日、俺がこの世界に来て、51日、今日から、いよいよ、『星の遺跡・海岸』の攻略が開始される、
『海岸』は、『星の力』に対する、体力を付ける為の、星の力の訓練所だと、俺は思っている、勿論、色んな仕掛けが有ると思う、
例え、どんな仕掛けが有ったとしても、今の、『星に愛されし民』なら、大丈夫、そう、俺は思っている、
そして、ハルも、確実に育っている、『右星の扉』も開き始めているし、
今は、膨大な『星の力』が、無理に『右星の扉』に流れ込み、ハルも辛い筈だ、しかし、もう少しで、完全に開く、そうなれば、もっと楽に『星の力』を使えるようになる、
だから、ハルは、もっと成長する。
思うに、本当に、『星の遺跡』の星の力の訓練所は、良く出来ている、昨日、ジェミの話しを聞いて、久し振りに、天皇星の大賢者の事を、思い出した、
彼なら、この星の力の訓練所のアイデアが出せるはずだし、このアイデアを形にする事は、金星の錬金士なら、出来る、
其ほど、あの二人は、凄かった。
もう、二千年前の話しだ、彼等が生きているとは、思えない、その証拠に、天皇星の大賢者の『星具』、『星の秘蔵庫』は、星に戻され、
再び、ジェミに託された、
彼が生きていたら、決して、手放さなかった筈だ。
そう言えば、確か、金星の錬金士も、『星具』を持っていた、名前は、
・・・
『金の錬金環』
万能の物質変換造形器、二つの腕輪で、一つが、変化変形、もう一つの腕輪が、増減加減で、その二つの腕輪で有りとあらゆる物を作る事が出来る、
そう、金星の錬金士が、俺に教えてくれた。
そんな事を考えながら、午前中は、学校の掃除に、備品の修理等で、終わり、そして午後、昼飯食いに、ボーゲンの食堂に行くかなって、思った時、
ブライの料理専用魔導四輪車と、2台連結した、宿泊用魔導四輪車が、俺の宿舎の前に停まった。
勿論、料理専用魔導四輪車から降りて来たのは、白い清潔な魔導防護服を着用した、ブライだ、
となると、宿泊用魔導四輪車を運転しているのは、運転席から、降りて来たのは、やはり、リアちゃんの家の執事長、エリンデゥナ・ウォルデュースと言う、長い名前の、エリンさん、
「やぁ、ブライ、こんにちは、エリンさん」
俺は、一応、挨拶した後、
「エリンさん、今日は、海水浴じゃ無いから、態々、そんな、魔導四輪車、必要無いんじゃないんすか、」
エリンさんは、素晴らしい、笑顔を俺に向けて、
「御嬢様が、水に濡れた後、シャワーが必要ですし、其に、今日は、御客様がいらっしゃると、聞いております。」
御客様?
あっ、
ルーナちゃん、其に、ローシィ!
そうだ、今日も、取材するって、ローシィ、言ってたな、だが、ルーナちゃん、呼ぶって言ってたが、
俺、絶体、無理だと思ってたから、忘れてた、
ブライも、嬉しそうに、
「御客さんに、御茶と菓子ぐらいは、出さねぇとな、スグル、其に、練習が終わったら、軽く、打ち上げと祝勝会はやるだろ、」
祝勝会か、俺は暫く、考えた、
『星に愛されし民』の『遺跡』の試練を見て、皆は、そんな気持ちでいられるのか?
