難あり
開き直って過去作の登場人物が出演しまくっております。
宜しくお願いします。誤字修正しています。
『麻里香、昨年のクリスマスに見かけた津田川さんのお姉さんの津田川 美紗さんの指輪の件、覚えているか?』
電話口で海斗先輩がそう言ったので私は年末の、あの呪いの指輪の一連の記憶を呼び起こしていた。
「はい、あの指輪で人格が変わってしまう例のアレですね?」
『うん実は、津田川さんから相談を受けてな。その指輪の持ち主の男性がとうとう結婚するらしい。』
「まあ…。」
『それで津田川 美沙さんも会社やご親族の関係上結婚式の招待を受けたらしい。』
「ええ?!別れた元カノを挙式に呼ぶんですか?あっきれたぁ…。」
こういうパターンって新婦側が私幸せなんだぜ、ドヤァ!の見せつけ目的で元彼を呼ぶって言うのは聞いたりするけれど新郎側のパターンもあるんだ…。
『出席せねばならないのは仕方ないが、津田川のお姉さんの心配事はそうじゃなくて…最近、新婦の女性に嫌がらせを受けているらしい。』
「はあぁ?」
新婦から嫌がらせ?これまた斬新な…。
『おまけに新郎の実姉も絡んできて…困っているらしい。』
「なんでまた新郎の姉?何だか斜め上からの女性陣の参戦ですね。」
詳しくは、明日~と言われたので私は電話を切った。何だか恋や愛に走ると皆、斜め上な行動をしてくるよね。冷静なればとんでもない馬鹿丸出しだと気が付かないのか。
あっ?そう言えばうちの変態ストーカーも斜め上攻撃が得意だったよね…恋にとち狂ったオバカの逝きつく先は皆一緒なのかな?
という訳で、恋に狂ったオバカ変態と二次元ザック様と3人で某行列の出来る飲み物を買いに出かけた。何かやだよ…コレ。周りの女子からロウ様ロウ様!と騒がれている人と、やだ何あの人カッコイイ!と言われる人に挟まれて地味ーズ丸出しのチンチクリンで…どうにもいたたまれない。
「思ったより美味しいな。」
「バナナってこんなに種類があるんですね。」
「ズビビーッ…。」
元国王陛下と現ナジャガル皇国の軍人と元侯爵令嬢のとんでもないトリオで公園にてジュースを飲む。
「それでだな、あの呪いの指輪だが一度ザックに視てもらった方がいいと思うんだ。」
「あ、あの指輪ですか?」
「呪いの指輪…。」
ザックが呟いている。そうだ、現役軍人の彼の方が詳しいはずだ。
「指輪から良くない魔力が溢れていたの。近くで見た訳じゃないので詳しくは分からない…。」
私がそう言うと紺碧色の瞳を私に向けたザックは、いえ…と呟いてから
「近づかれなくて良かったです。呪具の類でしょうし、海斗先輩からお聞きした限り幻惑と幻聴、誘導…この辺りはかかっていそうです。下手に近付いて呪詛をかけられても困りますしね。」
と怖いことを言った。さ…さようでございますか。
「津田川さんから結婚式に出席する時に新婦や実姉からどんな嫌がらせをしてくるのかと不安で仕方ないと聞かされた。お祝い事の席でまさか…とは思ったが、今でも執拗な嫌がらせをされているらしい。津田川さんのご実家からも楢橋家…新婦側に苦情を入れたりしたが止まらないとかで、ボディーガードを雇ったりもしている。」
ひえぇ…そんな状態なの?
「そこまでして執拗に嫌がらせを行う…おかしくないか?」
「病的ですね…あ。」
私は海斗先輩とザックを見た。ザックは深く何度も頷いている。
「呪われて精神を病んでいるのでしょう。」
「津田川家では大事にしては慶事に水を差すのは避けたいらしい…で、どうだ。ザック…力を貸してくれんか?」
「僕では視ることは出来ますが浄化などは無理ですが…。」
「ザックは治癒は出来ないのね?」
ザックは申し訳なさそうな顔をした。
「僕、治療や魔核などの根本的な浄化は無理なんですよね…ナジャガル皇国の術師か僕の甥か義姉を呼べばいいのですが…来てくれるかな。」
相談してみます…と言ってザックは帰って行った。
「上手くいくでしょうか?」
「兎に角、ザックの返事を待とう。」
という訳で…3月の中旬、眩しい兄弟が私の前に現れた。
「初めまして~リューヘイム=デッケルハイン14才です!」
「宜しくね!レオンヘイム=デッケルハイン、12才です。」
金髪にエメラルド色の瞳で…眩しいけどよく見ればザックと顔立ちが似ている。
「僕の甥にあたります。僕はそこの兄と年が離れてまして。」
とザックがはにかみながらそう紹介してくれているけど、うん…分かってる。そのキラキラした甥の男の子達の後ろにものすごく大きなおじ様がいるんだけど、大きなザックみたいな顔立ちで誰が見てもそっくりだもんね。後ろの大きなおじ様がザックのお兄さんで、このキラキラ男の子達のお父さんなのね。遺伝をがっつり感じるよ。
「ザック…カデちゃんはハリコミとかハンニンカクホは運動神経的に無理だということだ。ヒルデは妊婦なので、ゴメンなさいとのことだ。」
「はい~義姉上は戦力外なのは分かってましたけど、ヒルデは残念だな…。」
