試合後日
魔導暦2035年5月11日の闇曜日、俺がこの世界に来て50日が経った、
50日、50日の間に、色んな事があった、勿論、派手な戦いは、最初にルーナちゃんを襲った、『魔玩兵・ベルゴンゾーナ』とだけだ、そして、ルーナちゃんの乗る空飛ぶ戦艦を動かし、
ルーナちゃん達と酒飲んで、騒いで、反省して、学校作業員になって、学校を綺麗にし、ローシィと知り合って、ケティと出合い、メルティスト先生と『星の遺跡』に行き、
ハル達と、放課後自主講座、『星に愛されし民』を開催し、成り行きで、魔導格闘技のコーチになり、飲んで、食って、打ち上げして、
また、飲んで、食って、ブライが来て、飲んで、食って、打ち上げして、更に、壮行会して、東部地区魔導格闘技大会、団体戦予選で、『星に愛されし民』は準優勝して、地区大会に出場する事になった。
今、本当に、此処、
考えると、飲み食いばっかだが、
俺の、この世界での50日は、別に、争いや闘争も無く、穏やかで、充実しているような気がする、
願はくば、この日常が長く続く事を願うのだが、
天界の『星々』は、俺に使命を託し、
俺の未来は、未だ、不透明で見えていない、
其でも、俺は、未来に向かって、進まなければ、ならない、
其が、俺だから。
ローシィは、公都の小さな魔導新聞社の記者で、ひょんな事から、『星に愛されし民』の事を知り、東部地区魔導格闘技大会、団体戦予選で、彼等の事を記事にする事になった、
で、俺は、後日、ジェミから彼女が書いた記事を読ませて貰った、何でも、彼女の記事は有料で、ちょっと高いらしいんだけど、面白いんで、購入する読者が多いんだとか、ジェミも金払って買ってると、俺に言った。
其は、6人の少年、少女達の苦難と努力の物語だった、生まれる前に、『魔の神』に、その才能を約束されていた、少年少女達は、神の気紛れで、その才能を封印されて産まれて来た、
彼等は、魔導高等学校に進学し、才能が封印されているので、C組となり、苦難の学校生活を送る、
一年が終わり、二年生になった彼等に転機が訪れた、其が、学園で行われた魔導格闘技大会、その時、気紛れな我が『魔の神』は、彼等の封印を少し解き放った時、その力の無さを嘆き、苦しんでいた、ハルチカ・コーデル、ダンバード・グラスター他、C組の面々に、奇跡が舞い降り、
彼等は、輝かしい成績を納め、学校の地区大会の推薦枠に選らばれた。
しかし、この事が、学校を揺るがす、大きな対立を生み出し、二年生は、地区予選で決着を付ける事になった、どちらが、真の学校の代表かを、
そして、C組の代表選手達の血の滲むような特訓と努力により、地区予選に再び、奇跡が舞い降りるのであった。
・・・
はっきり、言って、感動した、
涙が、出そうになった、
其はまるで、読み手が、ハルにダン、オルに、才能を封印された者になったような、表現手法と、悩み、苦悩する若者達が、努力と信念で、封印の才能を開いた瞬間を、読み手の前に感動的に映し出す技法が重なり合い、
最後、C組の代表が強豪チームに勝った瞬間、その感動がピークに達して、
本当に、泣きそうになった。
上手い!
ローシィは本当に上手く、書く!
