ロッカールームに潜む変態
決して覗きを推奨しているわけではありません
誤字修正しています。
「ブライダルエステの施術中は指輪を視る絶好のチャンスですよ!」
私は駅から徒歩数分のお洒落なビルに入って行った、楢橋 咲綾の後ろを追いかけながら皆に力説した。
はい、失神から復活しましたよ。皆からはすごく心配されたけど、侯爵令嬢ですからお構いなく!と叫んでいたら何故だがレオンヘイム君に頭を撫でられた。翔真と同い年のくせに上から目線の足長一族めっ‼どチビの元侯爵令嬢を舐めんなよっ!とまた怒ったら海斗先輩から失笑を受けた…。
覚えてろよ変態め。
楢橋 咲綾の入って行ったエステサロンに私達も隠れたまま侵入した。今は店の中のエントランスホールで会議中です。
「エステの施術中はマッパ…えっと洋服は全部脱ぎますし、貴金属も外すと思います。」
「そうなのか、ではその指輪も外す可能性が高いな。」
海斗先輩の声に大きく頷いてから、じゃあ外した指輪を視てみようか…となった時に気が付いた。
ちょっと待てよ。外す?マッパ?
意気揚々とエステサロンのロッカールームに移動しかけた海斗先輩の体を引き戻した。
「ちょっとお待ち下さいっ!ま、まさかっロッカールームまで踏み込んで行く気じゃありませんよね?!」
「何だよ?お前が貴金属を外すとか言った…。」
「確かに言いましたがっ…ロッカールームに忍び込んで良いとは言ってませんよ!公然と覗きをするおつもりですか?!国王陛下が嘆かわしいっ!」
海斗先輩は物凄く睨んでくるがここは引かないぞっ!
「だったらぁ麻里香1人で中に入って呪いの指輪を出して来いよぉ~呪われても知らんからなぁ~。」
「な…!ひっ卑怯なっ!」
「…あのさ~。ザック…。」
「何?レオン。」
「いつもこの人達こんな言い合いしてるの?」
「うん。」
「よさないか、これも仲が宜しい証拠だ。」
「解説は要りませんよ!ヴェルヘイム様!」
「閣下は余計な事を申すな!」
「……。」
揉めに揉めたけどこうなれば皆でロッカールームに入って手早く指輪を回収か鑑定?してみようということになった。
人気が無いことを確認してロッカールームに皆で入った。
入口に居ると邪魔になりますので…とロッカーの置いてある隙間を縫って部屋の隅に移動した。そしてすぐに服を脱いでいる楢橋 咲綾を発見した。
「子供達は見るな。」
いやだったら大人は見ていいのか?!というツッコミを心の中で入れつつ、ヴェルヘイム様がリューヘイム君とレオンヘイム君の目元を手で隠している間に、私は楢橋 咲綾の背後に回って彼女が着替え終わるのを待った。例の指輪ははめている…石はブルーサファイアだろうか?見た目にはとても綺麗な指輪だ…。
「禍々しい…。」
「そうだな。」
ちょっおい!何を堂々と私の横に来て覗いてるんだよ!このド変態国王!ザックなんて真っ赤になって俯いて耐えているのに!
楢橋 咲綾は施術用の作務衣っぽいウェアに着替えると、ロッカーのドアを閉めて暗証番号のロックを押した。私は楢橋 咲綾がロッカールームを出たのを確認した後、先程盗み見ていた暗証番号を押した。
「嫁は泥棒の才有だな。」
そんな才能は要りませんし、ありません!
ロッカーのドアを開けた途端、ムワッ…と禍々しい魔力が溢れてくる。ヴェルヘイム様達がロッカーの周りに集まって来た。その禍々しい魔力を放つ指輪は小ぶりなポーチの中に入っているようだ。
「これは…酷いな。う…む。」
「父上、これはとんでもない呪具ですよ。常人では素手で触るのも危険です。」
リューヘイム君がそう言って指輪が入っているであろうポーチを指差した。ポーチの中からドロドロと魔力が溢れ出ている。
「お前達は危ないから下がっていろ、俺が開ける。」
そう言ってさすが皆のパパ、ヴェルヘイム様がポーチを開けて、自身の指に魔物理防御障壁を5重掛け!にして指を突っ込み、ソッ…と指輪を取り出した。
「ひやあぁ…。」
「怖い~。」
皆が思わず唸ってしまうほどの呪具だった。ヴェルヘイム様が何か袋を取り出してその袋の中に指輪を放り込んだ。
「これはこいつらと、カデリーナと神力を籠めた神具だ。禍々しい呪具の保管用に作ってもらった。」
神力?ザックからご家族の系統を説明されて驚愕した。女神の血筋なのぉ?!じゃあ本当に聖なる袋だね。ていうかさっきからキャッキャッしているリューヘイム君とレオンヘイム君って…正統なる女神を拝する王族筋なの?凄いね…。
「軽い魔法の掛け合わせの呪具なら、うちのチビ共でもこの場で祓えるのだが…これは危険だ。祓っている時に周りに影響を及ぼすかもしれない。」
ヴェ…ヴェルヘイム様のズオオォ…と効果音が流れそうなほどの迫力あるお顔でそう言われてちびりそうになったのは…内緒だ。
そうして神具に包んだ呪具を無事?回収してロッカーにポーチを戻す時に海斗先輩はポケットから何かを出してきた。あ、指輪だ!