とザックはショボンとしたがリューヘイム君とレオンヘイム君がザックの肩を抱いた。
「その分俺達が活躍してあげるから~!な?レオン。」
「大丈夫だよ、ザック兄ぃ!」
確かに魔力値は高そうなこのキラキラ1号(兄)と2号(弟)なら大丈夫かな…。
海斗先輩はう~むと言いながらリューヘイム君達と私を見比べた。
「こうなってくると、麻里香が一番運動神経に難ありだな。」
「おいっこら!さり気なくディスるなっ難ありって何だ!!元侯爵令嬢を舐めんなよ!」
「侯爵令嬢って運動神経に関係あるの?」
キラキラ2号にそう聞かれて、全く関係ございません…としおしおと答えた…。
まずはその問題の指輪を何とか確認してみよう…ということになった。そう言えば今更なんだけど、とザックに
「皆日本語上手だね~。」
と言ったら真顔で
「言葉の加護で異世界の言葉は全て分かるし話せますよ。」
と返された。ええっ~いいなぁそれ!籠?ああ、神様の加護ね?いいな~私も加護欲しいよぉ。
今は海斗先輩のマンションで作戦会議を行っている。
「例の指輪だが今は今度挙式…婚姻をあげる予定の楢橋 咲綾が所持していると思われる。元の持ち主は婚姻相手の男、山田 隆治だ。」
ザック兄のヴェルヘイム様が挙手された。
「その指輪を装着すると人格が変わる…とのご報告を頂きましたが、具体的にはどのような症状なのでしょうか?」
「攻撃的な性格になり、病的な発言や行動が多くなる…かな。」
リューヘイム君が少し考えてから
「その指輪に魔物がとり憑いていると考えられませんか?」
と海斗先輩に聞いてきた。私も海斗先輩も考えていたことだ。
「憑依魔法…の可能性も考えています。」
「憑依魔法?!それは禁術で今は術式すら…数百年前に消失して…。」
ヴェルヘイム様が慌てたように叫んだ声に頷いてから海斗先輩は、こちらの世界では魔法の術式形態が『直感型』の術師しかいないと思われること…。そしてまさに直感でとんでもない術を放ってしまうことがあると…私達が過去遭遇した術の事件の実例を交えて説明した。
「傀儡魔法だと…知っているが使ったことなど、アレは体力も精神力も削られてとてもじゃないが、鍛錬もしていない素人の使える術ではない。」
ヴェルヘイム様が唸るように呟いたが、実際私達は目の前で見ている。海斗先輩は静かに告げた。
「はい、そのせいで倒れて床に臥せっている女性がいます。しかも魔核が形成されつつあるのです。」
「魔力を使い過ぎて魔を呼び過ぎたんだ…!」
ザックがそう言って青ざめた。
そういうこともあり、一刻も早く指輪を視てみようということで、楢橋 咲綾の所在を確かめて皆で透過魔法という術で尾行をすることにした。
「この術、透過魔法と呼ぶの?」
「あ、ナジャガルやカステカートではそう言いますが、国が違うと名称も違いますよね?」
とザックに聞かれて
「姿隠しだったかな…。」
と答えると、なるほど~とキラキラ1号と2号が答えてくれた。
さて…楢橋 咲綾は今は実家で花嫁修業という名ののんびり生活を送っている。海斗先輩調べによるともうすぐ結婚式なので今日はブライダルエステに向かう予定らしい。
「ブライダルエステって何?」
とレオンヘイム君に聞かれて、婚姻式の時の為に女性に必要なお店…と説明した。間違ってない…はずだ。
「出てきた!」
楢橋家から出てきた女性を皆が一斉に見る。服装、派手だな…。
「魔質は若干荒ぶってはいるが…それほどおかしいことはない。」
うむ、ヴェルヘイム様の説明に皆が頷く。あ、徒歩移動だね…ん?駅に向かったよ?ええっ電車に乗るのー!こんなにデカい人も隠れて電車に一緒に乗ったら流石にバレるしヤバいんじゃ…。
「走って追いかけるか…。」
「ムリムリムリィ!」
ヴェルヘイム様のボソッと言った言葉に被せる様にして私が絶叫すると、海斗先輩以下軍人さん達がじっとりした目で私を見てきた。
「麻里香がやはり難ありか…。」
いちいち分かっていることを復唱するなっ!この変態めっ!
「担ごうか?」
「私は米俵ではありませんっ!」
ヴェルヘイム様が抱っこしてくれそうなポーズで私に手を差し出したけど、断固拒否した。
「グズグズするなっ大人しくヴェルヘイム閣下の肩の上に乗っかってろ!それとも自力で走ってついて来るのか?」
軍人さん達からの軍圧?に負けて渋々、ヴェルヘイム様の肩の上に乗っかった。ひえええっっ?!肩の上って2階のベランダの上くらいの高さになるよぉ?!
「行くぞっ!」
軍人さん達は一斉に電車に乗った楢橋 咲綾の魔質を追いかけて走り出した。
「ひえええええっ…。」
揺れないけど、スピードが速すぎるっ目が回るっ?!
私はヴェルヘイム様の肩の上で失神していたらしい……。途中、お姫様抱っこに変えて私を運んでくれたらしいけど、人生初のお姫様抱っこが(しかもイケオジ)失神してて記憶に無いなんてショックだった。