彼女は真実の中に、創作を巧みに混ぜ合わせながら、誰も傷付ける事無く、より、読み手に感動を与えるように真実を作り直している。
彼女は、記者だ、確かに、取材した、内容をちゃんと伝えている、ただ、彼女はアレンジして伝えている、其れも、悪意、操作、誤解等を排除して、読み手が期待するアレンジをする、だから、彼女の記事は人気が有る、
ジェミや、オルが、彼女のファン、だって事が分かった気がした。
そして、この記事は学校全体に、大きな影響を与えた、直接購入して読んだ者、俺のように回し読みで読んだ者が大勢いて、読んだ者は読んでいない者に読むように勧め、
やがて、C組は『奇跡のC』と、呼ばれ、称賛されるようになった。
噂では、あのプライドの高い、A組の二年総代、ガルホール・スターゲスでさえ、『奇跡のC』と、C組を讃えたと言われて、
結局、学校の推薦枠は、『奇跡のC』こと、C組に決まり、A組は、地区予選枠で、地区大会に出場する事になった。
そして、いつの間にか、彼等は二つ名で呼ばれるようになった、
ダンバード・グラスタは、
『豪閃のダン』
アンリー・スウィートは、
『連姫のアンリ』
オルダス・ホールスは、
『神激のオル』
ハルチカ・コーデルは、
『奇跡のハル』
と、呼ばれ、
ダン、オルは、一気に、学園中の女子に大人気になり、アンリちゃんは、学園中の、一部の男性と女子のファンが増えた。
まぁ、ハルは、エミちゃんとの仲が有名だから、あまり変わらない、
と、ジェミから聞いた。
その日の昼、学校に奇跡が起きた、あのケチなボーゲンが、デザートを、一品、付けたのだ!
俺は、感極まって、
「こっ、こっ、此は何だ!!」
つい、驚いてしまい、
ボーゲンは、黙って、壁に貼ってある、貼り紙を指した、
えっ、
何?
その貼り紙を読むと、3年生総代のフェルシェールさんの直筆で、地区予選の魔導格闘技大会で、A組が優勝し、C組が準優勝したので、
全校生徒、先生に、人気店のデザート、『ポーゥルアーレ』のケーキを一品、提供すると書かれていた。
その時は、意味が分からなかったから、へぇー、流石、金持、やる事がすっげーなぁと、デザートを美味しく頂いたのだが、
此も後から、ジェミに聞いたんだが、
3年生は、昨日の地区予選で、A組とC組のどちらが、上位に勝ち上がるかを、賭けていたらしく、その賭けを勧めたのが、総代のフェルシェールさん、
彼女は、2年生の地区大会の代表がC組だと言う事に、不満を持つ3年生の人達の前で、C組には、その資格が有る、その証明として、地区予選でC組がA組より上位に成らなかったら、全校生徒にデザートを奢ると、約束したらしい、
此を切っ掛けに、3年生達は、地区予選の勝敗、順位の予想を賭けて盛り上がり、下級生は、そんな3年生に刺激されて、A組、C組どっちが強いか、話題になっていたんだとか、
・・・
知らなかった、
フェルシェールさんは、皆がC組の試合を見れば、絶体、C組の評価が変わる、そう、思っていたらしく、その為に、皆に地区予選に興味を持って欲しかったらしい、
フェルシェールさんの狙いは、当たり、学校中が地区予選に興味を持ち、其が、学長、先生達を動かし、皆で、地区予選が開催される、ベルトリアの競技場に行く事になった、
そして、皆は、A組の優勝とC組の不様な敗退を見ると思っていたんだけど、C組の素晴らしい試合を見て、フェルシェールさんが言った事が正しかった事を知り、愛校心に火が着いて、
あの、大声援になった。
元々、フェルシェールさんは、C組が勝っても、負けてもデザート、を奢るつもりで、前から、700個以上のデザートを発注していたらしく、
学校の皆は、審判判定で、A組が勝ったので、本当の勝敗は、地区大会に持ち越しと思っていた、
だからこの、デザートのプレゼントは、フェルシェールさんの祝勝祝いと言う事になって、全校生徒が大喜びしたと、ジェミは、俺に教えてくれた。
この、ジェミの説明に、俺は、一つ納得していない事があった、
何故、フェルシェールは、俺達、『星に愛されし民』の事を、そんなに、知ってんだ、
俺は、練習も、『星隠し』で秘密にしてたし、誰にも、話して無い、皆が、言ったとしても、たぶん、誰も信じないと思ってた、
彼女は、誰から、俺達の話しを聞いたんだ、
何故、彼女は、そいつの話しを信じたんだ、そいつが、信頼出来る奴だから、信じたのか?