「ちょっと調べさせて似たような指輪のイミテーションを作ったんだ。まずバレないだろう。」
そうして私達は呪いの指輪を回収して海斗先輩のマンションに戻って来た。
まずはリューヘイム君の神力入りの魔物理防御障壁を部屋全体に張ってもらった。念には念を入れてレオンヘイム君の障壁も張ってもらった。
「凄いね…。本当だ、魔術印の周りに見たこと無い言葉が描いてある。あれが神語?」
私は部屋に張られた障壁を視て感動していた。金色に輝いてる!レオンヘイム君は首を捻っている。
「どうかな~よく分かんないよ。俺、伯父上に教えてもらった通りに魔術発動しているから~。」
伯父上って誰だ?ザックか?と思ったら母方のカデリーナさんのお兄さん、つまりはシュテイントハラル神聖国の王弟殿下だった…!神様に近い人ぉぉぉ。
リューヘイム君とレオンヘイム君が呼吸を整えている。そうして指輪を袋から出してきた。
「…っ!」
ヴェルヘイム様が結構顔を近付けて指輪を見ている。
「うむ…憑依魔法ではなさそうだ。恐らく魔素を吸い過ぎて呪具化しているのだろう。かかっている魔法は誘導と幻惑と幻聴…それと魔力吸収と…何だこれは?回復?」
「指輪を付けていると自動で魔力を吸収して回復をかける。そして精神を乱す魔法を常にかけてくる。」
ザックの言葉に皆がお互いの顔を見た。海斗先輩が、そうか…と声を上げた。
「攻撃的な嫌がらせを行うにしても体力がいる。つまり常に回復しているから体はハイテンションという訳か。そして嫌がらせを行う…と。」
「取り敢えず解術して祓ってみるよ。」
「頼んだ、リューヘイム。」
リューヘイム君にザックが返事をした。そして皆が見守る中、解術が始まった。リューヘイム君が術の解きほぐしに集中している間に、時々指輪から怖い魔力が迸ってきて、それをレオンヘイム君が叩き落としてくれていた。助かる~私じゃあんな怖いの触れないわ。
「手に触れて浄化出来るのは、シュテイントハラル神聖国の血筋の方しか行えないそうです。僕や兄上では視えるけど、役に立ちませんね。」
と、ザックは私に小声で説明してくれたけど…いえいえ!側にいてくれるだけで安心するからね~どこかの変態とは信頼度が全然違うよ!
指輪から大分黒くて怖い魔質が減っているのが分かる。リューヘイム君にレオンヘイム君が神力を渡しているらしく、彼等の体が金色に輝いている。
やがて…指輪から禍々しい魔力が消えた。皆、詰めてた息を吐き出した。
「よし…完了。疲れたぁぁ~。」
リューヘイム君が後ろに倒れ込んで大の字になった。
「よくやった。」
「お疲れ様。」
私は皆に休憩をしてもらおうと、台所から抹茶タルトとシフォンケーキをお盆に乗せて持ってきた。すると…ヴェルヘイム様が私に向けてとんでもない魔圧を放ってきた。な、何?
「…っそれ、は。」
もしかして甘いものが物凄く嫌いなのかな?シフォンケーキに生クリームまで添えちゃったな…。どうしよう?とオロオロしていると…手に持っていたお盆が一瞬で無くなった。無くなった?
「…美味い。」
いつの間にだーーー!いつの間に食べてるんだよ?!ヴェルヘイム様ぁどういうことだ?!
真顔で抹茶タルトを食べる怖い魔王…もとい皆のパパ、ヴェルヘイム様。確か…37才、立派なアラフォーだ。お盆のお菓子はヴェルヘイム様に全部ひったくられた?ので、仕方なく男の子達にはジュースと醤油煎餅を出した。
「脅かしてゴメンね。父上甘いものがすごーくすごーく大好きなんだよ。」
「そうそう、死ぬ時には甘い菓子を食べながら死にたいって思ってる。」
そ、そう?息子2人の父親の認識度がソレってどうなんだろう?取り敢えず、魔王ヴェルヘイム様はお菓子スキーだということか。
「こんなことならおはぎ作ってくるんでしたね~。」
お煎餅を食べていた海斗先輩が破顔した。
「おおっそうだな、麻里香のおはぎは美味いからな!きっとヴェルヘイム閣下も大喜び…?わあっ?!」
魔王が…海斗先輩の胸倉を掴んでいた!魔王に睨まれた元国王陛下…!
「おはぎって何だ。」
「和菓子…ですが?」
「…っ菓子かっ?!」
今度は私に魔王が近付いて来た…っ!怖いっっ!ひいいぃぃぃ…。ザックとリューヘイム君が私の前に立ち塞がってくれた。
「父上、落ち着いて。」
「麻里香先輩、今度そのおはぎ作って頂けませんか?」
ザックに振り向き様そう聞かれて、何度も首を縦に振った!命あっての物種だぁぁ!
「…そうか、頼む。」
ヴェルヘイム様は怖い魔力を引っ込めた。
死ぬかと思った。私の殺害動機がおはぎが欲しくて…になるところだったかもしれない。
そして3日後に行われる山田 隆治と楢橋 咲綾の結婚式に再び集合…という訳でデッケルハイン家の皆様とお別れした。
私だって元異世界人だけど、あんなに色んな意味で圧のある濃いキャラの人がモッテガタードにも居たっけ?ナジャガル皇国やカステカート王国が特殊なの?
「何だか個性のキツイ人達でしたね。」
と海斗先輩に言うと、海斗先輩は鼻で笑いながら
「お前には言われたくないだろうよ~。」
と言った。いうに事欠いてぇぇ!
あんたが一番個性のきつすぎる変態ストーカーのくせに何言ってるんだぁ!ああんっ?!
と元旦那を心の中で散々罵倒してやった。
今更ですが、フィクションです。設定の細かな所はふんわりお読み頂けると有難いです。