俺は、関係無い人達に、『遺跡』の試練を見せるのに、実は、あまり、良い感じがしてない、
『星の遺跡・海岸』の攻略は、今回が始めてだ、何れ程、過酷か分からないし、正直言って、あまり、他の人に見せたく無い、
本来、メルティスト先生にも、見せたく無い、
彼女が、『遺跡』の真実を知れば、彼女は教育者として、攻略を絶体に反対する筈だ、
反対されても、俺は、彼等を『星の遺跡』の先に連れて行かなくちゃ、なんない、其が、俺が『星』に託された、指命だから、
まぁ、兎に角、何とかするかだ、
「スグル、俺達、飯にするけど、一緒に食うか?」
ブライが、俺を誘ってくれる。
「良いのか、俺の分、足りる?」
ブライは、笑いながら、
「そのつもりで、多く作った、遠慮無く、食え、」
と言って、皿に、鶏肉と野菜に緑のソースを和えたソースメンと、鶏肉の出汁に鶏肉の卵を混ぜたスープ、俺が作ったパンの木実、其に御茶を用意し、
「流石、旨そうだ、食って良いのか?」
「ああ、食ってくれ、」
そう、ブライが言うから、俺、ブライ、エリンさんと一緒に、ブライが作った、賄い飯を、俺は美味しく頂いたのであった。
そして、4時、メルティスト先生は、ルーナ、ローシィ、そしてもう一人、ルーナと同じ白い制服を着た、ダークなアッシュ系ブロンドの髪をボサ質感にしていて、更に短めのレングスが大人っぽい印象に見える女性を連れて来て、
ルーナは、長い金の髪が美しいオンブレ・プラチナの金髪を靡かせ、気高く、上品な顔立ちと、優しく涼しげなコールドブルーの瞳は変わらず、そして耳には星形のピアス、
『星のピアス』は、俺に近付くと、薄く光り、輝き、
ルーナは、俺を確認すると、笑顔で、
「スグル、久し振り、」
と、手を差し出してきた、
ルーナ、
やっぱりその顔立ちは、似ている、二千年前の、『月の星国』のルーナに、
生まれ変わり、
しかし、彼女はルーナじゃ無い、
俺は、彼女の手を握った、
彼女も、嬉しそうに、手を握り返した、
そうだ、木星は、正しい、
分かっているんだ、彼女はルーナじゃ無い、
ルーナは、恥ずかしがり屋で、俺の手を握る事も出来なかったし、体も弱く、宮殿から外へも出る事は無かった、
だから、何時も、俺が話す、外の世界の話しを、彼女は嬉しそうに聞いていた、
コーリン様、
コーリン様、
そう、小さな声で、恥ずかしそうに、
「スグル、そろそろ、手を放して、くれないかな、」
俺は、慌てて、
「あっ、済まない、」
俺は、急いでルーナの手を放した。
彼女は、少し顔を赤らめて、
「えーと、スグル、その、前から私は、ずうーっと、君に謝りたいと、思っていた、」
「謝る?」
彼女は、横を向きながら、
「あのだな、前に酒場で、私の隊が君に失礼な事をした、」
酒場?
えっ?
俺、あの時、スッゲー酔ってたし、『星のピアス』が欲しくて、ルーナさんに失礼な事したと、逆に思ってた、
「嫌、俺こそ、酔ってたから、何か、皆を怒らして、その、喧嘩になっちゃたのかなぁ、と、ずうーっと、悪いなぁ、と思ってて、」
ルーナちゃんも、ビックリして、
「じ、じゃ、スグルは、私達の事を怒って、逃げたのじゃ無いのか!」
怒るって、俺は、慌てて否定した、
「済まない、ルーナさん、俺は、あの時、かなり酔ってたから、逃げたって感覚が無いし、あの時は、俺の国の、魔導術、『星導術』を使って、隠れただけだ、だから、」
その時、側にいた、怖そうな女性が、
「殿下、生徒が来ます、」
ルーナは、落ち着いて、
「そうだな、サーディ上級魔導士、取り乱して、済まない、」
メルティスト先生も、訳は、分からないなりに、合わせて、
「あっ、そうですね、生徒に殿下の事を伝えないと、」
ローシィが、俺の耳元で、
「色々と有りそう、後で、教えてね、スグルさん、」
ねぇーよ!!!
何にも!!!