そんな奴、『星に愛されし民』にいたか?
・・・
一人、いた、
ジェミオ・バレットス、
ジェミだ。
ジェミは、学校の事に関して、いや、学校以外にも、色んな事を知っている、彼は、オルと違った意味で、頭が良い、
そのジェミが、A組とC組の対立を何とかしようとして、先輩のフェルシェールに情報を流した、
勿論、ジェミは、前もって、フェルシェールと信頼出来る関係になっている事が前提だ、
そして、フェルシェールが動いた、
・・・
しかし、この件で、彼女には、何の特が有るんだ、700個のデザート代、一個、300RGとして、21万RG、
金持の、彼女には、大した金額じゃ無いかも知れないけど、
・・・
そうか、評価か、彼女は、3年生だ、進路は聞いて無いけど、少なくとも、この国では、進学、就職共に学長の推薦が大きく影響すると、エルさんが言ってた気がする、
今回の件で、彼女は学校を一つにした功労者だ、学長が悪く書く訳けないし、凄く良く書くはずだ、
ならば、彼女にとっては、21万RGは安い、
そう言う事か、
ジェミとフェルシェールは、情報を取引した、
ならば、昨日の、リアが、ローシィに、突如、言った、あの空想は、
偶然じゃ無く、ローシィが疑問に思うから、リアに、ああ言えとジェミが、前もって、言っていたとしたら、
見事に、ジェミの策略に填まって、ローシィは、あの素晴らしい、記事を書いてしまった、
そして、その記事のお陰で、A組もC組も、仲直り、いや、それ以上に、関係は良くなった。
俺達は、全て、ジェミの手の中で、動いていた事になる、
此じゃ、まるで彼奴は、
天皇星の大賢者だ、
俺は、天皇星の大賢者の事を思い出した、彼奴も、こう言う、裏で動く事が好きだった、
彼奴は、魔族、『魔人の玩具』共と、協力して、『魔神』を眠らせる事が出来ると言って、随分、動いていた、
結局、失敗したんだが、
まぁ、ジェミが、天皇星の大賢者の様だって言うのは買い被りだな、
天皇星の大賢者は、俺の友達で、偉大な奴だった、間違っても、ジェミなんかじゃ無い、
たぶん、ローシィの記事は偶然だし、フェルシェールの事も、多少は関係が有るかもだが、たぶん、そんなに、ジェミは深く考えて無い、
彼奴は、そう言う奴、
そうなの!
「どうしたんです、スグルさん、」
俺に、色々と教えてくれた、ジェミが、俺が、突然、不機嫌になったんで、心配して聞いてきた、
「ジェミ、スグルの一人、喜怒哀楽、気にしたら、切り無いと思うよ、」
と、相変わらず、厳しいエミちゃん、
今日は、一応、放課後自主講座は、休みなんだが、ハル、エミちゃんは、放課後、毎日、俺の所へ、来る、
そのついでに、ジェミも来て、昨日は、大会だったから、『星の力』も結構、使ったし、じゃ、今日は、訓練を休みにするか、と言う事で、皆で、御茶しながら、先日、ローシィが持って来た、お菓子の残りを食べ、
俺は、昨日、ベルトリアから、バルセリアに帰る、魔導汽車の中で、ジェミに、ローシィの記事、買ったら読ませてくれと頼んだ、
で、彼は、今、自分の魔導本を、持って来て、ローシィの記事を、俺に読ませてくれた、訳で、
そして、俺に、色々と学校の事を教えてくれた、そんな、親切で、良い奴なのに、何か、俺は、ジェミが気に入らん、
本当に、子供っぽいってのは、分かってんだが、
・・・
どうも、ジェミの性格が、
天皇星の大賢者に似てるからか、
俺は、釈然としない気持ちで、御茶を、ズズズとすすり、エミちゃんに、白い目で見られるのであった。