魔術師?
宜しくお願いします。
別作品からの出張出演になります
篠崎家の隣の空き地に建築予定の栃澤 海斗の新築一戸建ての基礎工事が始まった。
その空き地の新築工事の看板を見たご近所さんが顔を合わせる度に
「ちょっとっ篠崎さん!お隣に篠崎さんのご親戚が来るの?!」
とか、興味津々で聞かれてばかりだ…。何て答えればいいんだよぉぉ!
そんなある日…
朝、学校へ行こうと翔真と彩香と家を出た時に、隣の空き地を見上げている、スラーッと背の高い男の人が立っているのに気が付いた。まだ若い男の人だけど究極の八頭身だ…。そのスラーッと背の高い人をジーッと見ていると紺色のキャップを被った小顔が私達の方をゆっくりと見た。
びっ美…美形だ!しかも絶対っ外国人だ!何だアレは?同じ生き物か?!
しかもこちらに向かって歩いて来るではないか!え~とえ~とぉ?!歩いて来る彼はどこのご出身だ?何人だ?え、英語を喋るのか?!ドイツ語か?もしかしてのフランス語か?!道を聞かれたらどうしよう?!
「ロウ様…。」
んぇ?私の後ろに居た翔真が唸るようにそう呟いたので、もう一度キャップの下の美形様の紺碧色の瞳を見てしまう。
「篠崎さんのお家の方ですか?」
「YES!YES!YES!」
「麻里ねぇ、日本語だ!」
今年中学1年生になるの翔真にそう言われてしまって恥ずかしい…。美形の男の人はよく聞けばイントネーションばっちりの日本語を喋っていたのにテンパって1人慌ててしまったよ…。
その美形様はフワッ…とキャップを脱いだ。
うわわわっ!こんな綺麗な男の人?もしかすると男の子か?を初めて見た。神秘的な黒曜石色の髪色を少し長めに伸ばしており、瞳の色は紺碧色。外国人特有の濃い顔立ちではなく、少しさっぱりめだけど鼻筋の通ったスーパーバランスの美麗顔だ。
「うわ……まんまロウ様じゃん。」
という翔真の再びの呟きに、あっ!と思い出して気が付いた。確かに似ている。
サイストリアの機甲剣士の蒼竜のロウヘイザー、通称ロウ様。この目の前の人は生きて動いているけど『リアル二次元ロウ様』だ。その激似ロウ様は私に視線を移すと、私の体を見て
「もしかしてシュアリリス学園の生徒?あっ…篠崎 麻里香先輩ですか?」
と、頭が真っ白になる発言をしてきた。篠崎 麻里香せんぱい?先輩?先輩だって?
「せんぱ…い?」
と思わず自分で自分を指差してしまった。
激似ロウ様は頷きながらフワリ…と微笑んだ。その笑顔を見て一瞬、心臓が止まった。うちのチビ達も止まっていたのだと思う。
「はい、僕も4月からシュアリリス学園に入学します、宜しくお願いします。」
「…ふ…っ…えええええ!」
「嘘ぉ?!俺と3つ違い?やべぇ足の長さが全然違う!」
「カッコイイ!」
翔真と彩香が叫ぶ中…私は呆けていた。この二次元キャラの、ロウ様(激似)が年下だって?え?こーんなに足長なのに今、中学3年生なの?
すると二次元様は小首を傾げると
「あ…っと、海斗先輩から聞いてませんか?」
とさらに驚きの発言をしてきた。
「か…海斗先輩の知り合い、なの?」
私がそう聞き返すと、ロウ様(激似)は眉根を寄せた後、何かを呟いた。
「ん~じゃあ僕から余計なことを言わない方がいいかな…。あ、もう学校に行く時間ではないですか?」
と、言葉の前半部分はゴニョゴニョ言っていて聞き取れなかったが…時間の事を言われたので我に返った。
「時間…!」
「麻里ねぇ遅刻!」
走りだした彩香に引っ張られたので、二次元様の横を走り抜けながら頭を下げた。彼も頭を下げてくれた。そして走りながら一度後ろを向いた。ロウ様(激似)は笑顔のまま紺色のキャップを被り直している。そして…突然魔力を放った。
「…っ!」
その魔力を放出した後、彼は一瞬で消えた。走っていた私の足が止まったので、翔真も彩香も立ち止まって後ろを振り向いた。
「いない…。」
「足が長いから動きも早いんだよ!」
「翔お兄ちゃんの倍の長さだね!」
「うるせーぞ!」
私の横でわちゃわちゃ喧嘩し出した翔真と彩香の声を聞きながら…茫然としていた。
確かに魔力を感じた…恐らく転移魔法だ。海斗先輩の知り合い?本当なのか?魔力を持ってその力を行使出来る人。この世界に魔術師っているの…まさか?
彩香に再び引っ張られながら、背筋が寒くなった。綺麗な顔の人だったけれど…善人だとは限らない。
私は翔真と駅前で別れて、彩香を園に送ってから急いで電車に乗った。先程の怪しい男の子の事を海斗先輩に伝えなければいけない。
鞄を探って携帯電話を取り出してメッセージを入力した。
『家の前で魔術を使える男の子に会いました。4月からシュアリリス学園に通うそうです。お知り合いですか?』
この文章で大丈夫だろうか?震える指でメッセージを送信した。メッセージを送ってすぐに駅に着いたので、いつもの待ち合わせ場所へと急いだ。海斗先輩はもう来ていた。
「先輩っ…。」
海斗先輩はいつもと変わらない魔質だった。携帯電話を手に持っている…ということはメッセージを読んでくれたのだろうか?