と、俺は、心の中で、ローシィに、大声で言った。
4時20分には、ドーリも一緒に、全員が、俺の宿舎の前に集まり、
ルーナを見た、ハルは、
「ルーナ殿下、今日は、」
と、嬉しそうに、元気良く、挨拶し、
ルーナも笑顔で、
「ハル君、読んだぞ、ローシィの記事、凄いな、良く頑張った、君達の活躍を、この目で直接見たくて、今日は、此処に来たんだ、宜しく、」
エミちゃんも、喜んで、
「やったぁーあ!ハル、殿下が、私達を認めたんだよ、凄いよ!!」
ダンも、顔を上気させて、
「殿下、」
ルーナちゃんは、ちょっと、持ち上げ過ぎたかなぁ、って顔で、
「まっ、まぁ、先ずは、自己紹介、してくれないかなぁ、皆、」
皆は、落ち着いて、一人ずつ、ルーナちゃんに自己紹介し、自己紹介が終わった、ダンに、俺はこっそりと、
「おぃ、ダン、ドーリちゃん、まだ、参加するのか?」
ダンは、済まなそうに、
「スグルさん、ドーリには、もう予選が終わったから、参加しなくて良いとは言え無くて、」
俺は、困ったって顔をダンに見せながら、
「ダン、彼女には、『星導術』の才能は無いし、皆と一緒の練習は無理だぞ、それに『魔導術』も、リアちゃんのような才能は無いから、メルティスト先生と一緒に、待機組だけど、其で良いのか、」
ダンは、真剣に、
「彼女には、そう伝えてあります、其でも良いから、一緒に参加したい、そう言われて、だからお願いします、スグルさん、」
うーん、何か、どんどん、人が増えてないか、『星の遺跡』が、大人しけりゃ良いんだが、俺の心配はどんどん大きくなるし、
「分かった、兎に角、ドーリちゃんは、待機、良いな、ダン、」
俺は、偉そうにダンに言って、ダンは、頷きながら、
「分かりました、」
と言って、皆の所へ戻って行った。
俺は戻るダンを、エリンさん、ローシィ、ルーナ、其に、怖そうなサーディさんを見ながら、今日は、安全を考えて、『星の遺跡』に行く条件は厳しくするつもりだ、だから、条件を満たさなければ、『遺跡』には、入れない、そう言う気持ちで、
「えーと、皆様、大変、申し訳ないんですが、今日は、『星の遺跡』は大変危険です、魔導防護服を着用して無い人は、『遺跡』には入れません、悪しからず、」
ローシィが、大声を上げた、
「ええええ!聞いて無い、スグル!」
地で叫んでるし、まぁ、ローシィは想定内、で、ルーナちゃんは、
「えーと、ルーナさんは?」
サーディさんとルーナちゃんは、お互い顔を見合わせ、ルーナちゃんが、
「知らないのか、スグル、私達の制服は、軍用の魔導防護服だぞ、」
えっ!
軍用の魔導防護服!
其って、つまり、
ルーナちゃんは、笑顔で、
「学生用や、スポーツ用とは、訳が違う、魔導防護服なんだが、其でもダメか、スグル、」
・・・
「そうなんですね、じゃ、此処に残るのは、ローシィさんとエリンさん、二人、って事で、」
その時、エリンさんが手を上げながら、
「済みません、スグル様、私共の制服も、軍用の魔導防護服ですが、」
えっ!
そうなの?
ブライが、笑って、
「あはは、エリンさんのチームは、うちの荒事も担当してるし、魔導防護服は当然だよな、」
荒事って、
エリンさん、あんた、戦う執事って、何の漫画だよ、一体!
ローシィが、大声で、
「ええええ、じゃ、残るの私、一人って、酷くない、スグル!!」
・・・
仕方ないよね、
まぁ、此で、『星の遺跡』の練習が、記事になる事は、避けれた、って、エリンさん、また、手、上げてるし、
「ローシィ様、予備の女性用の制服なら、宿泊用魔導四輪車に有りますが、」
エリンさん!
余計な事、言うなよ!!
と、俺は、心の中で、喚いていた、
ローシィは、やったぁーあってな、顔で、
「助かるわぁ、エリンさん、それ、是非、貸して下さい!」
って言うと、直ぐに、エリンさんに、魔導防護服の有る場所を聞いて、さっさと着替えに、宿泊用魔導四輪車に乗り、
暫くして、戻って来たら、
秋葉原のメイドさんって言うより、本当のロングドレスのメイドさんになって、降りて来た、
えーと、
メイド服が、魔導防護服って、
長いスカートの下に、マシンガンを隠してる、戦うメイド、
に、マジ見える!
まんま、コスプレ、
ローシィは、ニヤニヤしながら、
「なんだ、スグル、メイド服が珍しいの、其とも、私に見とれちゃった、」
と言いながら、ローシィはクルリと一回転して、俺に見せ付けるし、
ルーナちゃんが、ビックリして、
「えっ、スグルは、メイドが、好きなのか?」
違あぁあああうううう!!!
もう、滅茶苦茶、
横で、ブライは、笑ってるし、
メルティスト先生が、呆れて、
「そろそろ、行きましょう、時間も押してるし、じゃ、エリンさん、皆に浮きの魔導具を渡して下さい、」
俺は、えっ、てな顔で、
「先生、エリンさんに頼んだんですか、」
先生は、当然ってな表情で、
「私は、忙がしくて買いに行けないし、相談したら引き受けてくれたし、勿論、お金は払ったわよ、」
エリンさんは、箱から浮きの魔導具を取りだして、皆に配って、
皆は、浮きの魔導具を受け取ると、両腕に取り付け始めた、
・・・
結局、ローシィも一緒に、全員が『星の門』を潜り、『星の遺跡・海岸』に行く事になり、
俺は、諦めて、『星の門』を開いた。