「麻里香、おはよう。メッセージを見たよ、心配することは無い。ザックヘイムは友人だ。」
「ザ…ザックヘイムさんと言うのですか。」
よ、良かった!知り合いだったんだぁ~いや、待てよ?だったとしても不穏な魔術師には違いない。この世界に魔術師っていないんじゃなかった?
「でもあの人、魔術師……ですよね?」
と私が聞くと、海斗先輩はう~んと唸って首を捻った。
「教えてやりたいが…本人の居ない所で正体をばらすのはマズイかな…。近いうちに会える段取りをつけるので、直接話を聞いてみろ。あいつはちょっと口下手だが、いい奴だよ。」
何だかはぐらかしている訳ではないようだけど…モヤモヤするなぁ。
という訳で
すぐにその謎の魔術師のザックヘイムさんとお会いすることになった。しかも待ち合わせは駅前のファストフード店でだ。私は馬鹿みたいに大きなサイズのバーガーを頼んでモシャモシャ食べている元国王陛下を睨んだ。
「どうしてこの店なんですかっ!」
海斗先輩は負けじと私を睨み返してきた。
「この期間限定メガトン級バーガーを食べてみたかったからだっ!」
1人で入って食べればいいだろうに、恐らく怖くて店内に入れなかったとみた!
「遅れてすみません。」
そんな私達の所へ颯爽と声をかけてきた疑惑の魔術師ザックヘイムさんは、本日も見目麗しく店内の皆様の注目を浴びながら私と海斗先輩の腰かけたテーブルに近付いてきた。ただのジーンズにグレー色のパーカーを着ているんだぜ?日曜日のお父さんの服装なのに、何故かイケてる服装に見えるのは足長二次元マジックのせいなのか?
それにしても近くで見ると、本当に二次元様だね。私達の隣のテーブルに座った女子達が小声で、ロウ様ロウ様!と呟いているのが聞こえる。
「よおぅ!元気そうだな~ザック。」
海斗先輩は気軽にそう声をかけた。するとザックヘイムさんは斜め45度の綺麗なお辞儀をした。
「お久しぶりです、陛下。」
…………え、陛下?
すると海斗先輩が、よせよっ!と声を上げた後に
「もう18年も経ってるし、今はただの高校生だ。」
と返していた。
どういうこと?謎過ぎる…。
海斗先輩に促されて海斗先輩の横に着席したザックヘイムさんは、私に対しても綺麗に頭を下げられた。
「先日は失礼しました。ザックヘイム=デッケルハインと言います。」
ふわ~っ!名前まで二次元様だよっ。デッケルハイン!音の響きまでもが格好良くない?
一応自己紹介したザックヘイムさんは戸惑ったような目で海斗先輩の方を見た。
「あの…それはそうと、この店では話しにくくないですか?」
海斗先輩がちょっと目を吊り上げた。
「何だ?お前までそんなこと言うのか?俺はこの店のこのバーガーが食べたかったんだ!」
ザックヘイムさんは少し溜め息をついた。
「そんな脂ぎった食べ物…太ると思いますけど?最近運動してます?魔力の流れ…中年のおじさんみたいな、どんよりした流れに見えますけど?」
おっおおお!この人魔力が視えるのね!それにしても何だ?!このズバーーッと切り捨ててくれる小気味よい物言いはぁぁ!もっと言えーーもっと言ってやれーー!
海斗先輩は、メガトンバーガーを手に持ったまま唇を噛み締めている。
「嫁っ!ザックが酷い言い方をする!」
「ザックヘイムさんの仰っていることは正解です!」
ザックヘイムさんは目を丸くしながら私と海斗先輩を見た後、私に向かって
「僕の方が年下ですし、麻里香先輩の後輩になりますから、さんの呼称はいりません。」
とニッコリと微笑んだ。隣の席の女子達がテーブルをガタガタ鳴らせている。二次元微笑み爆弾を被弾したな?
「そう?じゃあザックね。宜しくね~。もうっ海斗先輩?落ち着かないから、この店出ましょう。バーガーは持って帰って大丈夫ですから、ほらっ!」
まだモゴモゴ食べている海斗先輩を急がせて、ファストフード店を出た。そして店の横の路地に入った。
「俺のマンションに行くか?」
「最初からそうして下さいっ。」
ジロリとメガトンバーガーの包みとセットメニューを手に持ったままの、海斗先輩を見てからザックを見た。すると、ザックは少し微笑んだ後
「海斗先輩のマンションですね、はい。」
と言った後、ザックが肩にソッと触れてきた。その時、彼の魔力が体から溢れた。私は瞬きをした…しかし目を開けたらもう、海斗先輩の所有するマンションの一室に飛んで来ていた。私の転移魔法ではない、勿論海斗先輩のでもない。
この目の前で涼やかに微笑むザックの転移魔法だった。転移した時に眩暈も体が動かされる不快感もなかった。まさに瞬き一つで移動していた。
彼は本当に魔術を自在に操る魔術師だった。私はザックから距離を取って身構えた。
「あなた…誰なの?」
「嫁っ土足で室内に立つんじゃない、靴を脱げ!」
うるせぇっ今はそれどころじゃないんだよっ!あんたこそ立ったままメガトンバーガー食べてんじゃないよっ!
「僕は……異世界人ですよ、国王妃。」
な…………んだってぇ?
私はそう言い放ったザックヘイム=デッケルハインを睨みつけた。